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7.砕ける決意


 大聖堂の鐘が打たれるとともに、音楽隊の演奏が始まる。


 今日は、王国建国記念日。

 隣国との関係も現在は安定しており、祝祭も規模は例年より縮小したものの王宮の庭は、大勢の人達で賑わっている。

 また、王宮内でも既にお茶会が始まっている。侯爵家や伯爵家など上流階級の夫人は紅茶を片手に戦いを繰り広げていた。

 

 はあ、今年はあの中に入ってかなきゃならないなんて…憂鬱だなあ


 衣装係に着替えさせられた自分を鏡越しに見つつ、これからのことを考えて辟易する。


 昨年通りであれば、デイヴィットの出番は式典のみで、それ以外は同年代の子供達とお喋りしていればよかったはずだった。

 しかし、デイヴィットの母が「せっかくだからお茶会に出席するように」と、参加者に加えてしまったのである。


 これは完全に、一目見ることすらできなくなっちゃったなあ。


 わかっていたことではあったが、僅かな可能性すらも消えてしまい肩を落とした。

 

 当然のことながら、祝祭をはじめ、大規模な催しが行われる日は自由時間はなく、警護の人数も増える。よって、会いに行くどころかたとえアルビーを見かけたとしても、ほんの僅かだけ視界に入れることすらもままならないのだ。


 それに、今日は両親の目があるのに加え、叔父の内の一人も招かれている。

 万が一にも、デイヴィットの視線を辿った先にアルビーがいた、なんてことは避けなければならなかった。  

 

「デイヴィット王子、王妃様がお呼びです」


 ノックの音に了承すると、いよいよ母からの呼び出しがかかり気を引き締め直す。


 幼いデイヴィットを配慮し、途中参加であるからといって気は抜けない。

 

「ああ、今行くと伝えておいてほしい」


 早足で母のもとへ向かった後姿を見送り、そろそろ向かうかと、回廊へ出た。





 ほどよい青空が広がる中行われるお茶会は、特に大きな問題が起こることもなく順調に進んでいた。ときどき折り合いの合わない家の者同士が、火花を散らすこともあるが許容範囲である。


 このままつつがなく終われば、軽食を食べた後に式典用の衣装に着替え、いよいよ本番となる。


 式典は例年通りやるとして、懸念すべきは脱出の方なんだよね。 


 伯爵夫人の話に相槌を打ちながら、危惧するのは、アルビーとアンドリューのことだ。

 作戦では、ジェシカの家が所持する荷馬車で抜け出す手はずになっていた。アンドリューの案内で王宮の荷馬車置き場へと向かったのち、荷台に乗り込むのである。


 建国記念日では、伯爵家や侯爵家の者で王室に土産物と称した献上品がある家が多い。そのための輸送手段としては、複数の荷馬車を持ってくることがほとんどだ。ジェシカの家も伯爵家に該当するため、不自然なことは何もない。

 検査役も、王宮内に入ってくるときは念入りに検査するが、出るときは荷台の中身まで見ることはほとんどないのだ。


 抜かりはないはずだけど…。


 デイヴィットが思案している間にも、お茶会の時間は進んでいった。

 今は、式典後の歓談の場での話題で再び仲の悪い伯爵夫人同士が言葉の応酬を繰り広げているところだ。


 にっこりとした笑みは崩さずに、内心うんざりして両夫人を見遣る。

 

 母上も仲裁に入らないから、より悪化しちゃうし。


 当たり前だが、このお茶会は母が主催者でありこの場の進行も必然的に、母にゆだねられている。それにもかかわらず、悠然とお茶を楽しみあどけなく微笑む姿は、はっきりいって仕切れているとはいえないものだ。


 いよいよ待機していた侍女が、終了の時間を母に伝えたことでようやくお開きとなった。 




**********

 


 軽食や式典準備も終わり会場へと向かうべく、花々が咲き誇る庭園の小道を歩く。

 午前中よりもさらに身辺警護の人数は増え、騎士三人に世話役用の侍女が二人を供にデイヴィットは歩いていた。

 

 式典の向け、そろそろ貴族以外の人々は王宮の敷地から退去させられる時間である。

 

 アルビーは荷台に乗り込んだ頃かな。


 無事にジェシカと合流できたか気にかけながらも、感じるのは胸が空っぽになってしまったような、寂しさだった。


 

 結局のところ、デイヴィットは魔術機器を渡すことはできずじまいでいた。

 そのため、これから先アルビーと連絡を取り合える可能性は、限りなくゼロに近かった。というのも、そもそもまだ幼いデイヴィットが秘密裏に購入できるものなどなく、どうあがいても両親に情報が行ってしまうのは避けられなかったからだ。


 危険に晒すくらいなら、おれが我慢した方がずっといいもんね。


 そうわかってはいたが、喪失感を誤魔化すことはできなかった。

 

 

 せめて周囲に気取られないようにしなければと、気を張り直すと何やら周囲が騒がしいことに気が付く。



「お、お待ちください!お約束を取り付けてるか、王子から許可をいただけないとお通しできませんっ」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないのっ」


 誰かがもみ合う声が気になり立ち止まるも、侍女たちは気にすることではないと宥めてくる。

 

 …これって、ジェシカの声?なんでこんなところで!何か不測の事態が起こったんじゃ…!


