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3.答え合わせ


 ”今年で何歳になるか”

 

 そんなこと聞いて何がわかるんだろ…?


 意図がわからず、デイヴィットが戸惑っていると少年はじれったそうに肩を揺さぶってきた。


「いいから!何も問題なければ、それで済むことなんだ」

「わ、わかったよ…父上は44歳だよ。でもそんなこと聞いて、何がわかるっていうの?」


 それに父の生誕祭は、毎年のように国中で祝われるため、国民であれば、ほとんどが知っていることだ。

 

 またもや、小声でぶつぶつと呟き自分の世界に入ってしまった様子に、心配と僅かに不信感が募る。

 今得られている情報だけでは、少年が信用できる人物なのか判断しようがなかった。


「混乱してるみたいだから、もう一度自己紹介するね。おれは、ヴィルトゥエル王国の第一王子、デイヴィット。父親はこの国の王、ウィルフリッドで、おれは父上の一人息子!…わかった?」


 一度デイヴィットに視線を向けてきたため、話を聞いてくれていることはわかった。しかし、それも一瞬のことでしかなく理解してくれたのか、表情からは窺えなかった。


 ここで催促しては駄目だと辛抱強く待っていると、冷静さを取り戻したのか少年がこちらを振り返った。



「君が…ウィルフリッド、の息子か。はあ、全く持って笑えないな」

「…へ?」

「最初は何が何だかわからなかったけど、なんとなく状況は把握できたよ…」 


 ちょ、おれは何もわかってないんですけど!


「把握できたならさ、おれにも教えてよ!あと、自己紹介も込みでね!」

「………あ、そういえば名乗ってなかったね」

「もう!おれは言いづらいのかもって聞き出すの我慢してたってのに」

「そ、それはすまない。なんだか君と話してると気が抜けてくるんだよね…。ええと、僕について説明だね?」

 

 やっとここに来て答え合わせができる展開に、ソワソワと心が落ち着かない。


 少年は身嗜みを軽く整え、コホンと咳払いし些か緊張気味に口を開いた。



「僕の名はアルビー・ラッセル・ヴィルトゥエル、この国の第四王子だ」




 ほうほう、アルビー・ラッセル・ヴィルトゥエル第四王子…んん?

 いやいや!嘘だ、そんなことあり得るわけない、だって…


「おれこんな大きな弟、いた覚えないんだけど!!!」


 やっとこの意味不明な状況の答えを、もらえると思ってたのに!


「僕だって君みたいな小さな弟、いた覚えはないよ。だから、君が最初に自己紹介した時点でこちらとしては途方に暮れる思いだったってわけ」


 肩をすくめ見せるも浮かべているのは沈んだ微笑で、冗談でないことは察せられた。


「で、でもさ本当におれ一人っ子で…」


 アルビーが嘘を言っているようには見えないのに、デイヴィットの認識とは齟齬が生じ混乱する。

 それに、王族の家系図にアルビーという名はここ数百年で記載されてなかったはずだ。

 

 いや、もしかしたら父上が隠れて浮気してたのかも…!そんなこと思いたくないけど!!


 必死になって考えるも、むしろ父の浮気の可能性が高まっただけだった。



 ただでさえ、このアルビーのことを秘密裏に閉じ込め隠している、なんて恐ろしい疑いが発生しているのだ。これ以上に不信感を募らせることになるのは避けたい。


「君って、ずいぶん感情がそのまま表に出るんだね。安心しなよ、君の父親は不貞を働いちゃいない」


 くすくすと笑いながら否定された疑いに、ひとまずほっとする。


 もう、他人事だと思ってひどいよ!


 未だに笑いが収まらないのか、涙目にすらなっているアルビーをキッと睨め着けてやった。



「ごめんごめん、それに言っただろ?第一王子がウィルフリッド…様だと思ったって」


 はっ!動揺してそんなことも忘れてた…!


「僕の血縁上の父はグウィリム・ラッセル・ヴィルトゥエル、君にとっての祖父にあたる人だね」

「じゃあ、アルビーは父上の弟ってこと?………すっごい年の差だけど」


 こういうのって、あからさまに顔に出しちゃいけないってのはわかるけど、うう…普段の顔を保ててる自信がないや。


 そんな微妙な反応を前に、アルビーはそっと近づきデイヴィットの頭を撫でながら…ポツリとこぼした。



「そうだったらどんなに良かったか……ふふ、僕はね、君の父上とは6歳差なんだよ」


 驚き、アルビーの顔を見ようとするも頭をなでる手が邪魔をして、叶わなかった。


 6歳差?父上は44歳で、アルビーは僕より6つ上くらい、何をどう頑張ったって6歳差にはなりようがない!…はず。


 どういうことかと聞こうにも、デイヴィットをなでる手は一向に止まる気配がない。


「こんなこと…空想の中だけだと思っていたのに。デイヴィット、どうやら僕は、20年間あの水槽に閉じ込められていたみたいなんだ、成長は止まったままね。………今じゃ本当の兄より、その息子の方が歳が近いだなんて…なんだか笑えちゃうね」


