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4.暴かれる


 ふ、復讐って…


「もう!おれはそういう意味で大切にしてほしいって言ったんじゃないんだけど!」


 地団太を踏んで見遣るも、もう先程までの儚げに微笑んでいた雰囲気は見当たらなかった。それどころかニンマリとご機嫌そうに笑ってみせるのだから、本気なのか窺い知ることもできない。


「…だって、許せないじゃないか。僕には拘束されるような理由はないのに…むしろ国に貢献した方だと思うんだけど?」


 うう…反論の余地もない、このままだと流されてうなずいちゃいそうだ。


「駄目なものは駄目!それに復讐なんてしたら、今度はアルビーが逆恨みされるかもしれないじゃないか」

「ふふっ心配してくれて感謝するよ。まあ、第一王子の君が手伝ってくれるならその心配もなくなりそうなんだけど………ねえ、僕の復讐に付き合ってくれない?」


 しまいには、復讐相手の息子であるデイヴィットを巻き込む気概すら見せられ、動揺する。

 どう返したものかと慌てていると、アルビーはより一層笑みを深めた後、ケラケラと笑いながら、どこか寂しそうに言った。


「大丈夫、君のことは巻き込まないから安心して。命の恩人である君を、本気で巻き込もうだなんて思ってないから」


 にこやかな笑みと共に放たれた言葉は、全く安心できないもので。加えて、どこか突き放すような物言いに心がどよめく。


 

 復讐…するつもりなんだ。



「じゃ、じゃあこれから先どうやって生きていくつもりなの?第一に、ここは王宮の中だから抜け出すのだって苦労するよ」

「……あ、そっか」


 すっかり失念していたという顔を見て、ますます心配になる。絶対に父や母、その側近達には存在を気づかれてはならないのだ。そもそもこの王宮は父の手中、つまりアルビーにとっていち早く離れるべき場所なのである。


「確かに君の言う通りだ…この場所だって、もしかしたら誰か見回りに来るかもしれない。」


 これは、すぐにでも立ち去った方がよさそうだな。

 復讐のことは、なるべくやめさせる方向で…。


「とりあえず、おれに付いてきて!王宮の敷地内で、隠れ家になりそうな場所に心当たりがあるんだ」


 この位置から隠れ家まではそれほど遠くないため、巡回の兵にも気付かれずに辿り着くことができそうだった。

 

 そもそもこの場所自体が、何度もかくれんぼする中で見つけた場所であり、人々の足がほとんど向かない場所なのだ。


 デイヴィットは、アルビーの手を引くと地下からの出口を目指し、歩みを進めた。

 



**********


 


 アルビーとの出会いから3日がたった。


 この3日間、デイヴィットは自分なりに細心の注意を払いながらアルビーの存在を隠すことに注力していた、しすぎていたと言っても過言ではないほどに…。


 

 き、気付かれてないと思ったのに。


 それが裏目に出てしまったのだろうか、視界には、仰天し今にも叫びだしそうな友人達に、押し問答の騒ぎを聞きつけ、隠れ小屋からひょっこりと顔をのぞかせてしまったアルビー…。

 そして、アルビーの存在が暴かれるのを防ごうと焦った結果、すっ転んだデイヴィット、現実から目を背けたくなる光景が、広がっていた。


 

 あまりにもな展開に、デイヴィットは地べたに膝をついたままどうしてこうなったのかと、嫌みなほどに冴え渡る晴天を仰いだのだった。









 遡ること、2時間ほど前。


 デイヴィットと、ご学友として王宮で勉学を共にしている友人達は、授業後、貸し切りの勉強部屋で雑談に興じていた。


 

 デイヴィットとしては、こうしているうちにもアルビーの存在がばれてしまうのではないかとヒヤヒヤしていたため、すぐに小屋へ向かいたかったのだが。


 あの日、デイヴィットが隠れ家として提案した場所は、誰も寄り付くことのない小さな物置小屋だった。なぜならその小屋は、王宮からもっとも離れた場所に位置する、プレメベーラ離宮の敷地にひっそりと建てられたものだからだ。


