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第2話「奇跡を起こすのが魔法」

「魔法の力、すっげー」

「きっとカイルも、やろうと思えばできますよ」


 ここ最近は快晴の天気が続いていて、空には深い青色が広がっていた。

 空の青に私たちの影を残すことはできないけれど、一本の箒にまたがった一人と一匹は箒での空中散歩を満喫していた。


「昔は、別の人間に化けることもできたみたいですけどね」

「物語の世界みたいだな」


 変身魔法と呼ばれる魔法を使って、勇者カイルは小さな黒猫へと変身。

 彼の髪色が黒だったせいなのか、黒猫に変身した彼の毛並みは艶やかな黒を放っている。


「現代の変身魔法は、動物に化かすことで精いっぱいです」

「十分」


 黒猫カイルは器用にバランスを取りながら、私の肩へと座り込んだ。

 光を吸収してしまうはずの黒を纏っているはずなのに、彼の漆黒の毛は太陽の光を反射しているかのような鮮やかな黒を魅せてくる。

 琥珀色の瞳は、いかにも猫らしいと自画自賛してしまう。


「変身魔法があれば、カイルはどこへでも行けるんですよ」

「ありがとな、アトリ」


 風が顔を撫でた瞬間、思わず目を閉じそうになった。


「アトリ、前! 前っ!」

「すみませんっ」


 しっかりと開いた瞳で下の世界を見つめると、煙突からたなびいていることに気づく。


「戦争で起きた火災じゃないからな」

「……はい」


 肩に乗る黒猫カイルは、私の肩にしっかりとしがみついている。

 でも、そのしがみつくという動作の中に、私への励ましも含まれているのではないかと夢を見る。


「アトリ、この都市がいい」

「承知いたしました」


 私一人だったら、いつまでも空をさ迷ってしまった。

 でも、カイルの一声が私を平和な都市へと誘ってくれた。


(世界を知るのが、ほんの少し怖かった)


 平和になった世界を信じられないわけではない。

 でも、平和になった世界を覗くのが、ほんの少しだけ怖かった。

 偽りの平和が広がっていたらと思うだけで、箒を持つ手が震えていたと思う。

 だから、隣に相棒がいてくれたことが、何よりも私の力になった。


「行きますよ」

「ああ」


 箒を少し傾けて、高い空から地上へと向かう。

 太陽の光を受けて輝く時間が終わりを告げるはずなのに、黒猫カイルの瞳のきらきらは失われていない。


(やっぱりカイルは、平和な世界が好きなんだ)


 カイルを戦闘狂と思っていたわけではないけれど、カイルの力を発揮するなら殺伐とした世界の方がいいのかもしれない。

 そんなことを考えることもあったけれど、カイルの瞳に好奇心が失われていないことに酷く安堵した。


「さて、買い物しまくりますよっ」

「おうっ」


 魔王との戦いが終わったと言っても、魔法使いが滅んだわけではない。

 街の入り口にある魔法使い専用の箒を立てかけておく場所に箒を置き、初めて足を踏み入れる都市を前に意気込む。


「本当に……石畳が輝いて見えるとか、重症ですね」

「みんな、元気そうで何より」


 黒猫カイルを肩に乗せながら、太陽の光を跳ね返しているかのような美しさを誇る石畳の道を行く。


「カイルも、自分の足で歩いてみませんか」

「っ」


 自分の足で歩くというのは、カイルにとって甘美なる誘惑だったらしい。


「変身魔法が解けて、大騒ぎになるのもなー」

「私の魔法が信用できないとでも?」


 声は前を向いているような明るさを含んでいるのに、カイルが迷っているのは一目瞭然。

 一歩を踏み出そうとしては、一歩引き下がるように動く。


「ちょっとだけ、怖いな」

「追手には気づかれないと思いますよ」

「いや、自分の目で、自分の足で確認するってことが」


 世界が、本当に平和なのか。

 瞳に映る世界が本物なのかどうか、不安に思っているのは私だけではないと気づく。


「大丈夫です」


 黒猫カイルを、自身の肩からゆっくりと降ろす。

 すると小さな黒猫は振り返って、輝く琥珀色の瞳で私を見つめてくる。

 物語に出てくるような魔女と黒猫の絆は私たちにはまだないかもしれないけれど、言葉を超えた何かが私たちの間に広がっているように感じる。


「世界は勇者カイルのおかげで、こんなにも平和なんですから」


 カイルは、空から地上へ私を誘ってくれた。

 私は、未来へ向かうカイロの案内役を務めたい。

 両手を広げて、街並みに平和が広がっていることを主張する。


「二人って、いいな」


 黒猫カイルは躊躇いながらも、小さな肉球で石畳の一部を踏みしめながら先へ先へと進んでいく。


「奇遇ですね」


 私は、その後ろ姿を追うように歩く。


「私も、二人がいいなって思っていたところです」


 私の表情には自然と笑みが浮かぶようになり、黒猫カイルは自信に満ちた歩調を取り戻し始める。

 ただ息抜きのためだけに訪れた都市で、私たちは平和という言葉の意味を噛み締めていく。


「都市でしか買えない物と言ったら、寝具ですよね」

「早く、まともなベッドで休みたい」

「同意です」


 噴水の水が太陽の光を受けて煌く様子に惹かれた子どもたちは、噴水の傍で水遊びを楽しんでいた。

 人口が多そうな都市ということもあって、お洒落なカフェのテラス席では人々が楽しそうに食事をしている。

 自然豊かな村スードとは似ても似つかぬ世界が広がっていて、真っ先に魔王との戦争後の復興が早かった都市だと気づく。

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