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祇園祭宵山百鬼夜行  作者: 尖晶 蓮華
1/3

八坂神社、丑三つ時

こんこん、ちきちんーー。

祇園囃子の笛の音。太鼓の響き。

派手な屏風に大きな鉾。

望月のような提灯が

祭りの道中を照らす

浴衣姿の人だかり

たくさんの屋台。

烏丸から八坂神社に至るまで

四条通りは人の活気で溢れかえる。


無病息災を祈るこの祭り。

今年も一年息災であるように。

そう願い粽を買う人の傍には

祭りに乗じて浮かれる阿呆がほとんどだ。

だが祭りとは元来そういうもの

この無病息災という大願を成就させるためには

必要な活力なのである。

しかしこれは表向きの祭り。

忘れてはならない。

祭の本番は「この後」なのだ。


真っ暗の円山公園

枝垂桜の下にあるひょうたん池

祇園祭の終わりの日、

丑三つ時に覗くがよい

魑魅魍魎がゾロゾロと

這い出てくるのが見えるだろう

鬼、妖怪、天狗、幽霊

しゃなりしゃなりと歩き出す

これぞ祇園宵山百鬼夜行

ひょうたん池から八坂神社

ほんの少しの距離なれど

そこには人は1人もいない。

屏風もなければ鉾もない。

宙に浮かぶ赤提灯

世にも恐ろしい屋台が並ぶ

犬の首、人魚の肉、

地獄名物キュウリの一本漬け。

美味い酒とゲテモノ片手に

向かうは八坂神社中央の舞殿。


京の東に聳え立つ八坂神社

魑魅魍魎はお断り

常に結界が張られる神域

立ち入れる者は人と神のみ

しかしこの夜だけは違う

踏み入ることができるのだ。

じゃりじゃりと

音を立てて境内を歩き回り

舞殿に我が物顔で上がり込み、踊り明かす。

祇園囃子の笛の音。太鼓の響き。

赤提灯の妖艶な輝き。

賑わいぶりは夕方の宵山の姿と何も変わらない。

しかしその仰々しさは見てはいられないほど、

穢らわしく、おぞましい。

その様子を楽しんでいる神がいたー。


牛頭天王。神域を解く張本人であり、この神社の主。

満月の下、本殿の屋根の上であぐらを描いて

祭りの様子を見下ろしている。


「今年も祇園祭は中止だというのに、こちらは相変わらずやかましいですね」


そばにいる狛犬がそう言った。


「また摂社の神々は怒るだろうな。」


酒を盃に注ぎながら、にやりと笑う。


「このくらい騒いでくれた方が良いのだよ。どういう状況であろうとも、この街が息災であるためには必要なのだ。あのひょうたん池の底、地獄は鬱憤が溜まるものだからな。」


そう、これは無病息災のための祭。鬼どもはこの年に一度だけの祭りを楽しみにしている。年に一度だけ自由が許されるひと時。普段踏み込めない八坂神社の神域で踊り狂い、掻き乱す。その様子は年々派手になっている。

祭りの最後やのに生臭うてかなわんと、摂社の神々は嫌悪してこちらの祭りに参加しようとしない。それどころか去年はネチネチと嫌味を言われた。


「祇園祭が中止になるんは応仁の乱以来や。せやのにこの汚ったないお祭りはやるやなんて。疫病ばら撒いてしまうんちゃいますか?」


「世の転換期なのだから致し方のないことだ。今までもそうだったではないか。それに疫病蔓延はひょうたん池の連中の専門だ。彼らがこの祭りを満喫するから、この街の死者は少ないとも言えるだろう?」


「…お祭り好きも堪忍して欲しいわ」


その通りだった。主神はこの祭りを嫌がらないどころか、誰よりも楽しみにしている。神聖さも穢らわしさも、彼にとっては同じこと。面白ければ、楽しければそれで良い。


祭りの活気と酒に酔い心地よくなってきた時

円山公園の方から声が聞こえた。


「人間がいる!!!!」


ーー人間?この丑三つ時、この祭りに?

秘祭のはずなのに、どこから漏れた?

牛頭天王は舌打ちをして屋根から飛び降りた。

円山公園側の鳥居の外へ出る。

屋台で狭くなった道に

さらに魍魎どもが群れて騒いでいる。

その中心に確かに人間がいた。

狐の面に、青い格子柄の甚平を羽織っている。

紛れもなく、人間の子供であった。


続く

無病息災を願う祇園祭、

八阪神社の本殿に祀られる御祭神は牛頭天王と言います。

彼は神様でも仏様でもない

しかし良い願いも悪い願いも叶えてくれる。

そんな話を聞いたので。

懐深い御祭神なので、きっとこんなお祭りも楽しんでいるはず。



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