病弱な幼馴染な私と、私を優先するあまり婚約解消された令息の彼
彼曰く、もともと馬が合わなかったのだ、とのこと。
王都育ちの婚約者と、片田舎の領地出身の彼。
王都で販路を拓く婚約者の家と、港を持つ彼の領地の物流、それらをうまく繋げるための政略結婚だったらしいのだけど、いかんせん育った環境が違いすぎて価値観が合わなかった。
片田舎――山と海に囲まれ、国境に位置する領地は野生生物は勿論、他国からの侵略にも耐える防波堤にならなければいけない。彼は時間が空けば領地の私兵団に交じりひたすら剣稽古などに勤しみ、新聞で近隣の情勢を読み、領地開拓のための遠征に帯同した。次期領主としての立場もあったろうが、どちらかというと彼は元からの趣味レベルでそれらが好きなのだ。
対して、婚約者はと言うと、王都育ちのお嬢様である。社交に優れ、観劇や美術を好み、王立庭園を散歩することを好むような、貴族らしい令嬢だ。
どちらが悪いと言う話ではないが、育った環境も趣味嗜好も、確かに全く違う。
幼馴染はコホコホと咳を零す私のベッドサイドに佇んで、手慣れた様子でりんごの皮を剥いていく。くるくるくるくる、りんごを回す。器用なもので、一度も皮は千切れず、つながったままだ。
「なんたって場所が遠いからな。月に一度しか定例の交流の場を持てなかったし、それさえも辺境で何か揉め事が起きれば延期になる」
「……延期になった時は、ちゃんと手紙は送った?」
「詫びの品と共にな。勿論、すぐに次の予定も取り付けたぜ」
こんこん。私の咳がまた漏れると、幼馴染はちらりと控えてたメイドに目配せする。メイドは知った顔で出ていった。おそらく、薬を用意しに行ってくれるのだろう。
頭が少し、ぼうっとする。熱が上がってきたのだろうか。本当に、この体にうんざりする。
けれど、今はそれを無視してでも話を聞きたくて、ゆっくり上半身を起き上がらせた。
「三年の婚約で、延期させたのは三回だ」
多いと思うかは、個人次第だろう。
婚約者はそれを多いと思った。幼馴染は領地のためならばそれを致し方ないと思った。それこそが、明確な価値観の違いだ。
「延期させた後にな。明確に婚約者殿が待ち合わせ時間に来る時間が遅くなったんだ」
「……馬車でお屋敷まで迎えにいけば良かったじゃない」
「外で待ち合わせたいと、固辞されてな。だから待つんだが、一時間経っても現れないと、さすがにもう暇つぶしも難しくてな。だから、今日は終わりだと手紙を従者に預けて渡してた。そんなんばっかりだったから、あっちは俺とそもそも交流したくもなくて、この婚約自体に不満があったのかもな」
一度、当事者同士できちんと話し合いたいとは思っていたらしいのだが、その婚約者とそもそも会えない。どうしたものかと考えてはいたらしい。
幼馴染の顔は、先ほどからちらりとも怒ってはいない。愚痴を言う口調でもない。ただ、私に事の顛末を話すためだけの温度だ。
「ただ、遠路はるばる王都に来て、何もせず帰るのもなと思って、お前の見舞いに来てたんだよ。タウンハウスで治療のため過ごしてるって聞いて、母上も心配してたからさ、すっぽかされた気晴らしにね」
「……貴方に、婚約者がいるだなんて私、知らなかったの。知ってたら、来るなって言ってたわ」
「だろうなぁ。だから俺も言わなかったし。周りはお前に負担になることを言えなかっただろうしな」
五年前から治療のため、王都に移り住んでいた私の下に、幼馴染である彼が見舞いに来たのは半年前からだった。
王都に立ち寄る予定ができたから、ついでに顔を見に来たと彼は言って、私は無邪気に久々の再会を喜んだ。迂闊な私は「王都に立ち寄る予定」について言及せず、幼馴染もあえて、言わなかった。
口止めはぎりぎりはしていないが、それを狙っていたらしい幼馴染にぎゅっと唇を噛み締める。
幼馴染は婚約を解消された。
病弱な女の見舞いに、婚約者とのデートをすっぽかしてまで訪れた不実な男、と今もっぱらの噂らしい。私にその噂が届いたのは、つい数日前、全ての政略的手続きが済んだ後だった。
