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第三話(β版)


「装填展開《強》!」

「《解体(バラ)けろ》!」

 正面から振り上げられた、茶髪の男の大鉈。

 文一の身の丈ほどもあるその鉈に潜むは巨大な重量と、絶大なまでの切れ味。その重量はたとえその長さが身の丈以上存在せずとも一本の丸太を薪に買えることを可能とし、その切れ味はたとえ振り下ろされる速度が高速でなくとも人をただの肉塊へと変えることを可能とする。

 重量、切れ味、そのどちらか片方であろうとも、こうなのだ。

 受け止めることなど、できるはずがない。

「くっ……!」

「おらおらどうした?」

 振り下ろされた大鉈を、文一は身をわずかに反らしてかわす。が、かわした先、床であった木材にめり込んだ鉈を一瞬で引き抜き、横一閃の追撃。危ういところで剣の腹に右手を添え反らすことに成功する、が、

 ………重過ぎる……!

 強によって強化したはずの肉体、それを持ってなお反らすのがやっとの豪腕。当然ながら、反らした剣もろとも体が鉈の流れに持っていかれ、姿勢が崩れる。

「あら――――」

 そして茶髪の男の足が振り上げられ、

「――――よっとぉ!」

 がら空きになった文一の腹部、そこを狙っての神速の直蹴りが放たれた。

 が、それでも。

 ………避け……切れるっ!

 思った瞬間、文一は己の背に全体重をかける。

 普段ならそれほどの加速にはならないはずの挙動、が、今は強によって強化されている肉体だ。

 ゆえに、

「……ちっ」

 蹴りが命中する前に、地面に倒れる程度は出来る。

 茶髪の男の蹴りは文一の肋骨ギリギリを掠めはしたものの、行動不能に追い込むほどの威力を発揮せずに終わる。そのまま文一は倒れる寸前に床へ右手を突いて体を反転させ、

「装填展開断×断×断!」

 反転動作に一閃の動作を混ぜ込み、

「斬波日暮!」

 容赦のない強烈な斬撃を叩きこ――――

「させるか」

 む、その寸前、下方から襲った膝によって斬撃が跳ね上げられ、予想地点より遥か上にそらされた。そしてそのまま足が跳ね上がり、がら空きになった文一の胴体の直上まで上がって………

「落ちろ」

「がっはっ…!」

 腹部に鉄槌の如き踵が叩きこまれた。

 その勢いのまま背を床へと強打し肺の内部の空気が全て流出、結果として全身に痺れが走り、身動きが取れなくなる。

『主!』

「どした? まさかこれで終わりなんて言わねぇだろうな師走。てめぇもあの腐った一族の端くれならちっとは根性見せてみろ」

 余裕を見せた動作で、茶髪の男が大鉈を片手で振り上げる。

「装、填……展開、穿×爆×爆………」

 苦悶のまま、つぶやくように言い、

「《解体けろ》」

 そして大鉈が振り下ろされるその瞬間、

「爆壊 日没!」

 今まさに振り下ろされようとしていた大鉈めがけ、光弾を打ちはなった。

 振り下ろしの動作の途中、それもかなりの重量を持つ大鉈だ。

 振り戻せるはずは、ない。

「……へぇ」

 大鉈が光弾と接触したその瞬間、光弾が爆ぜ辺りに爆風が散る。当然ながら男の持つ大鉈も獰猛な勢いで振り戻され、先程の文一の如く動を晒すことになる。その瞬間に文一はガタの来た肉体に鞭打ち強引に体を跳ね起こし、

「装填展開 穿!」

 腹へめがけて光弾を打ちはなった。

「ぐふっ……」

 呼気と共に、男の体が後方へとすっ飛ぶ。が、空中で男は体をひねり天井の梁へ大鉈を引っ掛け、姿勢を戻し、足から着地した。

「……へぇ、ただのへタレかと思ったら案外できるな師走」

 けど、と男は手の中の大鉈を構えなおし、

「オメェ、もうヘロヘロだろ? 俺の予想じゃ次はねぇと見る。違うか?」

「っ」

 図星を言い当てられ、文一は一歩右足を引く。

 大量に行った装填と、強による強引な動きによる疲労、多少の出血による体力消費と、命を張った戦いと言う精神的な負荷。昼間から今までに多少回復したとはいえ、まだ全力とは程遠い。

 だが、

「……別に」

 暮言刃を再び握り締め、茶髪の男に相対する。

「戦えないほどじゃ、ない」

 文一の言葉に、男は満足そうな笑みを浮かべた。

「……そうかい」

 言って再び右側へと大鉈を振りかぶり、

「だったらこの先も……遊んでもらうぜぇぇぇ!」

 絶叫と同時、男の体が前方へと揺らぎ、

「《解体けろ》!」

 言葉と同時、再び大鉈を文一めがけ叩き込む。

「!」

 判断はまさしく一瞬、その場で伏せて頭上に大鉈をやり過ごし、前転して背後へ移動、再び振り下ろされる縦一閃の大鉈を勘だけで横に跳躍して回避、跳躍の直後に体を反転させ、

