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ドラゴンプラネット  作者: 葉月 優奈
十二話:最高のデスゲーム黙示録
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かつて僕は、晴ねえと一緒にデートした台場海浜公園に来ていた。

海浜公園には、夜中にもかかわらず大勢の人がいた。

夜中に危害を加えない巨木に、興味本位なのか野次馬が集まっていた。

だけど彼らは知らない。ユグドラシルが朝になったら再び動き出すことを。


そこから見える巨大な樹は、肉眼でかすかに見えるほどだ。

その人だかりから少し離れた高台に僕は来ていた。

ここからだと、ユグドラシルが……やっぱり見づらいや。

一人で来るはずだった、だけど僕の隣には結衣と棗がいた。


「なんか奥の方が……」

野次馬の一人の声が、聞こえてきた。

夜中動かない巨大な樹に、人々は束の間の平和があった。

しかしその平和ももう終わりを迎えようとしていた。

朝日が上がるからだ、東の空が徐々に明るくなっていた。


チャンスは一回。僕はスマホを構えていた。

スマホ越しに見える巨木はあまりにも大きな存在で海の中にたたずむ。


(覚悟はできている)

僕のズボンには弘明の赤いスマホをお守り代わりに持っていた。

これを失敗したら全てが終わり。緊張もプレッシャーもかかる場面だ。

ここに来たあたりから、怖さが僕の体に重くのしかかった。

急に足が重く、怖さがあふれだした。なんだか変な汗も出てきた、告白以来だ。

だけどそれ以上に呼吸が苦しく、体がだるい。


「誉、大丈夫なの?」

「怖くは……ない」

それは嘘だ。

結衣の言葉に、少しだけ恐怖と胸の高まりを抑えられない自分がいた。


「結衣を選んだのですか、誉さん」

「うん、誉が……一緒にいたい」

「私も力になりたかったです、誉さんの」

「棗、ゲームと違って強いナイトになれないぞ」

僕がそう言うと棗は少し顔を赤くした。

顔を逸らして、お守り代わりの自分のスマホを握り締めた。

僕は結衣を選んだ、そばに誰もいないと僕がおかしくなるから愛子が選ばせた。


「……そうでした」

「棗は、僕のかわりだ。有明に戻って次に備えてほしい……万が一は」

「万が一……それはダメです」

棗は不意に僕の手を強く握った。大きな目に涙をあふれさせていた。

そんな棗を安心させるように、僕は頭を撫でた。


「大丈夫、僕は失敗しない。そのために結衣にはそばにいるんだ」

「わかりました……絶対に成功させてください」

「ああ」

僕は棗を少し安心させるように、微笑んだ。

棗も僕に気づかってか、笑顔で高台を離れた。


「えー、誉は棗にも手を出すんだ?」

すると顔を覗き込んだ結衣。結衣の顔が見えて僕は思わずうつむいてしまう。


「いや……そんなんじゃない。それより結衣、画像を合わせるから手を離して」

「ああ、ごめんね」

結衣が僕に素直に謝っていた。いつの間にか手を握っていた結衣は僕の手を払う。

真っ直ぐ僕はガラス張りの窓から海を見ていた。


眠っていた幹や根が動き始めた。

巨木を見て、僕は手の震えを感じながらユグドラシルを遠くで映し出していた。

それでもスマホを構える。遠くのユグドラシルを写真で撮るように構えるのが基本。

相手は巨大樹、今は動かない。

スマホの画面には銃口が見えた。

僕はダウンロード時の愛子の説明を、頭の中で思い出した。


『時減銃ラグナ・ガン』はゲーム感覚で、射撃ゲームの要領で発射する。

スマホ画面に出ている指先を、ユグドラシルの真ん中を示して打つだけ。

愛子はパソコンの部屋でぐったりしていた。

いろいろあったんだ、疲れても仕方がない。


そんな時だった、画面を見ていた僕は異変をいち早く気づいた。

それはユグドラシルの木の根が、ゆっくりと動き始めた事。

永い眠りから目覚めたように木の根が起き上ったように見えた。


「う、動いた!」

双眼鏡を持っていた群衆の一人が叫んだ。

まるでその言葉に反応するかのように、ユグドラシルの根が動いた。

瞬く間に伸びた根が、対岸の方に伸びていく。


(結衣がついているんだ、棗がそばにいるんだ、大丈夫)

