【if〜BADEND〜】 自由の代償
短編だと次話投稿できないみたいなので、連載にして短編の方は消しました。ここでの報告になってしまいますが、よろしくお願いします。
櫻と束による『友情魔法・春風』によって体を拘束されてしまったクロは焦っていた。
目の前には6人の魔法少女と1人の保健教師がいる。
(脱出は……無理そう……)
もうここまで来たら、シロ達に事情を話した方がいいんだろうか。
爆弾を仕掛けられているから、裏切るに裏切れない……と。
しかし、万が一爆弾を仕掛けられていることを魔法少女達に明かしたとバレてしまったら…‥?
いや。そんなことを考えている場合じゃない。どちらにせよこのまま拘束されたままなら、すぐに幹部の男がクロの中にある爆弾を起動するに違いない。
一応シロが近くにいるときは起爆しないで欲しいと頼んではいるが、あの男が約束を守るとは思えない。
(いや。大丈夫。考えてみれば、今の俺には光属性の魔法も扱えるはず。闇属性の魔法だけなら爆弾の威力を抑えるのが限界だったけど………)
光属性の魔法も併用すれば、爆弾の無効化が可能になるかもしれない。
しかし『友情魔法・春風』によって拘束されている状態では、どうやら魔法を扱うことができないらしい。
(まあ、爆弾を防げるんだったら、組織につく理由はないし、レッドやイエローには多分嫌われてるから、土下座するなりなんなりして仲間にしてもらうしかないかな)
「シロ。その……今更なんだけど」
「何? 悪いけど、解放はしないよ」
「事情を………説明させて欲しい」
そう言ってクロはこれまでのことを話す。
組織に爆弾を埋め込まれているせいで寝返ることが難しかったこと。
本当は街なんて襲いたくなかったこと。
来夏との戦闘はどこか現実逃避していて、楽しんだこと自体は事実だったことも。
全て包み隠さず話した。
「クロちゃんは……今までずっと1人で戦ってきたんだね……」
「そんなたいそうなことじゃないけど……」
「クロは立派に戦ってきたと思う。私がクロの立場だったら、耐えられないと思う」
「シロ、流石にそれは身内贔屓じゃない?」
「仲間になったとしても、私との決着はつけてもらうからな!」
「えー……」
「文句言うな!」
「はいはい、来夏、落ち着きなさい。クロ……でいいかしら。その、あのときはごめんなさい。ついつい頭に血が上っちゃって……その……これからは仲良くできるかしら?」
「あーその……私も煽るようなこと言っちゃってたし、お互い様だよ。これからよろしく……えと………茜………さん?」
「茜でいいわよ」
「それじゃ、よろしく。茜」
「私は深緑束です。よろしくです。クロさん」
「よろしく。えと、束ちゃん」
「最後は私ね。蒼井八重よ。こう見えて実はこの中で一番魔力量が少ないの。意外でしょ?」
「え……? ドッキリ…?」
「いいえ。本当よ。まあ、ちょっと事情があるっていうか……まあ、これから長い付き合いになると思うし、追々話していくわ」
「まあ、よくわかんないけど……そういうことだと思っときます」
しばらく7人で談笑し、わだかまりもなくなってきた。
「そろそろこれ、解いてくれない? 爆弾を解除しときたいから」
「うん。クロ、今まで辛かったよね。もう…大丈夫だから、これからは、皆もいる」
「いいから外してよ。そういうの恥ずかしいから」
櫻と束に『・春風』を解除してもらった後、爆弾の解除をするため、光属性の魔法と闇属性の魔法を併用しようとするが、
「え……?」
「クロ、どうしたの?」
「光属性の……魔法が……使えない…!」
「ま、まだ大丈夫! クロ! 私も光属性の魔法を使える! だから…!」
「ダメ……私の光属性の魔法じゃないと……上手く闇属性の魔法と親和しないから…」
焦り出す7人の魔法少女達。
「双山さん! 何か方法は!?」
「悪いけど、無理そう。残念だけど諦めるしかないかな。それじゃ私は先に帰らせてもらうよ。あ、束と茜は私とついてきてもらうよ。魔法少女全滅なんて展開は望ましくないし。皆も爆発する前に逃げた方がいい」
「そんな! 魔衣さん! いくらなんでもそれは…!」
「双山先生! 協力してくれないの!?」
