淡いメリーさんと、鳴り響く僕。
お読みいただきありがとうございます。
お楽しみいただけたら幸いです。
「私、メリーさん……。」
突然の一本の電話。
気味の悪い雰囲気と、怪しげな女声。
その不気味な内容の電話は、都市伝説として誰もが耳にしたことのあるものだろう。
「いま……」
"いま……"
この後に来る言葉は、誰でも想像がつくものだ。
そう。
それは。
「あなたのとこに行きたいのだけれど、道に迷っちゃって……。」
だ。
うんうん。言いたいことは分かる。
「これっておかしいよね!?!?」
おかしい。おかしいぞ。
思ってたのと違う。
想像が一瞬にしてひっくり返ってしまった。
「何がおかしいの……?」
「普通はさ?今、あなたの後ろにいるの……。とかじゃないの!?」
「そんなこと言ったって、迷っちゃったんだもん……」
「なんでメリーさんが肝心な所で道に迷うんだよ……。」
道に迷うメリーさんなど、聞いたことがあるだろうか。
いやない。全くない。
驚かせる側がその様な失敗をしてしまうと、される側の恐怖は半減。
いや、ゼロに等しくなってしまう。
それくらいの失敗を、メリーさんはしてしまったのだ。
「ていうか、君はほんとにメリーさんなのか? 偽物にしか見えないんだけど……」
「わ、私はほんとにメリーさんだよ! ただ、その…道に迷っちゃっただけで……」
「そこが偽物感半端ないんだよな……」
「そ、そんなこと言ったって…仕方ないじゃんか!」
「仕方無くはないだろ…。」
肝心な驚かせる側がこうだと、ちょっぴり引き締まらないというかなんというか。
驚かされるこちら側としても、なんだか損した気分だ。
「そんなことばっかり言って! 君の家に着いたら絶対に襲っちゃうから!」
「は、はぁ…。」
「ふん! そのうち着くはずだから、待ってなよ!!」
「そ、そうか…まあ気長に待っておくよ……。」
「じゃあ切るからね!!」
「お、おう。」
「あ! そういや一つ言い忘れてたかも!」
「なんだよ。」
「ときどき、精神感応で話しかけちゃうから!」
「……は?」
「じゃーね!」
切られた。
言いたいことをすべて言い切った彼女は、僕の頭に浮かぶ疑問を何ら考慮せずに電話を切ってしまった。
「はぁ……」
一体、何だったんだろうか。
怪しさ最大の"自称"メリーさんからの電話。
そして唐突な襲撃の予告。
「僕は、疲れているのか…。」
寝よう。今日は寝よう。
疲労が溜まっている故に、このような現象が起こってしまっているのだろう。
体調のせいだと早々に結論づけた僕は、そのまま布団に直行し、眠りに落ちた。
――――――――
――気持ちの良い朝。
鳥は囀り、風はそよぎ、太陽は大地を照りつける。
いつもより一層、気分が晴れているように感じる"最高の朝"だ。
……"最高の朝"だ。
そんな"最高の朝"を過ごしている僕に、突然語り掛ける何者かの声があった。
それは一体――。
「おっはよー! 朝だよー!!」
そう。
昨日、突然として現れた彼女。
その名も…
「メリーさんだよー!!」
「当たり前のように変なことしないで!?!?」
僕の頭に直接語りかける声。
あれ……、なんだっけ、精神感応だっけ?
その原理は、僕にも誰にも分からない。
「ていうか、どうやって人の頭に直接語りかけるんだよ……」
「うーん…私にもわかんないなぁ……?」
「分からないのに使ってるの!?!?」
「そうだよ!」
と、自信満々な返答。
いや、もはや返答にすらなっていないのだが。
「それで、朝からなんの用だよ?」
「なんの用って、暇だったから話しかけただけだしー?」
「変なちょっかいをかけないで!?!?」
「ちぇ〜 つれないやつ〜」
「つれなくていいわ!!」
「そんなこと言ったって、快翔も暇なくせに〜」
「僕は暇を楽しんでるんだよ!」
「そんな分かりやすい嘘、私は騙されないよ〜?」
「うっさいわ!!」
なんかツッコミ役の仕事が多くないか…?
