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5.心に秘める決意


「えっと…とりあえず小屋の中に入るかい?」


 呆然として声も出せない3人を見かねて、アルビーが中へ入るように促す。


「アルビー!そんなことしたら…」

「ぜひ!そうさせていただきたいですわっ」


 危険すぎる行動に、慌てて反対しようとしたがアルビーの二人を迎え入れる姿を見て、デイヴィットも渋々その流れに続いた。





 報告されるのだけは防がなきゃ…。


 何かいい策はないかとオロオロしていると、アンドリューに釘を刺される。


「悪いが王子は口を挟まないでくれよ?…こんな場所で匿ってるってことは正式な招待客でもないんだろうし。俺たちが話を聞いて、判断する」


 古びた木の椅子に座り、やれやれといった感じでジェシカにも視線を向ける。


「ええ、それで良くってよ。もう!小鳥とか子犬とかを予想していたのにっ…まさか人間を飼っていたなんて!!」

「飼ってない!…匿ってるの!!」

 

 口元に手を当てて大げさに嘆くジェシカにムッとし、とっさにつっこむ。


「…ジェシカ嬢、ったく結局こうなるんだから。えっと、アルビーさん?であってますか」

「ああ、僕の名はアルビー・ラッセル・ヴィルトゥエルだよ」

「…ヴィルトゥエルって、それは」

「この国の第四王子だったはずなんだけど、今では存在しなかったことになってるようでね」

 

 そう言って首をすくめて見せる王子に、目を見開くもアンドリューは、務めて冷静に聞き返す。

 

「詳しく伺っても?」

「ああ、僕がわかることなら」


 まだまだ、口喧嘩が終わりそうにない2人にお互いクスっと笑みをこぼしていたが、視線はそれぞれ相手を注視することに全力を注いでいた。


「…では、あの二人はしばらく落ち着かなさそうなので、俺が質問させてもらいますね」

 

 おれも、話に加わりたいのに~!


 探り合いを始めた二人の横で、ジェシカの非難を浴びるデイヴィットは一刻も早く会話に加わるべく必死に宥めるのだった。



 



 それから、約30分後。


「あ、頭が痛い…」


 質問と回答を幾度も繰り返し、まるでおとぎ話のようなことを言ってのけるアルビーにアンドリューは、頭を抱えていた。


 最初こそ、自分を第四王子だとのたまう少年の素性を明かしてやろうとすら思っていたのに、だ。


「ほら、アルビーは危険人物じゃなくてむしろ被害者なんだよ」


 腕を組み得意気に、ニヤニヤ見つめてくるデイヴィットにアンドリューは、疲れたようにため息を漏らした。



 本来であれば、ウィルフリッド王と6歳差の腹違いの弟であること。

 デイヴィットに助けられるまでは、魔術機器らしき水槽に20年間も拘束されていたこと。

 アルビーとしては20年たったという感覚はなく、1日しか過ぎていないように感じていること。



 そして最後に、拘束されたのは謁見の間にて行われた、婚約破棄の終盤に差し掛かった頃合いだったということ。


 最後のことに関しては、デイヴィットも知らなかったようで顔を真っ青にしていた。



「う、受け入れたくない…こんな妄想じみたこと」 


 項垂れるデイヴィットに、更にとどめを刺すようにジェシカがそういえば、と指摘する。


「アルビー王子が身に着けていらっしゃるお洋服どこか見覚えがあるわ。お父様の衣装棚の奥底に似たような型の物があったはずよ」

「…つまり?」

「20年間拘束されてたのは本当じゃないかってことよ。だって、この衣装…型が古すぎるものっ!」

「ふ、古いかぁ」

 

 不意すぎる非難に若干ショックを受けるアルビーをよそに、プンプンと目を吊り上げる。


「ジェシカ嬢その辺に…でも、謁見の間で拘束されたってことはその場にいた人も多かったんじゃないか?」

 

 アンドリューは宥めつつも、処理しきれない情報量に敬語で取り繕うのも忘れ、ポツリとこぼした。

 

