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佐賀県庁観光課!

作者: たまきち

 「学歴というのは、君たちを乗せて羽ばたく翼だ。翼を育てて大きくすること、手入れを怠らないこと。今の時期にはそれが一番必要なことなんだからね」

 高校生の時、学年主任の先生が言っていた。その先生は、国語の先生だったから、表現力が豊かだった。よく名言を口にしていた。大人になってからも、繰り返し思い出すくらいの。その先生は変わってるって、有名だったけど。

「君たちというのは、早稲田佐賀に入学した時点で、比較的大きい翼に乗っている。それは、恵まれたことだ。君たちは、選ばれた生徒だ。だからしっかりと翼をはためかせて、どこへでも行ったらいい。君たちはどこへでも行ける」

 その先生も、自分と同じ、早稲田大学を出ていた。就職で佐賀県に戻ってきており、ずっと教員をしているらしい。日に焼けた肌に白い歯が特徴的だった。なぜ早稲田まで出て佐賀県に戻ってきたのか。それは誰も知らなかった。

「若い時に勉強していた経験は、君たちを自由にしてくれる。どこにでも行ける翼を持てる。何でも勉強することだね」

 デスクの上にうずたかく積まれた書類を捌きながら、綺世は高校の先生の言葉を思い出していた。努力が自分の身を救ってくれるという名言。先生の名演説。つまづくたびに、何度でも背中を押してくれている。先生がまだあの学校にいるかは分からないけれど、その言葉は深く胸に刻まれている。言霊というのは、あるものだ。綺世は早稲田佐賀高校という早稲田大学の系列校出身者で、新卒で佐賀県庁に入庁した。観光課の配属だ。いわゆるUターン就職、というやつだ。帰ってきた理由は、病気の祖母が心配だったのと、故郷である佐賀県に貢献したかったから。大志を抱いて故郷に戻った。今は、佐賀市の実家から通勤している。

(……本当に、学歴があれば自由になれるんだろうか。学歴っていうのは、本当に翼なんやろうか)

 この頃疑い始めている。職場では、早稲田という学歴が悪目立ちすることが多かった。田舎では、東京の私立大学卒業の者は珍しかった。なぜ九大にしなかったのか、と、面と向かって言われることもあった。こちらの人は国公立大学志向で、早稲田よりも九州大学、なのだ。大学を卒業するまでは、そんなこと、少しも思わなかったのに。東京というのは、地方出身者がいても、変な目では見られない。他者に対して、受け入れる余地が広いのだ。

 先輩たちから押し付けられた仕事をハイスピードで片付けた。業務としては雑用だが、とにかく量が多い。手際の良さが求められる。嫌がらせのようだ。新卒だが、定時で上がれることは滅多にない。入庁してからタイピングばかりしている。いつも帰りが遅いが、今日はそこまで残業しなくて済みそうだ。珍しい。明日は雨だ。

 綺世が大学在学中に受けた県庁面接は、地方創生へのやる気が評価され、内定が出た。「佐賀県に大河ドラマを誘致する」という発想が、面接官の目を惹いたのかもしれない。地元愛が評価されたのかもしれない。内定が出たのが六月だったので、そこで入庁を決めた。特に迷わなかったし、両親も祖母も、そして恋人のゆかりも喜んだ。ゆかりも、同じ頃佐賀県庁の総務部に内定が出ていたのだ。佐賀県の観光を活性化しようと意気込んで入庁したものの、やる仕事は定型の事務作業が多い。一日中パソコンとにらめっこしている。この若さで腰が痛い。目が疲れる。面接のときに掲げた、「佐賀県に大河ドラマを誘致する」という計画は、今後数年は実現できそうにない。新卒一年目だから仕方がないとはいえ、さすがに嫌気がさしてきた。機械でも出来そうな仕事ばかりだ。

 おまけに、

「あ、この仕事もお願いね、早稲田くん」

 と、上司からは嫌味ったらしく「早稲田くん」というあだ名で呼ばれるようになった。佐賀県庁は土地柄佐賀大学出身者が多く、東京の大学、しかも名門を出て佐賀県庁に就職したのは課では自分一人だ。一度も自分から「僕は早稲田出身だ」と名乗ったことはないのに、なぜかみんな知っている。まるで悪行のように広まっている。田舎というのは、人の噂しか話題がない。何かすると、光の速さで広まってしまう。現役時に九大落ち佐大だった上司は、学歴コンプレックスがあるのか、明らかに褒め言葉ではない口調で早稲田を話のネタにしてくる。非常にしつこい。

「そがんこつまで知ってるんだねぇ、さすが早稲田ばい。おいは知らんかった」

「……鍋島直正は日本史に出てきたと思いますが」

「もう覚えとらんばい、とさか頭なもんで」

 これでは鍋島直正主役の大河ドラマなど、夢のまた夢だ。

 綺世が書類でちょっとしたタイプミスをした際には、

「早稲田のくせにこがん仕事も出んとねぇ、ま、勉強しかしてこんかったからだろうね」

 とかなんとか。タイプミスは本当に大学なんて関係ないと思う。

 自分の名前は早稲田じゃない、渡邉綺世だ! と言いたいのを毎回ぐっとこらえている。理不尽な残業にも毎日耐えている。一番新入りだから仕方がない、と自分に言い聞かせながら。みんなの尻拭いのような雑務が回ってくるのは仕方がないと思う。聞けば、佐賀県庁では、新入りはいびられるのが慣習らしい。なんという田舎の悪習だ。誰が幸せになっているというのだろう。

 そんな綺世は、たまには言いたいことがあったら上司相手にも堂々と物申すタイプだ。

「あのさぁ! この仕事、機械化しませんか! そっちの方が早かでしょう? 人件費もかかるし。新宿区役所では、秒で住民票が発行できましたよ。待ち時間は一分とかかりませんでした。東京は、IT化がどんどん進んどるとです! 他にも色々効率悪いし、このIT化の時代に、いつまで古かやり方にしがみついとるとですか!」

 無限につづく事務作業に、堪忍袋の緒が切れた。機械がやった方が速いだろう。自分はこんな仕事をするために入庁したんじゃない。時間を無駄にしているような気がする。そんな綺世に、上司は小馬鹿にしたように言葉を返す。

「都会の話ば持ち出されても困るばい、ここは佐賀県よ。金もなか、機械もなか、人の頭も足りんけんねぇ」

 にやにやと、佐賀大学出身の先輩たちはつるんで嫌味を言ってくる。何かと理由をつけては前進しようとしない。仕事のやり方を変えようとしない。そして、つるむことに関しては余念がない。佐賀大学の人たちは予め知り合いなのか、結束力が高い。県庁内で一大学閥を築いている。九大閥もあるが、勢力は弱い。ちなみに早稲田閥はない。ことあるごとに早稲田は佐賀大学をバカにしている、というが、バカにしているのはそちらではないか、と思う。多数派がまるで正義のようだった。