「装填展開断×断×爆×穿!」

『主! 駄目!』

 ………駄目でも、

 やるしかない。

 体力がいつ尽きるか、精神がいつ屑折れるか、体がいつ致命傷を負うか、一切予想が出来ない状況なのだ。

 叩きこめる時に叩き込まねば、生きることすら出来なくなる。

 故にこそ、文一は振るう。己の信頼した相棒、そのうちに己の持つ魔術の最高峰をこめて。横一閃を振りかぶり、

「斬波、黄昏!」

 一声と共に、暮言刃が飛刃を放った。

 茜色の魔力は暮言刃から飛び出すと同時に空を切って茶髪の男の元へと飛び、

「甘ぇ」

 茶髪の男によって軽く弾き飛ばされる。が、弾き飛ばされた斬撃はその背後で砕け、その破片一つ一つが光弾となって殺到する。

「何……っ?」

 苦悶の声は一声のみ。

 一声の後に男の背には無数の光弾が、命中する。

 背後からの奇襲、それも意識は前方に向いた状態であったのだ、受け止められるはずが、ない。

「ぐっ……ぬああああぁぁっ!」

 着弾と同時に立ち込める粉塵、響く絶叫。粉塵の中で男の姿が地に崩れ落ち、重厚な金属音が男の得物の落下を伝達する。

「……やったか?」

 舞い上がる粉塵の中目を凝らし…………


 そしてその粉塵が両断されるのを、文一は見た。


「!」

 脳裏をよぎるのはいつかのフラッシュバック。正面に存在する粉塵、突然切り裂かれた視界を遮る粉塵、瞬きの間に懐のうちに侵入していた一人の男、そしてその次の瞬間に走った激痛………

 記憶が体を動かした。

「《分解(バラけろ)せよわが力は分割わが意思は離別わが本能は分断形は刃《(ただぶんかつするもの)》形に沿いし力成して己が意義を示せ》」

 超高速の詠唱と同時に振りかぶられる大鉈、眼前に迫る茶髪の男。反射的に体がひねられ距離がわずかに開き、

「《愚者(バラバラだ、)解体(クズども)》!」

 瞬間的に振りかぶられた大鉈の先端がわずかに右の肋骨をかすって………


 ―――― ゴキンッ!


「ぐっ! ああぁぁあぁ!」

 異音と共に文一の肋骨が激痛を発した。

 激痛によって意識が一瞬で白紙になり、行動が一瞬取れなくなる。が、瞬きであろうともこの場で雌雄を決するには、

「だらあぁ!」

「がっ!」

 十分、すぎる。

 鉈を支えにして放たれた神速の蹴りは狙いたがわず文一の腹部をとらえ、その体を数メートルの先に放り出す。

「がふっ………」

 かつて床であった板の上に、文一の体は叩きつけられた。左手から暮言刃が離れ、床の上を転がる。

「……ぐっ……ああ…っ」

『主! 大丈夫?』

「ぐっ………」

 言葉を紡ごうとする口が吐き出すのは苦悶の息ばかり。脱力した体は身を起こすことすらも苦難とし、激痛を発する右の肋骨は動くことすらも苦痛とする。しかしその激痛の中でさえも意識は戦うことを望み………

「…………へぇ」

 結果として文一の体は再び暮言刃を握りしめ、ふらつきながらも立ち上がることを選ぶ。

「腐っても師走は師走ってか。いいぜ、ならもうちょっとだけ遊んでやる。でも無理はすんじゃねぇぞ? その肋骨、もう内臓にとっちゃ凶器だぜ?」

 がちゃり。再び鉈を構えなおし、文一に相対する。

「魔術《分解》。物体を『壊す』んじゃなく『解体する』、余分な破壊なんてせずに構造にしたがって物をただのモノに変える魔術だ。限定的に武器に纏わりつかせりゃその武器は『何もかもをバラバラにする』力をもって床なんかに叩きつけりゃ……言うまでもねぇだろ」

 部屋の中、各パーツごとに分解された建材たち。

「なら仮に――――人間相手に使ったらどうなると思う?」

 にやり、と含みのある笑みを男は浮かべた。

「簡単な話だ。人間の体で組まれてるパーツ、筋肉みてぇに張り付くでも内臓みてぇに一体化するでもないパーツ、『骨』が外れる」

 文一の肋骨、その右側を笑みを浮かべながらうかがう男。

「ちょうどそこみてぇにな」

 人間の内臓を保護するための骨である肋骨。それは骨であるが故に動かないながらも設置点をもち、骨にはめ込まれる形で固定されている。その部分を外されたのだ、当然とてつもない痛みが襲うことになる。

