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44 裏切り者ー!

「お話しは終わったかな?御婦人方。」


耳に甘い、低い声。

リリスが、一瞬ぽかんと口を開けて、ギュ、と結び直した。


感動しますよね。

わかります、わかります。


私はどちらかというと王都風の詰襟の夜会服が好きですけど、こちら風のシャツとネクタイが見える礼服も、ヨシュア様が着れば決まってしまうので不思議です。


むしろ、生地の薄い夏礼服は鍛えられている身体がわかって、本当に男らしい。


美形は得です。


「こんばんは、アンドレア男爵夫人。カービング辺境領のヨシュア=ヴァン=カービングです。我が領の神官をお相手してくれてありがとう。」


ん?なんか地味に引っかかる言い方なんですけど。

気のせいよね。

最近、扱いが酷いから被害妄想だわ。


リリスの目は釘付けなのに表情が定まらない。

「あ、あの、お会い、できて、光栄です。伯爵・・・。」


なんとか、淑女の礼。

頑張ってー!リリス。


歌姫の意地でやり過ごすのよ!


「アリエッティの後輩の歌姫でいらっしゃったとか。」


ヨシュア様、そこはスミス神官、というべきです。

距離を疑われます。

最近その手のミスが多いです。巻き込まないでください。


「はい。私が神殿に入った時に、初めにお世話していただきました。」


「へえ、では、だいぶ前からお知り合いですか?彼女はどんな先輩でしたか?無理難題を押し付けたのでは?」


こらこら。

もう帰るんじゃなかったの⁈

なんていう、質問するのよ!


「いえ、無理難題なんて、そんな。私にとっては、淑女の鏡のような歌姫でございましたので、尊敬申し上げております。」


ぷ、とヨシュア様が吹いた。


ナーガまで。

ちょっと、こめかみが痛いのだけど。


「淑女ねえ。」


カッチーン!


何、その目!上から蔑むように見ないでください!


リリスが変な顔してるじゃない。


私は何もしてないわよ!淑女でしょ!


「あなたに変なことを教えてなければいいけど。池で泳いだりしなかった?それは淑女ではないよ。」


ニヤ、と笑いながら私を見たので、ふん、と顔を逸らすととんでもないことを言い出した。


そんなことしたことないわよ!事故で泉に落ちただけでしょ⁇


「池?あ、ああ!あれは神官様⁈」


ナーガが得心がいったように叫んだ。

ヨシュア様の、裏切り者。


カービングは王都よりかなり南に位置する。

おかげで私はいつも夏の暑さに悩まされた。


特に数週間続く暑さのピークは、寝不足が続くぐらい。


一年目は暑さで本当に寝込んでしまい、2.3日、離れよりマシな神殿で寝ていた。

石造で広い神殿の方が眠れたのだ。

二年目はベルセマムの侍女服を借りて、窓を開けて寝た。


ギル=ガンゼナ城の夏の侍女服は可愛い。袖は腕と手首の間ぐらいで、広く開いている袖口には涼しげなレース。


そして襟も鎖骨ギリギリまで開いていて、襟にレースがあしらってある。


流石に祝福や儀式の時は神官服を着たが、神殿や部屋では侍女服を着た。

市井の民も同じような服を着ている。買えば良かったのだが、いずれ王都に戻るつもりだし、王都ではそのデザインは浮いてしまう。それに侍女服が可愛くて、気に入っていた。


それでも何日も暑さで眠れない日があった。


そして今年、こちらにくるほんの数日前。


神殿から帰り、城の泉に侍女服で腰掛けていた。泉は私の離れの森の奥。

ひっそりとあり、滅多に人はこない。

というか、私とベルセマムとケビンぐらいしか知らないのではないかと思うくらい、人気はなかった。


木造の離れは連日の暑さで熱がこもり、眠れない。昼間、防犯のため締め切っているから余計。


わたしは泉に腰掛けて、頭から水をかぶって頭を冷やしていた。


泉は山の岩肌から、滲み出てくるのを整備したもので結構な水量があり、整備された水たまり場の縁に腰掛けて、岩肌に頭をつけると髪が濡れる。それが気持ちよくてよくやっている。


だって暑いんだもん!


連日の寝不足でうとうとして、ついに泉にドボンと落ちてしまった。


泉の水たまりは浅く、すぐに立ち上がったが頭から水浸し。

あーあ、でも、いつもの水浴びと変わらないわ。と思ってベルセマムにも黙っていた。


いい歳して泉に落ちたなんて、恥ずかしかったし。


そうすると、翌日ベルセマムが、春秋用の薄長袖の侍女服で現れた。


侍女があまりにはしたないから、夏服は取りやめになったという。

暑いからといって泉に入ってはいけない。泉に入っていたのを警護の騎士が見かけた。ご当主がお怒りになって、と。


すみません、わたしです。とベルセマムに謝って、ヨシュア様に撤回をお願いした。


侍女が悪いんじゃないんです。ごめんなさい。


謝りに行くと、ヨシュア様にものっすごく怒られた。


見かけたのは警護の騎士ではなく、ヨシュア様だったらしく。侍女服を脱いで下着で腰掛けてたのも見られてた。泉から出て、侍女服を着て帰ったから侍女だと思われたらしい。


慎みがない!!

いつも言ってるだろう!


って、怒鳴られた。怖かった。

本当に泣きそうになった。


そのあと、暑くて眠れなくてうとうとして落ちたというと、また怒られた。再三、部屋を城の中にというのを断ってたから。


結局、その日から夜は城の中の部屋で寝ることになった。


正直ピアノは弾けないし、わたしにとって不便この上ないので、オルセイン領から帰ったら離れに戻るつもり。


ギル=ガンゼナは山の中腹にあるので、朝晩は早く涼しくなる。


わたしの名誉のためにヨシュア様は黙っておくって言ったのに、ここでナーガにバラす⁈

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― 新着の感想 ―
[一言] うう・・ヨシュアやその周りがひど過ぎて読むのがきつくなってきた。 夜更かしして読むほど先が気になるのに、何でこういうヨシュアにとって都合がいいストーリー展開なのか。
[一言] 話が進めば進むほどヨシュアに対してヘイトがたまっていく 特に今回のは最悪 人の失敗をペラペラしゃべるとか何を考えているんだろう
[一言] 領主や騎士が尊敬する先輩歌姫を嗤って小バカにするの目の当たりにして、リリスちゃんはどう思うのか アリエッティもこんな扱いをヘラヘラ許してたら、後輩歌姫達のためにならないよ~
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