「ジェシカッ」


 騎士や侍従達の前で取り繕うことも忘れ、声の方向へ走る。


「なっ!お止めしなければ」

「王子っ、お待ちください!」



 声の聞こえた方向へ、ひたすらジェシカを探しながらひた走る。


 まだデイヴィットの身長では、花垣を越えた景色までは見ることなどできず、騎士や侍従の追手を逃れながら探すので精一杯だった。


 おそらく騎士達は、本気になればデイヴィットを捕まえることなど造作もないことなのだろう。しかし、常に品行方正で手を焼くことのなかった王子に対し躊躇しているようだった。


 

 やっとのことで合流できたジェシカは、気が動転しているのか今にも泣きそうだ。ドレスや靴が泥まみれで何度か転んでしまったことがわかる。


「ジェシカ、いったい…」

「いいから来てっ、アンドリューが大変なの!」


 アンドリューが?


 予想外のことに訝しげに思いながらも、ジェシカに引っ張られ急いで走る。


 騎士達は、捕まえるのは諦めたのか少し離れたところからデイヴィット達に付いてきている。


「ここよっ……」

「なっ…あなたは…」


 予想外の人物に驚き目を見開く。



「デイヴィット殿下、我が愚息がご迷惑をおかけしたようで失礼しました」


 デイヴィットに振り向き、深々と一礼する姿は歴戦の騎士の風格を漂わせ、瞳はこちらの思考をも見抜くようだった。



 そして何より、皆の視線が寄せられるのは腕を引きずられるようにして倒れているアンドリューの姿だ。


「…ニューベリー第一騎士団長、アンドリューになにを?」

「なに、デイヴィット殿下と共に居るはずのこれの姿が見えないと、部下から耳にしましてね。探し出して見れば、怪しい子供を連れていたもので…」


 そんな…!僕の警護に第一騎士団の者なんていなかったはず。


 そんなデイヴィットの疑問など、お見通しであるかのように第一騎士団長は目を細めると、蹲るアルビーを横目にこう言った。


「女王陛下から直々に頼まれたのですよ。なにやら最近ネズミが一匹紛れ込んだようだから、然るべき場所に処分してくれと」


 

 母上が!?ばれてたのか…いったいどうして。

 

 

 頭が真っ白になり、その場から動けない。

 どちらにしろ両親にばれてしまっては、もうどうすることもできなかった。

 

 何が逃がして見せるだ……友人達をこんな目に遭わせて、結局こんなことになって…。


「今さら、貴殿の存在が明るみになっても困るのですよ…アルビー殿下」


 こうしている間にも、アルビーを拘束すべく、距離を縮めていってしまう。


 

 じりじりと距離が狭まり、アルビーへとその手が伸ばされた__その時だった。


 アルビーを拘束するべく腕を離された一瞬をつき、アンドリューが立ちふさがったのだ。

 その顔は何度か殴られたのか、頬は真っ赤に染まり腫れあがっている。


「アンドリュー…もう、もういいんだ。お願いだからっ…やめてくれ」


 アルビーはもう我慢ならないという風に、まだ諦めまいとするアンドリューに訴える。


「全く、無駄だということを少しも学習しとらんとは…躾が足りなかったか?アンドリュー」


 その言葉と共に、第一騎士団長は再び腕を掴むと空中に向かって腕を振る。アンドリューの体は放り投げられ、ひどい音を立てジェシカの少し前へと落ちた。


「アンドリュー!!」


 ジェシカの悲鳴と泣き声が辺りに響く。


「これはこれは、ダーヴィル家のお嬢様ではありませんか。申し訳ないことをした、とてもレディーに見せるものではありませんね」


 まだまだ躾が足りないという様にさらに罰を与えようとする姿に、とうとう我慢がならずデイヴィットはその身を盾に相対した。


「おやおや…ハハッ失礼。どうか愚息をこちらへ…デイヴィット殿下の元を離れただけでなく、こんなものを匿っていたとは」

「こんなもの…?」

「ええ、殿下はあずかり知らぬことでしょうが。その方の拘束を外し逃げ出す手助けをするなど、見逃すわけにはいかぬのですよ」


 さすがにデイヴィットに手を出してまで、躾をしようとは思わないのかその身を翻そ矛先を変える。今度こそアルビーを拘束しようとしているのが見て取れた。


「さあ、参りましょうアルビー殿下」


 泣き崩れたまま、憮然としているアルビーに手枷をかけるべく拘束する第一騎士団長。

 あたりはジェシカのすすり泣く声が広がり、アンドリューは身じろぐ様子さえない。

 

 そして、周囲の者に守られ第一王子という身分ゆえに見逃されたデイヴィットは無傷のままだ。


 

 おれじゃ、アルビーを救えない。

 

 友人達も巻き込んでおいて…何が幸せにするだ。


 こんな、無力なおれじゃあ……駄目なんだ。


 何もできず立ち尽くしたまま、デイヴィットの心には苦々しい虚しさだけが沈殿していった。


 

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