「さあてと師走。そろそろもう一戦、始めるぞ!」

 言葉と同時、茶髪の男の体が前方へと揺らぐ。神速の勢いで文一の方へと間合いを詰め、高速の一薙ぎ。

「くっ」

 苦痛を訴える体を押して後方へ身をそらし、回避する。が、当然その程度で終わるはずもなく、振り戻しの一撃。寸前で刃を側面に叩きつけ、斬撃の方向性をずらして回避するも、そのまま肩からの突撃を受け姿勢が崩れ、

「…………!」

 回転動作に乗せた横一閃を跳躍によって回避し、さらに二歩ほど飛んで距離を取り直す。

 ………これ以上の装填は、

 できない。今の状態でこれ以上の装填を行えば、おそらく体力切れでまともに動けなくなることは間違いない。

 ………だけど、まともにやりあったって、

 勝てるはずがない。

 ………逃げ道は、

 存在しない。出入り口は梁によってふさがれ、庭への障子戸の正面は四道と水灯の戦場だ。立ち入る隙はない。

 ………なら、もう。

 破れかぶれでもいい。とにかく眼前のこの男を突破し、すぐさま逃げるしか、生き残る方法は、

 ………お嬢様のところへ帰る方法は、ない。

 だからこそ文一は後退を止める。そのまま正面から迫る男を待ち構えるかのように構え、

 ………できるか…?

 内心で思いながらも、心理的に準備をする。構え、適切な間合い、力の込め方、その他もろもろ。もう殺さないなどという悠長な考えは捨てるしかない。とにかく、今ここでは生き残ることのみを考えるしか――――

「バラけろ! 師走!」

 言葉と同時、正面から大鉈が振り下ろされる。

 雑なように見えて精緻、未熟なようでいて熟練、動きの中にも無駄はなく、隙は少ない。

 が、それを知ってなお文一は前へと動く。強化された身体能力、その速度を生かして男の腕の中へと飛び込み、その今まさに振り下ろしているその腕を右手で取って、

「っらぁ!」

 円を描くように腕を回転させ、前へと投げ飛ばした。

「ぐっ……」

 男の口から苦悶の声が漏れる。

 前方へと転倒した男の体、それめがけて文一は暮言刃を振りかぶる。己の中に存在するなけなしの体力を振り絞り、

「装填、展開! 穿×断×断!」

『主! これ以上装填したら………!』

「分かってる! 《斬壊(ざんかい) 日没(にちぼつ)》!」

 言葉と同時に横一閃に振りかぶり、飛刃を打ちはなつ。打ち放たれた飛刃は狙い違わず前方へと姿勢を崩した男の背中へと飛来し、

 男の纏うスーツと空中を、小さな緋色で染め上げた。

「――――っ、――――っ、――――っ」

 直後、全身を襲うのは異様な脱力感と倦怠感。魔力の大量争点、それによる体力消耗と、幾度も視線をくぐったことによる精神的な摩耗、双方が同時に体に襲い掛かり、身動きをとることさえも困難なほど体が消耗していることを理解する。

 歩行できて、数百メートル。戦闘行動だと、わずかに十秒といったところだろう。

 だが、それでも――――

『主! 大丈夫?』

「………ギリギリ……しばらくは、動きたくない」

 会話できる、動きたくないと思える。

 それは紛れもない、生存の感触だった。

『でも、主ぃ……あの人……』

「死んだかも、か?」

『うん………』

 何かを案ずるかのような口調で、茜が言う。

「大丈夫だろ。急所じゃないし、真っ二つになってるわけでもない。薬湯にいれとけばどうにかなるはずだ」

 言って文一は視線を上げて正面、血をなるべく見ないように見ないようにしていた男の方を見、


 誰もいない、わずかな赤だけが残った壁を視認して、


「え?」

 呆けた声と同時、

「小鳥遊流護身武術か。未熟とは言えいいもん持ってやがるな」

 背後からどう聞いても男の声とは思えない、いうなれば女性が無理をして男の声を出しているかのような印象を受ける声を聞いて振り返り、


「まあこれでゲームオーバーだ」


 文一の背後、そこに両断されたスーツの下から女性特有の膨らみある胸と柔らかな曲線を描く肉体をもった、大鉈を振り上げる茶髪の人物を発見し、


 そして瞬きののちに大鉈が振り下ろされた。


 あ、はは、は、は。

 赤い、紅い、緋い、アカい、あかイ。

 あレ? この紅イのドこからきてるンだ?

 アァ、左腕かラか。

 って、アレ?

 ソノヒだりウで、ドこいっタ?