重い息をつく。
迂闊な幼馴染に呆れる気持ちもあれば、貴族らしくやや捻じ曲がってしまった噂話に憤る気持ちもある。
けれど、一番やるせ無いのは、自分のことで精一杯で事情も知ろうとせず、ただ幼馴染の見舞いを喜んでしまっていた自分自身だ。
長い闘病生活の中、いつもと変わらぬ温度で接してくれる幼馴染の存在に救われていた。領地から摘み取った野花や果実に喜び、彼の辺境での生活の話に元気をもらった。
私は、与えられてばかりで何の事情も察していなかったのだ。よくよく考えれば辺境の次期当主である彼に婚約者が整えられることは当然だ。その事情を考えもしていなかった。
その上、そもそもこんなに頻繁に王都まで見舞いに来れる不自然さもあったというのに。
彼は綺麗に八等分してくれたりんごを、皿の上に並べて手を拭いた。
「……私のせいで、ごめんなさい」
「いやー、フィオナのせいだけじゃないと思う、っていうか、大概は俺のせい……。いくら婚約者殿の本心が分からないにしろ、今みたいに二人きりになることはないにしろ、婚約者殿に許可なく会うのもよくなかったしなあ」
それはそう。本当にそう。
けれど、鼻を啜ってしまうと、ぼたぼたと涙が溢れてダメだった。
幼馴染は少し笑ってから、私の頭をぽんぽんと撫でた。触っちゃダメだよ、私も年頃、君も年頃なんだから。そう――いつかに言った境界が呆気なく破られてしまうが、今はもうそれを咎める気力もない。
「元から政略だからさ。うまくやれたらいいなとは思ってたけど、淑女の気持ち?っていうのが読めなくてさ。だから、壊れたところでしょうがないって清々しい気持ちもあるんだな、これがまた」
そう言って、幼馴染は手を離して、腰掛けた背もたれにだらりとだらしなく背をつけて天井を見上げた。本当に、若干清々しそうで、どうしようもない。
事実よりも少し捻じ曲げられた噂話は、けれど事実から遠くもないから否定し切ることも難しい。
婚約者寄りの風評は、おそらく貴族らしく整えられたもの。
そんな婚約者はもう既に別の高位貴族との縁談が整っているらしい。
「収まるところに収まったんだと思うぞ。彼女は王都暮らしが合ってたし、俺は彼女に寄り添う夫にはきっとなれなかった。辺境に来てもらっても、俺は家を空けることは多いしな」
そう言って、彼は私に剥いたはずのりんごを一つとり、しゃくりと齧る。
私の口にも、気軽な様子で放り込んだ。程よい酸味のそれは、彼の領地の特産品でもある。
どのりんごよりも、彼の領地のりんごが一番馴染み深くおいしいと事あるごとに私が言ったものだから、彼は律儀にいつも見舞いに持ってくる。
派手ではないが、素朴な優しさを持った人なのだ。
二人でしゃくしゃくとりんごを食べて、飲み込む。数秒の沈黙のあと、彼は私をまっすぐ見た。
「で、縁談をぶちこわした病弱女に成り下がったお前と、病弱女にかまけた愚かな男。お互い責任取って、婚約するしかないってわけだ」
――三日前に、母から聞いた。
幼馴染と私の婚約が整ったと。
病弱な私にとって、結婚など寝耳に水だ。まずは闘病生活を終わらせること。それが目下の私たち家族の現実だったから。
次期辺境伯である幼馴染との結婚など、夢物語として思い描くことはあっても、口に出したこともなかった。
だというのに、ここに来て突然の婚約。母の複雑な声色を受け取って、私は幼馴染から直接、事の顛末を聞いたのだ。
そして、この小さな箱庭で、大事に育てられた私が踏み躙っていたものを、今更知った。
「フィオナ、余物同士、仲良くやろうぜ」
「……レイガルド、多分あなた、そういうところよ」
涙を拭く。
私が会ったこともない、彼の元婚約者の女性。王都の女性を思い描くが、確かにこのレイガルドのある種の粗雑さが合うかどうかはわからない。
会ったこともない人だから、私は量りようもないのだけれど――それでも、最大限のエゴで、元婚約者の幸せを祈る。
私が息を吐くと、彼は大きく笑う。台風が去った後みたいな笑いだった。
