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1.婚約破棄

 

【タイトル、”王子”→“王子”】 『クローディア、今ここで、君との婚約を破棄させていただく!』


 王城の謁見の間にて、アルビー王子の婚約破棄を告げる声が響く。


『これまで何度も挽回の猶予を与えていたが、それも君に響くものはなかったようだね…』

 

 それを受けたクローディアは、怒りに憤るでも、恐ろしさに震えるでもなく感情の読めない顔で、騒ぎの発端の王子をまっすぐと見つめていた。


 周囲はというと、異様な緊張感に張り詰めたまま2人の動向を観察していた。

 謁見の間には、学園でクローディアによる様々な悪事に晒された者から、それに加担した容疑のある者、その関係者及び親族までが告発の参考人として集められた。


 王子は第4王子であり、常時であればこれほどの有力貴族や人数を集める権力は持っていなかったが、クローディアの悪行は学園という安全圏を飛び越え、貴族社会にも悪影響を及ぼしていたため、特例としてその嘆願が受け入れられたのだ。


 『君の罪状は、重いもので放火や階段からの突き落とし、成績の改ざん…学園に入学してからの3年間で数えきれないほどの数になっている。実行役は、歯向かうことのできない下級生や下級貴族の生徒を脅してさせていたようだが…これらを計画し指示した罪は重い!!』


 悪を裁かんとする王子の声は、これからクローディアをはじめ貴族社会に渦巻く陰湿な影をも一掃させるような、そんな気迫があった。

 

 無論、王や兄王子達はその様子を見て容疑のある貴族らには冷ややかな視線を浴びせていたが、王子には今までの考えを改め、一目置いたような表情を見せていた。

 

 


 悪は罰され、貴族社会の風通しも良くなり、王国に再び平和が訪れる_____はずだった。



 結論から述べると、王国に再び平和が訪れたことは紛れもなく完遂された事実であると言える。



 悪事を働いた者達は、王子ら3名による働きかけにより王からの格別の恩赦として、3年間に及ぶ納税の微増、これまで以上に国に尽くすことで赦免された。その効果は絶大で、悔い改めた者達は己が持つ権利以上に義務を果たすべく邁進するようになった。

 

 ちなみに主犯と言われていたクローディアは、学園を自ら去り侯爵領で学を深め、模範的な淑女に生まれ変わったと、一部では噂になっている。夜会や舞踏会には、ほとんど顔を見せず出席するのは参加義務にあたる王宮での舞踏会のみなのだとか。

 

 また、事件での被害者らには、不足ない見舞金が送られ不満をこぼすものは誰一人いなくなったという。

 

 王家は、過去よりも未来に向かって舵を取りその王族足り得る姿はより一層王家の支持を固めていった。裁きから1年は、あからさまにも感じられる収束の速さに、事件の蚊帳の外にいた貴族や富裕層らも、実態のしれない何かを暴こうと探りを入れていたが、王家は勿論のこと、主要派閥の貴族らが全く隙を見せなかったため次第に詮索する波は引いていった。また、半年後に隣国との大規模な紛争があったこともその流れを助長するに一役買ったといえる。


 

 

 さて、件の第4王子はどうなったのか。

 


 事件をきっかけに、王や兄王子に見直され、政治について指南を受けるようになったのか。

 婚約者であったクローディアと和解する運びとなったのか。

 はたまた、降下し家臣として王家を支えるべく志すようになったのか。


 その答えを知るのは、裁きの関係者のみ。



 

 なぜなら、王子は、あの裁きを境に宮殿の地下深くに存在する、古の地下神殿で深い眠りについたのだから。

 







