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土曜日、僕は久しぶりに街に繰り出した。
そしてやってきたのが、上野のカラオケボックス。
結衣に呼び出された僕は、カラオケボックスの大部屋にいた。
何故有明より離れた上野で、ここのカラオケボックスなのかわからないが。
しかもここを指定したのは結衣だ。
カラオケ機器は、新しい音楽のPVが流れていた。
結衣に待ち合わせたこのカラオケボックスに入って、すぐに懐かしい顔を見つけていた。
「誉、久しぶり」
そこにいたのが、かつて玉第三団地にいた『壬生 太』だ。
オーバーウォールを来てさらに大柄になっていた太は、やはりポテトチップスを食べていた。
僕よりも一つ年上でおおらかな男だ。まあ見た目通りに食べるのが好きだけど。
「太か……相変わらずだな」
「すまない、誉……」太の顔が一瞬、曇った。言おうとしたこと分かったから。
「これは僕のせいだ」
「誉さんのせいではありません……たぶん」
カラオケ機のそばににある小さな椅子に、ちょこんと座っていた少女がいた。
ショートカットに地味なワンピースの少女は、やや落ち込んだ顔で僕を見ていた。
彼女は『親園 棗』。通称ナツ、僕の一個下だ。
「ナツも元気そうで何より。
このあたりって、ナツの家が団地公団から移ったところか?」
「えと……そう……かな」
やっぱり最後の方が聞き取りにくい、自信がなさそうなナツがちょっとかわいく見えた。
「いや、違うぞ」とすかさず否定する太。
「じゃあ、なんで上野に?」
「それはあたしが説明するわ」
そう言ってカラオケボックスのドアが開いて、呼びつけた結衣が最後に入ってきた。
学校のブレザーと違い、ラフなシャツとジーパン姿の結衣が現れた。
腕を組んで自慢げに見ている結衣は、不敵な笑みを浮かべていた。
「みんな揃ったわね」
「ああ、結衣。今日は上野だな、まさか観光じゃないだろ」
「もちろんよ。それよりまずは、誉!」
「ああ……」
「紹介……しなくてもわかるわね。彼が『真ドラプラ』の新しいプレーヤー、『野高谷 誉』よ」
「よろしく」
「じゃあ早速だけどスマホ見せて」
にこやかな顔で手を出してきた結衣。
結衣がピンクのスマホを見ると、太と棗も体を乗り出してみてきた。
「あっ、『女神の衣+3』いいね」
「すごいな、ハルヒメってスキルポイント1000を越えています」
結衣とナツが口々にスマホを見ながら感想を言う。
「ストーリーモードは……やってあるじゃない」
「『シュツェルビッツ+3』いいわね~『斬り』属性必殺技ダメージ150%欲しい~」
「いいよ、別に」
「ホントに、早速あたしに頂戴っ!」
結衣の顔が途端に明るくなった。
僕にはこの武器の良さは分からないし、結衣が欲しがっているならいじわるして拒む理由もない。
「そのまえに……そうか」太が何かを見つけて納得した。
「どうしたの?」
「ストーリーはちゃんとクリアさせたね、誉は」
「うん」僕はスマホを持った太に頷いた。
「前から晴ねえが疑問だったんだ」
「疑問?」
「晴ねえがいつも言っているGPSの場所が、なんか曖昧だったし。
それに、『ドラゴン視アター』が買えないから」
「あっ、そういえばGPSが出てこないってどういうこと?」
「結衣、自分の『真ドラプラ』で課金のエキストラ項目を見てみるといい」
太に促されて、結衣はスマホをいじりだす。間もなくして納得した。
「なるほど……そうね。だから『ドラゴン視アター』買えないのか」
「そっ。ハルヒメは『ドラゴン視アター』を買ったから、GPSが出てこないんだ」
「一体何の話をしているんだ?」
太の話に納得している結衣と棗。蚊帳の外の僕は口をはさんだ。
「うん、ハルヒメ……じゃなくて誉は逆に貴重な戦力っていう意味よ」
「どういうこと?」
「ねえ、『ドラゴン視アター』で見た画像ってどんなのだった?」
「画像?ああ、変なネットゲームが出ていた。
ファンタジーの世界で、お金とザイルとかどうとか……」
「ザイル?もしかして『ラグナカンド・オンライン』?」
「何それ?」
「これだよ」そう言いながら、太がポケットから自分の緑色のスマホを見せてきた。
太のスマホもやはり晴海や結衣のと同じ型だ。
そのスマホ画面には、『ドラゴン視アター』で見た画像と同じ西洋風の街並みが広がっていた。
「『ラグナカンド・オンライン』ああ、そうだね。どこかで見たことがあると思った」
「ザイルは、ラグナカンドシリーズの貨幣通貨だよ。
超有名RPGのネット版で、ユーザーも五十万ともいう。
昔、ゲーム機時代のオフゲーでは徹夜組がいたらしいよ」
「そう言えば子供のころに、なんかニュースになっていたね」
「で、ザイルがリアルマネーとか……」
「ゲームの話はいいわ、その画像にはどんな人物が写っていたの?」
「えと……『アジカ』と『ドン』。アジカはこんな感じ」
僕はラグナカンド・オンラインの小さな男の子のキャラを見つけて、指さした。
「これってプレーヤーキャラよ、全く参考にならないわ」
「ご……ごめん」
「『アジカ』と『ドン』。残念ながら僕の鯖と違うみたいだ」太もがっかりした顔を見せた。
「鯖?魚の話はしていないけど」
「サーバーの事、オンラインゲームは参加者が多いとサーバーをいくつも分けるんだ」
太が流暢に説明してくれた。太ってそういえばPRG好きだっけな。
ピンクのスマホを太は僕に返してくれた。
「そんなことより、この画像が何か意味があるのか?」
「あるわよ、あたしたちは『ドラゴンコイン』を探しに旅に出ているから」
「『ドラゴンコイン』?」
こちらも初めて聞く名前だ、いろんなことが多すぎて僕は訳が分からないよ。
「ねえ、誉。もしかして『真ドラプラ』の目的はドラゴンを倒すだけだと思っているんでしょ」
「違うの?」
「違うわ、これを見なさい」
結衣は僕に青いスマホを差し出してきた。それはある地図が描かれていた。




