61 イケボ!しかもこんなにイケメン?!
バストマ皇国のエラッド様と、2人で話し込んでいたキックナー卿とキリアム様のところへ近づく。
キリアム様は面白くなさそうに、目を眇めてわたしを見た。
「どうしてドレスでこないんだ。せっかく、ダンスに誘ってやろうと思ってたのに」
キリアム様とキックナー卿は神官だが、夜会服。
誘われたくない!なんで、上からなの⁈
「私にダンスは必要ございません。改めて、巫女姫ご来訪、ありがとうございます。カービングの民は巫女姫の祝福を待ち望んでおりました。無事連れてきていただき、ありがとうございます」
2人とも、鷹揚に頷いた。
「キックナー卿」
エラッド様が切り出した。
「覚えていらっしゃいますでしょうか?バストマ皇国のエラッドです。今夜は改めて、妻を紹介してくださったお礼に。何度かお手紙をいただき、御心配くださっていたようですが、ローズも落ち着いて、わたしに心を開いてくれるようになりました。今回も、夜会に来たがっていたのですが、そろそろ産み月になりますので、ご遠慮させていただいております」
は?とキックナー卿の眉が寄った。
ち、と舌打ちをして、大きくはないが聞こえる声で悪態をついた。
「ロメリアといい、なぜ歌姫のくせに簡単に抱かれるんだ!」
キックナー卿が憎々しげに言い放った言葉に目を見張った。
わたしの後ろに控えている騎士の気配が変わったのが分かった
「おや、それは、ローズにわたしは役不足だったということですか?聞き捨てならないですね」
エラッド様が温厚な笑顔のまま、冷たい声で言った。
そういうわけでは、って今頃しどろもどろになって、馬鹿過ぎる。
なんでこんな頭が悪い人が宰相の子供なのかしら。
「ああ、やっとお話ができるようだ。わたくしも仲間に入れていただいていいですか?」
深みのあるバリトン。
こんないい声の人、はじめてー!と見ると、キリアム様とわたしの横に背の高い美形の男性が立っていた。
この人、どこかで。
「お久しぶりですね。スミス様。覚えていらっしゃいますか?ぺヤン会頭の結婚式でお会いしました」
あー!!あの時の、歌手!
こんな美形だった⁈きゃー!
ロメリア様とデュエットの劇中歌を披露してくれた。ものすごい美声。男性のみの合唱団もこの人が率いているって聞いた。
「もちろんです。とても印象的でしたので」
こんな美声、滅多にない。話してるだけで腰にくる。ああ、どうしよう。顔が赤くなってる。
「良かった。今夜はガイネ港ではなく、マドバセナの代表としてきたのです。わたくしどもも、歌姫を望んでおりますので」
とキリアム様を見た。
「神官のゲドウォーク様ですね。お手紙、ありがとうございます。マドバセナのローレンです。 お手紙には歌姫様、とありましたが、神官様もご紹介いただけるのでしょうか?もしこちらが選べるのであれば、こちらの神官様をご紹介いただきたいのですが」
あー、やっぱりか。
この夜会は顔見せだったのか。
思わず顔がひきつるのをなんとか留めた。
「ご紹介も何も。私たちはすでにお知り合いではありませんか」
苦笑して、口を挟んだ。
キリアム様たちに簡単に主導権を取られるものか!
ここでこの会の趣旨を覆してやる!
「そう言っていただけると、幸いです。素敵な女性とお近づきになるのに、不粋なことをするのは、私たちの気性に合いませんから。それに、ゲドウォーク様からご紹介していただいた歌姫は、随分年若の様子。とても緊張していらして、お話は弾みませんでした。できればあなたのように機知に富む大人の女性とお知り合いになりたかったのです」
と、優雅にわたしの手を取って恭しく頭を下げた。
「ダンスにお誘いできないのが残念です。スミス神官様。ペヤン会頭の式ではとても可愛らしかった。今のあなたはもっと大人の雰囲気で素敵です。ぜひ、お似合いのドレスをお贈りしたい」
なんとまあ、隣国の男性の積極的なこと。ロメリア様も、こうやって口説き落とされたのね。キックナー卿なんか振り向かれないわ。