魔衣の言葉に束と茜が抗議抗議するが、喚く2人に対し魔衣は手刀で気絶させ、抱え上げる。
「束ちゃん! 茜ちゃん!」
櫻が呼びかけるが、2人は魔衣に担ぎ上げられたまま、連れ去られてしまった。
「クソっ! まだ決着つけてねぇんだ! 勝手に死ぬなよ!」
「ははっ……あれもう私の勝ちだから……決着ならついてるよ……残念…私の勝ち逃げだね」
「そんなのって……なんで……せっかくクロちゃんと仲良くなれたのに……」
「櫻! 手を貸して! 私がなんとかする!」
悲しむ櫻に対し、八重が言葉を投げかける。
「あーもう…! あの力が使えれば……!」
八重はそう叫ぶが、どうやらその力は今使えないらしい。
「そんなに焦らなくても……大丈夫。闇属性の魔法だけでも、被害は最小限に抑えられるから。私は助からないけど、シロ達は……大丈夫」
「何バカなこと言ってんだ!」
(あー…だから言いたくなかったんだ)
「クロちゃん…! 絶対に…! 助けるから!」
(こんなに心配かけて)
「貴方を死なせたりなんかしないわ!」
(助かりもしない奴のために頑張らせて)
「クロ……お願い……! 死なないで…!」
(大切な………たった1人の家族に……こんな表情をさせて)
(でも………)
(今日皆と楽しく話せたあの時間は………楽しかったな)
(死にたく……ないな)
(もっと……皆と………)
(シロと……………)
(あぁ……生きたい……死にたくない………死にたくない………)
「死にたく……ないよぉ……」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
『死にたく……ないよぉ……』
最後にクロが発した言葉が、今でも耳に残っている。
これまでクロと一緒に過ごしてきて、あんなに情けない声をクロが出したのは初めてだった。本当に………死にたくなかったんだろうな……。
結局クロは爆弾によって内臓を損傷し、帰らぬ人となった。
本来クロの中にあった爆弾は、もう少し威力の高いもので、周りのものを巻き込んで爆発するはずだったらしいが、クロの魔法によるものなのか、爆弾はクロの内臓を破壊するだけにとどまった。遺体が残っただけよかったのかもしれない。
あの後、来夏は前よりも気性が荒くなり、八重に至っては現在行方不明だ。今どこで何をしているのか、誰も分からない。櫻はクロの件で心を病んだのか、前のような元気さはもうない。それでも元気そうに振る舞う彼女を見ると、耐えられなかった。
茜と束は悲しそうにしてはいたが、現場にいなかったためかそこまで大きなダメージはなかったらしい。結果的に今は茜と束がメインで魔法少女の活動をしている。そう考えると魔衣が茜と束をあの場から引き離したのは正解だったのかもしれない。
ちなみに魔衣は以前と変わらずだ。クロが死んでも魔衣としては魔法少女が機能していればそれでいいのだろう。本当に薄情な人だ。人間の心を持ち合わせていないのだろう。比喩とかそんなものじゃなく、本当に人間ではないのだなと思っている。
そして、私、真白、いや、シロは
「随分派手にやってるね〜大お姉ちゃん♪」
「そう? これくらい普通だと思うけど」
「でもクロお姉ちゃんはここまでやってなかったみたいだよ。私は見てないから知らないけど」
「そうなんだ。クロは優しいから、手加減してあげたのかもね」
「そうかな? 私は大お姉ちゃんも優しいと思うけど」
「私は……クロほど優しくない……クロなら……きっと、ここまで残酷になれない」
「んーよくわかんないけど。まあいいや」
「ユカリ、あそこで逃げてる人間、目障りだから、処理して」
「了解!」
クロの忘れ形見とも言える少女、ユカリと一緒に街を破壊している。
ふと視界に2人の魔法少女の影が映る。
茜と束だ。
「真白さん! こんなことやめてください!」
「そうよ! 真白! こんなことをしてもクロは帰ってこないわよ!」
そんなことは分かっている。
だからもう、いらないんだ。
街も、人も、魔法少女も、組織も。
全て破壊する。
ーーーどこで道を間違えたんだろう。
いや。そんなことどうでもいいか。
クロのいない世界に意味なんてない。
この世界を破壊し尽くしたら、私もーーー
「クロ、待っててね。もう少しで、私も、そっちに行くから」