「ないないって言っても仕方なかですよ! 金は現れません! 金がないなら、知恵を絞りましょう!」

「我々のような底辺国立大学出身者には、知恵もなかけんねぇ」

 全くもう、である。底辺なんて、わざわざ自分で言うことでもないだろう。大学なんてどこを出ているかは仕事では関係ないと思うのに。自分は一度も佐賀大学を馬鹿にした記憶は無い。いくら言ってもその調子なので、綺世は少し諦めかけてきた。この田舎では、何を言っても暖簾に袖だ。ああ言えばこう言う。何十年も前から、変わろうとしない。変わる努力をしない。もし学歴というのが翼であるんなら、自分をもっと自由に飛ばして欲しかった。自分はせっかく勉強して、それなりに大きい翼を持っていると言うのに。ここでは僻まれる要素でしかない。

 飲みの席でも、上司はアルハラに、昔の仕事の自慢ばかり。うんざりだ。

「俺ァ昔な、九大卒のやからに仕事でビシッと言ってやったことがあるたい! 九大やからて、仕事では大したことなかですね! 佐賀県庁では、いかに上司に取り入るかが大事かとですたい!ってね」

「はいはい、すごかですね……。おっと」

「渡邉くん、君はもっと飲まないとダメだよ。君もね、早稲田卒という肩書きに胡座をかいていると、すぐ寝首をかかれるぞ」

「……ご忠告ありがとうございます」

 誰がいつ早稲田という肩書きに胡座をかいたというのだろう。記憶の限りではない。自分は自分なりに誠実に仕事と向き合っている。毎日大量の事務作業に取り組んでいる。上司が注いだグラスを空にしていると、すぐにビールを注がれた。大学時代の飲み会のおかげで肝臓は鍛えられたとはいえ、上司と飲む酒はまずい。しぶしぶ喉に流し入れる。気安く酔えたもんじゃない。まったく、今どきアルハラなんて時代遅れだ。

「俺が出世できたんは、上司と飲んで仲良くなって、懐に入ったおかげやけんね! それで重要な仕事ば回してもらったんや! 嫌な思いばしたこともあるばってん、出世には変えられん!」

「それはすごかですね、出世したのは尊敬します」

 相槌もワンパターン化してきた。田舎の公務員が出世するには、上司に取り入るしか方法はないのだろうか。行きたくもない飲み会に行って、ゴマをするしかない。なんて息苦しい世界なのだろう。

 チェーン店のまずいお好み焼きをつつきながら、こんな時間に一体何の意味があるのか、と思う。我々新卒は気を使っておべんちゃらを使い、上司が気分よくたくさん飲んで終わりだろう。昔の武勇伝はもう何百回と聞いた。家で映画でも見ていた方が何万倍もマシだ。断ろうとすると、また嫌味を言われる。飲みニケーションも大事だという上司の言い分である。

「早稲田くーん! もう家に帰って勉強かー? さすが早稲田、意識が違うねえ」

「……んなわけないでしょう、帰りたいだけです」

 上司は酒癖が悪く、酔うと早稲田いじりが加速する。非常に面倒くさく、辟易する。ただでさえ上司のそういうところは苦手だというのに。本当は、参加自体したくなかった。断るとそれもそれでめんどくさい。翌朝の職場で

「昨日は付き合いの悪かったのう どがんしたとや?」

とかなんとか言われる。それも嫌だから、飲み会は程々のところで切り上げて、いつもため息を着きながら帰路に着く。新卒なのでさすがに奢りだが、時給が発生して欲しいくらいだ。

「……上司が嫌味ったらしくてさ。いつも仕事ば押し付けられる。飲み会での絡みもうざか。要するに、佐大卒やけぇ、早稲田卒業のおいば僻んどるとさ。五教科七科目やったのはすごかと思うけど。社会に出たら大学なんて関係ないって思うのに。ゆかりは、そんなことないやろう? 九大やし」

「そうねぇ、総務部は、九大卒の人が多いけぇ。みんな無用な攻撃はせん。私はそんなに過ごしづらいことは、なかとよ」

 そう言って、隣を歩く女性が、大きな瞳を伏せた。同じ佐賀県庁とはいえ、課によっては、九大卒の人が多い。綺世のガールフレンドである片岡ゆかりは、佐賀西高校卒業の九大出身だ。目が大きくて、小柄なバンビのような女性である。才色兼備だと、昔からちやほやされていた。いわゆる佐賀のエリートコースであり、高学歴とはいえ、自分のように浮くこともない。

「早稲田佐賀の人ってぇ、ちょっと変わっとるとよね。近くに西高があるってぇのに、なしぃ、早稲田? って、みんな思うとよ」

「それはもう、耳タコ。こちらの人は、二言目には九大、九大って……。九大がそんな偉かとやろうか」

 ゆかりとは同じ佐大付属中学だった。佐賀県のエリート中学校だ。育ちのいい家庭の子供が多かった。自分やゆかりのように、佐賀市の勉強ができる生徒というのは、大体が佐賀西高校に進学する。土地柄、早稲田佐賀は、ほとんどが福岡の生徒だった。国公立志向が強い佐賀県の高校生は、早稲田と九大であれば後者をえらぶ。ゆかりとは、もう十年近い付き合いになる。長すぎた春、というやつか。今まで付き合ってきたのは惰性も大きい。節目節目で何度も別れようと思ったが、結局言い出せずに今日まで続いている。

「大体、九大にしとけば良かったのよ。あーくんと同じ高校行きたいって私、言ったのに。早稲田行きたいからって、あーくん早稲田佐賀行っちゃって……。挙句、大学では早稲田で遠距離になっちゃって……。あーくん頭いいんだから、九大一緒に行こうよって私、言ったのに……」

「ああもう、分かった、分かったよ。何度も聞いたって」

 綺世はまた始まったよ……と思った。ぶつぶつといつまでも続くゆかりのぼやき。実家の祖母と、なんら思考が変わらない。なぜ九大じゃなくて早稲田なのかって。田舎から出たことがない人の発想だ。東京に出ようとかは考えられないのだろう。佐賀以外で生きることを考えられない人。佐賀を守り、そこで命を繋いで一生を生きていく人。ゆかりは可愛らしいし、賢くて優しい。しかし、最近は言葉の端々に重くるしさをのせるようになり、それが少しめんどくさかった。東京と福岡で離れてからは、物理的な距離がとりやすかったが、同じ職場になればそうもいかない。一緒に帰らない理由が特に思いつかないのだ。彼女と一緒に帰らない言い訳を探すなんて、よく分からない行動だ。また、逆戻りか、と思った。毎日毎日、この重苦しい話を聞かされなければならないのだ。正直、うんざりだ。愚痴を聞いて欲しかったのだが、逆に聞かされる羽目になってしまった。ゆかりにはネチネチとしたオーラがある。綺世はやれやれ、と辟易しながら帰路についた。いつになったら、自分はゆかりから解放されるのだろうか。

 翌日、仕事で、外部の会社のコピーライターだという女性と出会った。ショートカットと濃いメイクが似合う、かっこいい女性だった。宝塚にいてもおかしくないくらいの。彼女は落合美咲という。綺世と同じ、早稲田佐賀から早稲田大学出身。学生時代の専攻は文学。Uターン就職組だ。

