テッペン・リ・ビルディア
【第一話:リ・ビルディア】
筒状の壁に覆われた街『ウーベンケイ』。
天井も鉄板で覆われ、人工的に作られた巨大な蛍光灯が街を照らしている。
壁には複数の換気扇が取り付けられており空気を循環させている。
円の中心には太い鉄の棒があり、丁寧にメンテナンスをされており銀色に輝いている。
街並みはギチギチに詰められた工業地といった雰囲気。
駆動音、鉄の弾ける音、煙突から出る煙が街全体を包んでおり視界が悪い。
閉鎖的な空間には人々が慌ただしく機械を操作し、鉄を運んでいた。
街の様子を映した後、仕事もせずに汚い池で釣りをしている少年へ視点変更。
少年の服装は汚れたツナギを着用。
廃材で作った竿とワイヤーを使ってつまらなさそうに釣りをしている。
ボサボサの髪、つり上がった目尻、ガキンチョといった印象。
特徴は右手が鉄の棒を組み合わせた貧相な義手が特徴。
名前は『ゲイン』。
ため息を付きながら待っていると魚が釣れた。
オイルに汚れた目玉のデカい、気色の悪い見た目をした魚。
少年は魚を家に持って帰る。
いくつもの箱が乱雑に積み上げられたようなマンション。
垂れ下がっている紐を掴み、昇り自分の家に。
秘密基地のような小さな家。
少年は家の中にある筒状のケースの中に魚を放り投げ、除菌。
体に害のある物質を取り除き真っ白になった魚を焼き、塩をかけて奥の部屋に持っていった。
「じいちゃん、お待たせ。今日の飯だぞ!」
奥の部屋にはベッドに横たわる白ひげの老人『エンプティー』がいた。
少年が入ってきたことに気が付き、体を起こそうとすると咳き込む。
エンプティーは少年の祖父であり、酷い病気を患っていた。
面倒かけてすまないと謝る老人に対し、少年は首を横に振るう。
→セリフを交えながら世界観の説明。
「迷惑かけてすまないのぉ、ゲイン」
「今更何いってんだよジイちゃん。気にすんなって」
「既に廃材のワシに構わず、働きに出てもいいんじゃぞ」
「働く? 冗談じゃない、俺は歯車になる気なんかサラサラない。だって、この街はジイちゃんを苦しめ、トーさんもカーさんも殺した最低の街だ」
ゲインの父と母は労働中の事故により他界。
祖父もこの街の空気に当てられた結果、病気になっている。
「俺はこの街が憎い、街に生きる人達も……皆、自分のことしか考えちゃいない」
「父も母も立派に仕事を続けていた、それは誇らしいことじゃ。街の者も同様に、皆の為に働いている」
「誇らしい……全員同じ仕事を何度も繰り返して、鉄の柱がそんなに大事だってんのかよ」
「そうじゃ、あの柱は我々の守り神『テンチーカイ』様の御神木」
「でた、困ったらいつもテンチーカイ様って。存在しない神様の話なんてどうでもいい。俺は、いつかこの街をぶっ壊すんだ」
「お、おい、待つんじゃ、ゲイン」
会話の中で言い合いになってしまい、家を飛び出すゲイン。
機械のように働き続ける人たちの間を駆け抜け、自分の理解してくれない世界に恨み言を放つ。
ゲインは父と母の背中を思い出す。歯車の隙間に落ち、肉塊に化した姿も。
両親の死がトラウマとなり、憎しみを生み出していた。
更に苛立ちを発散する先もなく、しぶしぶ家に帰るとエンプティーがベッドから落ち倒れていた。
黒い雨の中、エンプティーを背中に担ぎ、必死に病院を探すゲイン。
しかし、どこにいっても金のないゲインは相手にされなかった。
そうしてゲインの体力が尽きると同時に、エンプティーはお守りと称し歯車のネックレスをゲインに託すと息を引き取った。
※場面転換。
ゲインの家の戸を叩くものが一人。
自分を呼ぶ声を無視していると、訪問者は勝手に家に入ってきた。
ゲインと同じ年をした少女『クルリ』。
容姿は、ぐるぐる丸メガネにボロの布切れを白衣のように纏うボサボサ頭。
単3電池のようなものをタバコのようにいつも咥えている。
クルリが部屋に入ると、無気力に体育座りをしているゲインが部屋の隅に。
