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【純文学】

確かに幸せだった

作者: 小雨川蛙

 

 同級生だったAくんが死んだ。


 死因はバイク事故だった。

 夜の山道をスピードを出し過ぎてガードレールに激突したらしい。


 私とAくんは恋人だった。

 少なくとも私はそう思っていた。


 だから私は葬式に行っても堂々としていた。

 周りのひそひそ声にも毅然とした態度を崩さなかった。


 棺桶の中で眠るAくんの顔は綺麗だった。

 大怪我をして見るに堪えない姿形になっていたと他の人の会話が聞こえていたけれど、少なくとも私には生前とそう変わらないように見えた。


 最期の別れに何を言おうかは決めていた。

 だから、私は彼に短く告げる。


「幸せにしてくれてありがとう」


 近くに居た同級生たちの顔色が変わる。

 それが何色に染まっているかなんて私にはどうでも良かった。


 そのまま踵を返して立ち去る。

 私以外の人にとって葬式はまだ終わっていなかったけれど。



 灰色の空が立ち止まった時間だけ深く見えた。

 見つめた分だけ記憶が蘇った。


 四年前。

 まだ高校生だった私はAくんに告白された。


 私は器量が悪く性格も陰気だったためにクラスメイトから虐められていた。

 サッカーをしていて陽気だった人気者のAくんとは何もかも違った。


 そんな彼が私に告白をしてきた。


『前から好きでした』


 舞い上がったものだ。

 幸せを感じたものだ。


 写真を送ってほしいと言われたら送ったし、お弁当を作ってほしいと言われたら作った。

 それら全てが仲間内で共有され馬鹿にされていたことを後から知った。


 全員に馬鹿にされた。

 舞い上がっていた姿を。

 幸せに浸っていた姿を。


 惨めだと思った。

 死にたいと思った。

 実際に自殺を試みたりして、失敗をした。


 生き残ったことさえも笑われた。

 家族が怒り、泣き、喜んだことさえも馬鹿にされていた。


 それなのに。

 過去を振り返れば私は確かに『幸せ』だったのだ。


 歩き出した分だけ曇り空は遠のいた。

 曇りの後晴れと聞いた天気予報の通り、私は折りたたみ傘さえも持っていない。

 家を出る時には雨に濡れても構わないと思っていたけれど、どうやら私は正しかったらしい。



 足は一度も止まりはしなかった。

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