「県庁で唯一自由にできるんは、キャッチコピーくらいやからね。あとは全部不自由。時間も、人間関係も。何も好きなようにはできん。大人の世界は、何でも縛られている」

 そう言って、困ったように笑った。彼女もそれなりに、県庁の上意下達な組織に苦しんでいるようだった。早稲田ということで、彼女も嫌味を言われるらしい。自由奔放な性格も県庁には合わないのだろう。我々のような人間は、佐賀県庁には合わない。

「言葉の世界は自由よ。翼をはためかせて、何処へだっていける。予算も、人間関係も、関係ない」

「……高校のとき、横関の名言でしたね。だから君たちは、しっかり勉強するように、って」

「先生が言ってたのは学歴じゃなかったっけか。私も授業受けたよ。先生のおかげで、現代文の成績、上がったもん。いい先生だった。夏目漱石の『こころ』が面白かった」

 美咲はふふふ、と笑う。美人が際立つ。思い出を懐かしんでいるようだった。高校時代の彼女の表情が垣間見えたような気がした。彼女はなんで、佐賀に戻ってきたのだろうか。そして、何か思いだしたような表情になる。

「最近あの人、SNS始めたの知ってる? 旅行先の写真に名言そえて。結構人気あるらしいよ」

「知ってます。フォローしてるんで」

 横関先生はSNSで旅先ごとに名言を残している。印象的だと、ファンも多かった。何回かバズっていた。先生の名言に魅了されるのは、自分だけではないんだと思った。SNSを通して全国に先生のファンがいるのは、喜ばしかった。

 佐賀県に大河ドラマを、という綺世の野望を、彼女だけが本気で受け取ってくれた。面白いと言ってくれた。やってみようとも。長年の付き合いである恋人からですら現実的でないと言われたアイデアを、彼女だけが受け入れてくれた。柔軟な人だと思った。綺世が観光課全体からよく思われていないことも、なんとなく分かるようだった。

「数で不利なら、数で有利に立つしかないよ。総務部に話つけてみる。あそこは結構、県庁の中でも先鋭的な方だから。観光課とは随分雰囲気が違うよ」

「そんな発想、自分にはありませんでした……」

 コピーライターだけあって、美咲の発言はするどく、簡潔である。また、いつも結論ファーストである。頭がいい人の話し方だと思った。外部の会社から出向してきた彼女は、色々な部署と関わりがあるらしい。行動的で、コミュニケーション能力に長けている。早稲田を出た女性らしく、決断力があり、竹を割ったような性格をしている。同じ聡明な女性だが、ゆかりとは随分対照的だ、と思った。自分も負けていられない、とも。ゆかりに対しては、こんな感情を抱いたことは無かった。

「落合さんは、なして佐賀県に戻ってきたんですか? 早稲田なら、そのまま東京にいる道もあったとやなかとですか?」

 一度聞いてみたことがある。

「実家のおじいちゃんが心配でね……。もう、長くはなかとよ」

 自分と同じような理由だった。一度東京に出た人が、佐賀に帰る理由は、大体そんなところだろう。

 綺世が雑務の合間を縫ってしあげた企画書を、美咲が手早く添削した。矛盾点や実現不可能なことなどを教えてくれた。業務外の仕事だというのに、えらく殊勝なことだ。きっと、こういう人がチャンスを掴むのだろう。仕事のスピードが速い人だと思った。

「主役は鍋島直正ね……。日本初の大砲を導入した人だし、薩長土肥の立役者。大河ドラマの主役になってもおかしくなかった。けど、佐賀県のPRがいまいちだから、今まで日の目が当たらなかった」

「はい! 大河ドラマの主役を張ってもおかしくないと思います! 佐賀の七賢人の一人! ロケには、佐賀城本丸歴史館ば使えばよかとです! 実写イメージとしては、鈴木亮平です!!」

「鈴木亮平は、すでに西郷どんで出てるから厳しそう」

 綺世は思い描いたドラマのイメージを語る。すでに俳優まで思いつく。佐賀城本丸歴史館の中で繰り広げられる、壮大な歴史ドラマ。自分の中で、それくらい世界観が固まっている。佐賀を舞台にした大河ドラマは、いくらでも思いつく。鍋島直正じゃないなら、佐野常民は、大隈重信は。題材なら佐賀県内にたくさん眠っていると思った。佐賀の七賢人に、佐賀城本丸歴史館。佐賀県は何もないなんて、探していないだけだ。県の魅力をPRする観光課の人間がそんなことでいいのだろうか。

 ネットで調べたところ、大河ドラマを誘致しようという自治体は、チームで一丸となって署名を集めたり、様々な取り組みをしているようだ。佐賀県は、自分と美咲だけ。こんな球数でいいのだろうか、という一抹の不安が胸をよぎる。

 美咲が総務部に企画書を見せたところ、何人かが面白いと言ったらしい。みんな九大卒の人だったそうだ。九大の人は変なコンプレックスがないので、結構素直に綺世の意見を受け入れてくれる。やはり、言ってみるものだ。依然として観光課幹部の綺世を小馬鹿にしたような雰囲気はあるものの、一筋の曙光となった、と思う。爪痕が残せたような気分になった。綺世はうきうきしながら帰路に着いた。

「落合さんって、どがん人?」

 帰り道でゆかりから突然聞かれ、綺世はぎくりとした。浮かれた気持ちに水が差された。そろそろゆかりと一緒に帰るのも断ろうかと思っていた頃だった。美咲と綺世の関係について、誰かから何か聞いているのだろうか。

「まあ、頭よか人よ……。仕事ができる。最近仕事でお世話になってる、コピーライターの人」

「美人? 同じ高校だったんでしょ?」

「よう知っとるね。同じ高校やったんはそうやけど、何もなかて、別に……」

 ゆかりの前で言葉をにごすのは、もう何回目だろう。何を言っても否定されるので、ここ最近、きっぱりとした意見表明が出来ないでいた。誤魔化して付き合うような関係なんか、きっと長続きしないと思う。自分とゆかりは、とっくに終わっている。そして県庁内の噂が回る速さ、恐るべし。何でも伝わっている。地獄耳だ。他に話題はないのだろうか。そんな噂をしている暇があったら、佐賀県の魅力をもっと調べたらいいのに。しかし、ゆかりは早稲田佐賀高校を選んだときも、早稲田大学を選んだときも、嫌そうな顔をした。どうして自分と同じ進路じゃないんだ、と言った。自分の門出を、祝福してくれたことがない。

「あーくん、もう私を不安にさせるのはやめて。他の女の人の影を感じさせるのはやめて。せっかく、近くになれたのに」

「そんな、仕事で女性と付き合うのもいかんと? たまたま同じ職場なだけなのに?」

 俺はせっかく、つまらない職場で初めて面白い人と出会えたのに、という言葉は飲み込んだ。ゆかりがどんな気分になるか目に見えている。

「全部がいかんわけやない。ある程度の付き合いは必要やと思う。けどね、私、早稲田出身の人って、恐かとよ」

「恐い……? なんで?」

 どういう意味だろう。早稲田出身というのは、恐れるような要素だろうか。意味不明だ。

「早稲田の人って、頭よくて、九大にも行けたやろうに、なんで東京の、しかも私大にしたんだか分からん。都会に出たんだか分からん。佐賀の人やったら、きっとみんなそう思うと思う」

