①
デカい後輩から迫られるのいいな、という妄想を勢いだけで書きました。
「仲いいと思ってた後輩から実は嫌われてたっぽい、キツ」
学食の坦々麺をつつきながら、蓮水明日香はそうぼやいた。
目の前に座ってカツ丼を掻き込んでいた渡邉航大がその手を止めて目を瞬かせる。
「え、ハスミ部活で浮いてんの?」
「ちげ〜〜」
浮い…てないと信じたい。あとコイツに相談したの、間違ってたかもしれない。
後悔先に立たず、と明日香は長めにため息をついてから同じ高校出身の腐れ縁に現状を説明した。
「バスケ部の後輩にさ、まぁちょっといい感じかも〜って思ってた後輩がいたんだけど。この間部活前の準備時間に後輩同士で話してるのちょっと聞いちゃったんだよね」
お前最近明日香さんと仲いいじゃん。付き合ってんの?
ーーーいや、そんなんじゃない。ていうか、どっちかっていうと苦手なタイプだよ。
「いやーー私の勘違い乙でしたって感じ。ハァ〜勝手に正しく振られててダサい…」
「想像以上に可哀想だった…」
明日香は大学の男子バスケ部に所属している。
他大学と比べると弱小であったがマネージャーとしてはやりがいもあり明日香はこの部活を気に入っていた。
だが昨年からその様子も変わってきていた。というのも昨年の入部者が大変に豊作で、特に高校バスケでも知名度の高い高校から3人も入部してくれたのである。強豪とは言えない我が大学には貴重な人材だ。
その中の1人が件の後輩・和田晃太であった。
自他共に認めるストイックさで周りと一線を引いている男と、結構仲がいい方なのでは?なんて自惚れていたわけである。思い出すだけで恥ずか死ねる。
「てかハスミ好きなやついたのか」
「好きっていうか、ちょっといいなって思ってたんだよ。そして皮肉にも昨日知らないところで振られて好きなの自覚した」
「悲しすぎ」
元々ビジュアルがストライクではあった。入部当初に勢い余って「和田くんの顔めっちゃタイプなんだよね!!」とデカめの声で主張してしまったくらいには顔が好みだった。眉毛がちょっと太めな精悍な顔立ちで、でもタレ目で笑うと可愛い。デカくて寡黙で全然表情が動かなくてなかなか懐かないくせに、一度懐に入れてしまうと気まぐれにじゃれついてくるところが大型犬みたい。
こだわりが強いところも自分にストイックで真面目なんだなと思うし、それが実力に繋がっているから尊敬している。
「いいなどころかだいぶ好きじゃん」
アレ?めちゃくちゃしっかり口から漏れてた。
「とにかく顔が好きすぎるのは本人も周りも知ってる」
「ウワッ猛者だねぇ」
しかし悲しいかな、恋だと自覚すると同時に終了している。まったくこの恋心が大層不憫なものである。あとは顔が好きだと言いふらしていた黒歴史が風化してくれることを祈るのみ。
まあでも、と思い直す。変に勘違いしたままのぼせて告白でもしていたら再起不能なほどダメージを負っていたはず。そう考えると今のうちに引き返すことができてむしろラッキーだったのではないだろうか。
「あ〜、今日どうやって顔を合わせたもんかね」
本人から直接拒絶の言葉を聞いたわけでもない。でもそれが逆にリアルなわけで。
日常は続くのに感情は追いつかない。
今日の部活を少し憂鬱に思いながら、明日香は残りの坦々麺をすすったのだった。