「オジサンの話、聞きましたゾ。残念でしたネ…」と語りかけ、自分がいればなんとかなったかもしれないと謝罪する。
クルリはこの街の労働者ではなく、機械メンテナンス班に属しており、ある程度収入があった。
しかし当日は運悪く、街の隅の工場に行っており手を貸すことができなかった。
謝るな、とゲイン。自分の無力さが、身勝手さが招いた結果だと言った。
反抗せず、真面目に働いていればこんなことにならなかった、ジイさんは死ぬことはなかった、と。
そんな落胆するゲインにクルリは言う。
「アタシは自分らしく自由に生きるゲイン殿が、嫌いじゃないですゾ」
「俺はもう、街を憎めばいいのか、自分を憎めばいいのか、わからない」
天涯孤独の身となり、自分の生き方に迷っているゲイン。
クルリは一度、労働してみればいいと提案。
それも、清々しい気分になれる特別な仕事だと言った。
そんな仕事あるものかと思ったが、幼馴染の彼女の言うことだ、と信用しクルリの紹介する仕事を始めることにする。
※場面転換
連れてこられたのは、街を囲む壁の側。
背中には機械の箱から六本の棒が伸びている『スパイダーユニット』を背負わされた。
両脇からはレバーが伸び、腰には小さなバッテリーケース。
同じようにユニットを背負った男たちも6名程度。
そんな中、初めてみる機械に困惑するゲインをよそに、クルリは仕事内容を説明した。
壁から外に出て、このユニットで壁をよじ登り、オイルが漏れている箇所を修復して欲しいと。
壁の外の世界に出れるのは、非常に限られた労働者だけ。
クルリは自身のキャリアを全力で使い、ここに推薦してくれたのだとゲインは察する。
心の中で感謝の言葉を述べ、街で唯一外に出れる門を出ると、そこには海が広がっていた。
見渡す限りの水平線、上を見上げると壁が天まで続いている。
初めてみる景色に感動するのもつかの間、他の労働者たちから嫌味を言われ気分を害するゲイン。
仕事が始まり、六本の足とユニットから発射される巻取り式のワイヤーを駆使し断崖絶壁を昇っていく。
しばらく昇ると、壁から赤いオイルが漏れている箇所があった。
6人とゲインは腰に携えた凝固材入のボールを投げ、オイルを固め、その後布で覆いかぶせ処理をした。
「こんなんで治るのか?」
「壁は時間が経てば自動で修復されんだよ。そんなこともしらねーのか」
ともあれ、仕事は終わりだと先に出入り口に戻っていく男たち。
自分も戻るか、と不意に空を見上げて見る。
「ん?」
はるか上空に黒い点が見え、どんどん大きくなっていく。
ゲインはそれが人だと気が付き、ユニットの足とワイヤーを駆使し慌てて抱きとめた。
衝撃により自分が海に落ちそうになりながらも、なんとか受け止めることに成功。
空から落ちてきたのは、ゲインよりも数段身長の高い白髪で裸の美女。
裸体など見たことのない、まして思春期真っ盛りのゲインは顔をそむけ視線を外す。
生きているか、と問いかけると、美女は瞳を閉じたまま「テッペン」とだけ呟いた。
「テッペン…?上ってことか…?」
困惑し問いかけるも、かえってくる言葉は「テッペン」だけ。
とりあえず、安全なところに連れていこうと思ったその時、下の方で悲鳴が聞こえた。
視線を向けると、プテラノドンのような怪獣に襲われている作業者たち。
一人は噛みつかれ、血しぶきを上げながら海へと放り投げられた。
本能が逃げろ、と呼びかける。初めて見る化け物に、身が震える。
美女を抱いたままゲインは硬直していたが、嫌味を言っていた作業員たちの「助けてくれぇ」という声を聞き、体が勝手に動き出した。
急降下し飛び蹴りを怪獣に放つ。顔面直撃、怯んだ好きにユニットのワイヤーを壁に引っ掛け止まり、作業員に向かって「今のうちだ、逃げろ!」叫んだ。
どうして嫌味を言っていた奴らを助けようとしているのかゲイン自身疑問に思う。
パニック状態の作業員たちは我先にと逃げていく。
「あッ、おい待て! この人も一緒に連れて行け!!」