 最近では、何年も前に集結したはずの隣国との紛争が火種となり、開戦がもう目と鼻の先に迫っている。半年前から多くの人々がその準備に駆り出されており、王宮内も離宮も人手不足なのだ。


 また、亡くなられた皇太后の後に離宮を継ぐ人がいないため、かつては温かなぬくもりに溢れていた景色も、今では見る影もなくなってしまっている。


 

 だから、おれらにとって恰好の遊び場であり、隠れ場所にピッタリだったわけだけど。

 

 しかし、好調とはいえまだ3日だ。

 

 皇太后が亡くなってすぐに譲り受けた小さな菜園、そこで育てた野菜をアルビーに渡しているが、それだけでは心もとない。


 もっと、パンとかお肉とか精が付く物を持って行ってあげたい!!

 だからといって調理場に貰いに行ったりくすねたりなんかしたら、バレやすくなるし…。


「なあデイヴィット、聞いてるのか?」

「ダメよ、アンドリュー様。王子はこうなったらどれだけ呼びかけようと、戻ってこないんだもの」


 やっぱり、すぐにでも王宮から離れないことには落ち着かないよな…。

 うーん!でも離れたら離れたで心配過ぎる~!


「ほんとっ…オトコノコって自分本位よね。さっきのダンスの授業もこんな感じだから、アタシまで巻き添え食らったのよ!」

「はは…ご愁傷様。でも王子は、バレてないって思ってるんだよなあ」

「ええ!ええ!年下のくせしてナマイキなのよっ」

「おいおい、それくらいにしとけよ。顔がへちゃむくれになってる」

「むぅ…」


 先ほどからデイヴィットを挟んで会話する二人、彼らはデイヴィットのご学友として連れてこられたアンドリュー・ニューベリーと、ジェシカ・ダーヴィルである。

 二人ともつい最近になって、ボケっとするようになったデイヴィットに、何か隠し事をしているに違いないと疑っていた。


 そんな二人に気付かないデイヴィットは、ハッと意識を取り戻すと、今日もさも隠し事なんてありませんよ、といった顔でどこかへ行ってしまうのである。


 勉強部屋から出ていく背中を見ながら、二人はどうしたものかと頭を悩ませていたのだった。






 デイヴィットはというと、菜園で収穫した野菜を抱え小走りでアルビーが隠れている小屋へと向かっていた。


 右見て、左見て右見て…よし!誰もいない!


 小屋は、離宮の敷地に植林された小さな林の中にあるため、林にさえ入ってしまえば余程のことがない限り、誰かと遭遇することはない。


 今日はもう授業はないし、父上も母上も忙しくて最近はほとんど会うことはない…よしっアルビーとたくさん話せるぞ!!


 タッタッタと木々の間を駆け、細道を進む。


 

 友人達とも、両親とも異なるアルビーの存在にデイヴィットはすっかり夢中だった。


 最初は、お互いわからないことが多すぎたため、いい印象だとはとても言えなかったが、ついつい時間を忘れて話し込んでしまうほどには二人の仲は良くなっていた。


 特にデイヴィットは、アルビーが優し気に目を細めたときにきらめく、茜色がお気に入りだった。


 

 誰も知らない、デイヴィットだけの友人。

 

 王宮を抜け出せる段取りが整えば、この関係も終わってしまうことはわかっていた。しかし、一日に一時間ほどしか与えられない自由時間を使ってでも、会いに行くことをやめるという発想はなかった。


 そういえば、昨日はちょっと困った顔してたんだよな~。


 王宮から去っても、文通か懐中時計でやり取りがしたいとデイヴィットがねだったのである。

 ところが、文通は危険だし懐中時計は使い方がわからないからと断られてしまった。


 まあ、20年間も眠ってたんじゃ懐中時計どころか、魔術機器の存在すら知らなくてもしょうがないけどさ。


 魔術機器は今でこそ、平民でも裕福な層であれば容易に手に取れるほど普及したものであるが、もともとは、紛争用の武器として開発されたのがきっかけだった。用途に合わせた術式を刻み込むことで、武器だけではなく懐中時計のような便利なシロモノにも変貌する。そのため、今ではあらゆる魔術機器が開発されているのだ。


