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結衣の異変を僕は気づいてあげればよかった。
彼女はサインを出していたのに。
暗い自宅で、僕はピンク色のスマホを見て震えていた。
アジ・ダハーカの登場は、僕達に間違いなくダメージを与えていたから。
あれから二日後、僕たちの周りの状況は一気に暗転した。
結衣は学校に来なくなって、弘明ともよそよそしくなった。
会話を交わさないというか、避けられるようにさえなっていた。
『今日、帰り道私はつけられた。変な男、鉢合わせ……変質者、ストーカー』
僕のスマホには、結衣からメールが来ていた。
それは助けを求めるメール、結衣の苦しみが伝わってきた。
結衣だけじゃない、棗もまた苦しんでいた。
『今日、家に帰ったらいっぱい手紙が届いていた。怖かった』
二人の痛々しいメールがスマホに届いていた。
それは僕と、弘明、太のスマホに送られていた。
(これがリアルバレ……)
アジ・ダハーカの言葉に想像以上の精神攻撃だった。
パソコンにあふれる情報は、結衣、棗のことが細かく書かれていた。
あまりにも詳細に書かれていて、どこで撮ったかわからない写真まで貼り付けられていた。
(なんて卑劣な……あっ)
結衣の一枚の写真を見て、僕は顔が赤くなっていた。
それは結衣が更衣室で体操着に着替えている写真。
きっと女子更衣室で、隠し撮りされたものだろう。それを見て顔が赤くなっていた。
「兄ちゃんいる?」
そんな時、僕の背後から声が聞こえた。慌てて僕は結衣の写真を隠した。
ドアを開けたのは妹だ。
ショートカットで二個下の妹はすぐに僕の部屋に入ってきた。
派手なワンピースを着ていた妹は、僕のパソコンを見るなり怪しそうな視線を送った。
「エロ画像を見ていたんでしょ」
「なんだよ、いきなり部屋に来るな!」
「う~ん、いいよ。あたしはそういうのを気にしないから。
だってお兄ちゃんは立派な男でしょ」
かわいげがあるのか人懐っこい笑顔を見せていた。
「なんだよ、どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ~、そんなことよりお客さんが来ていたんだ~」
「お客さん?」
「うん、木田さん」
それを聞いて僕は思わず立ち上がっていた。
木田さんと聞いて僕はいてもたってもいられない。そんな僕を制したのが妹だ。
「でもね、これを置いて去って行ったんだよ。
なんだかよそよそしかった、周りを気にしているかのようで。あんなんだっけ、木田さん?」
「なんだこれ?」
それは、いまどき珍しい手紙の封筒だった。僕は急いで手紙を読んだ。
そこには彼の想いが書かれていたから。