と言った次の瞬間、体勢を立て直した怪獣が下からゲインを喰らおうと大きな口を開き上昇してくる。
ワイヤーを巻き取り、回避。
だが、すれ違いざまに扇のように尻尾で叩かれ、壁に叩きつけられてしまう。
体が壁に埋まるほどの威力。
吹き出した赤いオイルに濡れながら、しっかりと美女の体は守っていた。
凹んだ壁が椅子の変わりに。ユニットの足は6本から2本に。
衝撃によりゲインは満身創痍、朦朧とする意識の中思う。
父と母、祖父の死を目の当たりにした。もう目の前で人が死ぬところを見たくないと。
願う、心に強く生を願う。
すると、美女の眉がピクリと動いた。
「大丈夫、安心しろ。アンタは俺が絶対に安全なところに連れて行ってやる」
根拠のない発言であったが、その言葉を聞いて美女の無機質な目が開いた。
「よかった、目が覚めたか!」
「……リ・ビルディア」
「えッ」
「リ・ビルディアと、叫んで。最後の手段」
意味不明な言葉。美女の目覚めと同時に、エンプティーから貰った歯車が輝く。
外の世界、天まで続く壁、空から落ちてきた美女、化け物に謎の言葉。
ゲインの人生を一変させるには十二分。
トドメを刺そうと接近してくる怪獣、どの道このままだと死ぬ、迷っている暇はない。
ゲインは力の限りリ・ビルディアと叫ぶ。
すると美女から光が放たれ、それに感応するように歯車が輝きを増す。
そし歯車が量子化し、同じように量子化した義手、赤いオイルと混ざり合いゲインの体に不釣り合いな右腕ができあがった。
曲線を描く白銀の右腕。二の腕部には車のマフラーのような排気口が三連。
手の口からは紐が垂れ下がっており、小型のエンジンに繋がっている。
肉薄する怪獣に対し、ゲインは右拳を振るう。
すると、先程の飛び蹴りとは比較にならないほど怪獣の歯は折れ吹き飛ぶ。
自身の力に唖然とするゲイン。そんなゲインに対し美女は「テンチーカイの、右腕」と告げる。
「何が何だかよくわからねーが……雲が晴れた気分だぜ」
美女を壁の凹みに座らせた後、右手を正面に突き出し、再び襲いかかる怪獣に向かって飛び出した。
【第二話:内なる外敵】
人外の腕力で怪獣を攻撃するゲイン。
ユニットのワイヤーを壁に付け、怪獣の体に引っ掛け、縦横無尽に飛び回る。
一方的な展開に見えたが、突如として響く警告音。
スパイダーユニットのバッテリーが少なくなり、ワイヤーの動きが鈍くなったのだ。
「やっべ、これじゃあ避けきれ──グアアッ!!」
手痛い一撃を受けるゲイン、体は生身、ダメージもしっかりと蓄積している。
時間がない、一撃必殺の技が必要。いちかばちか。
紐を引っ張るとブルルルンッ!とけたたましい音が響いた。
クランクシャフトが回転し、エンジンが駆動、同時にユニットの動きも加速した。
ゲインは最後の一撃だ、と復活したワイヤーで急上昇。
怪獣より高い位置を取り、壁を蹴って加速。
ユニットに残された二本の腕を右腕に集中させ、捨て身の一撃を放った。
それは怪獣の体を貫き、絶命させることに成功。
だが、ユニットのバッテリーはオーバーヒートし腰のポケットから強制射出。
右腕も粒子化し、貧相な義手と歯車のお守りに戻ってしまった。
怪獣の死体と共に海に落ちていくゲイン。
視線の先にいる美女が無事なのを確認すると、満足げに瞳を閉じるのであった。
※場面転換
ゆっくりと目を開くゲイン。
超至近距離で心配そうに彼の顔を見つめていたのはクルリ。
彼が起きたのを確認すると、号泣しながら抱きついた。
「うぉぉぉお、盟友ぅぅ! ほんと、ほんとごめんなさいですゾぉ!」
今まで化け物なんてでてきたことはなかった。
少し違う世界を見せたかっただけだった、とクルリは謝罪。
「つか、なんで俺……生きてんだ?」
「トラブルが起きたと聞いたので、すかさず駆けつけたのですゾ」
「クルリが助けてくれたのか……ありがとう」
落下し意識を失った直後、スパイダーユニットを装着したクルリが飛び出し助けてくれていた。
そういえば、あの女性は!?と気がついたように問うゲイン。