 ゆかりはきっぱりと言い切った。迷いがない口調だった。自分の意見が全て正しいとでも言いたげだった。

「そうなんか。お前はそう思うんか。佐賀しか知らんでええんか。保守的やのう」

 田舎の人は口を揃えてそう言う。ゆかりも、佐大卒の上司も、祖母も。早稲田じゃなくて、九大、だと。保守的で守り一点なのだ。何代も前から同じ思考なのだろう。もっと広い世界を見たいと思わないのか。

「俺が、早稲田を、選んだのは……」

 色々と思うところはあった。一番は、東京に出たかったからだった。東京で仕事を見つけて、ずっとそこにいる道もあった。実際大体の人がそうしていた。今は田舎に戻ってきたことを、少し後悔している。

「ゆかりみたいな人と、もう距離を置きたかったから……」

 どうしてこんな言葉が、口から出てきたのかは分からない。それが自分の本心なのかもわからなかった。ゆかりに何か言うにしても、もっとマイルドな表現をしようと思っていた。そんな言い方はないだろう。でも、これを言ってしまった以上、ゆかりとの関係はもう長続きしないと思った。

「私みたいな人って、どんな人? ……距離を置きたいって?」

 ゆかりは絶望的な顔をしていた。可愛らしい顔に影が差している。しまった、と思った。しかしもう遅い。

「ごめん、さっきのは忘れて。あんな言い方するつもりじゃなかった。俺はどうかしてる。言いすぎた」

 綺世は逃げるように家に帰った。走りながら、ゆかりの暗い顔が心に浮かび上がってきた。ずっと好きだったはずなのに、どうして自分が女性を傷つけてしまうのか、分からなかった。自分は別に馬鹿な人間じゃないはずなのに。ゆかりを前にすると、攻撃的な言葉が浮かんでしまう。長い付き合いなのに。後悔の念ばかりが頭に浮かんだ。

 翌朝、職場で美咲と顔を付き合わせると、彼女はすぐに何かに気づいたようだった。頭がいい女性なので、察しがつくのであろう。それとも、自分がよほど分かりやすい顔をしていたのかもしれない。

「……どうしたの? 何かあった??」

 すぐに聞いてきた。鋭い。女の勘ってやつだろうか。

「大したことじゃなかとです。……彼女と揉めたっていうか……」

 綺世は思わず頭をかいた。ため息も同時につく。世の中、思い通りにはならない。

「彼女、いたんだ。どんな子?」

「可愛らしいけど、田舎にしがみついている子です。最近、価値観が合わなくなっている。付き合ったときはそんなことなかったのに」

「生きてりゃそういう事もあるさね。歳を取ると、人は変わるからね」

「あなたとは、真逆の価値観の人で……」

 真逆の人。自分は今、ゆかりとは真逆の人を求めているのかも知れない。口に出してからそう思った。自分は美咲と付き合いたいのか? それなら、ますます彼女と付き合っている意味なんかない。

「田舎から離れられない人は、離れられる人とは相容れないよ。もう潮時なのかもしれない。他人の人間関係を、容易く言っちゃうのも申し訳ないけど……」

 美咲は考え込むような素振りを見せた。眉間に皺がよる。綺麗に描かれた眉毛が動く。

「君は田舎から離れられる人だろうね。お相手さんは離れられないんだろう、きっと。私もそうだった」

「落合さんも、何かご経験が……?」

「……昔の話しね。もう、相手の名前も思い出せんくらい昔」

 美咲は困ったように笑った。あまり触れてほしくなかったのだろうか、その後すぐに話題を変えられる。美咲も自分と大して年は変わらないのに、どんな経験があるというのだろう。自分と似たようなものだろうか。

 美咲はどんな人と付き合い、どんな人生を送ってきたのだろう。どんな人から影響を受けたら、こんな人になるのだろう。気になるから、今度聞いてみたいと思った。

 今日の仕事は、県内の高校の活動をPRする一貫で、母校である早稲田佐賀高校に行くらしい。観光課はけっこう県内を移動する。県内の活動を全国にアピールするのが仕事なのだ。たまに学校に取材に来ていた公的機関の人に、今は自分がなっている。五年ぶりの母校への訪問に、胸が熱くなる。

 校舎の風景は自分がいた時となんら変わっていなかった。生徒に知っている顔はいないのに、不思議な気分だ。お城の下の、比較的新しい建物だ。

「横関先生、お久しぶりです」

 久々に再開した横関先生は、なんら変わりなかった。相変わらず日に焼けて恰幅が良かった。強いて言うなら、白髪が少し増えたくらいだろうか。

「渡邉くんだね、元気してたか?」

 横関先生は、自分のことを覚えていてくれたようだった。素直に嬉しい。自分はSNSを見るまで忘れていたが。

「概ね元気です。先生こそ、お元気そうで安心しました」

 実はSNS上で先生が元気にしているかどうかは分かるのだが、直接会うと安心する。

「君が佐賀県庁に就職するとは意外だったよ。てっきり僕は、そのまま東京にいるんだと……」

 佐賀県出身とはいえ、早稲田佐賀から早稲田に行って地元に帰ってくるのは少数派なのだろう。綺世の周りにも、数える程しかいない。早稲田佐賀自体が、地元ではイレギュラーな存在なのだ。

「なりゆきです。合わなくて苦労してます」

 綺世は苦い笑いを浮かべた。先生が見ても、自分は佐賀県庁に合わない存在らしい。就職を間違えたかもしれない。

 早稲田佐賀の特色としては、海が近いため、ボート部があることだ。なかなか他の学校にはない。強化指定部にも指定されている。海に漕ぎいっての練習ができる環境は貴重らしい。今回の取材のメインは、ボート部である。ボート部がある高校は珍しく、報道のネタになる。

 ボート場に赴くと、えんじ色の体操着を着た生徒たちが出迎えてくれた。自分の代と変わらず、熱心に練習しているようだった。肉体が鍛えられていることが、体操服越しに分かる。九州の中でも強豪らしい。

「練習はきつかですけど、夕方の海に漕ぎ出すと夕陽がきれいに見えますけんね!」

「練習の後の飯はがばいうまかとです! 三合は食ってます!」

 運動部の高校生らしい、健康的な発言だった。寮ではたくさんの米の飯が出るらしい。ずっと一緒にいれば、生徒同士の絆も深まるであろう。

 そんな生徒に横関先生の印象を聞くと、

「練習中の名言が多かとです! 努力なくして漕力なし、とか! ためになります!」

 とのことだった。相変わらずの横関先生だ。

 少しヤンキー気質のある部員が元気よく話してくれた。よく日に焼けて声が大きかった。群れてうるさいのも自分の代と変わらない。不思議な迫力がある。それでも、根っから悪さをする奴はいない。入試偏差値が高いので、なんだかんだ真面目なのだ。最後は肩を組んで記念写真を撮った。日に焼けたガタイの良い生徒たちばかりで、線が細く、色白の綺世は浮いていた。