 アかね、アカね、どこだ? 今ハ戦トう中ナンだ。どっか言ったりスルな。

 ッて、そうか。

 左腕がなくなってるんだから、そりゃ茜もないわな。

 そう思って、

 噴水のごとく血を噴き出す肩から先を失った腕を見つめながら、文一の体は地に倒れた。

 べちゃり。


    × × × ×


 それは紅葉舞い上がる秋の風景。穏やかに頭上から見事に紅葉した紅葉がはらはらと舞い落ち、豊かな土の上に赤の絨毯を敷き詰める。人の手のようにも見えるその葉は穏やかな彩りを寂寥感ある涼気の中に踊らせ、見る者に何かを思わせうる詩情と、感慨を同時に与えてくれた。

 その紅葉道の中を歩くは四つの影。長身痩躯、容姿端麗眉目秀麗な和人形と、陰と陽二つの彩りを二分する小さな少女人形。

「………夢幻を使って、此方(こなた)を戻す?」

 和人形が左、傍らに用の少女人形を伴う薄紅の着物纏う少女が、怪訝な面持ちで隣を歩く深蒼の着物身にまとう少女に問いかけた。

「ええ。理論的には、可能だと思うの」

 傍らに陰の少女人形伴う、長髪の少女は言った。

「師走の手によって分かたれた一つの魂。二分されたその魂を保全するために、私たちは彼女の肉体を使って二つの体を作り上げた。

 骨を磨きて表紙となし、

 皮をなめして紙片と化し、

 肝を解きて糸と紡ぎ、

 血肉を溶かして墨を作った。

 分かたれた魂は元来収まるべき肉体をもつもの。故、私たちの作った生前の肉体はうまく魂に適合し、此方の体は二つになった」

 愛おしげに、自らの隣を歩くおとなしげな少女の頭に手を置く。

 表情は母の慈愛、仕草は姉の愛情。存在をすべて受け入れ、なおかつその上で甘えを許す、それはそんな特別さを持つ純粋なる愛情そのもの。

「だけど、この世界じゃ一度肉体に括られた魂は死をもってのみ肉体から離れることを良しとする――だから人は他者の内側に己の魂を修めることはできず、また魂のみ自由になることはできない。

 けど、牡丹。夢の中なら、魂は自由でしょう?」

「………」

 その隣を歩く、肩口までの髪を持つ紅の少女、牡丹は沈黙した。沈黙したまま、傍らを歩く桜色の少女の手を握った。

「本来なら他者の意思を介入させることのできない、完全なる自由を生む存在、《夢幻》。私たち姉妹が統べるその力の中なら、魔道書はただの人であり得る、意志さえあれば己の好きな姿のままいられる。

 だから夢幻の中で、此方の魂を解放して私たちで繋ぎなおせば、此方は帰ってくる………」

「でも姉様、魂だけがあったとしても、肉体はどうするんです?」

「体は、最初からあるでしょう? 牡丹」

 ぽんぽん、とあやすように傍らを歩く少女の頭を撫でる。

「魔道書の形になっているとはいえ、二冊になっているとはいえ、ここにいる私たち二人の双子の妹は、此方の肉体。だからこの子たちの肉体を構成する魔道書を今一度素材の段階にバラして、そこからもう一度一冊の魔道書として編みなおせば――――」

「できるはずがありません、芍夜姉様。魔道書は精緻極まりない構造をしています。私たちがどれほどの労苦の末に魔道書を作り上げたのか、お忘れですか?」

 牡丹の言葉に、芍夜と呼ばれた深き蒼の少女はもてあそぶように紅葉の葉を手に取る。

「覚えているわ。でも……私たちの傍には必要な人材が全て揃っている。貴方も、よく知っているでしょう? 牡丹」

「………! まさか、そのために……?」

「ふふ、そうだったらよかったんだけどね、偶然よ。

 でも、私たちの隣にいる人々を使えば、できないこともなくなる。早苗――《解体》の魔術を持つ彼女の力を使えば、内部の魂を傷つけることなく魔道書を分解できるし、四道――《滅》の魔術を持つ彼なら、消えようとする魂を世界の法則に逆らって保持できる。そして汐、百鬼を統べる家系の彼なら、夢幻を保つに足りる《柱》を用意できるわ。

 ほら、これなら………此方の復活は、机上の空論じゃなくなるんじゃない?」

「ですが姉様、その行為の果てにあるのは歌香多町全ての夢幻への下落です。そんなことをすれば最悪の場合、この町の存在自体が消失しかねません」

「いいんじゃない? 此方が帰ってくるのなら」

 けろりと、

 深蒼の少女は、その言葉を口にした。

「……正気ですか、姉様」

「ええ。私は十分正気よ、牡丹。夢幻に落ち込み、存在がかき消える。それは確かに由々しき事態よ。でも、その人が消えるわけじゃない。ただ魂が朽ちるまでの時間を、決して醒めぬ、望みに違うものが存在しない夢の中で過ごすことになるだけ。下手に痛苦に満ちた現実を見せるよりも、ある意味じゃ幸福だと言えるんじゃない?」