クルリは不機嫌そうに部屋の隅に指を向ける。そこには椅子に美女が背筋をピンと伸ばし座っていた。
裸のままではと、適当な服を着せたとクルリ。
いくら引き離そうとしてもゲインから離れず家までついてきたそうだ。
とりあえず、安堵するゲインはクルリに自分があの怪獣を倒したと自慢気に話す。
尊敬の眼差しを向けられると思っていたが、クルリの反応は存外とそっけない。
「またまたぁ~これも、テンチーカイ様のご加護あってこそですゾ。運がよかったですナ~」
どうやら助けた作業員たちも、同じようなことを言っているようだ。
確かに、ゲインの右腕が変身したことを誰も見ていない。
ゲインはベッドから飛び起き、見せてやると言うと美女の前に立ち「リ・ビルディア」と叫んだ。
が、腕は分解されず、部屋にはゲインの声だけが響いた。
夢でも見たのかと笑うクルリに機嫌を悪くしたゲインは顔を真赤にし「助けたやつらにも俺のお陰だってことわからせてやる!!」といい、部屋を飛び出してしまった。
残されたクルリと美女。
二人っきりの部屋、気まずい空気が漂う中先に口を開くクルリ。
名前、どこから来たのか、一体何者なのか、どうしてゲインに付きまとうのか、質問を投げかけるも美女は眉一つ動かさず無反応。
こんな美人が側にいると、ゲインがエッチな子になっちゃうと勝手に心配になるクルリ。
無視される苛立ちと、不安で美女の肩を揺らした。
すると、美女の腹の部分がガシャンと機械音を鳴らしながら開く。
驚嘆の声を上げ尻もちをつくクルリ。なんと彼女はアンドロイドであった。
クルリは驚きながらも、技術士としてのサガか、美女の体に興味深々に。
「この技術はなんゾ!?機械でできた人間?でも、この肌の素材、それにエネルギー源は…機械だとしても、こんな曲線で製造するだなんて、あり得ない!」
ウーベンケで製造される機械、部品は直線の組み合わせで製造されている。
エネルギー源は地下の水流発電所から供給される電気を使用している。
このレベルの技術は、遥か未来のものであったと台詞で説明。
「ちょちょちょ貴女、マジ何者ゾ!?も、もっと見せてもらっていいかぁ!?」
「……」
「沈黙ってことは、触ってもいいってことですナ?げへへ」
好奇心と探求心を擽られ、美女の服を脱がし全貌を明らかにしようとするクルリ。
すると、その時に街中にジリリリと警報が鳴り響いた。
何事か、と服から手を離すクルリ。
次の瞬間、家の扉は爆発し破壊され、真っ白な修道服を来た男たちが突入してきた。
クルリの悲鳴と共に、フェードアウト。
※場面転換
助けた作業員たちに俺のお陰だと語りまわるゲイン。
しかし、誰からも相手にされず期限は悪くなる一方だ。
「どいつもこいつも、テンチーカイテンチーカイ、そんな神様いるわけねーだろう、馬鹿どもが」
愚痴を吐きながらトボトボと路地を歩く。
この間の力はなんだったのか、何故リ・ビルディアできなかったのか、美女は何者か。
そんな事を考えていると、街中に警報が鳴り響いた。
驚き顔を見上げるゲイン。そして見えたのは、自分の家の付近が爆発し、煙が上がっているところだった。
慌てて自分の家に戻ると、修道服の男たちに捕縛されそうになっているクルリと美女が。
「アイツらは、機器改会か!?」
機器改会とは、街の住人たちの仕事の報酬や食料を配布したり、犯罪者などを取り締まる者達の総称である。
定期的に天井が開き、彼らはやってくる。この街における支配者のような存在。
だが、今日は彼らがやってくる日ではない。
どうして、しかも自分の家に来ているのか分からないが、ゲインはクルリを抑え込んでいる男にとび膝蹴りをかました。
「ぐぁ!?誰だ、貴様ぁ!」
「こっちのセリフだ、人の家にズカズカと、大丈夫か、クルリ!?」
「んぬぅ、た、助かりましたゾ、ゲイン殿」
クルリと美女を守るように、ムンクたちと対峙するゲイン。
目的を聞くと、どうやら謎の美女をこちらに渡せとのことだった。
美女に視線を向けると、首を横に振るう。
