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結衣と帰るのは、こっちに来て初めてだった。
たまだんを出たのが、中学卒業とほぼ同時期。
同じ有明高校に入学したけれど、クラスは結衣や弘明と二年間とも別のクラス。
それでも二年になって、生徒会で一緒になったのは一か月前の四月からだ。
距離を置いていたわけじゃないが、新しい環境になじもうと自分のクラスに重点を置いていたから。
二年で初回の生徒会の会合で、いきなり結衣が生徒会副会長に就任したのは驚いたけど。
成績優秀な結衣とは、結局のところ無意識のうちに距離を置いていたのかもしれない。
それが晴海の死によって近づいたのは皮肉なものだ。
僕と結衣はコンビニに来ていた。生徒会の会合が長引いて夜七時を過ぎて周りが暗い。
学校とマンションと反対側にあって利用したことがないコンビニ。
夜のコンビニは、サラリーマンや学生が立ち読みして、主婦が買い物かごを持って歩いていた。
何より、商品補充をしていたのは……
「弘明、バイト?」
コンビニの制服を着て弘明はバイトをしていた。結衣がにこやかに話しかけた。
有明高校は学校に届け出さえ出せばバイトができた。もちろん、深夜は禁止されてはいる。
「ああ、バイトだ。ノーキン」
「ちょっと、その言い方!ゲーム内だけでリアルは禁止でしょ」
指さす結衣が不機嫌な顔に変わっていても、弘明は淡々と仕事をしていた。
商品の補充を終えた弘明は、商品棚を見ていた。
レジでは別のバイトがレジ打ちをしていた。
そんな僕と弘明は視線を合わせらるわけもない。
弘明は僕を殺そうとしたんだ、当然の結果だ。そんな弘明の方からいきなり僕の方に向いてきた。
そのまま、僕の目の前で頭を下げた。
「ごめん、誉」
「弘明……僕は君を許せない。君に殺されかけたんだぞ!」
「謝るだけでは済まないのは分かっている、だけど誉の覚悟が分かったんだ!」
「君とは……できない」
「二人とももう、仲直りしてよ!」
目をそむける僕に、結衣が割って入った。
悲壮な結衣が右手で僕の左手を取ってきた。
すぐにバイト中の弘明の手を取ってくる結衣。
どうやら結衣が全てを仕組んだ。ここに連れてきたのも、誘ったのも。
「結衣?」
「二人とも喧嘩はダメ!あたしが手を握らせたら絶対だから」
半分泣き出しそうな結衣は僕と弘明の手を握らせていた。
それは『たまだん』にいた時からあった、僕たちの仲間内で喧嘩した時の仲直りのルール。
晴海が真ん中に入って、喧嘩した二人の手を握らせて仲直り。
「喧嘩はダメ、絶対だから!」と言うと、不思議と喧嘩をやめる暗黙のルール。
弘明が晴海を取られた立場もあった。
それでも弘明はやりすぎだと感じたのだろう、でも僕は命を奪われそうになった。
「あたしじゃ上手くできないけれど……でも仲直りしてよ」
「僕は彼に……」
「誉はね……争いが嫌いでしょ。弘明も反省しているんだから」
結衣の晴れやかな笑顔は、僕の怒りを無理矢理抑え込む力があるようだ。
落ち込む弘明も、やはり結衣に言われたのだろう。同じクラスだし。
「分かったよ、しばらく休戦する」
「さすが誉、分かっているわね!あたしはそんな誉が好きよ」
「なんか、うまく丸め込まれた気がする。だが誉、ごめんな」
「うん……いいよ。もう」
僕はふてくされながら、弘明を半ば強引に許した。
「結衣……この時間に来るってことは理由があるんだな」
そんな中、弘明が再び商品補充をしながら話を聞いていた。
「うん、クリアしたから。ストーリー」
「どうだ?どっかでてきたか?」
「GPSが出たから、早速送るね」
結衣はそう言いながらスマホを操作していた。
それから数秒後、僕と弘明のスマホが結衣のメールを受信した。
弘明は赤いスマホを見ていると、バイトの手が止まった。
メールの内容を見て弘明が一言。
「なんだ、結局上野じゃないか」
「えー、だって出てこないじゃない!」
「しゃあねえな、俺の送るぞ。誉も……見ろよ」
そう言いながら今度は弘明がスマホを操作、間もなく送られたのが別のGPSの地図。
「これって?渋谷じゃない」
「ああ……渋谷だ。新しい情報だろ。下からもらったのは太からもらったやつだ」
「渋谷が二か所」
青いスマホを、結衣が興味深そうに見ていた。
「そこに『ドラゴンコイン』があるといいわね」
「それが竜器か」僕は感情を押し殺して言っていた。
「ええ、ドラゴンコイン。エキドナと会ったんでしょ、この前」
このGPS情報は、コインの場所を探しとめる情報だということ。
そしてそこにはドラゴンがいる。だけどドラゴンコインで変化したのは人間だ。
そんなジレンマの中で、僕はまたドラゴンと対峙した時に戦えるのだろうか。
「渋谷っておしゃれよね、何度か言ったことあるけど、あたしはあの町が好きよ。
ファッションとか、いい感じじゃない。おしゃれできれいで、かわいいし」
「まあ、闇も多いけどな」
「何よそれ。どういう意味?」
「そのままの意味だ、ノーキン」
さりげなく弘明が言うと、結衣が不機嫌な顔へと変わっていく。
「あー、また言った。あたしより弘明の方が馬鹿でしょ!
あたしは成績なんか学年トップなんだからねっ!」
「うるさい、俺はまだ本気を出していないだけだ!」
相変わらず二人の掛け合いが続いていた。
コンビニで言い合い、店長らしき男が近づいてきた。
「おい、木田!」
「す、すいませんっ」
弘明は店長に叱られて、すぐに仕事に戻っていく。
結衣も不機嫌な顔で、僕の手を引っ張っていく。
「帰ろう、誉」
「えっ、でも……」
「いいのよ、次の目的は決まったし」
結衣は僕を見ながら、背中を向けてコンビニを出ていく。
だけど僕はずっとスマホを見ていた。
弘明にもらったメールにはGPSがあった、だけど僕にはメッセージもついていた。
そんな僕は、書かれた弘明のメッセージを見ていた。
『俺はまだお前を認めていない。本気を出さないお前を俺は許さない』
そう弘明のメールには書かれていた。
スマホを難しい顔で見ている僕は、怒りを押し殺しながら見ていた。
「ねえ、誉は『ドラゴン視アター』を見られたの?」
コンビニの外で、結衣が僕に聞いてきた。
数秒間僕は、うつむいたのちにコンビニの外に出た僕は口を開いた。
「結衣……無理だよ」
最後にため息交じりの顔で、僕は結衣につぶやいた。結衣の顔が曇ったのを知らずに。




