15
カラオケ機の映像は、現在の上野駅周辺。
苦しんでいるドラゴンが、駅の周りを暴れていた。
大きさは駅ビルほどの大きさ、周りでは逃げ惑うほどの人がいた。
ドラゴンがデパートの壁を破壊して暴れていた。
スマホ画面に戻る。同じような上野駅の周りでドラゴンと僕たちが戦っていた。
「にしても『黒い金』か」ジャイアント・キリングがつぶやく。
「『黒い金』?」
「あのスキルはね、ドラゴンの強さを一時的に上昇させる技なの」
「レベルが……どんどん上がっていく」
金をばらまいたドラゴンのレベル表示が増えているのが分かった。
そう言えば、ドラゴンのグラフィックも心なしか豪華になった気がする。
「参ったわね、レベル50になったわ。20も上がっているわ。
これは使うしかないわね、あたしのとっておき」
「ヴァルキリア……ゲージ使うの?」
ナツナイトの言葉にヴァルキリアが頷いた。
「いい、ハルヒメもよく見ていなさい。あたしの必殺技。
スペシャルデンジャラスでゴージャスなあたしの『必ず殺す技』よ!」
ヴァルキリアはそう言いながら、悪役みたいに不敵に笑っていた。
次の瞬間、真剣な顔になったヴァルキリアが持っていた剣を構えた。
そのまま、剣先に光が集まって画面の中を激しく高速移動。
「これがあたしの必殺技『マッハ・スプラッシュ!』」
勝ち誇ったヴァルキリアの一言に、ドラゴンに命中した。
苦しみの雄たけびを上げるドラゴン、体力バーは……あまり変わっていない。
「あまり、変わっていないけど……」すかさず突っ込むナツナイト。
「攻撃属性が悪いな、相手の防御属性が変わっている!」
「な、なんでよ!」
ジャイアント・キリングに突っ込まれて、ヴァルキリアはそれでも攻撃を続けていた。
リアルでスマホを見ていた結衣は、がっくりと落胆した表情に変わっていた。
結衣ってゲームするときはっきり表情に出るんだよな。
ゲーム画面に戻って、僕は相手のドラゴンを見ていた。
ドラゴンの周りにはナツナイト、ジャイアント・キリングが戦っていた。
そんな時、ハルヒメのキャラが一瞬光り輝いた。
「あっ、ハルヒメ必殺技も溜まった」
「そうね、殴っているからね。ハルヒメの必殺技ならいけるんじゃない?
攻撃属性はヴァルキリアのと違う魔法系だし」
これはナツナイト。彼女は僕のハルヒメの盾になってくれた。
「そうね、ハルヒメに使ってもらいましょ」
「えと、どうやって使うの?」
「まずはステータスのアイコン、薬の隣に電卓のアイコンがあるでしょ」
「うん」
ヴァルキリアに言われて電卓のアイコンを見ると、そこに出てきたのがステータスのウィンドウ。
「後は必殺技のタグをタッチして、画面に従ってコマンドを出せばいいだけ。
使う指とか間違えると必殺技が出ないから。名前の横に『ダメージ系』ってあるはず」
「あっ、あった」
ステータスで必殺技のタグをタッチして、出てきた一つの必殺技。
「ああ、これかなダメージ系だと『サンシャイン・シャワー』」
「そう、それ!ハルヒメはこの技めちゃくちゃ強いのよ」
「そうですね、この技は『たまだん』の要で、唯一の魔法属性だし」
いつになくナツナイトの声が弾んでいた。
「そうなんだ……なるほど、右手小指で左からぐるりと一回転か」
僕は右手小指を出して、画面に円を描く。
円を描いた……が変化はない。
相変わらずドラゴンが、淡々とナツナイトのことを攻撃していた。
カバーリングしているナツナイトだけど、ダメージを受けていた。
必殺技のモーションは、ヴァルキリアみたいに出てこない。
「あれ、間違えたかな?」
「画面に円を描くだけでしょ、ほら」
横で僕のスマホを覗き込んでいた結衣が、ピンク色のスマホ画面に円を描く。
だけどやっぱり反応がない。
「ほかに条件があるのかな……」
僕は必殺技の項目を何度も見てみたが、ほかには何も書いていない。
始点は左で何度もスマホに円を描いた。そんなドラゴンはハルヒメに攻撃を開始した。
「まずい、ドラゴンがハルヒメを狙ってきています!ハルヒメ下がって!」叫んだナツナイト。
カバーリングが解けて、接近していたハルヒメをドラゴンから離した。
レベルが上がったドラゴンの攻撃力は、一発でハルヒメの体力の四分の一を削る。
胸や体に、殴られたような痛みを感じていた。
戦っていれば四、五発で、死んでしまうだろう。だけどハルヒメの動きが鈍い。
