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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

短編集

淡いメリーさんと、鳴り響く僕。

作者: 殊暇こなた
掲載日:2026/01/10

お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけたら幸いです。


「私、メリーさん……。」


 突然の一本の電話。


 気味の悪い雰囲気と、怪しげな女声。


 その不気味な内容の電話は、都市伝説として誰もが耳にしたことのあるものだろう。



「いま……」


 "いま……"

 この後に来る言葉は、誰でも想像がつくものだ。


 そう。


 それは。





「あなたのとこに行きたいのだけれど、道に迷っちゃって……。」


 だ。


 うんうん。言いたいことは分かる。



「これっておかしいよね!?!?」


 おかしい。おかしいぞ。


 思ってたのと違う。


 想像が一瞬にしてひっくり返ってしまった。


 

「何がおかしいの……?」


「普通はさ?今、あなたの後ろにいるの……。とかじゃないの!?」


「そんなこと言ったって、迷っちゃったんだもん……」


「なんでメリーさんが肝心な所で道に迷うんだよ……。」


 道に迷うメリーさんなど、聞いたことがあるだろうか。


 いやない。全くない。


 驚かせる側がその様な失敗をしてしまうと、される側の恐怖は半減。

 いや、ゼロに等しくなってしまう。


 それくらいの失敗を、メリーさんはしてしまったのだ。



「ていうか、君はほんとにメリーさんなのか? 偽物にしか見えないんだけど……」


「わ、私はほんとにメリーさんだよ! ただ、その…道に迷っちゃっただけで……」


「そこが偽物感半端ないんだよな……」


「そ、そんなこと言ったって…仕方ないじゃんか!」


「仕方無くはないだろ…。」


 肝心な驚かせる側がこうだと、ちょっぴり引き締まらないというかなんというか。


 驚かされるこちら側としても、なんだか損した気分だ。



「そんなことばっかり言って! 君の家に着いたら絶対に襲っちゃうから!」


「は、はぁ…。」


「ふん! そのうち着くはずだから、待ってなよ!!」


「そ、そうか…まあ気長に待っておくよ……。」


「じゃあ切るからね!!」


「お、おう。」


「あ! そういや一つ言い忘れてたかも!」


「なんだよ。」


「ときどき、精神感応(テレパシー)で話しかけちゃうから!」


「……は?」


「じゃーね!」


 切られた。


 言いたいことをすべて言い切った彼女は、僕の頭に浮かぶ疑問を何ら考慮せずに電話を切ってしまった。


 

「はぁ……」


 一体、何だったんだろうか。


 怪しさ最大の"自称"メリーさんからの電話。


 そして唐突な襲撃の予告。



「僕は、疲れているのか…。」

 


 寝よう。今日は寝よう。


 

 疲労が溜まっている故に、このような現象が起こってしまっているのだろう。



 

 

 体調のせいだと早々に結論づけた僕は、そのまま布団に直行し、眠りに落ちた。



 


――――――――





――気持ちの良い朝。


 鳥は囀り、風はそよぎ、太陽は大地を照りつける。


 いつもより一層、気分が晴れているように感じる"最高の朝"だ。



 ……"最高の朝"だ。



 そんな"最高の朝"を過ごしている僕に、突然語り掛ける何者かの声があった。


 それは一体――。




「おっはよー! 朝だよー!!」


 そう。


 昨日、突然として現れた彼女。

 

 その名も…

 


「メリーさんだよー!!」


「当たり前のように変なことしないで!?!?」


 僕の頭に直接語りかける声。


 あれ……、なんだっけ、精神感応(テレパシー)だっけ?