 ボート部への取材をした後、部の顧問でもある横関先生と腰を据えて話す時間があった。綺世は横関先生にちょうど相談があったので、ありがたいと思った。

「県庁ってのは、旧態依然としていて、なかなか新しいことばやろうと思っても、上手くいかんですね……」

「仕事が、あまり上手くいっとらんのか」

「そうですね。佐賀大学卒業の人たちが幅ば効かせとって、早稲田の俺は肩身の狭かとです。早稲田くん、って嫌味言われるし。最近味方になってくれる人の現れて、ちょっと上手くいきかけとるとですけど」

「はは、精神的に向上心のないものは、馬鹿だ、そいつらは、馬鹿だ」

「夏目漱石のこころ、ですか。懐かしいですね」

 綺世は苦笑した。佐賀大学卒業の人たちが馬鹿だというのだろうか。確かに向上心はなさそうだが。

「文学っていうのは、人生の至るところで人間を支えてくれるもんや。頭に入れといて、いつでも取り出せるようにしとき。迷ったら読み返すといい」

「それは心に置いておきます。ためになりました」

 綺世は姿勢をただし、本題に入る。すぅっと、息を吸う。

「実は、仕事のことで相談があるんです。横関先生にしか相談できなくて……笑わないで聞いてもらえますか」

 横関先生は真剣な眼差しになった。こちらが悩んでいることを、察したのだろう。居住まいを正す。

「笑わんよ、どうした」

 冷静な声が綺世に響く。それを聞いて、心が落ち着くのを感じた。先生は、人生の師だ。いつも教え導いてくれる。この人に伝えようと、綺世も真剣に言葉を紡ぐ。

「……僕は、佐賀県に大河ドラマば誘致したかとです。主人公は、鍋島直正。ロケ地には佐賀城本丸歴史館ば使えばよかと思うとです」

「ナイスアイデアや。鍋島直正は佐賀の七賢人やし。幕末の偉人との関わりもあるし。せっかく佐賀城本丸歴史館もあるとやし。面白か計画やと思うよ。それば笑われとるとか」

「現実的じゃない、って。佐賀大学卒業の上司から言われました。予算も足りんし、県の力もなからしかとです」

「現実的じゃないわけあるか、薩長土肥の一角は佐賀県やし、日本初の大砲導入は肥前藩ぞ? その中心となったのが、肥前藩藩主、鍋島直正だ」

「分かっとります。俺はできると思う。でも、俺だけじゃダメだ。そのために、先生の力ば貸して欲しかとです」

 深々と頭を下げて頼んだ。藁にもすがる思いだった。先生に何ができるのかは、綺世にも分からなかった。もしかしたら、何もできないのかも知れなかった。それでも、まずは言ってみようと思った。しかし、横関先生の目に力が宿る。生徒の前で演説をしていたときのように、自信にみなぎった表情になる。

「事情は分かった。僕がお役に立てるかはよく分からんけど。よし、ひと肌脱ぐか」

 横関先生はにんまりと笑った。何か企みがある様子だった。それが何なのか、綺世には想像も出来ない。何をする気だろう。それでも、このことを先生に相談したのは、横関先生が何とかしてくれそうな予感があったからだ。その予感は当てはまっているのかもしれない。横関先生のことだから、何か計画はあるのだろうと思った。

 相変わらず、綺世は事務作業に忙殺される日々を送った。タイピングスピードは上がったが、それ以上に押し付けられる仕事の量が多い。外国人観光客数の直近二十年間の変位など、数字を扱う業務には目がシパシパする。目薬が欠かせない。少しでも気を抜くと、数字が合わなくなってくる。ぼっーとしていると、上司の嫌味が飛んでくる。嫌な仕事だった。それでも、綺世は自分の野望を叶えるために、めげずに職場にきては、事務作業に励んだ。この自分の努力が、いつか報われると信じて。

 一週間後、美咲が興奮と驚きに満ちた表情でスマホを差し出してきた。何ごとかと思う。

「見てみて、渡邉くん! 横関先生のSNSが、またバズっとるとよ!」

 美咲の手元のスマホを覗きこむと、横関先生のSNSの投稿が、万単位でバズっていた。現在進行形でインプレッション数は伸びている。そこには、佐賀城本丸歴史館の中で鍋島直正のコスプレをした横関先生が写っていた。鍋島直正を思わせる、貫禄のある笑顔だった。

「金がないならコネを使え #佐賀城本丸歴史館 #佐賀に大河ドラマを #鍋島直正」

 横関先生らしい名言とともに、かしこまった顔の本人が写っている。思わず吹き出してしまった。

「なんですか、これ……」

「横関先生が思いついたらしか。コネってのは、悪い意味やなくて、コネクション、繋がりを大事にする、みたいな意味らしい。この投稿に全国からコメントが来とるし、これで佐賀県の注目度がアップすること間違いなしやね!」

 横関先生がSNSをしていることも、元々本人の注目度が高いことも知っていた。しかし、こんな形でSNSを使うとは、想像もできなかった。今回は、綺世の相談に応える形になったらしい。投稿がなかなかバズるなんてことない。しかも、佐賀県の投稿が。

 #佐賀に大河ドラマをは、この横関先生の写真によって注目を集め、色々な人が佐賀城本丸歴史館を訪れ、SNS上にアップロードするようになった。佐賀城本丸歴史館は、ちょっとした今流行りのスポットになった。地方創生というのが、最近ホットなテーマであるため、それも追い風になったのであろう。有名なYouTuberが佐賀城本丸歴史館の動画を上げているのを、綺世は夢でも見ているかのような気持ちで眺めていた。

「これなら、佐賀県で大河ドラマができるとやなかとですか!? 観光収入も増えたやろうし!」

「うん! その可能性は高まったね!」

 美咲も嬉しそうに返す。彼女も横関先生という恩師の活躍は喜ばしいようだ。綺世は興奮した口ぶりで上司に訴えた。一つの県がこんなにSNSで話題になることなんかない。しかも田舎だ。千載一遇のチャンスだ。今はすごく佐賀県への注目度が高い状況だ。この状況で大河ドラマをやれば、視聴率が高いこと間違いなしだろう。大河ドラマが一歩近づいた、と思った。しかし、上司の反応はにべもなかった。

「SNS上で話題になるって、そんなすごかとや? 相変わらず、予算は足りんし、大河なんて無理よ。上に言うだけ無駄」

「足りない、足りないって、一体何がどれくらい足りないんですか?」

「足りないものは足りんよ、いくら言っても無駄やけぇ」

 これでは水掛け論だった。上司はいつも綺世の邪魔をしてくる。ろくな検討もせずに、Noというばかりだ。もしかしたら、自分の言うことに、反対したいだけなのかもしれない。綺世はため息をついた。

