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――これは僕が小学生の時の話。
玉第三地域団地、通称『たまだん』にいた時の話。
そこは僕達の生まれ故郷、玉地区にあるアットホームな団地。
いつもと同じように、団地の六階にある晴海の家に集まっていた。
穏やかな陽気の晴れた春休みのある日、晴海の家で僕たちはテレビゲームをしていた。
リビングに集まったのは、僕と晴海、それから弘明と結衣。
さらには奥のソファーで太ったいがぐり頭の小学生男子と、逆に小柄な女の子が応援していた。
僕達が前で集まって一つのテレビゲームをやっていた。
それは、キャラもののレースゲーム『マ○オカートW』だ。
僕はゲームコントローラーを持ちながら嘆く。僕の車が置いてあったバナナでスピンした。
「うわっ、またバナナ~なんか駄目だな」
「おさきー」
僕が嘆いている合間に、横で弘明の車が抜いて行った。
僕の車には緑色の怪獣、弘明の車には凶暴な亀のキャラクターが乗って走っていた。
すぐ後ろから、結衣のキャラであるキノコが乗っている車もやってきた。
「誉君、諦めないで立て直して!」
僕の傍らには、少し背の高い晴海がいた。穏やかな目で僕を見守っていた。
「うん」僕はボタンを連打して倒れた緑色の怪獣の乗る車を起こした。
その横で結衣が全速力で駆け抜けた。
僕も追いかけたが、結衣のキノコにかわされてしまった、
「三位はあたしがもらったわ!」
加速度のついた結衣のキノコキャラに、僕の緑色の怪獣が追いつけるはずもなかった。
押し切ったのが結衣、そのまま僕はコントローラーのアクセルボタンを押すのをやめた。
乱暴な結衣のドライブテクニックで、最後に結衣がゴールした。
次の瞬間、僕の目の前が真っ暗になった。『ビリ』と書かれていた。
「やったー、三位!」
結衣が隣で二位になった弘明とハイタッチ。
チーム戦で僕と晴ねえ、弘明と結衣のチーム。僕達のチームはまた負けてしまった。
「これで俺たちの五連勝」
「晴ねえにはトップ取られたけれど、ポイントで上回ればいいのよ!」
結衣と弘明は、すごくうれしそうだ。
「あら~、負けちゃったね、誉君」
「ごめん、僕のせいで」
「いいのよ、今度は勝ちましょ」
それでも晴海は穏やかだった。だけど僕はとても悔しい。
負けたのよりも、それ以上に悔しかったことが晴海に迷惑をかけたから。
僕達六人は団地の中の仲良しグループであった。その中央にはいつも晴海だ。
ゲームが得意で、面倒見がよくて、優しい。三つ上のお僕達のお姉さん。
「うん」
悔しそうに僕が頷く横で、ふてくされた弘明がいた。
「晴ねえ、今度は俺と組んでよ!」
「えー、そんなことしたらハンデ無くなっちゃうでしょ」
これに反対したのは結衣だ。
たまだんメンバーで一番ゲームが上手い晴海が、二番目にゲームの上手い弘明。
二人がペアを組めば、誰も太刀打ちできない。
「今度、私もやりたい……」
そこにショートカットの女の子が後ろから参加してきた。
彼女は棗、『ナツ』と呼ばれていた。
「弘明君、じゃあナツと組んで」
「ええっ、俺は晴ねえと一緒がいい」
「弘明君、私とは今度ね。少し疲れちゃったから、みんなの走りを見ているわ」
そんな穏やかな晴海の顔を見て、ゆっくり立ち上がった弘明。
そのまま晴海はソファーに座って、穏やかな顔で微笑むのだった。
「じゃあ、誉はあたしと組もう。ナツと太でいいかな?」
結衣が僕の方に近づいてくるなり、不機嫌な弘明が立ち上がった。
「ちょっと出かける」
一言残してふてくされた弘明は、晴海の家を出て行った。
そんな弘明を見て晴海も、すぐに笑顔を見せながら立ち上がっていた。
「私も出かけて来るわ~。みんな遊んでいていいわ」
晴海も弘明を追いかけるように、リビングを出て行った――