「ですが………」

「どの道この町は遅かれ早かれ夢幻へ落ちるわ。初代がこの町に敷いた夢幻の浸食が進んでるの。持ってあと二年、早ければ半年後にでも、この町は現実と幻想の入り混じった中途半端な状態へと眠るわ」

「! ガシャドクロが、もうそこまで?」

「いえ? ガシャドクロは水灯の手中。今問題なのは、両面スクナの方よ。妖魔によって守られた町も、こうなっては型なしね、ふふふ」

 心から楽しげに、芍夜は笑う。

「笑いごとではありません芍夜姉様。ならば一刻も早くスクナを抑えて、現実へ回帰させる必要が――――」

「もう手遅れよ、牡丹。あいにくながらね。ジワリジワリと、私たちのできることが広がっているのが分かるでしょう? 今ならたぶん、二人合わせればこの町を丸ごと夢幻に隔離できる。私たち姉妹が夢見た、此方との暮らしが目前にある。

 だから、牡丹。力を貸して。

 彼方と、陽向。私たちの双子の妹たちの力と、私たち姉妹の持つ《夢》《幻》の力。二つを合わせて、この町を夢幻に隔離するの。

 そこには私たちの幸いがあるわ。侵されることのない、もう二度と失うことのない、究極ともいえる幸いが。

 だから、牡丹。お願いよ、力を貸して……」

 言われて、紅の少女は考え込むようにうつむいた。

 己のすべきこと、己にできること、己のやりたいこと、己のやりたくないこと、己の求めるもの、己の欲したもの、己の思い描いたもの。

 それらのすべてを、天秤にかける。

 天秤にかけてなお、迷って迷って迷って迷って、迷って迷って迷って――――


「…………うん」


 そして出した答えは、肯定だった。


    × × × ×


「黒椿………っ!」

「……! はぁっ!」

 叱責の声で湖織は現実へと回帰し、眼前に迫る二つの(あぎと)を一刀の元に両断する。

『ぼーっとしてんじゃねぇぞ、宿主様ぁ!』

「わかってる………」

 言いながらも己を取り囲まんとする夜色の狼を一刀の元に両断し、暴風によって蹂躙し、針によって虐殺する。が、それでも、

「……多すぎる」

「同感……」

 旅館の廊下、その中央付近にアリスと背中合わせになり、あたりを見回す。

 照明の落ちた夜の旅館、その廊下に満ちるのは夜色の狼。銀色に輝く強靭な犬歯、月光に輝く金色の瞳、闇夜に溶け込む夜色の毛並みなどを持つ、それは現実には存在しないはずの獣、

「……送り狼………一体、どこの誰が……?」

「今は……どうでもいい……っ! 《獅子の構 六の型――――東崩(あずまくずし)》!」

 一声と共に獣肢獣足のアリスが狼の群れへと突撃する。視認することさえも困難なほどの高速での移動、その末に放たれるは全方位へと向けた強烈な旋廻攻撃。

 数頭の狼が宙を舞い、数頭の狼が緋色を散らす。

「針式・射手穿」

 狙い違わず放射状に広がった針が狼を捕らえ、夜色を血に染めた。そのまま自らは進行方向、裏庭へと向かう方向の狼めがけて刀を振り上げ、

「刀式・宮内(くない)(がらす)!」

 横一閃と同時に放たれたのは猛烈に圧縮された大気、それが発生させた爆弾も同然なほどの空気圧。勢いのままに数頭の狼を宙へと吹き飛ばし、

「―――松葉一布施!」

 追撃の針によって、その命を奪う。

「アリス!」

「ん……牡丹、こっち」

「ありがとうございます」

 瞬間的な動作で両の爪によって狼二頭を切り裂き、脇に逃れていた牡丹を呼びつけ、アリスが疾駆する。

「牡丹さん、次は……?」

 アリスの後に続くように、湖織と牡丹も続く。

「次の角は、右です。大回廊と私たちが呼んでいる長大な廊下を抜け、別館を抜ければ正面の庭に到達できます」

 言いながら腕の中の荷物、一冊の本を抱えなおす。

「……この急襲が芍夜のものだとすると、恐らく彼女はそこにいるはずですから」

「……了解」

『ヒャッハハハハ。気ぃつけろよ、お二人さん。またお出ましだぜ、次の角!』

「ん………っ!」

 言葉と同時、廊下の突き当たりに到達し、角を右へ。

 曲がった瞬間湖織たちを見返すのは、二桁を越える小さな月光の輝きとうなり声。

「また……」

「……みたい」

 短くアリスと言い交わし、同時に狼の群れの中に突撃する。真正面からの突進の勢いを風で減衰させ、その瞬間に胴体を一閃、返す動作で正面の二体に針を放ち、背後から接近する一体を風で迎撃、振り返る動作で針を放って命を奪い、再び前方に迫った一体をしゃがみながらの縦一閃で両断する。