「体……強くなるから……。たくさん子供産めるくらい……」
涙を拭いたあと、りんごをもそもそと食べながら、決意新たに呟く。
王都に越してきて、治療法も薬も合っていて、大分体は改善してきている。
彼の本当の婚約を壊してしまったのだから、せめて私に用意できる幸せを、彼に味合わせるのだ。
その意思表示だったが、彼が思い切り咽せた。
「……お前、たまに大胆なこと言うよね……」
ごほごほと今度は彼が咳き込むから、私が身を乗り出してその背をさすろうとすると、そのまま体を引かれる。
ぽすりと彼の額が私の肩に乗る。少しだけ疲れたように、赤い顔をした彼が呟く。
「意味分かってねーんだもんなぁ……」
そう言う彼の心がわからず、首を傾げると鼻を摘まれた。
――そうして。
彼の縁談をぶち壊してしまった女として、戦々恐々と彼のご両親に会う。
今までは幼馴染としてよくしてくれていたけれど、今後はそうもいかないだろうと震えていたけれど、彼らの両親はちっとも怒ってなんかいなかった。
むしろ私の体の快復を心から喜んでくれたし、この結婚も喜んでくれているらしい。それでも政略結婚で、辺境伯にも利がある王都の販路を失ったのだから、両親共々頭を下げたのだが、彼の両親はやはり責めなかった。
破棄ではなく解消、世間の風評はともかく、書類上で何か不利になることはなく円満な別れだった。販路は確かに夢見たが、王都の貴族と繋がりを持つのはまだ経験値も足りず、早計な夢だったのだろうとしみじみ呟いてる姿は、本当に納得してるようだった。
彼の両親らしい、地に足が着いたような、もしくは気長な決着の付け方だなと思った。
そんなこんなで、王都の最悪な評価を置いて、私たちはごく円満に結婚生活をスタートさせた。
王都の噂も、そもそも辺境の地に篭れば何の影響もない。
遠征から一週間ぶりに帰ってきた彼。寂しくなかったとは言わないが、留守なら留守でやるべきことを片付け、自分の時間を持てる。彼は家にいる時は、割と私を離しはしないので。
今は私の膝を我が物顔で枕代わりにする彼の傍らで、編み物をしながら、ふと口を開く。
「……この結婚って、もしかしてここまで狙ったの?婚約破棄をわざと狙って、私と結婚する、みたいなの?」
彼が留守の間、読んでいた恋愛小説を思い出しながら聞いてみる。
その恋愛小説では、ヒーローが実は緻密に自身の婚約破棄から狙っていて、ヒロインを囲い込むための檻を用意した、というものだった。最後のどんでん返しの展開に舌を巻いたものだ。
私の突拍子もない質問に、彼が首を傾げるので、小説の内容を交えて説明する。彼は納得したように頷いた。
「いいや?そういう知略じみたのは向いてない」
しかし、現実の彼の言葉はこざっぱりとしたものだ。まあ、私も本気で疑ったわけじゃない。
物語の中では惚れ惚れしてしまう展開も、現実にされてときめくかと聞かれたら否だ。
うんうんと私が一人、納得して話を終わりにしようとした時、彼が私の頬に手を伸ばす。
「政略も何もかも、領地のためになるなら受け入れるけど、できれば隣はお前がいいとは思ってた」
そう言って、彼が少し体を持ち上げる。
ニッと笑った顔が近付く。それに、恋愛小説など比ではないくらいに胸が鳴る。
ちょっと、まって。そう言いたいのに、うまく言葉にならない。
「立場もあったし、フィオナの体のこともあったから言えなかったけど、やっと言える」
彼の顔が、容赦なく近付いてきて、
「ずっと好きだったよ」
そう言って、距離をゼロにされた。
◇◆
『幼馴染が、今は王都に治療に来ているようで』
たった一度、元婚約者の男が自分のエスコート中にこぼした言葉。
彼はそれ以上何も言わなかったが、直感で、その幼馴染とやらが女であることは分かる。
それが、妙に引っかかった。
元々男とは政略結婚だ。見目は良く、婚約者としての礼節もある。ただ、領地が辺境にあり、国防を担う都合で逢瀬が土壇場でキャンセルされることは不満だった。両親からは、それは貴族としてしょうがないことだろうと逆に窘められたが。
