21
戻ったも僕の目の前には人ごみが見えた。
いつもの上野駅、駅には人が多く歩いていた。
スマホを持って立ち尽くした僕の少し先には、スマホを持って弘明が立ち尽くしていた。
人ごみの中からでも、彼ははっきりと確認できた。
しかし僕を見るなり背を向けた弘明。
「弘明っ!どうして……」
「ドラゴンは敵だ、生き残りたければお前は戦え!
それが嫌なら、俺たちはドラゴンによって死ぬだけだ!」
背を向けて彼が一言漏らした。そのまま立ち去ろうとした時、僕の背後にやってきたのが結衣。
「誉っ!弘明も。無事だったのね」
だけど結衣の言葉に眉をひそめてか弘明が足早に雑踏の中に消えて行った。
立ち尽くした僕は、悔しさで震えていた。そして結衣を睨みつけた。
「結衣……知っていたのか?」
「何を?」
「ドラゴンが人であることを」
「弘明に聞いたのね」結衣の声が急に暗くなった。
結衣の後ろには太も棗もいた。だけど僕は振り返ることができない。
「誉さん……私たちがやらないといけないんです。
私たちには、それをなすだけの力があるのですから」棗の声が僕の背後から聞こえた。
「ナツ、人殺しをか?」
「違います、私たちは救世主なんです!」
「そんな都合のいい言葉で取り繕うな。僕は騙されない!」
僕は半べそ状態で振り返った。
悔しくて泣き出しそうな僕は、行き場のない怒りを必死にこらえた。
「ではどうする?ゲームをやめるのか?」背後から太が言葉を浴びせた。
「……ああ」
「そうしたら、あたしたちはどうなるの?
ハルヒメは神官でリーダー、あたしたちのメンバーの中で唯一の回復役なのよ!」
「知ったことか!僕は人殺しの手伝いなんかできない」
「あたしだって嫌なの……でも」
そう言いながら僕に抱きついてきた結衣。結衣もまた泣いていた、体を震わせていた。
女子でも体の大きな結衣が、こんなに小さく感じたことはない。
「僕は……平和が好きで、誰も傷つけたくない」
「分かっている、誉は優しい人だから。
でもドラゴンになったら倒さないといけない。多くの人が傷つくから。
晴ねえみたいな、犠牲者をこれ以上出してはいけない」
「うん……」
僕の頭に晴海の最期が蘇った。
血だらけの晴海が、それでも笑顔で僕に語ってくれたこと。
『このスマホを誉君に託す』彼女が最後に放った言葉。
「僕には耐えられるのか?」
「誉は戦わなくていいの、手を汚す仕事はあたしが引き受けるから。
実際に手を下すのはあたしや太のような、アタッカーだけ」
「そのために僕たちは探しているんだ、『竜器』を」
太の言葉に僕は頷いていた。
結衣の後ろにいた棗と太はそんな僕を、辛そうな顔で見ていた。
そんな僕は最後にスマホの画面を見て呟いた。
「このゲームはどこまでも腐りきっている」と。




