表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

 1 再び現る


 ジュンの撮影した記録映像を編集して提出をしたところ、緊急会議に呼ばれることになった。

イイジマはそれを今、まさに目の前で指示を出したのだが、ジュンは「わかりました」と返した。

しかし、ジュンの返答とは真逆に、どういう意図なのかわからず、困惑している。


「緊急会議は、その。俺みたいなのが参加してもいいんでしょうか」

「お前は危険な状況においても役目を果たした。とにかく、軍を利用しろ」


 利用しろ、という言葉はつまり、母親を探す手立てになると考えているのであろう。

ジュンは先日、畠山明子はたけやまあきこの姿をした異世界転生者と会話をした。

その報告はまだ、していない。

言うべきか迷っているのが現状だが、今のところはなにも報告をしていない。


「俺はお前をただカメラマンとして選んだわけじゃない」

「それは、どういう」

「十四時だ。会場はわかるな」


 はい、と返答し、ジュンの言葉にイイジマは答えなかった。

それからトイレの鏡の前に立って、表情を動かす練習をする自分自身を撮る。

改めて動画を見返すと、たしかに、表情は一定で変わっていない。

昔アキコに言われた、「ちょっとは笑いなさい」の冷たい記憶が思い出された。


 十四時に会議が開かれるとのことで、以前と同様の旧映画館の場所にやってきて着席する。

ジュンがカメラを固定させていると、後ろから聞こえるはずのない声がした。


「やっほ」


 ジュンに対してフランクにあいさつする人物といえば、最近ではただ一人だ。


「なんで、ここにいるんですか」


 ジュンは軽く首を向けて振り向く。

そこには、マサルの姿があった。


「あれ、聞いてない? 俺たちこれから相棒だっていうのに、聞いてない? これから俺たちはバディとなって、カメラにこう、映像をドカーンと収めるんだぜ」


 マサルは両手を大きく広げ、ジュンに向けて言った。

だから素直に答える。


「知りませんでした」

「だから、俺たちこれから運命共同体なんだぜ。それにあのとき俺を見殺しにしようとしただろ? プロフェッショナルだなって思うけど、俺はいつか絶対お前を見捨てるからな」


 バディ失格である。

ジュンは首を前に戻し、カメラの作業を続けながら答える。


「それでも構いませんが、俺は一人で行動します」

「イイジマさん? 飯島忠義いいじまただよしさんのこわーいお告げだぞ」


 ジュンは固まった。

あの日本刀のごとく鋭い視線のイイジマの言葉とあっては、断るのも骨が折れそうだ。


「あとで確認します」


 つめたーい、とジュンの肩を掴んでいうマサルに、ジュンは少し目を細めた。

そもそも記録係というのはなにをすればいいのか目的もわからない。

人手が不足している軍の兵士を一人となると、正しい選択のようには思えない。

そういう業者を雇うという手もあったはずだ。

わざわざ、ジュンやマサルのような一般人上がりの軍人もどきを選ぶ理由も不透明だ。

ジュンはマサルに目を細めて言った。


「あの、そろそろ手を離してもらえませんか」

「ヤダよ。だって仲良くならなきゃいけないんだろ? 相棒」


 先日まで異世界転生者の事件に関わっていた重要人物とは思えない。

ジュンは軽く息をついて、モニターの前に再び現れた、あの、瓦のような表情を浮かべた女性を見つめた。


「さて、緊急会議を始めたいと思います。あらためまして、私は対異世界戦線特別捜査隊隊長、菅野かんのさつきです。ここにお集まりいただいた方々は、説明を受けていると思いますが、対異世界転生者対策の重要な役割を担っています」


 当然のように隊長の女性――カンノは言ったが、そんな説明は一切受けていない。


「聞いてないぞ。な?」マサルが言う。

「私語はつつしんでください」


 カンノは鋭い眼光を向けてきて、それでまた手元の資料に視線を落とした。


「早速ですが、まず記録係。この地区での記録係は畠山隼はたけやまじゅん斎藤勝さいとうまさるの二名。そしてわたくし、対異世界戦線特別捜査隊隊長、菅野かんのさつきです」


 え、というマサルの声が背後であって、それから会場内がざわつきはじめる。

カンノは続けた。


「記録係というのは非常に重要な役割です。ですから、私は、最前線で戦いつつ、彼らのフォローをします。記録の重要性を知りたいと思われるかたはいらっしゃるでしょうが、この世界でも数多くの紛争が起こっています。そのたびに、文明は発達し、命が失われました。敵が異世界であろうとも、この記録が、未来をつくることを強く確信しています」


 カンノは言い切る。

その言葉を額面通り受け取るのであれば、美しい美学に基づいたものだと思う。

しかし、ジュンにはそれだけではないような気がした。


「そして、異世界転生者は、一人残らず駆除をしなければならない!」


 彼女の声は、怒りに満ちているように感じた。

すぐに冷静さを取り戻したのか、分けた髪を流し、再び会場全体に視線を向けて、


「それでは次の議題に移りたいと思います。封鎖地区、渋谷の解体作業についてと、先日捕えた異世界転生者の供述による、異世界と魔法の新しい情報についてです」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