 婚約相手であった令嬢も含め、被害にあった者達が招集されたのなら、それなりの人数にはなったはずだった。

 

「婚約破棄の時に居合わせた人に話しが聞ければ、そりゃあ進展するだろうね。でも、危険すぎるでしょ?」


 だって、王族の家系図からも抹消されるなんて余程うしろめたい何かが関わっているとしか思えない…。


 三人は知り得る限りの知識を持って、第四王子や婚約破棄に関連する出来事がないか話し合ってみるも、全く思い当たることはなかった。

 まるでアルビーの存在だけがポッカリと切り取られたかのように。

 

 結局20年前の真実にたどり着くには、明かされていない謎が多く報告するかどうかの判断も定まらないまま、引き上げる時間になってしまった。


「そろそろ皆、帰った方がいい。ここへも少ない自由時間を使ってきてくれたんだろう?」


 そうして、アルビーの言葉を皮切りに、小屋を去ることになったのである。

 



 人気を避けながら、王宮への道をたどる。

 三者三様に、まだ十歳にもならない彼らには、重すぎる思いを抱えていた。

 気まずい雰囲気が漂う中その沈黙を破ったのはジェシカだった。


「アタシは王子の秘密、黙っといてあげるわ」


 ハッとして、俯いていた顔を上げる。


「知ってるでしょ?アタシ、曲がったことが嫌いなの」

「でもっ…もしかしたらジェシカ達にまでお咎めが行くかもしれない」


 自分で言っておきながら落ち込んでいると、ため息とともに、デイヴィットを鼓舞する声が降ってきた。


「それで?第四王子のことが王の耳に届きなんてしたら、もう二度と彼に会えないわよ」

 

 アルビーは再び拘束されもっと残酷な刑に処されるのかもしれない。

 デイヴィットもきっと、今まで許されていた自由を取り上げられる。

 もしかしたら、この二人も何かしら理由をつけて別の者に変わってしまうかもしれない。


 今では、そんな考えが当たり前のように出てくることに自嘲する。


 つい最近まで、正善で濁りなど全くない国だと、疑ったことなんてなかったというのに。


「はあ、俺も黙っとくからさ。そんなに落ち込むなよ!」

「ええ、ええ!いつものように生意気にしてればいいのよっ」


 涙ぐみそうになり、歯を嚙みしめ二人に向き直る。


 アルビーのこと諦めなくていいのかな。

 

 本当は、幸せにするなんて言っておきながら、この王宮から逃がすことさえできずに終わるなんて、嫌だった。20年前の顛末を知らずにのうのうと生きるのも。


「あとね、王子。」

「なあに?」

「あの子の前でいつもの猫、被ってなかったでしょう?」


 突然の指摘に目を見開く。


「それは俺も驚いた。王子が素を出すのなんて授業後の自由時間しかなかったのに」


 言われてみればそうだった。

 国を愛し平和を望む父に、そんな父を慕い忠誠を誓う側近。

 デイヴィットを幼いころから乳母に任せきりにはせず、世話を焼こうとする母。

 

 そんな周囲に囲まれておきながら、デイヴィットは気を許すことをしなかった。

 気を、いつからか許せなくなっていた。


 だから、唯一自分をさらけ出せるのは、幼馴染のジェシカしかいなくて。

 そしてそれに続くようにアンドリューも加わった。



「おれは、大切なものを失いたくない。本当の自分を、ありのままのおれを受け入れてくれる存在を奪われたくない。アルビーも、この一時の自由も…」

「ああ、それに王子には20年前の出来事について知る権利がある」

「もう、最初からそう言えばいいというのに。なにを戸惑ってるんだかっ!」


 絶対にアルビーを、この王宮から逃がして見せる!

 20年前の出来事も解決して、おれが立派になってアルビーの足枷になるもの全部、なくすことができたら。

 また今みたいに一緒に笑っていたいな。


「二人とも、本当にありがとう…」 

 

 

 今度こそ王宮に向かうべく足を進めると、空が目に入り顔がほころぶ。

 青々とした快晴は、緩やかに茜色へと変化していた。



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