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僕はくたびれた顔で自宅にいた。
自宅に戻っても、僕はピンク色のスマホを見ていた。
『たまだん』チャットルーム、そこには僕がハルヒメになっていた。
ハルヒメの僕の前には、結衣のヴァルキリアと棗のナツナイト。
昼間に金森理事長室を捜索しようとしたが、立ち入れなかった。
最近息子の死で、金森理事長室に入ることさえできなかった。
大人であってもふさぎ込むのは仕方ない、ましてやドラゴン疑惑もあったし。
金森会長を調べるのは、この日は断念せざるを得なかった。
学校から家から帰る途中、僕は近くにある結衣が住んでいるマンションを見ていた。
結衣はあのマンションに今はいない。
結衣の部屋にはカーテンが、閉まっていたから。
そんな僕が見ているスマホのコミュニティルームにいたのはヴァルキリア。
そばにはナツナイトの姿もあった。
「今は兄さんのとこ。人が嫌いになる……助けて」
結衣は今、年が離れた兄のところに避難していた。
ネットに流れたのは、結衣や棗の情報。だけど男子以上に深刻なのは女子。
住所、年齢、趣味、嗜好に略歴まで。
それは弘明が言うことよりよっぽど深刻だった。
自宅には謎の郵便物が毎日届いていた。
二十四時間、どこかで監視されているような自暴自棄になって他人の目が怖い。
謎の電話、変質者のビデオ、町を歩いていてもつけられる恐怖。
とてもじゃないけれど、結衣や棗の精神はまともでいられない。
普通の学生が、普通じゃないゲームをやっているだけのどこにでもいる女子。
特別な訓練も、精神を持っているわけでもない。だから彼女たちは傷つきやすい。
「今……ナツも一緒なの」
「結衣、そっか……」
「私、もう耐えられない!」ナツナイトが叫んだ。錯乱しているようにさえ見えた。
「ナツ?」
「私たちはみんなのためにドラゴンと戦って、なんでこんな目に遭わないといけないの!」
チャットルームのナツナイトのモーションは泣いていた。
隣のヴァルキリアも体を震わせて泣いていた。
「そうだね、僕たちは……」
「誉、あたしはどうしたらいいの?」と、ヴァルキリア。
「僕が何とかする、弘明と約束したんだ」
「誉……そうね。こういう時はちょっとだけ頼りになるからね」
「ちょっとって……ヴァルキリア」
「私は頼りにしています」
ナツナイトの言葉に、泣いたままのモーションの彼女の声色が幾分かおさまったようにも感じた。
ヴァルキリアの『ちょっと』の言葉に僕は微妙に心が傷ついたけど。
「そうね、挫折したり失恋したりすると強くなるものなの……だから」
「ヴァルキリア……」
「あたしだって強くならないと」
「何かあったのか、兄さんとか……」
「うるさい、そんなんじゃないわよ!あたしはブラコンを卒業したの」
なぜかふてくされた結衣、じゃなくてヴァルキリア。
分かりやすく、泣きモーションから怒りモーションに変わった。
「私も強くなれますか?」
「大丈夫よ、ナツは強くなっているわ」
「そう……かな?」
ナツナイトが落ち込み、ヴァルキリアが励ます。昔は何度も見た光景だ。
昔と変わらない二人の関係性を見ると、僕たちしか知らない二人だって思えた。
だから、暴露された「たまだん」メンバーの情報を他人に知られてしまうのが嫌だった。
「それにしてもハルヒメ……いや誉と話してすっきりした。こういう時の誉は効果あるわね」
「なんだよ……それって僕が頼りないみたいじゃないか」
「ううん、人にはそれぞれ役目があるでしょ。なんか誉は愚痴が話しやすいから」
「あの……ハルヒメは行動値が足りていますか?」
いきなりのナツナイトの申し出に、僕は素直に話しだした。
「ううん、行動値が全然足りなくてストーリーが全然進まらない」
「そうね、ハルヒメのは行動値が使うみたいね。あたしはクリアしたから、ナツもでしょ」
「はい、ナイトは少ないです。情報も大したことないですし。
私のGPSはここです、そんなに役に立ちませんが」
ナツナイトがメールで送ったGPS情報は、渋谷区にある中学校の座標。
「ハルヒメのは、ストーリーまだなんですね」
「うん、半分もいっていない」
「私は、行動値46マックスまでたまっていますよ」
「へえ、いいなぁ」
自分のステータスを見て行動値0を知った。行動値は一時間で1回復する。
ストーリーを進めるのに使う行動値は、レベルと同じ数値になっている。
レベルが上がって行動値は回復した、が足りなかった。
「そういえば、ドラゴン視アターって行動値が増えるんじゃなかったっけ?」
何喰わない顔で言うヴァルキリア、僕は憮然とした顔になっていた。
「それは初耳だぞ、ヴァルキリア」
「それはごめんなさい、でも行動値って戦闘じゃ重要じゃないし」
「戦闘の事ばっかり、だから弘明に……」
「アイツはK・シューターよ!」
なぜかそこは注意されてしまう僕だった。
ヴァルキリアも、K・シューターもゲーム内ではゲームの名前で呼んでほしいこだわりがあるようだ。
「大丈夫です、私の行動値をハルヒメに受け渡すことができますから」
「ええっ、本当に?」
「ナイトの特殊スキルです。はい、私の行動値を20ポイント受け渡しますね」
「そりゃあ助かるよ」
そんなナツナイトは僕のハルヒメのキャラに重なった。
「プレゼントで譲渡のアイコンが出るから、譲渡許可を出してください」
「うん、分かった」
それから間もなくして、僕のストーリーが進むことになった。
一時間後、僕は『渋谷ドラゴン』一匹目のストーリーをクリアした。