 

 考え事もそこそこに、急いで向かっていたおかげで小屋が見えてきている。


「やっぱり、手紙は誰かにばれちゃう可能性が高いから魔術機器をプレゼントしようかなぁ」


 くふくふと笑いながら、プレゼントしたときのアルビーの反応を想像して心が弾む。


 アルビーはデイヴィットのお願いを断りこそしたが、本心は連絡を取り合いたいと思ってるのは明らかだった。しかし、どうも施しを受けたり、プレゼントをもらうことを嫌っているようなのだ。


 そして、力になりたいデイヴィットと、それを拒むアルビーの妥協点が野菜をあげることだったわけだ。


 第四王子だったのに、何かをしてもらうことに慣れてないなんてちょっと変わってるよなあ。


 そんな謙虚で自立心の高い姿は、好ましいが少し違和感を感じてしまう。

 

 ウンウンと唸りながら目指すはあの小さな小屋。



 それももう、あと少し歩けば辿り着く。

 

 だから、油断してしまったのだ。



「王子~!デイヴィット王子!」


 聞きなれた声にハッとして振り返ると、友人であるアンドリューとジェシカが向かってきていた。


 え!?い、いつからつけられてたんだ。


 すぐに小屋の中に逃げ込もうとしたが、入ってしまったらアルビーを隠し通すことが困難に思え、この場で何とか帰ってもらおうと二人に向き合う。



「なんか用事でもあった?」


 ここは、当たり障りなくやりすごそう…。



「なんか用事でもあった?じゃないわよっ!ここ数日、アタシたちと遊ばずにここに来てたってわけなのね!!」

「ごめんな、王子。最近、様子がおかしいから…俺らも王子に何か異変があったら報告しなきゃならないし」

「ほ、ほうこくっ!?」


 まさかの事態に冷や汗が止まらない。

 

 それじゃあ、もうここは父上達に知れ渡ってしまうということ…。


 あまりのショックに放心状態になっていると、アンドリューが慌てたように付け足した。


「お、おい!気を確かにしてくれっ…まだ誰にも言ってない。知ってるのは俺とジェシカ嬢だけだ」


 だ、だから今から言いつけに行くんでしょ…。


 ヘロヘロと力が抜け、尻餅をついてしまう。


「もう、早とちりするのはやめてもらえるかしら?アタシ達は、王子の隠し事を確認しに来たってだけ。それをどうこうするつもりはないの」


 呆れ返ったようにこちらを見下ろし、ジェシカが告げる。


「だから、王子の身に危険が及ぶようなものじゃなければ、報告しないわ。危険だったらする、それだけよ」


 その言葉に胸をなでおろす。

 ジェシカらしいふんぞり返った物言いに苦笑しつつも、ふと考え直す。


 アルビーって危険…なのか?別に猛獣を飼ってるんじゃないし大丈夫…いや、でも復讐とか言ってたし。


「じゃあ王子、小屋の中に入っていいか?」


 ハッとして止めようとするも、ジェシカに行く手を阻まれ届かない。


「もうっ往生際が悪くってよ!」

「ま、待って!!」


 ジェシカから逃れ、アンドリューを掴もうとしたが5歳と7歳では分が悪く、ついには足がもたつき転んでしまった。


 どうしよう、どうしよう!隠れ場所が……アルビーが!

 

 ギョッとしてこちらを振り返ったアンドリューをよそに、どうしようもなくなって叫ぶ。


「お願い!!その小屋に行かないでっ!!!」



 なんとかドレスの裾を抱えながら、二人に追いついたジェシカはいつもはキリっとした眉をへの字にして弱り切っている。


「も、もう!なんでそんなに隠したがるのよぉ」 

 

 


 かくして、静寂な林に響き渡るやり取りに心配になり、我慢できなくなったアルビーがひょっこりと出てきてしまったというわけである。







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