 突如、寂しげな声と共に明かされた真実はあまりにも突飛で、どこか腑に落ちるものだった。年季の入ったあのノートが20年前に置かれた物なら、何よりの証拠になるだろうとも思う。



「そ、そんなの、笑えるわけないよ!」


 気付けば衝動のまま抱き着き、叫んでいた。


「ア、アルビーがさ!どんな事情でここに閉じ込められてたのか知らないけど、こんなとこで一人ぼっちでいなきゃいけない理由になんて、ならないと思う!!」


 アルビーが唖然としているうちに、目をふさごうと邪魔をする手から逃れ、まっすぐに見つめた。


 


 やっぱり、そうだと思ったんだ。


 

 

 笑えちゃうね、なんて言っておいて本当は傷ついてるのだ。その証拠に、今にも泣きそうな顔で唇を噛みしめている。

 

「笑ってくれたらよかったのに」


 そんな、思ってもないことを言って笑って見せようとさえする姿は痛ましく、同時に、弱音を吐く相手にさえなれないのかとやり場のない不満が駆け巡った。


 


 

 ねえ、どうして、なんで…20年間も閉じ込めたままになんてしたんだよ…。


 

 現在の王宮内でこんな真似ができるのは、父や側近らだけであることは確かだ。

 閉じ込めた張本人でなくても、見て見ぬふりを続けてた可能性は誰にだってある。

 

 だって、父上も母上も叔父も…デイヴィットの周囲いる人達はアルビーを気にかけるそぶりなんて、誰一人としてなかった…!


 結局のところ、閉じ込められていたことを知っていようがいまいが、気にかけようともしなかったことは事実なのだ。

 

 周囲に信頼を裏切られたことへの苛立ちと、そんな仮初の箱庭でのうのうと生きていたことへのやるせなさが混じり、胸がムカムカした。


「怒ってくれてるの?…僕がなんでこんな目に遭ってるのかも知らないのに?」


 寂し気な笑みと共に、アルビー自身に矛先が向くような話し方に、ムカムカが腹の底から湧き上げってくるのを感じる。


 

 本当の悪い奴は、そんなこと言わないんだよっ!


「もうっ!!おれはぜんぶ!国中の全員に怒ってるんだから!!もちろん、アルビーにも」

「ぼ、僕にも?」


 腑に落ちない様子で首をかしげるアルビーに再び抱き着き、揺らぐ瞳を見上げながら宣言した。


「アルビーが、アルビーを大切にしないから!だから怒ってるの……でも、もういいよ。おれがその分、大切に…大事に大事にするから!大きくなって、偉くなって、一人前になったら、アルビーがもう勘弁してくれってなっちゃうまで幸せにするから!!」


 

 どうか、どうか…思いが届きますように。


 肩で息をしながらアルビーを見上げる。 

 

 当の本人はというと、瞳をパチクリとさせた後、口元をほころばせポツリとこぼした。



「実は、なんでこんなとこで監禁されてるのか僕も知らないんだよね…ある日突然、拘束されてそのまま…」


 新たな事実にキョトリとしたのも束の間、話を逸らされたのかと察してムッとした。


「冤罪とか?」

「陛下…僕の父の命で近衛兵によって拘束されたのは覚えてるんだけど」


 あ、あのお茶菓子くれた、おじいちゃんが…!?


 あまりの衝撃にショックを受けるも、ずっと気がかりだったことを聞いてみる。


「じゃあさ、父上は…?」

「ウィルフリッド兄上…ああ、僕は君の父上とは仲が良くてね、幼いころからこう呼んでたんだけど…残念ながら助けてはくれなかったよ」

「ううう…」

 

 実際に被害者本人の口からきくと重みが違う。そして、絶対に同じ轍は踏むまいと打ちひしがらずにはいられなかった。



「だから…君がこんなにも僕のために怒ってくれたこと、すごく嬉しいんだ」 

「そうなの?アルビーにも怒ったのに?それにすこし話逸らしたし」

「そ、それはこんな感情向けられたの初めてで、驚いたんだ。ああ、それに…君の僕自身を大切にしていないという言葉を聞いて、1つ目標というか、思い浮かんだことがあるんだ」


 むむむ、そう言われるとこれ以上怒れない。


 話を逸らされたのは悲しかったが、デイヴィットの思いは確かにアルビーに届ていたのだ。

 これが喜ばずにいられようか、面映ゆくも全身が幸福感に満ち溢れていくのがわかり、誤魔化すように聞き返す。


「へへっ!じゃあ、早速聞かせてよ。全然大事にするような内容じゃなかったら、考え直しだからね」

「考え直しって、手厳しいなあ」

 

 


 

 期待に満ちた視線を受け、くすぐったそうな表情を見せながらアルビーはその端正な顔をほころばせニッと笑みを浮かべると、こう言った。


「僕をこんな目に遭わせた人達に、復讐しようと思って!」


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