あと十人はツッコミが欲しいわ。
このままじゃ、過労で死にそうになるわ。
「そういや、ちょっとは僕の家に近づいたのか?」
「ん〜? ま、近づいてなくも無い…かな?」
「それ、ほとんど進んでないってことじゃないか…?」
「仕方ないでしょ!?!? ずっと迷ってたんだから!!」
これは、着くかどうかも怪しいぐらいだな…。
流石に、僕が死ぬまでには来て欲しいものだ。
「とりあえず、あとどれくらいかかりそうなんだ?」
「えっとね〜 今日いっぱい歩けば、夜には着くかも…?」
「ん?案外近いんだな?」
「えっへん! 私、けっこう頑張ってるからね〜」
「自分でそれ言ってるのはちょっとな……」
「ん〜〜!!もう!!! さっきから酷いことばっかり言って!! もう話しかけてこないで!!」
「そ、そんなに怒らなくても……」
応答が無くなった。
この様子だと、相当怒らせただろうな。
次話した時には、しっかり謝っておかなければ…。
「…………にしても暇だなぁ…。」
休日の過ごし方が下手なのだろう。
時間を持て余している。
(……たまには外に出てみるか。)
暇な時は外出だ。
街の喧騒の中に混じれば、何か起きるかもしれない。
そうと決まれば、出かける準備をせねば。
顔を洗って、歯を磨き、服を着替え、靴を履く。
普段外出をしない僕にとっては、最後の二つ辺りは馴染みが薄い。
――そして準備を始めること二十分ほど。
(よし。)
外出の準備を済ませた僕は、ほんの少しの期待感と倦怠感を纏って、家を後にしたのだった。
――――――――
――公園の芝生広場。
さんさんと照りつける太陽。
さやさやと流れる風。
人間が過ごすのに最適で、最高の自然を、僕は思い切り頬張っていた。
「たまには外も、気持ちいいな……」
普段浴びることの無い日光、涼風、そして賑やかな人々の声。
そんな、僕にとっての"異質"を盛大に堪能していたその時。
「やっほー!何してるのー?快翔?」
「うわあ!!!」
どこからともなく来る謎の声。
自称メリーさんの声だ。
「そんなにびっくりしなくてもいいじゃん!」
「急に話しかけられたらびっくりするでしょうが!!」
精神感応なんて能力、使われる側からするととても信じ難いものなのだ。
超能力を信じろ、と言われているようなものだ。
非科学的にも程がある。
「んで、今度はなんの用だよ?」
「えっとね…もうちょっとのとこまで来たよ!って言いたかったの!」
「そんなに進んだのか?」
「うんっ! おかげですごくへとへとだよ〜……」
「別に急がなくてもいいんだけどな?」
「…………なんかいじわる。」
少し斜に構えた口調で応える彼女。
「冗談だって!冗談!」
彼女にはやたらとちょっかいを掛けたくなる。
人と話している時に起きる、よくある現象のひとつだ。
ん?また返答がない。
「……メリーさん?おーい、冗談だって…」
「……ぷぷっ! 引っかかっちゃった~?私だって冗談ですぅ〜」
「……は?」
「快翔はだまされやすいでちゅね~?ぷぷぷっ!」
イラっと来た。
こうなったら俺もいじるほかない。
いじられたらいじりかえす。いじり返しだ!(?)
「メリーさんの方こそ、ついさっきはへこんで精神感応切ってたくせに~?」
「あ、あれはその……本気で傷つくようなこと言った、か、快翔が悪いじゃんか!!」
「えやっぱり本気で傷ついてたの?」
「……ちょっとね」
「……すみませんでした。」
「ま、気にしない気にしない! 夜には着くと思うから、ちゃんと準備してなよ!」
「準備?まあ特にはないけど、分かったよ。」
そして応答なし、と。
準備?といっても、特に準備することはないのだが。
(なんか襲うとかなんとか言ってたっけ?)
襲う……?襲うってなんだ?
刃物で一刺し?いや怖すぎるだろ。
まあ、そんなに深く考えなくてもいいか。
どうせ冗談だろうし。
「ふぁ~ぁ……。」
段々と眠たくなってきたので、仮眠を取ることにする。
(少しだけ寝たら、家に帰ろう……)
心地いい自然の中で、僕は瞼を閉じる。
おやすみ。メリーさん。と、
心の中でそう囁きながら。
――――――――
ただ今の時刻は、二十三時ちょうど。
あれから公園を後にした僕は、またしても暇を持て余していた。
(うーん……。時間も時間だし、本当にやることがない。)
メリーさんからの連絡も無し。
事あるごとに精神感応を使って脳内に直接語り掛けてきていた彼女が、ぴたっと語り掛けてこなくなった。
何かあったのだろうか。
事故とか?事件とか?
いやしかし……精神感応などという超能力めいた物を使うあのメリーさんが、事故や事件に巻き込まれるとは、とても考えにくい。
一体どうしたものか。
そう深く考え込んでいると、突然家のインターホンが鳴った。
「まさか……。メリーさん?」
やっとメリーさんと会える期待半分、あまりにも遅い時間なので、まさか不審者なのではないかという恐怖半分。
恐る恐る、玄関の扉のドアスコープを覗く。
ん?
そこにいたのは、メリーさんではなかった。
「宅配便ですー。紫宮様いらっしゃいますかー?」
「は、はい……?」
二十代らしき若い女性が、肩幅ほどの段ボールを抱えている。
(こんな遅い時間に宅配便?ありえない… いやなくはないのか? ……いやないだろ!!)