男は予定をキャンセルすると言い訳もせずに詫びて、花やアクセサリーを贈ってきて、次の予定を必ず取り付けてきた。溜飲はそれで下がるが、しかしキャンセルされたことに対する罰として、次の予定であえて待ち合わせ場所に遅刻してやった。男はそんなアンネリーゼを少しも責めず、トラブルがなかったかを心配してくれる。気分が良かった。
だから、それからもあえて遅刻した。徐々に待ち合わせに行く時間を遅らせる。どこまで男が怒らないか、どこまでアンネリーゼを待つか、試してやりたかった。
結果として、男は一度もアンネリーゼに怒ったりはしなかったが、ただ待つ時間は彼の中で一時間までと見切りをつけたようだった。待ち合わせに一時間突っ立ったまま待ち、それが過ぎるとあちらから断りの使いが寄越される。侍従はアンネリーゼの無礼を咎めたがやめられなかった。試すばかりではなく、アンネリーゼからも気持ちを示さなければだめだ、と侍従は言ったけれど、心には響かない。淑女から求めるのなんてはしたないだろう。だから、ツンとして、手紙も自分からは書かなかったし、会ってもあまり自分からは話を振らなかった。
むしろ、一時間できっかり帰る男が、どこまでも自分が来ることを期待して、一時間を超え、自分を求めて欲しいとまで思っていた。もっともっと、自分でいっぱいになってほしいのだ。
しかし、男は義務のように一時間立った後は、織り目正しく去っていくのだ。不満だった。そして、アンネリーゼも意地になった頃。
一時間待った後、男が寄り道をするようになったのだ。
――いつだったかに聞いた、幼馴染が療養するタウンハウスとやらに。
目の前が真っ赤に染まる。明確な裏切りで、許されざる行為だと思った。だからもう、捨てた。
浮気者の婚約者など、いらなくなったから。
それだけ。
貴族らしく自分の瑕疵とならない体裁を保って、不実な婚約者は捨てる。勿論、次の宛を得ることも忘れずに。次は、もっと条件のいい男だ。
婚約者がいる間にも、何か不慮のことがあってはたまらないと静かに見定めている男はいた。
アンネリーゼにとっての、最初の婚約など、それだけだった。
だって、アンネリーゼは貴族令嬢なのだから。
その、元婚約者の件の幼馴染、現在は辺境伯夫人を名乗る女。線の細い、いかにも庇護しなければ枯れゆくような繊細な女だった。
元婚約者である辺境伯夫妻が夜会に来る、そう聞いたのは夜会への馬車に乗り込む直前だった。
そして、初めての邂逅。
彼女はその細い腰を元婚約者にぴたりと支えられながら歩いていた。華奢な体、頼り無い表情。王都の華々しさに戸惑う弱者。
久々の王都ということで、あちらこちらにひっぱりだこにされる元婚約者が、彼女の元から消えた後、アンネリーゼは周囲を伴って彼女の前に堂々と顔を出す。
「ごきげんよう、夫人。アンネリーゼ・オルコット。元はユナイゼル家の者ですわ」
そう言って微笑みかける。王都の最新のドレス、アクセサリー、髪型。どれをとっても華やかで、品がある佇まいに、辺境伯夫人は一つ息を呑んだ。
ユナイゼルと聞いて、アンネリーゼが元婚約者であると思い至ったのだろう。
眩いばかりのアンネリーゼを不躾にならない程度に見て、それから、ふっと――零すように、笑った。その顔には安堵が色濃く混じる。
「ご挨拶申し上げます。オルコット侯爵夫人。フィオナ・ユマールでございます」
深々と頭を下げ、笑みを浮かべる姿には翳りはない。
それに、アンネリーゼの方が息が詰まる思いだった。けれど、なんとかそれを飲み下し、無難な会話を繋げていく。
辺境伯夫人の笑みは、崩れない。
その鷹揚で余裕のある態度は、どこか元婚約者と似た雰囲気を感じた。それが妙に癪に障る。
だから、つい口走ったのだ。
「お体が弱いだとか。お世継ぎに恵まれるといいですわね」
そう、こぼれ落ちたのは明確な悪意。空気がぴりと一度強張った。アンネリーゼの傍にいた友人でさえ、その露骨な嫌味に顔を固まらせる。
それを見て、はっとしたが、しかし今更吐き出した言葉を戻せるわけではない。
