1 ジュンの想い
1 ジュンの想い
ジュンは一旦別の施設に移動し、編集作業に追われていた。
ここ何日かで連続して体験した出来事を思い出しながら、それでも青い炎が確かに胸の内側にあることを確認したりして、まだ大丈夫だ、と思う。
それでも、首から提げているUSBメモリを握るくせが頻繁に出始めていることは、一つのサインだとも思った。
うす暗い部屋で、パソコンと向き合って淡々と編集作業をする。
この動画を撮る意味も、やはり今はわからなかったが、やりがいがある仕事だとは思う。
なにせ、映像クリエイターにずっと憧れていた。
メディアや広告がもっと機能していた頃であれば、未来は開けたかもしれない。
しかしドキュメンタリーを撮っているので、希望した職種であるといえばそれまでなのだが。
ジュンは不意にUSBメモリを握っていたことに気づき、思わず視線を落とした。
ケースに大事に入れられたUSBメモリには、あの頃の動画が今でも入っている。
先日の件を考えると、防水仕様でよかった、と思う。
久しぶりに見てみよう。
そういう考えが浮かんで、浮かんでしまってからはそれが消えなくなった。
だからジュンはパソコンにUSBを差し込む。
すぐにフォルダが表示された。
そこには一つ、MP4ファイルがあって、タッチパッドをダブルタップする。
すると、画面に、あの頃の懐かしい動画が映し出された。
映像は最初、乱れていて目視できない。
子供の声――幼いジュンの声――があって、それから映像が安定した。
そこに映されていたのは、畠山明子、ジュンの母の姿だった。
勝手にスマホを操作しているジュンに笑いかけ、スマホを返したくないジュンとの、母子の時間が切り取られていた。
それから動画がすぐに内カメラに切り替わり、ジュンの姿が映し出されて映像が終わる。
「俺は、笑えていますか」
急に不安になった。
「あなたの望むとおりに、笑えていますか」
そんなこと言うつもりもないのに、言葉があふれてきた。
なんだか危ない気配がして、ジュンは本来の手順を踏まずにUSBメモリを引っこ抜いて、急いでケースにしまった。
なにを言っているのだろうか。
疲れているに違いない。
顔を洗おうと椅子から腰を引きはがし、洗面台に向かう。
当然だが、鏡があって、そこに映り込んだ無表情の自分自身が映っていた。
やはり、笑ってはいなかった。
なんだか胸の内側で、燃え上がるなにかがあった。炎が、オレンジ色に染まる。
それからこの間の母の姿をした異世界転生者についての報告の問題が再び脳内の議題にあがる。
ジュンはひとまず蛇口をひねり、すべてを保留するように顔を洗った。




