⑤
「あれ?航大さんじゃん!」
すぐ隣に座っていた友達が航大にかけた声で我に返る。
「おーお疲れー」
航大が軽く手を振りながらこちらに寄ってきた。どうやら友人は航大と仲がいいらしい。
先ほどまで航大と一緒に歩いていた明日香は面識のない集団に向かう航大へついていくべきかを迷い、所在なげに視線を彷徨わせて…晃太と目が合った。途端に笑顔を見せてこちらに小走りで寄ってくる。
ーーーーーーかわいい。
「お疲れ様!そっか、晃太も工学部だから航大と一緒なんだね」
「お疲れ様です。まあ、直接は知らないですけど。明日香さんは航大さんと仲いいんですか?」
少し険のある言い方になってしまっただろうか。
「そう、高校が一緒で腐れ縁なんだよね」
まー家族ぐるみの付き合いだから幼馴染みたいなもんかなと苦笑する明日香をじっと見下ろす。
こうやってみると意外と小さいんだなとか、今日は髪を下ろしてるんだとか、航大さんとはそんなに仲良いんですかとか、俺のことーーーーーー
「えっ、なんか怒ってる…?」
明日香から恐る恐る、といった口調で見上げられてはっとした。女性にしては背が高い方だと思うが、自分より小さい女性の上目遣いって可愛いんだな。いや、明日香のそれが可愛いのか。
「怒ってないっすよ、そう見えます?」
「見えるよ!晃太の情緒ほんと分かんないから…」
「いや俺、明日香さんには怒んないんで」
嘘だ、いまだに機嫌がわかんなすぎてビクついてる、と冗談まじりに言う明日香にややショックを受ける。
俺そんなに表情死んでんのかな。今更自分が周りからーーーー明日香からどう見えるのかが気になってしまう。
「ハスミー、そろそろ行くぞー」
「あっ、今行く!」
航大から声がかかり明日香はじゃあまたね、と未練なく行ってしまう。まるでこの後の予定なんて存在しないみたいだ。
自分だけが楽しみにしていたような気がして少し落ち込む。まあ避けられてるくらいだから、当たり前といえば当たり前ではあるが…。
さっきまでのそわそわした気持ちが萎んでいくような気分になって、どう持ち直そうかと思案する。と、あ、と何か思い出したかのか明日香がこちらへ引き返してきた。
そしてーーーーー
口元に手を添えてイタズラっぽく笑いながら囁く。
「…メッセージありがと、13時に正門出たとこね」
ーーーー分かってるよ、みたいな顔してるけどあんた、多分なんにも分かってないからな。
クソ、覚悟しとけよ。