白い羽根の君
文化祭の後、平凡な高校は、再び平凡な毎日に戻って、生徒たちはただ、日々の時間を費やして、退屈に過ごしていた。しかし、平凡な日々を過ごせることが、少しだけ、幸せに感じる生徒も、中には、いる。
「あれ、何それ?ラブレター?」
俊の背後で、竜志がわざとらしく、大きな声を出した。俊は慌てて、それを生徒手帳に挿み、ポケットに入れる。
「誰から?誰から?」
クラスの女子たちも、興味津々に、集まってきた。俊は諸悪の根源を睨みながらも、精一杯、平静を装って、
「そんなんじゃないよ。僕がそんなに、モテるはずないでしょ?」
自分で言っておいて、結構、傷ついた。女の子みたいな、童顔。幼稚園の頃から、顔が変わっていないと、よく言われる。そのせいで、短髪が似合わないのだ。
「じゃあ、見せてみろよ。ラブレターじゃないんだったら、平気だろ?」
そう言って、竜志が俊の胸のポケットに手を伸ばそうとした。その時、
「俊!迎えにきたよ。一緒に帰ろ?」
沙輝が教室の入り口で、俊を呼んだ。一斉に、皆の動きが止まる。
「え、川村先輩と、知り合いなの?」
「何で?何で?」
女子たちの甲高い声で、放課後の教室は騒然となった。
「いつから?ねえ、川村先輩といつから友達なの?」
羨ましそうに、尋ねられ、俊はこう答えた。
「もう、ずーっと、昔からだよ」
「なんで内緒にしてたのよ?狡い!」
再び、女子たちが騒ぎ出す。その隙に、俊は鞄に教科書を詰め込んで、教室を逃げ出した。
「何だか、騒がしかったけど、何かあったの?」
廊下の端までも聞こえてくるクラスメイトの声に、沙輝が驚いている。
「沙輝からの手紙を、ラブレターだって、言われて」
すると、沙輝は急に寂しそうに、
「ラブレターのつもり、だったんだけどな」
「え、」
俊は思わず、沙輝の顔を見た。今にも泣き出しそうに見えたが、どうすれば良いのか解らず、ただ、その揺れる瞳を見つめる。すると、途端に笑いながら、
「俊といると、飽きないよ」
どうやらまた、からかわれたらしい。俊は膨れて、胸のポケットに手をやった。
『放課後、教室で待っててね。沙輝』
綺麗な文字で、そう書いた紙が生徒手帳に挿んであるはずだが、確かめようとして思いとどまり、再び沙輝の隣に並んで歩く。
「どうしたの?怒った?」
少しだけ、不安げな表情もまた、可愛らしい。俊はからかわれたことの仕返しのつもりで、こう言った。
「沙輝って、可愛いね。色白で、髪が長くて、女の子みたい」
すると、俊の予想に反して、沙輝の瞳に涙が浮かび、溢れて零れ落ちた。言ってはいけなかったかと、咄嗟に謝る。すると彼は首を横に振って、
「違うの、……嬉しくて。……よく、そうやって可愛がってくれたから、」
「……沙輝?」
沙輝の腕が、俊の体を抱きしめた。当然、廊下にいた生徒たちが、怪訝そうに二人を見ている。俊はただ、その腕の中で、沙輝が語る物語の一節を、聞いていた。
『ねえ、どうしたら、君みたいに綺麗になれるの?』
白い小鳥は自分の姿が不本意で、美しい天使にそう尋ねた。
『僕、ホントは青い鳥になりたかった。そう言ったら、皆に、馬鹿にされて。色を何処かに、忘れてきたんだろ、って』
自分でもそんな気がするほど、真っ白な羽根。雪の日には、何処にいるのか解らないと笑われた。天使は元気のない小鳥を肩に乗せ、そっと撫でる。
『真っ白で、小さくて、フワフワしてて、可愛いよ』
『……、』
『僕は、こんなに可愛い友達ができて、嬉しいな』
その天使の言葉に、小鳥は喜び、美しい声で鳴いた。自分がこんなにも上手に歌えるということを、初めて知った。天使と小鳥はそれからも、毎日のように同じ時間を過ごし、小鳥は少しずつ、輝きを取り戻していった。
きっと、凍り付いた天使は寂しくなんかなかった。いつも肩に、大好きな友達がいたんだから。そう確信して、伝説はようやく、ハッピーエンドになった。帰宅した俊は、制服の胸のポケットから、生徒手帳を取り出し、机の上で、そっと開いてみる。そこには……
『やっと逢えたね。あの時のお礼を言いたくて、ずっと君を探してた。俊、ホントにありがとう。これからも、友達でいようね。沙輝』
幼い頃から、何度も夢で見た景色。見たこともない森の中で、目が覚めると、明るい陽射しに輝く、色とりどりの薔薇が、いつも淡い香りを漂わせていた。そう、いつも、同じ場所、同じ景色。ようやくその意味が解って、俊は天を仰いだ。……夢なんかじゃ、なかった。僕はずっと、眠っている。あの場所で。そして、君も。それなら、このままずっと、眠っていたい。君と出逢えたこの幸せな夢が、続くから。
いかがでしたか?
皆様が想像する天使の姿からは、多分、遠かったのではないかと思います(^^;
色んな人間がいるように、色んな天使がいてもおかしくない、と思って書きました。
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました!