 また美咲に相談すると、

「本当に予算て足りんと? いっちょ概算してみよう」

 とのことだった。美咲はいつも正解を教えてくれる。外に出た経験が、柔軟な発想を生み出すのかもしれない。自分と、同じ。

 綺世と美咲で、業務時間外の大河ドラマへの概算が始まった。パソコンのエクセルとにらめっこだ。まず、大河ドラマを誘致するとして、県から降りる予算はいくらか。佐賀城本丸歴史館の貸し切り代はいくらか、ロケの日程は何日か。衣装代、キャスティング費用は。視聴率と観光収入でどれくらいバックが取れるのか。それはもう色々とあった。細かい数字の羅列にめまいがするくらいだった。皮肉にも、毎日の事務作業で鍛えられたタイピングスピードが役に立った。予算を、全部込みで計算してみると……。

「……足りんって訳でも、なかとやなか?」

「確かに、どうにかできるレベルやと思う」

 少し予算は足りないが、もうちょっと広報を頑張れば、黒字になるのではないか、というラインだった。つまり現実可能だ。上司はろくに調べもせずに綺世の意見に反対していたのだ。そんなに自分のことが嫌いなのだろうか。それとも、何も変わりたくないのかもしれない。変わろうとせず、何も知らないままで、このまま、うだつの上がらない佐賀県のえらい人でいたいのかもしれない。それもその人の人生だろうけれど。

 その企画書を、上司に提出した。上司の返答としては、

「……どうせ突き返されると思うばってん、上に言ってみるばい」

だった。そこまでするのなら、ということであろう。一歩前進した、と思う。箸にも棒にもかからないより、ずっと。少し晴れ晴れとした気分になる。

 残業を終えて帰ろうと県庁から出ると、入り口に、いつになく神妙そうな顔つきでゆかりが待ち構えていた。ついにその話か、と思った。今までのらりくらりと先延ばしにしていただけであって、その実、もう答えは出ていたのかもしれない。自分が、早稲田佐賀への進学を決めたときには。

「あーくん、ちょっと今日は、大事な話があるの」

「分かっとるさ、ゆかり。俺もちょうど、お前と話したいと思っとった」

 ゆかりは昨日あまり眠れなかったのか、顔色が悪い。化粧をしていても、隈が隠しきれていない。心なしか目の焦点が定まっていない。可愛い顔が台無しだ。ゆかりにこんな顔をさせているのは自分のせいだと思うと、申し訳ない。

「……最近、落合さんと退勤後にはいつも一緒にいるんでしょう? 二人でなんやら作業しよるって、県庁中の噂よ」

「……そんなんほっときゃいいのに。全く、これだから田舎は……」

 田舎の息苦しさに舌を巻く。悪いことをしている訳でもないのに、県庁の人間は噂好きである。どこから漏れたのだろう。

「あーくん、もう私のこと好きじゃなくなっちゃったの? 落合さんみたいな、都会の香りがする人の方がいいの?」

「いいや、落合さんは関係ない。俺とゆかりは、もっと、肝心なところが合わんのやと思う」

 綺世はきっぱりと言い切った。誤解を招くような発言はよくない。美咲とのことがなくても、もう答えは出ていた。

「ゆかりは田舎から出られん人で、俺は田舎から出られる人や。この違い、分かるか?」

 綺世は問うた。美咲の受け売りだったが。うぅん、とゆかりは真面目に考える。こんなときに真面目に向き合ってくれる人だから、自分は好きになったのだ、と思った。なんだかんだ、自分もゆかりも真面目で、気が合った。しかし、この関係はとっくに終わりを迎えている。

「価値観が違う、ってこと?」

「そう言うんやったらそうやね。それもある」

 綺世はすぅう、と息を吸った。伝えるなら今だ。告白したときより緊張している。

「それやったら、もう一緒にはおられんと思う

、ごめんやけど。別の誰かと幸せになってくれ」

 やっと言えた。とうに出ていた答え。これでもう、自由になれる。そう思うと、少しほっとした気分にもなる。

「……私はまだ、好きなのに?」 

 ふっと、力が抜けるような心地になった。綺世はゆかりの顔をまじまじと見つめる。

「いやだ、あーくんと、別れたくない」

 ゆかりが、ほろほろと涙を零す。バンビのように大きい瞳が、透明な光でいっぱいになる。ぽたぽたと地面が濡れる。女の子から泣かれたら、自分はどうにもできない。女性を泣かせるのは、申し訳がない。これは一筋縄にはいかなさそうだ。しかし、自分はそれをしてしまった。その涙を見て、別れるというのは、自分だけの気持ちじゃ駄目なのだということが理解できた。

 翌朝、はぁ、と職場のデスクでため息をついた。仕事なんかやる気にもならない。今は何もしたくない。ぼんやりと、ゆかりとのことを考えていた。一体、どうすれば正解なのだ。どうしたら、ゆかりは納得して別れられるというのだ。全然分からない。ぼっーとしていると、すぐに美咲が声を掛けてきた。

「なんや、昨日何かあった? えらい負のオーラ出とるよ」

 クマ、と目の下を指さす。自分もクマが出ていたのか。ゆかりを長い間慰めていたために、帰りが遅くなり、昨日は自分もろくに眠れなかった。今日も休みたかったが、社会人はそうもいかない。休むと上司がめんどくさいのだ。

「……彼女との別れ話が揉めてましてね。お互い真面目に話しても、収拾がつかんのです」

 美咲には嘘をつかなかった。ついても無駄だと思った。

「その彼女、頭は良さそうなのに、どうして見切りをつけきれんのやろうか。未練っていうより、執着やね」

 執着なのだと思った。ゆかりはまだ自分のことが好きなのではなく、長年連れ添った恋人に執着しているだけだ、と。

「執着ってのは、お互いしてるんだと思います」

 綺世もその実、別れたいと言いながら、ゆかりを完全に切り離すことはできていない。なんだかんだ一緒に帰っている。無視することはできない。綺世もゆかりに執着している。

「女の執着心は強かけんな……あなたもそうだっていうんなら、なかなかもつれるかもしれん」

「……じゃあ、どうすればよかとですか」

 人の執着心を断ち切るにはどうしたらいいのか、綺世はまだ若くて分からなかった。自分が断ち切りたいのかどうかも、実際分かっていないのかもしれなかった。

「時が解決、かなぁ……」

 美咲も自分とそんなに変わらないくらい若いので、これと言った答えは見つかっていないようだった。曖昧なことを言って、考えこむような素振りを見せた。美咲にも分からないといわれると、綺世はほとほと困ってしまう。誰に相談すればいいのだろう。

 実家の祖母は去年癌が見つかり、余命半年を宣告された。全ての髪が白く、目尻には深いシワが刻まれている。顔色が日に日に悪くなっており、死をイメージさせる。段々できることも少なくなってきた。今は本人の希望で、自宅療養している。出来るだけそばにいてやってくれ、と他の家族からも言われる。大量のモルヒネが投与され、苦痛を感じることはあまりないようだ。綺世の顔を見るたびに