**********


 婚約破棄から約20年後。



「ふふふっここまで来れば、アンドリューにもジェシカにも見つからないはずっ!侍女への対応も完璧だったし」


 デイヴィット第一王子5歳、その幼い年齢に見合わず、学識、武芸どちらとも同世代の子供とは一線を画す才能があり、たくさんの希望と愛情を受ける期待の王子である。


 最近遊び相手として連れられてきたアンドリューと、赤子の頃から親交のあるジェシカと共にかくれんぼをしている最中であった。


「いてて…さっき転んだ時に膝をけがしちゃったんだよな、ううう~じくじくするぅ~」


 デイヴィットを呼ぶ声に慌てて移動した際、転んでしまったのである。しかし、足を引っかけた、その突起物は下階段へと繋がる隠しされたドアの一部であり、隠れるのに最適な場所を見つけ出せたのだった。


「暗くても、懐中時計があるからダイジョブだもんね!」


 暗がりに明かりをを灯そうと、ポケットから出したのは、先月の誕生日にもらった叔父からの術式組み込み型懐中時計。暗がりを照らす明かりにも、同じものを持っている相手とは時計を通じて言葉も交わせる優れものであり、近年流行中の、魔術機器なのだ。


 だから、ちょっとぐらい一人になっても大丈夫だよね…?


 この王子、穏やかで賢明だと称えられている父を持ちながらも、その本質はわんぱくそのものだった。しかし、幼いながらも器用なのか、その自由奔放さは周囲の者には隠せているようだった。

 好奇心の赴くまま歩いていると、突き当りにの部屋に辿り着いたようで、僅かに光が漏れでていた。


 いったい誰がここにいるんだろう…!


 いつも、侍女や騎士達の部屋を訪れていたからだろうか、デイヴィットは躊躇することなく扉を開けてしまったのだ。

 



 

 扉を開けた先、そこは魔術機器の並ぶ神殿だった。

 

 地下の部屋だというのに光に満ちており、暗い場所に慣れていた目がチカチカする。

 並ぶ機器はどれも見たことがない物だらけで、興味をひかれたが、どこか不気味さを感じた。


「誰かいませんかー!!おれ、デイヴィット!!おーい!」


 おかしいな~明かりがついてるなら、誰かいると思ったのに。


 城の明かりとは異なる色合いだが、今はどこでも魔術機器による灯火を使うのが主流である。明かりがあれば、誰かが消さない限り、人がいると思うのは当たり前のことだ。


 初めて目にするもので溢れ返る光景に、目を白黒させながら進んでいく。


 しばらく眺めながら散策していたが、その中にデイヴィットの知るものがあり、足を止めた。


 それはデイヴィットから見ても上等な皮と紙でできているとわかる分厚いノートだった。表紙にはオリーブの花が描かれていることが辛うじてわかる。


 けっこう古いノートだ…ここにいるのは父上ぐらいの人かも。


 アンドリューやジェシカ位の年頃であれば、共に遊べるかと期待していたが子供が持つにはそのノートはあまりにも年季が入り過ぎていた。他にも木剣やカフスボタン、夜会用らしき上着…くまのぬいぐるみまで。1つの木箱に収まっていた。


「まあ、ここまで来て、全部見ないわけにはいかないよな!!」


 少しばかり心寂しかったので、くまのぬいぐるみを腕に抱き再び歩みを進めて数分。

 

 どうやら、この神殿の中央あたりまで来たようだった。



 ぬいぐるみなんてジェシカみたいな女の子が持つものだと思っていたが、思いのほか触り心地が良く、つぶらな瞳に虜になってしまっていたようで、見物するのを忘れてしまっていた。

 

 数十メートル先に巨大な水槽を見つけ、ぬいぐるみをブンブンと振り回しながら走り近寄ってみる。



「……………っえ!?ええええええええ!」


 王子は王族足り得ない言動で周囲を困らせているのは知っていたが、これまでで1番醜態をさらしている自覚があった。


 でっでも仕方ないじゃないか。こんな、それこそ平民に出回るような娯楽小説ぐらいで登場するような、現実離れしたシロモノ!!


 王子は確かに、学力や武芸以外の…振る舞いの点ではまだまだ未熟だといえる。しかし、こればかりは突飛な声を上げてしまうのも、無理はなかっただろう。


 大人2人分はありそうな、大きな円柱形の水槽……そこには1人の少年が眠っていたのだから。







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