「えーと。紫宮快翔様ですね。お荷物のお届けですー。」
「あの、誰からですか?身に覚えがなくて」
「……。」
怪しい。送り主も答えられないのか。
「時間も時間ですし、あなた本当に宅配便の方ですか?」
「メ――さ――よ――。」
「え?」
「……メリーさんだよ!!」
(!?)
目の前の若い女性が、突如として背丈の低い少女に変化した。
不気味なその変化に思わず足がすくみ、後方に倒れてしまった。
「……どう?驚いたでしょ?」
「驚くとか言うレベルじゃないんだけど!?!?」
「……ぷぷっ!快翔もかわいいところあるじゃ~ん?」
にやにやと笑いながらそう話す彼女。
心の底から嘲笑うかのような視線に少し頭にきたが、今は置いておく。
「と、とりあえず部屋入る?ここだと話もできないだろうし……」
「いいの!?」
「別にいいよ、それくらい。僕もちょうど、暇してたところだったしさ」
「やったぁ!」
「うわー単純」
「なんか言ったー?ねーねー?」
「なんも?言ってないけどなー。」
ついつい、本音が出てしまった。
さっきの嘲笑のお返しだ。
「それじゃ、お邪魔しまーす!」
(いちいち声がでかいな……)
そして彼女は、足早に僕の部屋へと駆け込んでいった。
――――――――
(部屋に入っていいとは言ったけど、くつろいでいいとまでは言ってないんだけどな……)
目の前には、二人用のソファで寝転ぶメリーさんの姿が。
(まあいいか。)
きっと疲れてるだろうし、今は触れないでおくか。
それはそうとして。
「ていうか、随分と遅かったな?もう少し早いと思ってたんだけど……」
「これでも結構急いできたんだよ~? 早く会いたかったし!」
「直球過ぎない…?そんなに僕を始末したかったのか……」
「……うーん」
いや否定はしろよ!?してくれよ!?
「んで、始末ってどういう事なんだ? 本当に殺されちゃう感じ?」
「……ネタだと思ってる?」
彼女の声が冷たくなる。
明るく元気な印象の彼女故に、声の質で雰囲気が大きく変化する。
「ね、ネタじゃないの……?」
「違うよ!!私は本当に、君を殺さなくちゃいけないの!」
え?
本当に殺されるのは怖い。
急激に僕の顔から笑顔が消える。
「でもね」
「え?」
「私はあなたが好き。大好き。だから殺したくないの。」
「……。」
「私は人を殺すなんて、本当は大嫌い。でも、今までたくさんの人を殺しちゃった。」
「……。」
「好きな人を殺すなんて、もっと大嫌い。大、大、大、大嫌い!!!!」
彼女の悲痛な叫びに、僕はどう答えたらいいのか分からない。
「だから一つだけお願いがあるの。」
「……。」
「"私を殺して"」
「な、なんで……?」
「もう苦しみたくない!!」
彼女の瞳に涙が光る。
それは鮮やかで、流れる血のように。
彼女に殺された人々も、こんな涙を流したんだろうな。
「もう殺したくないよ……かいと……」
「でも僕に、君を殺すなんて……」
「無理なお願いなのは分かってる。でもお願い……。」
「そ、そんな……。」
「……お願い。」
「で、でもさ、君が僕を殺さなかったら、ずっとこのまま……」
「そんなことできたら、とっくにしてる!!」
声を荒げる彼女。
僕の耳を、精神を、彼女の声が貫く。
「もう時間も無くなってきてる……。だからお願い。殺して。
快翔は何も感じなくていいよ。罪悪感も、何も。」
決断を迫られる。
僕は彼女を殺したくない。
伸びる髪は艶やかで、顔立ちは凛々しく、透き通る肌の白さ。
とても人殺しとは思えない容姿。
「そもそも私は人間じゃないしさ……。化け物みたいなもの。」
「でも、そんな風には……」
「見えないでしょ?生きてる間には結構見た目には気を付けてたから……。」
「うん……」
「ほんと快翔は優しいね。でも、その優しさは、私を殺すのには必要ないよ。」
彼女が地面に仰向けに寝る。
「ほら、これで刺して。」
彼女からナイフが手渡される。
彼女を貫通するのに十分なほどのナイフが。
「ご、ごめん……」
「謝らなくてもいいよ!むしろこっちがありがと!」
決意が固まった。
彼女の胸にナイフを向ける。
ぞくぞくする。背筋が凍る。身の毛がよだつ。
この感覚は、最初で最後だろう。
「……覚悟は決まった?快翔?」
「……うん。」
「……ありがと。」
「……。」
「私、今ね」
「……。」
「すっごくしあわせ!!」
彼女から血が噴き出す。
とても晴れやかな笑顔。
その瞳には、少量の涙と希望が満ちていた。
僕の持っていたナイフと、彼女の身体と血が。
夢であったかのように薄れゆく。
でもこれは夢なんかじゃない。
僕の恋情と鼓動が、証明するように鳴り響いた。
お読みいただきありがとうございました。
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