 その原理は、僕にも誰にも分からない。



「ていうか、どうやって人の頭に直接語りかけるんだよ……」


「うーん…私にもわかんないなぁ……?」


「分からないのに使ってるの!?!?」


「そうだよ!」


 と、自信満々な返答。


 いや、もはや返答にすらなっていないのだが。



「それで、朝からなんの用だよ?」


「なんの用って、暇だったから話しかけただけだしー?」


「変なちょっかいをかけないで!?!?」


「ちぇ〜 つれないやつ〜」


「つれなくていいわ!!」


「そんなこと言ったって、快翔も暇なくせに〜」


「僕は暇を楽しんでるんだよ!」


「そんな分かりやすい嘘、私は騙されないよ〜?」


「うっさいわ!!」


 なんかツッコミ役の仕事が多くないか…?


 あと十人はツッコミが欲しいわ。


 このままじゃ、過労で死にそうになるわ。



「そういや、ちょっとは僕の家に近づいたのか?」


「ん〜? ま、近づいてなくも無い…かな?」


「それ、ほとんど進んでないってことじゃないか…?」


「仕方ないでしょ!?!? ずっと迷ってたんだから!!」


 これは、着くかどうかも怪しいぐらいだな…。


 流石に、僕が死ぬまでには来て欲しいものだ。



「とりあえず、あとどれくらいかかりそうなんだ?」


「えっとね〜 今日いっぱい歩けば、夜には着くかも…?」


「ん?案外近いんだな?」


「えっへん! 私、けっこう頑張ってるからね〜」


「自分でそれ言ってるのはちょっとな……」


 

「ん〜〜!!もう!!! さっきから酷いことばっかり言って!! もう話しかけてこないで!!」


 

「そ、そんなに怒らなくても……」



 


 応答が無くなった。





 

 この様子だと、相当怒らせただろうな。


 次話した時には、しっかり謝っておかなければ…。




 



「…………にしても暇だなぁ…。」


 休日の過ごし方が下手なのだろう。

 時間を持て余している。

 


 (……たまには外に出てみるか。)


 暇な時は外出だ。


 街の喧騒の中に混じれば、何か起きるかもしれない。


 

 そうと決まれば、出かける準備をせねば。



 顔を洗って、歯を磨き、服を着替え、靴を履く。


 普段外出をしない僕にとっては、最後の二つ辺りは馴染みが薄い。



 

 

 ――そして準備を始めること二十分ほど。


 

 (よし。)

 



 

 外出の準備を済ませた僕は、ほんの少しの期待感と倦怠感を纏って、家を後にしたのだった。




――――――――




 ――公園の芝生広場。


 

 さんさんと照りつける太陽。


 さやさやと流れる風。


 人間が過ごすのに最適で、最高の自然を、僕は思い切り頬張っていた。



「たまには外も、気持ちいいな……」


 普段浴びることの無い日光、涼風、そして賑やかな人々の声。


 そんな、僕にとっての"異質"を盛大に堪能していたその時。



「やっほー!何してるのー?快翔?」


「うわあ!!!」


 どこからともなく来る()()()


 自称メリーさんの声だ。



「そんなにびっくりしなくてもいいじゃん!」


「急に話しかけられたらびっくりするでしょうが!!」


 精神感応(テレパシー)なんて能力、使われる側からするととても信じ難いものなのだ。


 超能力を信じろ、と言われているようなものだ。


 非科学的にも程がある。



「んで、今度はなんの用だよ?」


「えっとね…もうちょっとのとこまで来たよ!って言いたかったの!」


「そんなに進んだのか?」


「うんっ! おかげですごくへとへとだよ〜……」


「別に急がなくてもいいんだけどな?」


 

「…………なんかいじわる。」


 少し斜に構えた口調で応える彼女。



「冗談だって!冗談!」


 彼女にはやたらとちょっかいを掛けたくなる。


 人と話している時に起きる、よくある現象のひとつだ。



 

 ん?また返答がない。


「……メリーさん?おーい、冗談だって…」


 

「……ぷぷっ! 引っかかっちゃった~?私だって冗談ですぅ〜」


「……は?」


「快翔はだまされやすいでちゅね~?ぷぷぷっ!」


 

 イラっと来た。


 こうなったら俺もいじるほかない。


 いじられたらいじりかえす。いじり返しだ!(?)