「彼女は嫌みたいだぜ?」
「まさか、あれが我々の命令に背くなどあり得ない」
「嫌がる女を無理やり連れて行こうとする、どちらが悪者かは明白だよな!」
「修復が必要のようだ、無理やりにでも連れていけ」
襲い掛かってくる相手に大立ち回りを披露するゲイン。
狭い空間で彼の小さな体は有効に働いたか、一方的な展開で蹂躙した。
このまま追い払ってやると息巻くゲインであったが、全員の倒した時、彼らの後ろから新たな敵が現れる。
「こんなガキ一人に蹂躙されるなど、情けのない。労働者になりたいのか?」
「は、ハイダー様!?」
ハイダーと呼ばれる男。様子を見るに、彼らの上司的存在のようだ。
ハイダーは真っ黒な髪を腰まで伸ばし、まるで女のような風貌をしている。
修道服も他の物とは違い、腰には柄にバッテリーを装着した刀を携えていた。
ゲインはハイダーを睨みながら言う。
「アンタがこいつらの親玉か」
「それを私達に渡してもらおうか、|労働者≪ブルー≫」
「そいつはできねーな。彼女が嫌がってるってのもあるが、俺達を見下した態度が気に食わねぇ」
「はい、だ」
「は?」
「答えは『はい』だ!!」
「今度こそ頼むぞ、リ・ビルディア!!」
激昂すると同時に襲い掛かってくるハイダー。ゲインとの闘いが始まる。
【第3話:さらに、さらに上に】
家を破壊しながら吹き飛ばされるゲイン。
リ・ビルディアに成功し変化した右腕で攻撃を防いだが、体が受け止めきれなかったのだ。
街の中心にある鉄塔に、垂直に着地。
右腕を見ると、ビリビリと帯電していた。
視線を自分の家に向けると、抜刀したハイダーがこちらをジッと見ていた。
余裕の表情、ゲインは歯ぎしりをする。
「余裕かましてられるのも、今だけだぞ!!」
自分の力を見せてやると言わんばかりに鉄塔を蹴りハイダーに接敵する。
右拳と刀が弾け合う近距離戦闘に。
鳴り響く金属音のなか、ゲインとハイダーは言葉を交える。
「貴様のような労働者風情が、何故その力を使える?」
「これか?さぁ、知らねぇな。お前こそ、どうして彼女を狙う」
「狙う、返せと言っているだけだ」
「人は誰のものでもねーだろう、それに戻りたかったら自分で戻るんじゃねーのか?」
「人?貴様は本当に何も知らないのだな。|労働者≪ブルー≫め」
「ブルーブルー、うるせぇんだよ!!」
ハイダーに対し怒りをぶつけるゲイン。
しかし、前のような調子が出ず次第に戦況はハイダー寄りに。
「くそ、ビリビリして、鬱陶しい!それに、力が入らねぇ」
バッテリー式の帯電刀は腕で防いでもダメージを与えてくる。
このままだとゲインの敗北は明白であった。
その戦いの様子をまじかで見ていたクルリは、もしかしてと思った。
変化した腕、手甲から伸びた紐と飛び出したエンジン。
力が入らないというゲインのセリフ。怪獣を撃退したときの状況。
全てを思い出し、仮説を導き出す。
「ゲイン殿、これを使って下され!!」
そういってゲインに投げた小さな小瓶。中には外壁より漏れ出す赤いオイルが詰まっている。
「クルリ、これは!?」
「恐らくは燃料不足ですゾ!」
「燃料!?どうやって補給する!?」
「そこは、気合でなんとかしてくだされ!」
「変なところの感情論!けど、嫌いじゃない!」
ゲインは飲み込めといい、小瓶を右手で砕き潰す。
すると、右腕は赤いオイルを吸収、紐を引きとエンジンが掛かり力が満ち溢れてきた。
一時は押されていたゲインであったが、ハイダーと拮抗。
「全開だ、だが、まだまだ足りねぇ、もっとだ!」
ゲインはクルリにユニットを貸せと要求した。
あの時の力を100%引き出すには、ハイダーを倒すためには必要だと。
クルリは慌てて自身の装着していたユニット「サソリユニット」を外し、ゲインに渡す。
背中に装着し、尻尾のような蛇腹刀が足にも武器にもなる優れもの。
ゲインは隙を見てサソリユニットを装着すると、再び紐を引っ張りシャフトを回す。
ブルルンッ!爆音と共に右腕とユニットが共鳴する。