「こっち向かない」ナツナイトが一生懸命引きつけようとするけれどドラゴンがハルヒメを襲う。
「ハルヒメ、逃げて!」叫ぶヴァルキリア。
「分かっているよ、でも……」
ハルヒメが動かない。ドラゴンの攻撃で追加バットステータス『鈍足』が加わっていた。
移動速度が遅い、ドラゴンに簡単に追いつかれてしまう。
「鈍足状態だ……」
「私が動いて、カバーリングします」
ナツナイトが僕のハルヒメの前に立って、ダメージの身代わり。
さっきのドラゴンよりもナツナイトは、ダメージを受けていた。
「ありがと、ナツナイト」
「だけどそんなにもたないかも。このドラゴン、完全にハルヒメを狙っている」
「なら一気に決めないと……ジャイアント・キリング、ゲージは?」
ヴァルキリアの言葉に、ジャイアント・キリングが難しい顔を見せた。
「前回使ったからまだ回復していない」
「ナツは?」
ナツナイトは首を横に振った、必殺技ゲージはほとんどない。
「ちょっとやばくない?」
「うん、でもなんでハルヒメは必殺技を使えないんだろう」
いくら説明文を読んでも答えは出てこない。
そんなとき、ドラゴンは口を上に向けていた。
「いけない!このままだと!」
「ハルヒメ、『治癒』のスキルウィンドウ!」
ナツナイトの言葉に、僕は動いていた。
スマホのドラゴンは火を噴いた。
それと同時に画面が赤く点滅した。
ハルヒメは逃げられない、だけどナツナイトのカバーリングでダメージの直撃は防いだ。
「まずい、めちゃくちゃ減っている」
熱風効果でダメージがあったようだ、リアルの体も熱く火照っていた。
打たれ弱いのかハルヒメの体力がもう四分の一だ。
もしドラゴンの攻撃が当たれば死ぬだろう。
前にいるナツナイトがかろうじて、僕のハルヒメを守ってくれた。
すぐさま『治癒』でハルヒメを回復。体力が半分以上回復した。
「大丈夫ですか?」
だけど、それ以上に体力が減ったのがナツナイト。
レベルが上がってダメージが増えたドラゴンの攻撃で、ナツナイトの苦痛な表情が前に見えた。
「大丈夫、ナツナイト、ハルヒメ?」
ヴァルキリアが戻ってきてドラゴンに攻撃を加えた。
「どうしよう……」
「いったん逃げて、ステータスのアイコンの隣には靴のアイコンがあるわ」
「えっ、ヴァルキリアは……でも……」
「最初に言ったでしょ、自分の身は自分で守りなさい!
ジャイアント・キリング、ナツナイトぎりぎりまで減らすわよ?」
「僕は晴ねえに託されたんだ、このスマホを!」
そう叫んでいる自分がいた。みんなの視線が集まって僕は息をのんだ。
「でも、負けたら死ぬのよ!ハルヒメは、あたしたちの命に繋がっている!
死んだら、あたしたちではどうにもならないわ!」
「それでも結衣やみんなを置いて逃げるのは嫌だ!
みんなはずっと命がけで戦ってきた、僕には戦う資格がないのかよ?」
僕はこんな恥ずかしいことを、みんなの前で言っていた。
きっと強がりなのかもしれない。弱気だって言われた僕の心に火がついていた。
僕は足手まといかもしれない。でも、僕は最後まで戦いたいんだ。
「私が手伝います、私が守りますから」ナツナイトが、大きな声で言った。
「ナツナイト……」
「私だって一人ぼっちは嫌だよ。みんなが頑張っているのに何もできないのがいやです」
「ナツナイト……そうね」
ナツナイトに理解を示したのがヴァルキリアだ。
ジャイアント・キリングもナツナイトの言葉に、同意してくれた。
「わかったわハルヒメ、とりあえず回復に専念して。
神官なんでしょ、鈍足を治すスキルもどこかにあるはずだから」
「うん……そんなのあったと思う」
「でも分からない。とりあえず回復をお願い」
ナツナイトもヴァルキリアも首を傾げていた。僕はスキルウィンドウを見ながら考えていた。
(何かないか?この現状を変えるスキルは?)
カタカナが並ぶスキルリストは、よくわからない。
意味は英語っぽいけど、言葉を理解しないとスキルは使えない。
とりあえずナツナイトを回復させた。何度か回復させて、ナツナイトは全快した。
「後は、ハルヒメの回復……」
「待って、またブレス来るんだけど」ナツナイト。
「嘘でしょ、ドラゴンのブレスも必殺技扱いだからゲージが……」
「ゲージが回復している……どういうことだ?」
ジャイアント・キリングの叫び声に、みんながおののいていた。
それは僕に対する死の宣告だった。