 


「メリーさんの方こそ、ついさっきはへこんで精神感応(テレパシー)切ってたくせに~?」


「あ、あれはその……本気で傷つくようなこと言った、か、快翔が悪いじゃんか!!」


「えやっぱり本気で傷ついてたの?」


「……ちょっとね」


「……すみませんでした。」


「ま、気にしない気にしない! 夜には着くと思うから、ちゃんと準備してなよ!」


「準備?まあ特にはないけど、分かったよ。」


 

 

 そして応答なし、と。



 準備?といっても、特に準備することはないのだが。


(なんか襲うとかなんとか言ってたっけ?)


 襲う……?襲うってなんだ?


 刃物で一刺し?いや怖すぎるだろ。


 まあ、そんなに深く考えなくてもいいか。


 どうせ冗談だろうし。



「ふぁ~ぁ……。」

 

 段々と眠たくなってきたので、仮眠を取ることにする。


(少しだけ寝たら、家に帰ろう……)


 心地いい自然の中で、僕は瞼を閉じる。


 おやすみ。メリーさん。と、

 心の中でそう囁きながら。

 



――――――――





 ただ今の時刻は、二十三時ちょうど。


 あれから公園を後にした僕は、またしても暇を持て余していた。



(うーん……。時間も時間だし、本当にやることがない。)


 メリーさんからの連絡も無し。


 事あるごとに精神感応(テレパシー)を使って脳内に直接語り掛けてきていた彼女が、ぴたっと語り掛けてこなくなった。


 何かあったのだろうか。


 事故とか?事件とか?


 いやしかし……精神感応(テレパシー)などという超能力めいた物を使うあのメリーさんが、事故や事件に巻き込まれるとは、とても考えにくい。


 一体どうしたものか。


 

 そう深く考え込んでいると、突然家のインターホンが鳴った。


 「まさか……。メリーさん?」


 やっとメリーさんと会える期待半分、あまりにも遅い時間なので、まさか不審者なのではないかという恐怖半分。


 恐る恐る、玄関の扉のドアスコープを覗く。



 ん?



 そこにいたのは、メリーさんではなかった。


 「宅配便ですー。紫宮様いらっしゃいますかー?」


 「は、はい……?」


 二十代らしき若い女性が、肩幅ほどの段ボールを抱えている。


 (こんな遅い時間に宅配便?ありえない… いやなくはないのか? ……いやないだろ!!)



 「えーと。紫宮快翔様ですね。お荷物のお届けですー。」


 「あの、誰からですか?身に覚えがなくて」


 「……。」


 怪しい。送り主も答えられないのか。


 「時間も時間ですし、あなた本当に宅配便の方ですか?」


 「メ――さ――よ――。」


 「え?」


 「……メリーさんだよ!!」


(!?)


 目の前の若い女性が、突如として背丈の低い少女に変化した。


 

 不気味なその変化に思わず足がすくみ、後方に倒れてしまった。

 

 「……どう?驚いたでしょ?」


 「驚くとか言うレベルじゃないんだけど!?!?」


 「……ぷぷっ!快翔もかわいいところあるじゃ~ん?」


 にやにやと笑いながらそう話す彼女。


 心の底から嘲笑うかのような視線に少し頭にきたが、今は置いておく。



 「と、とりあえず部屋入る?ここだと話もできないだろうし……」


 「いいの!?」


 「別にいいよ、それくらい。僕もちょうど、暇してたところだったしさ」

 

 「やったぁ!」


 「うわー単純」


 「なんか言ったー?ねーねー?」


 「なんも?言ってないけどなー。」


 ついつい、本音が出てしまった。


 さっきの嘲笑のお返しだ。



 「それじゃ、お邪魔しまーす!」


 (いちいち声がでかいな……)


 そして彼女は、足早に僕の部屋へと駆け込んでいった。




――――――――





 (部屋に入っていいとは言ったけど、くつろいでいいとまでは言ってないんだけどな……)


 目の前には、二人用のソファで寝転ぶメリーさんの姿が。


 

 (まあいいか。)


 きっと疲れてるだろうし、今は触れないでおくか。


 それはそうとして。



 「ていうか、随分と遅かったな?もう少し早いと思ってたんだけど……」


 「これでも結構急いできたんだよ~? 早く会いたかったし!」


 「直球過ぎない…?そんなに僕を始末したかったのか……」


 「……うーん」


 いや否定はしろよ!?してくれよ!?