領主夫人に対する、この上ない侮蔑の一言。その品のなさも然ることながら、何よりもその嫌味をわざわざアンネリーゼが口にすると言うことは、まるで元婚約者に対する未練や、女に対する嫉妬が残っているかのように取られかねない。
――違う、そうではない。
アンネリーゼの方が捨ててやったのだ。不実で気の利かない、辺境の男を。欠陥品のような女を宛てがって。
そう、言いたかった。しかしこれ以上失言を重ねればこの夜会で取り返しのつかない汚点となる。
たちまち社交会で悪評は広まり、泥濘に足を取られてしまう。
盤石な足元を固めたと言うのに、たった一言で――。そんな、アンネリーゼの心情の焦りを、欠片も読み取ってなさそうな顔で、辺境伯夫人がこてりと首を傾けた。少しだけ、はにかんだように笑いながら。
「私も心配してたのですけど……この度やっと……安定期に入りまして。油断しないように気をつけますわ」
まだ薄い腹を撫でる辺境伯夫人の顔は、アンネリーゼの無礼を怒ってはいなかった。ただの雑談の延長として受け取っている。それは、あの無骨で気の利かない元婚約者の男と似合いの、王都の悪意に気付かぬ愚鈍さだった。
ふらりと足元が崩れそうになる。
この頼りない女が健康体である自分より先に懐妊しているという事実が耐えられなかった。……いや、しかし、まだ腹も膨らんでいない。そもそもこの女が母子共に健康で無事出産など耐えられるのか?生まれたとして、子供の出来は……そもそも辺境の地での子育てなど――
「健康に生まれ、顔を見られることが今一番の希望ですわ」
そう言って、幸せそうに笑う女。
それを見て、アンネリーゼの顔が今度こそ引き攣った。王都のことなど何も分からぬ、片田舎の女。私が捨てた男と結婚した女。
なのに何故、今この女はこんなにも幸せそうなのか。
「……あの辺境の地では、王立学園に行くのには苦労しそうですわね」
もうアンネリーゼは止められなかった。友人たちも、そんなアンネリーゼに数歩下がるような態度を取る。窘めることも、フォローすることもなく、ただ傍観者に変わろうとしている。
ずっと王都で共に過ごしたはずの、友人、なのに。
アンネリーゼは孤独を理解して、それでも立ち続けなければいけない。ずっと勝ち続けなければいけない。
これは彼女の選択だった。紛れもなく。
あの瞬間、彼女は王都の貴族として生きる道を選んだのだ。覚悟だけが、ないままに。
「領内の学舎でもいいかもしれません。私たち田舎者には王都の空気はなかなか合いませんもの」
けれど、アンネリーゼが勝ち続けなければいけない相手、――辺境伯夫人は、ただ笑うのだ。悪意さえも含まれない、あどけない顔で。同じ舞台になど、立ってくれず。
無垢さが保たれた美しさ。
それを呆然と眺める、王都に疲れ切った女の顔が、磨かれた銀食器の皿の上に反射した。
end.
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誰かが明確に悪いというより、それぞれ至らないところがあった故の結末です。
アンネリーゼについては、不幸を書きたかったというよりも、
常に王都で華々しくいたい、自身の損得や勝ち負けだけをこだわり続ける、そういう生き方は疲弊もしていくよね、という。
噂の根回し、立ち回り、そういうものに重きを置いて、辺境も嫌って、自分で選んで立っていたけど、
ふと気が付くと辺境側を眩しく思ってしまう……、ないものねだりです。
一方でレイガルドに関してはやっぱり軽率な行動だけど、ずっと相手の本心も読めず、試され続けたら、どこか寄り道もしたくはなる。
フィオナは本人も言うように、貴族としてはもう少しレイガルドの行動の裏を読まなくちゃいけなかった。
王都の貴族としては立ち回りが足りない二人なので、辺境で静かに暮らしていくと思います。
今は感想欄閉じてますが、いろいろ読み取っていただいたり考察いただいた感想をお書きいただき、とても嬉しかったです。
お読みいただきありがとうございました。




