④
毎週水曜3限を晃太に捧げることになった。
多分寿命か何かとトレードオフになってるとしか考えられない。もしかしてこの後にとんでもないドン底が待ってたりするかんじ?
「どっどっどっどうしたらいいかな!?」
「それほんとに嫌われてんの?」
「そんなの私が知りたいよ…」
もしかして何か食い違ってるんじゃ、と呟く航大を横目に明日香は頭を抱えた。
「嫌われたくないからこれ以上仲良くなりたくないのに、うっかり喜んじゃってる自分もいる…浅ましい…」
「お前ってやつはだいぶ厄介だな」
そんなことは自分でもよく分かっとるわと航大を睨め付けながら1週間前を思い返す。
あのあと晃太とカフェに行ってお目当てのプリンを2人で食べたのだ。普段甘いものとか食べないんで新鮮です、と狭い店内で体を縮こめる晃太が可愛くて眼福だった。
さらに期間限定配布のプレゼントとかでプリンから手足が生えているストラップももらった。お店の看板キャラクターなのか微妙に可愛くないデザインではあったが、図らずともお揃いなのである。
沸き立つ気持ちを抑えて「晃太もカバンにつけなよ!」と冗談半分でいえば、なんと本当にリュックにつけてくれた上に「お揃いですね」とイタズラっぽく返してくれたのだった。完全に息の根を止めに来てるんだと思った。
他にも気になるお店があったら来週行きましょう、と言われて別れてからの記憶がほとんどない。幸せホルモンが出すぎて脳が溶けたのかもしれない。
これは死んでも外さないお守りなんだ、とニヤつきながら呟く明日香とカバンにくっついているソレを気味悪そうに見遣ってから、それにしても、と航大が口を開く。
「その子もよく分からんね。苦手と言っておきながら毎週デートに誘ってくるんでしょ」
「デート!!!??!」
「うるさ、静かにして。どう見てもデートだろ」
もしかして週次でデートできる権利を得たってこと?その発想はなかったよ、ナイス解釈航大。
そうなるといよいよ晃太が何を考えてるのか分からない。
もしかして何かのドッキリとかかけられてんのかな。だとしたら人間不信待ったなしじゃん、怖すぎる。
今日も晃太に会える権利があることに舞い上がりながらも目的の見えない行動に悶々とするのであった。
人には執着しない性質だと思ってたけど、全然そんなことなかったみたいだ。
ここ1週間、どう彼女を落とそうかばかり考えている。
あれからも明日香との距離感は保たれたまま、なんとなく避けられているのも相変わらずだ。せっかく顔を合わせているのに部活中も部活後も大した会話はできていない。
だがもはやそんなことはどうでもいい。今の晃太には毎週水曜日に明日香と会える約束がある。欲をいえばもう少しプライベートな時間がほしいが、強引に取り付けた自覚はあるため贅沢は言えない。それに口説く時間は十分にある。
そんなわけで明日香とスイーツを食べに行く名目ではあるけれど、絶対に他の人を誘うつもりはなかった。明日香も同じであってほしいと思うのはわがままだろうか。
お昼を食べ終え、「もういけます」と明日香にメッセージを送る。待ち合わせの時間にはまだだいぶ余裕はあるが、あわよくば早めに会いたいと晃太は席を立った。もちろんそのリュックには不審なプリンがぶら下がっている。
「あれ晃太、今日は用事あんの?」
「うん、毎週用事入った」
立つと同時に先程まで昼を過ごしていた学部の友達から声をかけられる。
なにそれ、という投げかけには特に何も返さず、つい、と視線を上げると。
「…まじか」
じく、と腹の奥で何かが焦れる。
そこには学部の先輩である航大と、
ーーーーーー見たことのない顔をした明日香がいた。