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 5 真実



 窓の外の光を頼りに上った先は四階で、そこから先の階段は存在するのだろうが壁になっていた。

そのフロアには扉が一つあって、ISK製薬会社と名前が残っている。


「製薬、会社?」


 マサルの声があって、ジュンは扉を開いて入ってゆくマツウラの背中に従った。

中は薄暗く、窓の外の光でようやく足元が見えるくらいだ。

マツウラは慣れた様子でスマホの電気を点けて進んでいるのだが、ジュンは割れたガラス片を避けながらなんとか歩いている。


 部屋のあちこちに瓶が転がっていて、猛毒注意の張り紙が見える。

細長い通路の右側には冷蔵庫だろう、が何段もあって、左側には散乱した書類があった。

なにかの研究所の跡地ということはわかる。

しかし、置いてある檻を見る限り、小動物サイズのものではないように見えた。


「あの、ここは一体」


 ジュンが恐る恐る聞いたところ、マツウラの革靴がガラスに当たってパリン、という音がした。


「すげえだろ。ここは、人体実験場だ」


 マツウラの言葉に返せなくなったのはジュンだけではないようで、マサルも隣で目を見開いていた。

ジュンが聞き返すよりも先に、マツウラは続けた。


「異世界教による、魔力の観測と、異世界転生の儀式場ともいえる」

「待ってください、渋谷事変がおきたのはまだつい最近のことです。異世界教は確かにそれより前からあったけれど、ずっと前からこの研究をしていたんですか」


 聞きたい内容が多すぎて、言葉が追いつかない。

マツウラは両手をスーツのポケットに入れて続けた。


「俺にもよくわからない。けどここに残っている書類を見る限り、少なくとも五年前から研究が始まっているようだな。色んな呪術からはじまり、最終的には魔術にたどり着いている」


 どうやら何度かここには足を踏み入れているようで、マツウラは足を進める。

ジュンとマサルはその後ろ姿を追った。


「研究の実験台はおそらくほとんど全員信者だ。異世界教は、異世界人に従うことで魔法や特別な力が手に入るという考えだ。だけどそもそもおかしいとおもわないか?」


 通路の途中でマツウラが足を止めて、振り向く。


「政府がこれだけの期間で色々と用意をしているっていうことも、世界が手を取り合って団結している今も。あまりに話がトントン拍子に進みすぎだ。俺はこう考えている。異世界からの異変は俺たちが知らされるよりもずっと前からあって、政府は異世界教と以前から繋がりがあって、渋谷事変が起きた今、利用して技術を奪っている」


 確かに、その仮説であれば色んなことが繋がってくる。

この事実に疑問を持っているのはなにもマツウラだけではない。

政府に対して不信感を抱く声はネットでは囁かれているし、匿名掲示板ではいろんな噂があった。


 マツウラは、再び足を進めながら、散らかった廊下を進む。


「話は戻るがな、俺がなぜここに連れてきたかって話だな」


 それはそうだった。

マサルが「本題忘れるところだった」と言った言葉を無視して、ジュンはカメラを握る手に力を込めながら、唾をのみ込んだ。

カツ、カツ、カツ、と革靴の踵を鳴らしながら、正面の開いた扉をくぐった瞬間、マツウラは一つ呼吸を置いて言った。


「この異世界教の教祖殺害事件の犯人は世間では伏せられている。だけど」


 一度言葉を区切ったマツウラは扉を完全に開く。


「それが、ショウリさんなんだ」


 言って、扉がキイ、と音を立てて開く。

そこには手術室があって、カビ一つない、銀色の部屋があった。

マツウラの言葉と、その手術室の部屋の様子が、なかなか頭に入ってこなかった。

ジュンはカメラを回しながら、唇をゆっくりと動かした。



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