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 3 外出許可



「で、フツメンとブサメンが声かけてきてご飯おごってくれるって、どういう状況?」


 本人の希望で、焼き鳥が食べたいとことで外出許可を得てお店に来ているのだが、注文が終わって開口一番、ユキが言った。

静まり返る男性陣(ジュンとマサル)は顔を見合わせ、瞬きをする。

マサルが唐突にジュンに向けて言った。


「ブサイクだってよ」

「お前のことだし」即座の訂正がユキから入った。

「うわ、なんだコイツ態度悪!」


 マサルがジュンに助けを求めながらユキに指をさす。

しかしジュンはカメラの位置と、三脚のバランスと、映像が気になって覗きこんで角度を調整した。

私服姿に着替えた三人だったが、ユキは確かに整った顔立ちをしている。

メイクをしっかりと済ませ、ブロンドの長髪を後ろで結び、アイラインをキリっと伸ばし、シュッとした小鼻に小顔が印象的だ。

ジュンがカメラから手を離したとき、ユキが肩ひじをつきながらいぶかしむような感じでジュンとマサルを交互に見つめた。


「基本外出届け出すのもなかなか骨折れるのにさ、すんなりオーケーもらってるし。アンタら一体なんなの?」

「俺は、畠山隼はたけやまじゅんです。ジュンで大丈夫です」

「マサルー。マサルだよー」


 完全にマサルはやる気を失っているのがわかったが、タイミングを図ったようにドリンクが運ばれてきた。

生ビールをユキ、オレンジジュースをジュン、ハイボールをマサル、順番にドリンクが置かれ、ユキはメニューを手に取った。


「あ、追加頼んじゃお。ハツと、ささみ、うずらの卵、ねぎまに、砂肝、あとレバー。二人も頼んじゃいなよ」

「誰が支払うと思ってんだ。こっちは減給されたばっかだぞ」

「えー、超ダサいじゃん」


 マサルが地団駄じだんだでも踏みそうな様子で、眉をひそめている。

今にもとびかかりそうなほどだ。

数秒後、彼の中でなにか解決したのか肩を落として椅子の背もたれに身を預けた。

そして愚痴をはくみたいにこう言った。


「こんなことならチュンちゃん一人でもよかったじゃん。俺あのメンズたちに明日刺されて死ぬとかイヤなんだけど」

「ユキさ、カワイイからね。マサルっちもうちょっと男前だったらねー」


 マサルはもう言い返すのも疲れたみたく、盛大なため息をついた。

店員の「何本ずつですか?」に対して「三本で。いったんそれで」と追い払うように応じた。

このノリに付き合わされる店員に、ジュンは同情し始めていたからだ。


「それで、いきなりですけどどうして軍に入ることになったんですか」


 ジュンは彼女の懐に踏み込むことにした。

生ビールを乾杯もせずに飲み始めたユキは、一度視線を伏せて、それから二人に目配せして言いだす。


「適性検査で成績よかったからさー。でもほとんどアレ無理矢理だったんでしょ? だけど私はお金のために自分からノリノリできたよ?」


 そう言って、お通しの漬物を一つ、箸でつまんだ。


「私は所詮水商売のオンナだけどさ。街歩いてても自分よりもレベル低いんだもん。そう思うと夜職も疲れたし、いい仕事ないかなって思ってたからさ」


 軽い口調で言いながら、ユキは漬物でビールを流し込む。

彼女の口調に、ジュンは先日のマサルの姉の件が思い出された。

あれだけの危険を伴う、あれ以上の危険が訪れる可能性もある。

その事実を、軍は説明しているつもりだろうが、当人たちは事実を目の当たりにはしていない。

連鎖式に母親の、アキコのことが思い出されたが、なんとか無理矢理、胃の辺りまで押し込める。

ビールを半分ほど飲んだユキが、おもむろに切りだした。


「で、もしかして金持ち? 上の人? 今日のご飯はおごりでしょ?」

「俺たちは記録係です。まあ、このご飯代は経費で落ちるかと」


 そ。と、答えるユキに、ジュンは次の質問をすることにした。


「趣味はなんですか」


 なんだか質問のしかたが合コンか面接のようだ、と端的に思う。

しかしうまくインタビューをできないジュンには、事前に用意した内容を言うことしかできない。

ユキは少し考えて、ブロンドの髪を耳にかけながら言った。


「たくさんのお金を集めることかな。当然だけどお金じゃ買えないものもあるよ? けどお金があれば安心する。その安心感は、他じゃ買えない」

「危険な仕事だと説明があったはずです」

「みんなどうせ死ぬんでしょ。だったら、たーんまり稼いで豪遊して死のうって思って」


 ユキが眉を持ち上げながら言うので、ジュンは次の言葉を失って黙り込んだ。

なにか彼女から一枚ではない感情が見えた気がしたが、とにかく次の話題を切りだそうと考える。


「死なないために、軍があるんだろ」


 突然言ったのは、マサルだった。


「日本はいままで自衛だっただろ。それが軍を作ったんだ。それに、異世界生物の発生はなにも渋谷だけじゃない。全国、全世界で起きてる」

「だけど、私にはなんもカンケーなくない?」

「俺はこないだ姉ちゃんが異世界転生者に体を乗っ取られた」


 ふうん、と言いながらチラリと視線を向けるユキに、マサルはあくまで冷静な口調で続けた。


「日に日に近づいてる。日に日に拡大してる、ウイルスみたいにな。それを目の前にして、俺は世界が一つ一つ壊れてるって思った」


 マサルの言葉を否定する者はこの場には誰もいなかった。

ユキは相変わらずビールジョッキの取っ手を握りしめたままだったが、それでも一度視線を伏せてジュン、マサルの順番に見つめ、


「友達が渋谷で化粧品売ってたんだけど、あの事件で死んじゃった」


 死んじゃった、と淡々と言った。

しかしどこか他人事のように話している感じでもなかった。

ユキは続ける。


「それでも現実味はないし。お金はどうしても必要だし。生活は続くでしょ。戦争だろうが、円安だろうが、私の人生は続くわけじゃん」


 彼女の言葉は正しい、とジュンは思う。

マサルも同様の考えなのか、静かに続きを待った。

すると、ユキが前のめりになっていた体を椅子の背もたれに戻して肩の力をフッと抜いて口を開いた。


「なに。せっかく外出たのに辛気臭い話とお酒って、イヤなんだけど」


 口をすぼめて言うユキは間髪入れずに続ける。


「それじゃ、逆に質問していい?」



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