「綺世が帰ってきてくれて良かった」

という。気持ちは分かる。綺世はたった一人の孫なのだ。綺世も、余命が幾ばくもない祖母のもとにいれて、良かったと思っている。

 それだけならいいが、いつも決まってその後に

「なんでぇ、東京なんか行ったとや。九大でよかったやろうに」

と続くので辟易してしまう。そんなに自分が早稲田に行ったことは間違っていたのだろうか。この頃、つくづくそう思う。

 今日も綺世が帰るやいなや、

「綺世が帰ってきてくれて良かった」

というので、ふと聞いてみた。

「ばあちゃんはさ、佐賀から出てみたいって思ったこと、なかと?」

「なかね。ずっと佐賀で暮らしていきたいと思いよったよ」

「それはなんで?」

「なんでって……私からしたらあんたの方が分からんさね。なんでわざわざ東京に行ったとよ」

 田舎から離れられない人は、離れられる人とは相容れない、美咲の言葉がこだまする。綺世とゆかりも、おばあちゃんも相容れないのだろうか。

「東京が面白そうだったからやよ。そう思わん?」

「たまに遊びに行くくらいで十分やね」

 やはり、綺世の気持ちは祖母には理解できず、祖母の気持ちは綺世には理解できないのだろう。きっと人種が違うのだ。仕方がない。どちらが正しいということも、きっと無いのだと思う。ゆかりや祖母は、自分たちが正しいという口ぶりなのだけども。

「じゃあばあちゃんは、好きな人が東京で働きたい、って言ったら、どうする?」

「やめさせるね、どうにかして。そもそも、就職なら佐賀県で十分やろ」

「それでも駄目なら? 東京行くって、聞かなかったら?」

「別れるしかないやろう、残念やけど……」

 それしかない、それしかないと、みんなが分かっているのに、なぜ別れないんだ、ゆかり。ゆかり自身の人生も、自分とだらだら付き合うことによって、無駄にしているというのに。  

 綺世はゆかりと付き合った日のことを、思い出していた。同じ演劇部で、相手役を務めたことがきっかけだった。確か演目は、定番のロミオとジュリエットだったはずだ。息のあった掛け合いに、周りもお似合いだと囃し立てた。誰もが知る悲恋のラブストーリー。お互いにこれ以上ない適役だと言われた。熱心に演じるお互いにお互いが恋に落ちた。シェイクスピアの熱烈なセリフに、クラクラした。劇が終わってから、綺世から告白した。OKがもらえた時は、天にも舞う気持ちだった。あの時に戻りたいと、少し思う。無敵でなにも心配事がなかった、あの時に。

『ゆかり、中学のときのこと、覚えとるか?』

『覚えとるよ、もちろん。運動も勉強もできて、みんなの人気者のあーくんと付き合えた時やし』

 自分は昔からクラスでも目立つタイプだった。ゆかりも評判の美人だった。お似合いだとみんなから言われた。佐賀のイオンでデートし、福岡に遊びに行った。キャナルシティ博多に行ったり、イオンシネマで映画を観たりした。あの頃は楽しかった。田舎なので、付き合ったからといって特に遊びに行くところも少なかったが。

『高校、大学のとき、誰かから言い寄られたりしなかったんか? ゆかり、美人やし、絶対モテたやろ』

『彼氏いるって、公言しよったから、そんなこと無かったよ。あーくんとはなかなか会えんくて、寂しかったけど』

 高校時代は、週末にデートしていた。学校では会えなかったが、互いに実家だったので、週末に会えるのが楽しみだった。早稲田佐賀に行ったことには会う度に嫌味を言われたが、あの頃はまだ、楽しかった。

『俺の、どこが好き?』

『全部だよ、全部が好き』

 どこが好きなのか、と聞かれると、お互いにこう言い合っていた。ラブラブなときはそれで良かったが、この頃はそれが依存の原因なのかもしれない、と思っている。

『俺しか知らんでいいのか? 人生の中で、俺しか』

『当たり前やろう。あーくんと結婚したい』

 あの時は、小説内に出てくる神楽坂や四ツ谷といった土地の名前を、遠い異国の地のように思っていた。小説の中の登場人物たちは、仕事終わりにその辺の土地に飲みに行っていた。出てくる食べ物は、どれも美味しそうで、童話の中の食べ物のようだった。田舎の高校生にとっては、東京というのはそれくらい遠い土地だった。パリやアムステルダムと同じくらい遠くの。

 大学受験は、自分は推薦だったので、ゆかりより一足早く決まった。あまりメンタルの強くないゆかりは、一般受験でだいぶ参っていた。相も変わらず、自分が早稲田を選んだことを会うたびにぐちぐち言った。気持ちは分かるが、辟易した。自分はゆかりのメンタルケアをするために付き合っているのではないのに、と思うことはあった。無事に受験が終わってからも、なぜ九大にしなかったのかとぐちぐち言ってきた。綺世はすっかりゆかりには嫌気がさして、東京と福岡で離れられることにほっとしていた。結論を先延ばしにするという行為は、その頃から始まっていた。

 大学時代は、綺世が帰省したときにデートしたり、ゆかりが東京に遊びに来たりした。それなりに楽しいときもあったが、ゆかりの重苦しさは変わらなかった。遊んでいるときに、ゆかりのダラダラしたぼやきを聞くのは、正直苦痛だった。綺世も別の女の子から言い寄られることもあり、気持ちが揺らがなかったかと言われれば嘘になる。だらだらと続けて十年。お互いに、別の人を知らない。

 その晩、綺世は夢を見た。大学生の頃、仲間たちと一緒に高田馬場のガーリックの牡蠣が食べられるお店に行ったときのことだ。ぷりっぷりの牡蠣に、香ばしいニンニクの香り。思い出しただけでヨダレが出そうだ。高田馬場なんて地名、東京に出てきたばかりの頃は知らなかったが、今となっては学生時代の思い出の街だ。安くて美味しい居酒屋がたくさんあった。授業終わりは、だいたい仲間と高田馬場で飲んでいた。仲間と映画に関して熱く語らいながら飲んだビールのなんて美味かったこと!