 無駄のない流麗な動作、その内側に秘める確かな実力を持って、湖織は無数の狼を次々と両断する。

 もともと戦うことになれていない文一とは違い、元来湖織は荒事を専門に預かる役割に従事するものである。それ故に戦闘に対する経験は未熟とはいえそれなりにあり、また本来相手にするべきものも人でないもの、獣のようなものがほとんどだ。

 故にこそ、

「………弱すぎる」

 湖織にとって、この狼たちは木偶も同然だった。

『だな。歓迎にしちゃ無礼としか思えねぇぜ?』

 言いながらも己の周囲を取り囲んだ狼を風で吹き飛ばしながら、湖織は言う。

『ま、もっともすっ転びでもしたら笑えねぇことになるだろうがな、ギャハハハハ』

 耳障りな声で笑う誘宵に、湖織は無言で答えた。

 送り狼、それは山道で姿を見せることなく後をつける狼の妖怪。そのまま歩いている分には無害どころか、道中の厄を祓ってくれるとまで言われるが、一度転倒しようものならその場で食い殺してしまうと言う、ある意味では有益、ある意味では害悪でしかない狼である。

 恐らくはこの狼たちも同じようなものだろう。今でこそ普通の狼と同様の戦闘能力しか持っていないが、三人のうちの誰かが一瞬でも転倒した瞬間、その狼は今までとは比較にならない能力を発揮するだろう。

 が、

「……転ばなきゃ、いいこと」

 狼から狼へ飛び移るように跳躍しながら、アリス。

「ですね……」

 左側から急襲する狼の腹部を切り裂き、更に前へ出る。

 残りは、六体。

「誘宵、面倒なので、一気に行きますよ」

『りょーかい!』

「巴式………」

 小袖の袖口から取り出されるは金色の針と、白糸。針の後端にあいた穴に白井とは柔らかに通され、まるで裁縫針のような形となる。

「………龍蛇蹂(りゅうじゃじゅう)り――――」

 と、針を投擲するために前に出した足。

 その足の脛の辺りを、何かが高速で擦った。

「あっ………」

 投擲のために踏み出した足を止められ、湖織の体のバランスは崩れる。前方へとしなだれかかるように体が前へと崩れ―――

 そして、床へと転倒した。

 瞬間、響き渡ったのは歓喜の咆哮。待ち焦がれた獲物をようやく獲得できた、狩人の一声。

 それを体現するように、今まで通常の狼程度の速度しかなかった送り狼の速度が加速した。俊足は神速へ、獣の如きは化け物の如きへ、凶暴さを秘めた挙動は狂気を体現した挙動へと変じ、残った六体全てが別方向から転倒した湖織へと殺到する。

「くっ……縫式・松葉阻(まつばはばみ)!」

 殺到してくる狼の動きを封じるためだけに打ち放った針付きの爆風にあおられ、二頭が命を失い四頭が宙へと舞い上がる。が、舞い上がったものはあおられながらも天井へ着地して再び湖織のほうへと突撃し、

「《獅子の構 五の型 東浪(あずまたかなみ)》!」

 そして空中において、獣の爪によってその身を切り裂かれた。

「……気をつけて」

 着地と同時、アリスが叱責する。そのままこちらの反応も待たぬまま再び前へ。

 と、その動作の途中、アリスが明らかに躓いた。

「……? っと」

 怪訝な動作でアリスは手を突いて一回転し、転倒することなくやり過ごす。そしてそのまま足元を伺い、

「………まずい」

 つぶやき、足元へと己の爪を振るった。

「……なにを……」

『ん………、っ! 湖織! 足元!』

「足元……?」

 いつになく緊迫感に満ちた誘宵の声に促されるまま、湖織は己の足元を伺う。と、緋袴の裾野から見え隠れする小さな獣のような影があり、

「………! 脛擦(すねこすり)……!」

 言いながらも足元から風を発し、足元をうろつく小型の獣を振り払う。風によって吐き出されるように姿を見せたのは、鼬の如き細長い体を持った体調三十センチほどの鼬の姿。

 脛擦、その妖怪はその名の通り、自らが憑依したものの足元を高速で脛を擦るように移動し続けると言う、ただそれだけの妖怪。本格的に憑依されれば一歩ごとに足元を歩く妖怪に足をとられ、まともに歩行することすら困難になると言うが、本来はそれほど厄介でもない、ただの弱小妖怪である。