両手を合わせて、僕は覚悟を決めていた。

スマホの画像にタップする準備はできた。後は画像を正確に合わせ打つだけ。


そんな僕の目の前に現れた一人の人物が見えた。

そいつは生きていない、白昼夢のような存在。

それはおぼろげな太。いつも通りの太った男が僕の前に立っていた。

まるで幽霊であるかのように立つ彼は、僕をじっと見ていた。


「できないだろう、誉には力がない」

「太……」

僕はいつも通り澄まして穏やかな顔の太を、スマホ画面の反対側かに見ていた。

だけどスマホの画面には彼は映っていない。


「君ははずす、絶対にはずす。そんな未来が見える」

「僕は絶対に……」

「外すことは決まっている。運命だ」

「そんなことはない」

太が僕に対して嘲笑しているように見えた。

そんな太の姿が目の前でニーズヘッグになった。


「ニーズヘッグ……」

「君にはまだ力が足りない」

「どういうことだ?」

「力は欲望の究極の形、象徴。ドラゴンがなぜ人間なのか……」

「それはドラゴンが……」

「ドラゴンになれば、君はその力を得ることができる。

人は力にタガをして生きてきたのだから。

動物本来が持っている力に人は理性を与えたのだ。だから人は限界を超えて強くなれない」

ニーズヘッグを僕は睨んでいた。それでもニーズヘッグは続けた。


「そんな君に最後の選択を与えよう」

「なんだよ、それ?」

「君はドラゴンにならないか?このゲームは失敗ができない」

「お前は何の目的で僕に?」

「僕も人の管理者だからね。

選択肢は君の手の中にある、僕の手を取れば君には一瞬ドラゴンの力が宿る」

差し出すニーズヘッグの手を僕は見ていた。


そんな時、僕の背中に晴海がいた。こちらも幻だ、ニーズヘッグ戦で見た晴海と同じだとすぐに分かった。

「誉君……あなたは飢えているのでしょ」

「えっ、晴ねえ。いきなり何を……」

「あなたは力が欲しい。誰にも負けない力。何者にもブレない力。困難に打ち勝つ力」

「欲しいさ」

「だったら誉君は、分かっているんでしょ」


晴海はにこやか僕に語りかけていた。

やはり晴海も白昼夢か幻影なのだろう。そして聞こえてきたのが晴海のドアップ。

幽霊のような晴海が、僕にだけ微笑んでいた。


「あなたにはその力が必要なのだから」

そう言われて、僕は晴海に背中を押された。

そして、僕はニーズヘッグの手を取った。目の前が白くなって景色が変わった。


「来るよっ、誉!」

そんな僕は逼迫した結衣の言葉で我に返った。

スマホの画面の中にある巨大な樹の根が動き始めた。

背中には太陽が昇っていくのを感じた。そんな僕が結衣の体を突き飛ばした。


「誉……」

「どういうこと?」

結衣は驚いた顔で僕を見ていた。

だけど僕は余裕のある顔で落ち着いた顔で微笑むことができた。


「僕一人でやれる。僕は力を求めた、力を求める欲望があるんだ」

前をじっと見ていた僕は、スマホの画面をじっと見ていた。

朝日を受けて、ユグドラシルの根がこっちに向かってきた。


そして僕一人がスマホの画面をタッチした。

スマホの画面で、銃弾がきれいな軌道でユグドラシルに向かっていった。

だけど次の瞬間、僕は一瞬だけど鱗が僕の体にまとわりついていくのが分かった。

高揚した僕は、しっかりと狙いを定めてスマホをタッチした。



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