 「んで、始末ってどういう事なんだ? 本当に殺されちゃう感じ?」


 「……ネタだと思ってる?」


 彼女の声が冷たくなる。


 明るく元気な印象の彼女故に、声の質で雰囲気が大きく変化する。



 「ね、ネタじゃないの……?」


 「違うよ!!私は本当に、君を殺さなくちゃいけないの!」


 え?


 本当に殺されるのは怖い。


 急激に僕の顔から笑顔が消える。




 

 「でもね」


 

 「え?」


 

 「私はあなたが好き。大好き。だから殺したくないの。」


 

 「……。」


 

 「私は人を殺すなんて、本当は大嫌い。でも、今までたくさんの人を殺しちゃった。」



 「……。」



 「好きな人を殺すなんて、もっと大嫌い。大、大、大、大嫌い!!!!」


 彼女の悲痛な叫びに、僕はどう答えたらいいのか分からない。



 

 「だから一つだけお願いがあるの。」


 

 「……。」




 

 「"私を殺して"」





 「な、なんで……?」



 「もう苦しみたくない!!」


 彼女の瞳に涙が光る。


 それは鮮やかで、流れる血のように。


 彼女に殺された人々も、こんな涙を流したんだろうな。



 

 「もう殺したくないよ……かいと……」


 「でも僕に、君を殺すなんて……」


 「無理なお願いなのは分かってる。でもお願い……。」


 「そ、そんな……。」


 「……お願い。」


 「で、でもさ、君が僕を殺さなかったら、ずっとこのまま……」


 「そんなことできたら、とっくにしてる!!」


 声を荒げる彼女。


 僕の耳を、精神を、彼女の声が貫く。




 「もう時間も無くなってきてる……。だからお願い。殺して。

  快翔は何も感じなくていいよ。罪悪感も、何も。」


 決断を迫られる。


 僕は彼女を殺したくない。


 伸びる髪は艶やかで、顔立ちは凛々しく、透き通る肌の白さ。


 とても人殺しとは思えない容姿。



 「そもそも私は人間じゃないしさ……。化け物みたいなもの。」


 「でも、そんな風には……」


 「見えないでしょ?生きてる間には結構見た目には気を付けてたから……。」


 「うん……」


 「ほんと快翔は優しいね。でも、その優しさは、私を殺すのには必要ないよ。」


 彼女が地面に仰向けに寝る。



 「ほら、これで刺して。」


 彼女からナイフが手渡される。


 彼女を貫通するのに十分なほどのナイフが。



 「ご、ごめん……」


 「謝らなくてもいいよ!むしろこっちがありがと!」


 決意が固まった。


 彼女の胸にナイフを向ける。


 ぞくぞくする。背筋が凍る。身の毛がよだつ。

 

 この感覚は、最初で最後だろう。




 

 「……覚悟は決まった?快翔?」



 

 「……うん。」



 

 「……ありがと。」



 

 「……。」




 「私、今ね」




 「……。」







 「すっごくしあわせ!!」






 彼女から血が噴き出す。





 とても晴れやかな笑顔。





 その瞳には、少量の涙と希望が満ちていた。


 



 僕の持っていたナイフと、彼女の身体と血が。





 夢であったかのように薄れゆく。





 でもこれは夢なんかじゃない。





 僕の恋情と鼓動が、証明するように鳴り響いた。

お読みいただきありがとうございました。

よろしければ、評価、感想、誤字報告もよろしくお願いいたします。

またのお越しをお待ちしております。

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