 しかし、

「………オボと、送り狼……。厄介」

「同感……。脛擦単体ならまだしも……送り狼もいるのに」

『転倒すれば食い殺しに来る狼』と、

『積極的に転倒させに来る鼬』。

 この二つが揃った現状、歩くのは危険すぎる。

「なら、」

 足元から再び暴風を発し、足元の脛擦を払い、

「縫式・(くう)()弦界(げんかい)!」

 後端に糸を取り付けた針を、廊下の壁へと打ち放った。

 放たれた針に取り付けられるは同一の糸。同一の糸であるが故に廊下に穿たれる針は中継点のような役割をし、湖織の糸を空中へと固定する。

「二、三!」

 続けて打ち放たれる全く同一の針、それらは一本目に並列するように壁に穿たれ、糸をただの一本ではなく、歩行可能な幅を持つ糸の床とする。そうして完成したのは廊下の空中、壁から壁へとつなぐように発生した『糸の回廊』。

「――――廊下を歩かなければ、いいだけのこと」

『ヒッヒッヒ。つっても使えんのは我らぐらいだけどな』

「つかえるなら、使う。牡丹」

「大丈夫です。私も、行きます」

「ん」

「では、いきましょう……」

 言葉と同時、三人同時に三本の糸によって構成された糸の橋へと飛び乗る。

 強度は、問題ない。たわみはせども切れはせず、軋みはせども抜けはしない。三人全員分の体重にも耐えられ、戦闘行動にも支障はない。

「アリス、先行を」

「ん………」

 雀の鳴き交わしで意思疎通し、自身は牡丹と並んで次の糸へと跳躍する。足元には多数の狼と、その合間を掛けるイタチがいるが、届かなければ意味はない。

 そして仮に、跳躍によって攻撃を仕掛けて来たとしても、

「――――松葉一布施」

 たやすく落とすことが、可能だ。

 人の形をした獣でなければ上を歩くことのできない不安定な道、しかしその道は人型の獣以外の侵入を拒むが故、他者からの攻撃に対しても非常に頑健な道となる。

 ………けど、

 気になることも、増加した。

 逢瀬際、牡丹。

 彼女の保有する、獣じみた身体能力である。

 魔道書の契約者、魔術師であるという事実、強力な従者の存在などから、彼女にもある程度の身体能力は期待していた。魔道書は折に触れてほかの魔術師によって狙われることのある書物であり、魔術師に荒事はつきもの。さらには従者がそれなりの実力を持っている場合、鍛錬の相手に不足はなく、結果として主の腕が向上すること自体は珍しくはない。

 しかし、あくまでそれは人間のカテゴリーに括った場合のこと。

 狗狐風神をその身に窶す湖織と、

 そもそもが化け猫であるアリス。

 その二人の、まさに人型の獣のごとき挙動についてこられていること自体が、今では懸念材料だ。

 ………それに、あの夢も……

 先の戦闘中に脳裏をよぎった、あの光景。夕食の直前によぎったもの、部屋で眠っている時に見たものと合わせ、これで三つ。その二つ目、夏の山中にて行われていた姉妹の戦闘。

 あれが、もし夢でなく現実に行われていたとすれば……湖織の懸念は、現実のものとなる。

 もしかすると、と湖織は直感する。

 ………逢瀬際の姉妹の目的と、この白昼夢は無関係ではない?

 ただの直感、一瞬脳裏をかすめた程度の思考。だがそれでも次の思考を呼び起こすには、十分すぎる。

 糸から糸への跳躍の途中、顎を向けた狼を両断しつつ、湖織はさらなる思考へと沈む。もしそれが事実だとしたら、そこにある意味、つまり自分たちがこの町の過去を知ることに意味があるということになる。しかし逢瀬際芍夜、逢瀬際牡丹双方の目的の中に、湖織と文一がこの町の過去を知っている必要がある目的は含まれていなかった。

 となると、

 ………まだ、嘘がある。

 廊下の先、さらに回廊を延長するべく針を投擲する。

 ………だとすると、本当に私たちにさせるべき目的とは?

『湖織、』

 声を掛けられ、湖織の認識は現実へと回帰する。刀身を血色に揺らす誘宵に湖織は目を落とし、

『気ぃ抜くなよ? この先……別館、だったか? でけぇのがいんぜ?』

「………でかいの…?」

 首だけ振り返り、アリス。

『ああ。血沸き肉躍る戦いの始まりってかぁ? ギャハハハハハ!』

 耳障りに哄笑する誘宵から目線をあげ、湖織は廊下の先を見る。

 送り狼と脛擦の満ちる廊下、その終端は渡り廊下への出入り口。別館は主に使用人や特別な来客用の居室となっているらしく、それほど多くの施設はないと聞いている。抜けるのにもそれほど時間はかかるまい。

 そう思った、その瞬間だった。


 突然、渡り廊下が、木製の上品な天井と手すりによって飾られた渡り廊下が、上からの攻撃によって撃砕された。


「!」

「っ」

「………これは…っ」

 三者三様の反応を見せ、それぞれが自らの足場とする糸の回廊の上で足を止める。視線の先は撃砕された渡り廊下。その廊下を撃砕した、何やら巨大な日本刀のような大きな金属板が、それを扱うものの手によって引き抜かれるように上へと消えていく。

