12
カラオケボックスのカラオケ機は、新譜情報が流れていた。
四人もいるのに、誰もカラオケを歌っていないカラオケボックス。
僕は結衣のスマホをずっと見ていた。
そこに書かれたGPSは上野駅のあたり、つまりここから徒歩五分圏内。
「これって?」
「『ドラゴンコイン』が動いた場所よ。今までもこのあたりに動いているわ」
「いったい何なんだ?ドラゴンコインって」
「『真ドラプラ』の最終クリアって分かりますか?」
そこで言ってきたのは棗。おどおどした小動物の棗は、この時は少し凛としていた。
「ドラゴンを倒す……じゃないの?」
「それは一つの目的でしかないです、本来はドラゴンを生みだす『ドラゴンコイン』を探すのが目的です」
「ええ、『ドラゴンコイン』を探して、ドラゴンを増やすのを止める役目があります。
それが私たちの戦い……強いボスもいるんですけど……」
「とにかく、ドラゴンコインを見つけて処分しないといけないんだ」
太はジュースを飲みほして、満足そうな顔を見せていた。
「そう、だからドラゴンを討伐すると出てくるストーリーを攻略するの。
あたしは上野のあたりにGPS表示されるわ。
太とナツの方はGPSの場所に行ってきたでしょ」
「私の方は三週間前の上野公園……人が多かったです。怪しい人物を特定するのは難しい」
「僕は上野の民家あたり、どうやら怪しいところはなかったですね」
「そう、やっぱり駄目ね」
結衣が落胆した顔を見せていた。太も棗も残念そうな顔を見せていた。
「二人とも『ドラゴンプラネット・トルース版』のプレーヤー……なんだよね」
「うん」
「……はい」
僕の質問に太と棗は迷いなく答えていた。
当然のことながら、僕は聞かなければいけなかった。
「怖くないの?」
「うん、よくわからないんだ。このゲームで負けると本当に死ぬって……」
「でも……晴ねえのことで……怖くなった」
太は相変わらずマイペースだけど、棗は怯えているようにも見えた。
カラオケボックスではどこかのアーティストの新曲が流れていた。
この曲はどうやらバラードか。
「だから、だからよ!」
隣でいきなり立ち上がった結衣は、右手を力強く握っていた。
「だから……」
「『ドラゴンコイン』を見つけて、『アジ・ダハーカ』を倒す。
悲劇を繰り返さないためにも、あたしたちは前に進まないといけないから!」
「うん……そうだね」
結衣の言葉に太が同意した。さっきまでおどおどしていた棗も、顔を上げて結衣を見上げた。
ん?『アジ・ダハーカ』って名前、どこかで聞いたことあるような。
「誉、あたしたちのコミュニティに参加してくれるよね?」
結衣の言葉に、太と棗が驚いた顔を見せた。
二人の視線が同時に結衣に向けられて僕も見られていた。
「晴ねえがいなくなって、『エキドナ』が次の参加者を探すって言っていたけど……
まさか誉が……」
「『エキドナ』?」
「ええ、このゲームの管理者ね。メッセージが着ていたけれど……関係ないわ。
スマホは五つしかないからね」
「新規ユーザー認証されたからしょうがないじゃない、導いたのは晴ねえのスマホよ」
「でも、僕のキャラというより晴ねえのキャラだけど……」
「いいのよ、誉はあたしたちの仲間よ」
そんな僕はスマホの画面を覗き込んだ。太と棗はお互いのスマホを見ながら話を続けた。
棗のスマホは青か。このゲームをやる人は、スマホがみんな同じ機種なんだろう。
「そろそろ話を戻しましょ。今のGPSでこれから近い場所は?」
「上野地区だと……一か月前から上野商店街で数件あるね」
「ああ、『アマヤ横丁』ね」
「そっ、行ったことないけれどなんか有名な場所らしいわね」
「そこだと多数のGPS反応あるし、行く価値はあるんじゃないかな?」
太の提案に、結衣は難しい顔を見せた。
「でも人が多そう」
「ですね」棗も同意した。僕も『アマヤ横丁』を知っていた。
ニュースや正月特番でよくテレビに出て来るし。確かに人は多いイメージがあるな。
「まあ、人が多いところの方がドラゴン出やすいしね。
それじゃあ、ナツと太はアマヤ横丁を捜索してもらっていい?誉はここに残ってね」
「うん」
「了解」
棗と太は頷いて、そのまま棗と太は立ち上がっていた。
「じゃあ一回りして、だいたい三時ごろ一度戻ってくるよ」
「よろしくね、太と棗」
そう言いながら結衣が、太と棗に手を振っていた。
二人が部屋を退出すると、このカラオケルームも広く感じていた。
「あれ、僕は?」
「誉はあたしに『シュツェルビッツ』をくれるんでしょ。プレゼントの仕方を教えるわ」
「あっ、ああ……それで僕を残したのか?」
「それだけじゃないわ……戦い方を教えないとね。
でもまずはプレゼント。隣……座るわね」
鼻歌交じりに結衣はにこやかな顔で、僕の隣に座ってきた。
それにしてもいい匂いがするな、結衣は。二人きりのカラオケルームに、僕は緊張が走った。
「結衣……近い」
「でね、ここにプレゼントってあるでしょ」
結衣が僕のピンク色のスマホを見て、指をさしてきた。
メニューのプレゼントのところを指さそうとしたとき、スマホがいきなり揺れた。
間もなくして、画面が赤く点滅した。
すぐにスマホ画面中央に現れた文字が『ドラゴン発生』という文字。
「結衣、なんか鳴っているぞ!」
すると、結衣の持っているスマホも赤く点滅していた。
僕から離れた結衣は、すぐに自分の青いスマホを見て険しい顔に変わった。
「『ドラゴン警報』よ!なんてことなの!タイミング悪すぎ!」
結衣が叫んだ瞬間に、カラオケボックス内で大きなベルが鳴った。
『繰り返します、ドラゴンが上野駅方面に出現しました。
至急カラオケボックス内の地下シェルターに避難してください!繰り返します……』
それは一瞬の出来事だった。すぐに結衣が僕の手を掴んだ。
「ここで見ていましょ」
「結衣……どういうこと?」
「大丈夫よ、ここが一番いい場所なの」
そう言いながら、結衣はカラオケ機のリモコンに手を伸ばした。




