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 3 謎



「この刑務所はあの渋谷事変以降、閉鎖したから。その後の受刑者の行方については記載がない。これが現状よ」


 カンノは言って、イイジマに視線を向けた。

イイジマは迷彩服のポケットに手を突っ込んで、なにやら考えている。

その様子を見ていると、ジュンの頭にある疑問が浮かんできた。


「でも、検索したのは行方不明者リストのはずですよね」


 この短時間で調べている様子を見ると、おそらく行方不明者リストだけを見ているはずだ。

アクセス権限がどこまであるのかはわからないが、少なくとも。

すると、カンノは切りそろえた髪を片方だけ耳にかけて、続けた。


「そうね。正しく答えるなら、行方不明者リストにも入っている、し、刑務所に入った人物リストにも含まれている。リンク先の刑務所リストにはその後の行方についてが載っていない」

「なにか、裏があるな」


 イイジマが一言、重みのある声で言った。

ジュンは次の言葉に迷って、瞬きを繰り返す。

隣のマサルに目配せをしたところ、彼は状況を理解しているのかいないのか、なにやら渋い顔をしている。

イイジマが重たい石のような声で続けた。


「マツウラという人物に迫り、この件の裏を探ることは必要かもしれない」

「それは、どういう意味ですか。俺さっぱりついていけてないんですけど」


 そこでようやく口を挟んだのはマサルで、イイジマの切れ長の目が彼に向いた。

それからすぐにイイジマは窓際に一度視線を向けたのち、再びジュンとマサルに向き直り、


「テスタ、という機関が噂されている」


 と、言った。


「テスタ、なんかドラッグストアのサンプルみたいな名前ですね」


 マサルがわざとらしく首をかしげて言う。

イイジマは気に留めた様子もなく続けた。


「つまり、この国の陰の部分ということだ。マツウラという男性に、そのイシガミショウリという男の情報を聞きだしてくれ。例えば、関係性、過去、なんでもいい。こちらも少し動いてみよう。ほかに用がなければ我々も仕事に戻る」

「あと一つだけ確認させてください」


 ジュンは話を切り上げられる前に、挟んだ。


「俺たち二人が記録係、そしてその補佐をカンノさんがやっています。その狙いについてです。たしかに記録映像はたくさん役立てる場面はあると思います。しかし、どうして俺たちなのか、なにが狙いなのか、なぜカンノさん自らが動くのか、全く見当もつかない状況ですから」

「今は責務を果たせ」


 ジュンの言葉の途中からカンノは目を細め、観察するように見ていたのだが、ジュンが言い終わるときには、イイジマが一蹴するように言い放つ。

どすの利いた声に、ジュンは怯んでしまったのだが、今度はマサルが気に留めた様子もなく、ひょうひょうと言い返した。


「それはさすがにないっすよ。だって俺たち軍人かもしれないけど、軍人っていってもてんで素人だし、一般上がりのなんちゃって軍人ですからね。きっと、あなたたちから見たら危機管理も甘いですし」


 マサルの言葉は正鵠せいこくを射た。

イイジマはなにやら沈黙を流して、それから口を開いた。


「時期がくればわかる。お前たちが適任であることは確かだ。今はそれしか答えられない」


 イイジマの言葉に眉を持ち上げるカンノが見えて、ジュンは小さくうなずいた。

それしか、できなかった。

とにかく二人のたたずまいから、なにか狙いがあることだけは正確にわかった。

ジュンはひとまず業務に戻ることにし、真っ先にマツウラに連絡しようと決めた。





「要するに、チュンちゃんはやることがないからって理由でマツウラさん? の捜し人のことを上司に相談したわけだ」

「まあ、そういうことにもなります」


 と、マサルの言葉にジュンは言葉をにごした。

捜している相手がいるのはなにも、マツウラだけではない。

ジュンもその一人で、先日出会った、母の姿をした異世界転生者の行方に繋がるという計算もあった。

あくまでその真実については沈黙を貫いているが。


 それからすぐに自室のパソコンの前に戻り、マツウラに電話をかけた。

四回目のコールで、相手が出た。

スピーカーモードで、マサルにも聞こえるようにしている。


「とつぜんお電話してすみません。さきほどお話した畠山隼はたけやまじゅんと申します。マツウラさんのお電話で、間違いないでしょうか」

『さっきってことは、ユーチューバーの兄ちゃんか。早いな』


 咄嗟とっさにマサルの頭に浮かんだ疑問符を封じるように、ジュンは人差し指を立てた。

今はユーチューバーということにしておかなければ事情の説明が厄介だ。


「あの、調べる前に少しお聞きしたいことがあって」


 そういうことか、と、マツウラの声があった。

タバコを点けているのかライターのカチ、という音がした。

ジュンはひとつ間をあけて口を開く。


「さっそくなんですが、お名前の漢字と、どういう人だったのか、またマツウラさんとどういう関係だったのかを聞きたくて」

『そういうことなら、今から会えるか?』

「大丈夫です」


 即座に返答した。

スマホの時刻を見ると、午後四時三分だった。


『青山一丁目だと都合がいいんだが、今はどこだ?』

「旧赤坂プレスセンターの近くです」

『じゃあ、なにかと丁度いいだろう。それじゃ、十七時でどうだ?』


 了解しました、そういう短いやり取りがあって電話を切った。

切った途端、マサルがジュンを覗きこみ、わざとらしくカラクリ人形みたく瞬きを繰り返した。


「チュンちゃんユーチューバーだったの? 実は有名人?」

「いや、あれは嘘です。さすがに軍人だって言ったら警戒されますし、それに相手の素性もわからないですから」


 そう言ってジュンはスマホを手に取って準備をすることにした。

機材一式を手に向かうわけだが、この件についてイイジマが言っていた機関のことが気がかりだった。

また、イイジマやカンノが動くほどのなにかがあるのだろうか。

どちらにせよ、深い入りはしないほうがよいのかもしれない。


 移動の途中、普段あまり見ないネットニュースを見た。

ほとんどが世界情勢ばかりだったが、先日の軍施設であるモールを巻き込んだ異世界侵略のニュースが並んでいた。

その端っこに、『異世界教の教祖殺害事件』と書かれている。

ジュンは移動中に読もうと、その記事を開くことにした。



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