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8 どの口が言うかな⁈

行商のおじさんは、よほど気に入ったらしく、練習を最後まで見ていった。

打楽器のみの行進曲も、この国では珍しいから、たいそう喜んでくれた。

気分が良い。


練習後、持っていた荷物を解いて、店も開いてくれた。

祭り以外でこんな風に店を開いてくれるのは、この土地では珍しいので、みんなが嬉しそう。

わたしも、外国の甘いお菓子と、飴をたくさん買った。軍の人たちが、そんなに買うの?神官様は甘いものが好きなんだなーと、からかい気味に言ったけど、飴はとてもいいのよ。喉の疲れが取れるし、小さい子に配れる。


「神官様、これ、付けとくよ。いいもの見せてくれたお礼だよ。」

おじさんが、髪留めをくれた。

キラキラ光る玉が数個付いている。


かなり透明度が高い。クリスタルは高すぎて、簡単に人にあげられないから、これは。


「これ、ケルビノートのガラスじゃない?ダメよ、こんなの、もらえないわ。演奏と見合わないもの。」


ケルビノートのガラスは、クリスタルの模造品として使われるが、クリスタルほど高価ではない。

だけど、高価なものには変わりない。


「目が高いなー神官様。驚いた。その通り、ケルビノートガラスだ。だけどよく知ってたな、若いのに。」

と言っておじさんは、わたしの顔を覗き込む。

ああ、背が低いし、化粧気もないから随分幼く思ってたのね。よくあること。


「おじさんが思ってるより年、いってるのよ。」

「へえ、じゃあ歌姫も長かったのかい?巫女姫の候補だったのか?」


やっぱり、行商人はいろいろ精通してるのね。嘘もつけないから苦笑して頷いた。


「じゃあ、今の巫女姫様とも歌ってたのか!この前王都でちらっと見れたが、綺麗だったなぁ!遠すぎて歌は聞こえなかったけど、女神の再来だって言われてるんだって?」


「そうね。とても繊細で綺麗なお声よ。それにとてもお美しいわ。」


そうだろう、そうだろうとおじさんは満足そうにうなづいた。

カービングの人たちが興味深そうに私たちの話を聞いている。

彼らにとっては、いずれ領主の奥方になるお方。気になってしょうがないだろう。


「じゃあ、あの話は知ってるかい?巫女姫様に4人の求愛者がいて、取り合ったって。今、王都じゃ大人気の戯曲なんだ。小説にもなってる。」


あ、ちょっとやばいかも。

その話は深く突っ込まないで。


おじさんはカービング伯爵が当事者だって知らないのね。


戯曲はあくまで戯曲だけど、こうやって王宮や貴族の中で起きてる悲喜劇を、大衆に伝える役割をしてる。


夜会で恋愛劇が起きたのは1年以上前。

それが今上映されてるってことは、真実の名前が伝わるのは半年くらい後ってとこかしら。


あ、領兵たちの何人か、顔が引きつってる。これは余計なこと言えないわ。


「残念ながら、あんまり知らないの。だって王宮の中でのことでしょ?わたしは夜会に出られないから。」


そういうと、おじさんは、ああ、とうなずいた。


察しが良くて助かる。

王宮の夜会は高位貴族のみ。貴族の夜会はそれなりの身分か招待を受けてから。


歌姫は貴賎に関係なくなれるから、夜会に出られない歌姫もたくさんいる。


そう、わたしはそれくらいの身分の低さ。

いわゆる貴族様には関われないのです。…ほんとは伯爵家なんだけどね。名ばかりなもので。


「だから、これはお返しするわ。もらえるならそっちのハッカ飴がいい。」

また飴を強請ると、みんなが笑った。


「ハッカ飴もやるよ。だけど、それも持っときな。それぐらい色気がないと、もったいないぜ。行き遅れちまうだろ。」

「ぶは!」

へんな笑い声出ちゃったじゃない!

やめてよ、おじさん!


「貴様!失礼だぞ!」


いやー単なる社交辞令だから!おじさん、怒らないであげて。ケビン。


第一、失礼なのは、あなたのご主人だから!どの口が言うかな!?


「あはは!じゃあ、いただくわ。ありがとう!でも、やっぱり見合わないわね。お礼に何か歌いましょうか?」


ケビンが怒ったから、妙な雰囲気になっちゃった。

やめて!みんな、残念な子を見る目で見ないで!


「おっと、嬉しいね!そうだな、ほんとは聞きたい歌があるんだが、神官様は流行歌なんか、知らないだろうし。」


「いい加減にしろ!神官様に向かってなんてことを!」


「いいのよ、ケビン。わたしがお礼をしたいの。言ってみて。知ってるかもよ。」


「レッティモンの新作の劇の歌だよ!あれ、好きだなぁ。もう大流行で、どこの裏路地でも歌ってる。酒場の姉ちゃんたちが、おっと。」


ケビン!ほんとにやめて!剣を抜こうとしないで!わたしだって、20歳をとうに過ぎた年増なんだから、そんな話で恥ずかしがったりしないわよ!


ギターを持ってきてもらって、メロディーを弾くと、おじさんが手を叩いて喜んだ。


神殿の管理人さんのびっくりした目と、目があって、思わず片目をつぶって合図した。


こちらに来る直前に、レッティモンさんから受けた仕事だった。

王都からの移動中、ずーと馬車の中で考えて、こちらに来て仕上げたから、ここに来た当初はこのメロディーばかり弾いていたので印象深いのだろう。




1年前ここに着いたのはいいけど、ろくにピアノも弾けない状況で。


だけど、この仕事も受けていたから、淡々と神殿の長いこと使われた形跡のないピアノを調律して、一心不乱に作った。


今、覚えば、この仕事に縋り付いていたから、あれだけ冷静でいられたのかも。


おかげで今まで一番、早く終わったし、手直しも少なかった。


あ、それは王都から遠いからか。

実力じゃなかったことに気づいてしまった。がっかり。




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