 佐賀には、ガーリックの牡蠣のお店も、映画について熱く語れる仲間もいない。チェーン店のまずいお好み焼きと、つまらない仕事の武勇伝ばかりする上司がいるだけだ。なんて、しみったれた田舎だろう。東京と佐賀で一番違うのは、ガーリックの牡蠣のお店が、すぐ行ける距離にあるか否か、かもしれない。牡蠣を食べたあの時ほど、東京に出てきて良かったと思ったときはない。新宿や渋谷になんでもあるのは知っていたが、高田馬場のガーリックの牡蠣のお店は知らなかった。授業後の油そばがあんなに美味いだなんて、知らなかった。もしかしたら、それこそが東京に出てきた旨みといえるものかもしれない。映画が好きな人が、早稲田にはあんなにいるなんてのも、知らなかった。佐賀の高校では、映画の話をしている人なんか、全然いなかった。話題は人の噂か、悪口だった。

 俺は、東京にいたい人間なのかも知れない。田舎から離れて、もう帰ってこない方が良かったのかもしれない。田舎から離れられる人間、だから。もしかしたらずっと、正解は見えていたのかも知れない。

 翌朝、上司に辞表を提出すると、上司は呆れたような表情をした。

「新卒一年目で、ちょっと現実離れした企画が通らんからて、辞めるてあるか。もうちょっと、よく考えろ」

「いいえ、それは関係ありません。いや、ないことも無いですが……。佐賀県庁は自分に合わないと、一年かけて判断したまでです」

「合わん合わんて、世の中、そう自分に合った仕事ばしよるやつもおらんとぞ?」

「そう言われると思いました。自分は、自分に合った仕事が何なのかは、まだ分かりません。でも、自分に合った土地がどこなのかは、はっきり分かっとるとです」

 綺世は自分のデスクの片付けを始めた。短い付き合いだったが、使いやすいように、自分好みにカスタマイズしていた。せっかく早稲田という学歴があるのだから、自分はどこでも生きていける。どこで生きるかも決めていいのだ、と思った。学歴というのは翼だ、と。

「渡邉くん聞いたよ! なんで! 私に一言の相談もなく!!」

 美咲が焦った調子で話しかけてきた。息が上がっている。きっと駆けてきたのだろう。この人だけは、惜しいと思った。人との縁というのは、運だ。東京に友達はいても、美咲のような人と、また出会えるかという保証はないのだった。

「急なことになって申し訳ございません。でも、自分としては急なことではなかったとです。ずっと、田舎は合わないと感じとりました。これからは、東京で生きていたいと思います」

「これからどうするの?」

「大学時代の知り合いが、映画の会社を立ち上げたらしいので、それを手伝って生きていこうと思います。収入は下がるし、安定なんかないですけど」

 でも、と綺世は言葉を継いだ。

「佐賀県庁よりは自分に合っているような、そんな気がするとです」

 自分の人生の幸せとは、仕事終わりに牡蠣のガーリック焼きを食べることなのではないか、と思う。人からは馬鹿みたいだ、そんなことに何の価値があるんだ、と笑われても。

「大河ドラマは? 佐賀県に誘致するんじゃなかったの?」

「それはまだ諦めてません。俺じゃなくても、落合さんならできるはずです。頑張ってください」

「そんな……。私に言われても……」

 美咲も呆れたような表情になる。馬鹿だなぁ、自分は、と思う。みんなを呆れさせて、我を通して。それでも自分の生きたい道を行く。昔からそうだったんだけど。

 佐賀県に大河ドラマを誘致するという企画は、美咲ならやり遂げられると思った。自分のように県庁直属ではない分、色々やりづらいとは思うが、それを乗り越えられる力が美咲にはあると思った。自分も、離れたところからそれを手伝いたいと思う。

 家族からは、もちろん猛反対された。田舎では、県庁に勤めているということは一種のステータスなのだ。公務員という安定した職業でもある。今からでも考え直せと、何回も言われた。家族の気持ちは分かる。特に、祖母の心情を思うと、いたたまれなかった。気弱になっているときに、一度帰ってきた孫までいなくなるなんて、寿命が縮む思いだろう。しかし、綺世の決意は堅かった。これからは、家族や恋人の思い通りではなく、自分の人生を生きるのだ。ガーリックの牡蠣が、いつでも食べられる人生を歩むのだ。

 東京に越してからは、ゆかりとは強引だが、自然消滅という手段を取った。連絡先をブロックした。言うべきことならお互い言い尽くしたと思ったし、話し合いは堂々めぐりだった。いつまでも別れたくないとゆかりは言う。自分もそれを聞いたら、なぁなぁになってしまう。可哀想だとは思ったが、もう、これしかゆかりと別れる方法はないんだと思った。物理的な距離が取れれば、街角でばったり会う、なんてこともない。

 知り合いが起こしたベンチャー企業は、予想通り激務で低賃金だった。毎日残業残業で、土日出勤もざらにあった。しかし、色々な事業を任せてもらえるので、その分やりがいがあった。若い綺世を中心に、企画を動かせるのも良かった。好きな映画に関われるのも、楽しかった。仕事終わりに、高田馬場の牡蠣屋に行けるのも、綺世が東京に戻ってきて一番よかったと思うことだった。この瞬間のために生きていると言っても過言ではなかった。仕事終わりに呑むビールはうまかった。会う人会う人刺激的で、革新的だった。大きな野望を持っている人も多く、前職で佐賀県に大河ドラマを誘致したかったと言うと、みんな面白いと言ってくれた。佐賀では笑われて終わりだったのに。

 上司も早稲田の文学部卒で、もしや、と思って美咲の名前を出すと、

「ああ……知ってる。今は元気か」

と、複雑な表情をされた。もしかしたら、過去に何かあったのかもしれない。いつか、仲良くなったら聞いてみたいと思う。

 あっという間に、数年の月日が流れた。佐賀県庁にいた時間より、ずっと長く、東京で就職してからの時間は経った。綺世は自分が佐賀県に大河ドラマを誘致しようとしていたことも、忘れかけていた。前職は公務員で、佐賀県庁に勤めていた、というと、驚かれることが多かった。美咲と雰囲気が似ている女性と、仕事で知り合い、いい感じの雰囲気になっていた。すっかり東京に染まった。東京に出てきてから後悔したことと言えば、ぎりぎり祖母の死に目にあえなかったことだ。祖母は最期は幸せそうにしていたらしい。そこまで苦しまずに逝った。綺世のことは、最期までなんで東京に行ったんだ、と言っていたらしいが。

 ある時、ビックニュースが綺世の目に飛び込んできた。佐賀県が、大河ドラマの舞台になるというのだ。ロケ地は、佐賀城本丸歴史館。主役は、もちろん鍋島直正。主演は、今話題の俳優が起用されるらしい。さすがに鈴木亮平ではなかったが。綺世は驚き、そして、嬉しかった。ニュースをよく見ると、予想通り、美咲が立役者となって署名を集めたり、委員会を立ち上げたりしてくれたらしい。すぐに美咲に電話した。

『今ニュース見ました! 大河ドラマ、おめでとうございます!』

『ありがとう! 渡邉くんがおらんかったら、この企画は動いとらんかったよ!』

 自分が企画したことが、色々な人を動かし、そして、実現した。感慨深いことだと、思った。美咲に対しても、感謝の気持ちでいっぱいだった。学歴というのは、自分たちを乗せて羽ばたく翼だという。自分は、翼をはためかせることが出来たのだろうか。分からないけれど、きっとこれからも、東京で生きていくのだと思う。佐賀県は、自分には狭すぎた。それでも、学歴という大切さを教えてくれた横関先生には感謝する。実現不可能なことを成し遂げた、美咲にも。

 綺世は今日も、高田馬場の牡蠣屋に行く。上司に、美咲の偉業を伝えたい。結局、まだ上司と美咲はどんな関係だったのかは聞けていない。どんな関係であろうと、上司と呑む今日のビールもうまそうだと思う。

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