「……アリス! 足元を!」

「……承知」

 己の主の言葉に答え、アリスが回廊から跳躍する。

「《獅子の構 二の型 南崩(みなみくずし)》!」

 言葉ともに両の爪を叩きつけるように群れの中に落とし、足をすくう脛擦もろとも狼を撃砕し、

「……誘宵!」

『わーってるよ!』

 それによって空いた群れの隙間へと、湖織は跳躍する。そして着地の直後に渡り廊下の残骸の上から、本館と別館の隙間にある、庭とも呼べぬような小さなスペースの上へ。

 そして、そこで見た。

 別館の中央、そこに屹立する、巨大な鎧兜の姿を。

 身の丈およそ、十五メートル。全身はその巨大な体躯のためだけにあつらえたかのような赤胴鎧によって覆われ、それに合わせたかのように牛角を持つ兜も赤胴、腰に帯びた鞘は数メートルはあろうかというほど巨大で、当然ながらその巨大な手に握られる刀と、ハルバートを思わせる異形槍もその体躯に合わせた大きさを持つ。

 そして、もっとも異形なのは、その首と、腕。

 二頭四手。

 一つの巨大な胴の上、そこに鎮座する首は二本、兜は二つ。

 一つの巨大な胴の横、そこに存在する腕は四本、武器は四つ。

 異形の顔は般若と小面の能面に覆われてその下の顔をうかがうことを良しとせず、しかしそれでも二頭であるという事実を隠さない。四本の腕は刀を二本、異形槍を二本握り、その力を誇示するがごとくに振りかざされている。

 その巨大、かつ異様で偉大な姿を一目見……湖織は、茫然と立ち尽くした。

「…両面スクナ……こんな大物が、こんなところに…?」

『おいおい、大物どころか土地神レベルじゃねぇか……なんでこんなもんがこんなとこにいんだよ……』

 茫然とその巨大な鎧兜を見上げる二人に、

「………あれは…」

「来た、ようですね……」

 訳知り顔の、二人が追いつく。

「アリス、湖織さん、援護を。彼方、」

『……うん、ねえさん』

 言うが早いか、牡丹はその手に魔道書を開く。そしてパラパラと自動的にページがめくられ、ある一ページ、中央付近のかなり開き癖のついたページにてその流れが停止する。

「《幻満ちよ》」

 言葉に応じるように、ゆらりと牡丹の手の内にある魔道書が揺らぐ。蜃気楼の向こう側に落ち込むように、ゆらゆらと。そしてその場で形を失うようにその姿がぼやけ、

『《霞なせ》』

 そして魔道書から発された言葉と同時に蜃気楼が解き放たれる。

 牡丹の手中にあったもの、それは身の丈ほどもある長大な、戦場において槍の代用品として用いられてきた対馬上戦用の武器、

「………久方ぶりの実戦、どぅにかなると思ぅ?」

『んー、大丈夫大丈夫。私の魔術自体は練習怠ってなかったし、ねえさんも練習はしてたでしょ?』

「うん。慣れてるから……大丈夫かなぁ」

 長巻だった。

 その身の丈にはあまりに不釣り合いな長大な武器を握りしめ、牡丹は数メートル先にその巨体を屹立させる鎧兜へ目をやる。

「……四年ぶりに再会して、お客様もお迎えしてる所にいきなりこれは、ちょっと失礼なんじゃなぁい?」

 間延びした口調で言いながらも、牡丹はその剣先を鎧兜へ、正確にはその肩のあたりへと向ける。

「いるんでしょう? 芍夜姉様!」

 断言するかのような牡丹の言葉に答えるように、鎧兜が一歩二歩と前進する。ものの数歩でその巨躯は湖織たちのいる狭い庭へと迫り、


「………ふふ、鍛錬は怠ってなかったのね。安心したわ」


 聞く者に安堵を誘うような、涼やかな声が響いた。

 声の主、その姿は、鎧兜の肩の上。

 絹糸を思わせるなめらかな長髪を風になびかせ、深き蒼の着物を揺らす、大和撫子という言葉がこれ以上ないほど当てはまる静の美もつ少女の姿。ゆったりとした仕草で鎧兜の肩に腰掛けるその身に担われるは優雅に飾り紐なびかせる長刀。

「……逢瀬際、芍夜…!」

 断言するかのように、湖織はその名を漏らし、

「……あら? はじめまして、ね。その狐さんとは。お名前は、もうご存じね。そう、私が逢瀬際芍夜。愚妹がお世話になっています」

 上品に、彼女は微笑み、

「――――じゃあ牡丹、始めましょうか。四年前の続きを」

 言葉とともに、鎧兜が四種それぞれに握られた得物を振り上げ、


 ―――― ッッッッ!


 轟音とともに、闘争の幕が開けた。


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