これだあ!と満足げに笑うゲインを見たハイダーは呟いた。
「まさか、貴様……ハイブリッドまでも!?」
エンジンとバッテリーの両生、ハイブリッドの効果は絶大。
拮抗を一気に崩し、尻尾を振るいハイダーを吹き飛ばしたゲイン。
これで勝負は決着したかに思えた。
だが、壁に直撃する寸前に身を反転させ綺麗に着地していたのだ。
まだ来るのかと構えるゲインに対し、ハイダーは肩についた誇りを払いながら自身の刀を見る。
攻撃を受け止めた衝撃で、帯電刀にはヒビが。柄に付いているバッテリーは警告音を鳴らしていた。
「今日のところはこれまでか」
ハイダーは刀を腰に収め、姿を消した。
なんとか窮地をしのぎ切ったゲインは「ふう」と息を吐き尻もちを付く。
同時にユニットのバッテリーが飛び出した。
クルリは疑っていたことへの謝罪と、感謝の言葉を述べる。
別に構わないとゲイン。それより、怪我はないかと。
「だ、大丈夫ですゾ、ですがゲイン殿……実はこの女性……」
「え、彼女、怪我をしたのか!?」
「いえ、そういうわけではありせぬ、ただ──」
アンドロイドである、ということを告げようとした時、美女は二人の間に口を挟んだ。
「ナナシ―」
「今……しゃべった?」
「私の名前は、ナナシ―。ゲイン、どうか私をテッペンに連れて行ってください」
自己紹介ついでに奇妙なお願いをされたゲイン。
今はただ、驚き口を開くことしかできずにいた。
※場面転換
近未来的なエレベータに乗り上にあがるハイダー。
扉が開くとそこには巨大な教会が建っており、その中へと入る。
ここは、彼の所属する機器改会の本部である。
大聖堂に入るやいなや、いくつもの影がハイダーを待っていた。
ブルーに負けるなど、情けない、など嫌味を影の者たちから囁かれながら進む。
そうして、一番奥では仁王立ちをした像が待っていた。
像の見た目は勇者シリーズのスーパーロボット、名を『テンチーカイザー』と言う。
現世でいうところの、キリスト像をイメージ。
ハイダーは像の前に跪くと、今回の件の報告をした。
目標は見つけた、捕らえる為にはやっかいな奴がいる、と。
すると、テンチーカイザー像から低い声が放たれ教会に響き渡る。
「このままでは怪獣により世界が滅びてしまう。早急な対応をせよ、ハイダー」
「承知しております。ですが、予想外の事態が発生しています。敵は、ハイブリッドです」
その言葉を聞き、ざわめきだす影たち。
「なるほど、ではハイダー。主にも力が必要であろう」
「はい」
テンチーカイザー像の正面の床から、ハイダーに新しい力が授けられる。
それは、ナナシ―と全く同じ顔をしている美女であった。
彼女はハイダーの前に立つと言う。
「ええ!?こんなガキンチョのお守りとか、マジ最悪なんですけどぉ~」
「ありがとうございます、これは有効に活用させていただきます」
「不愛想なガキンチョねぇ、挨拶くらいしたらどう?」
「行くぞ、俺に力を貸せ」
「え~マジだるい」
「はい、だ」
「えッ」
「返事は『はい』だ、と言っている!!」
「はいはい、わかりましたよ~」
「はい、は一回だ!!」
「は~い」
ナナシ―とは全く違う雰囲気の美女。
そんな彼女に隣を歩かせハイダーは欠けた自身の帯電刀に視線を向けるとゲインの顔を思い出す。
次こそは、と私怨を燃やすのであった。
【以降の流れ】
ナナシ―の願いにこたえる為、機器改会の妨害を乗り越えながら上層階へと向かっていくゲインたち。
過激化する戦い、更には怪獣たちも戦いに参入しみつどもえ状態に。
物語が進むことで、実は世界が滅亡しており、現在人間が生きている場所は超巨大ロボテンチーカイザーの中であることを知る。
ナナシ―は上部で制作されたエネルギーゲインであり、それが一つ外れたことで怪獣と人間の力の拮抗は崩れ、襲い掛かってきている、それを防ごうとしているのが機器改会。
世界の平和を守るか一人のアンドロイドを守るか、ゲイン、そしてハイダーは選択を迫られる。