23 盛大に文句言ってやる!
王族の退場を天幕の中で待っていると、王宮の衛兵が来客を連れてきた。
こんなところに、先触れなしで入ってこれるのはよっぽどの高位。
オスカー殿下と、なんと、セシリアだった!
「アリー!会いたかった‼︎」
わおー!セシリア!良い匂いー!相変わらずのダイナマイトボディー!やわらかーい!
豊満なセシリアにギュウギュウと抱きしめられた。
わたしも会いたかったよ!
「見に来てくれたの⁈ありがとう!」
「素晴らしかったわ!指導したのはアリーなんでしょう⁈バストマ皇国の再現をするなんてさすがよ!それになんてステキな衣装なの!みなさん、とても素晴らしかったです。」
セシリアが、騎士に向かってニッコリ笑った。
みんな、顔がだらしないわよ!
「みなさん、こちらの方はミスティア公爵オスカー殿下です。そしてユティア公爵ご令嬢のセシリア殿下です。」
騎士たちが、ザッとその場に跪き、礼を取った。オスカー殿下が満足そうにうなづいた。
「カービング領はよく訓練されている。君たちを誇りに思うよ。我が国で行進演技が行われたのは、おそらく初めてだろう。想像以上の出来だったよ。カービングは良い領主と神官を得たな。」
そして、わたしを引き寄せた。
「この子は歌姫時代からわたしの友人だ。よろしく頼むよ。」
は、とゴードンが短く返事をすると、天幕が開き、楽器移動の時間を告げられた。
みんなが楽器を荷馬車に積んでいる間に、オスカー殿下たちとお話しが出来た。
「昨日の舞踏会で会えるかと思っていたのに、いないんだもの!」
「今年も司祭服で来るかと思ってたのに。でも、そのセンスのいいコートなら夜会でもいけるぞ。」
やめてください、人の黒歴史を。
「今年は招待されてません。」
「またそんな不手際か。ほんとダメだな、ここの王宮の奴らは。どうせ、今日の晩餐にも呼ばれてないんだろ?」
「ヨシュア様は呼ばれてますよ。」
「あいつがこれを指導したわけじゃないだろ。どれだけ神官を甘く見てるんだ。」
オスカー殿下がおもしろくなさそうに言った。
俺は出ない。お前が出ないんだったら話しが聞けないじゃないか、とご機嫌斜め。
「アリー、わたしの屋敷にいらっしゃいな。叔父様もいらっしゃる?」
セシリア!国王主催の晩餐会だよ!いくら王弟でも不敬にあたるでしょ!と思ってたら、あっさり行くって返事してるし。
いやいや、オスカー殿下!
「話したいことがたーくさん、あるの。」
セシリアがキラキラした笑顔で、言ってきた。
わたしもあるわ!
目下のところ、盛大に文句を言いたいことが!
「セシリア、わたしもあるのよ!なんなの、あのレッティモンさんからの依頼は!あんな難しいもの、わたしが編曲できるわけないじゃない!」
顔を引きつらせながら、文句を言ってやった。
先日送られてきたレッティモンさんからの依頼。セシリア作曲の戯曲。
二つの主旋律が絡み合う、今まで聞いたこともないような旋律。理解するまでに、小一時間かかった。
なんとか楽譜を弾きこなせた時は、かっこよさに悶絶した。
合唱ではなく、掛け合いでもない、旋律の違う2つの主旋律が同時並行で流れていく。
要所要所で、同じ言葉を、同じタイミングで重ねるので、曲としては一つのものに仕上がっているように見えて、実は違うメロディー。
「アリーならきっとできると思うの。何年かかってもいいって思ってるから大丈夫よぉ。アリーの曲が出来てから劇を作り始めるんですって。」
「あんなのを何年も悩みたくないわよ!自分でやってよ!セシリア!」
作曲セシリア、編曲わたし。
無理。無理です。
あんな才能の塊のような曲。わたしには触れません!野暮ったくなって、自分の才能のなさに死にたくなるだけよ!
「そのお話もしたかったの。ねぇ、今回はいつまで王都にいられるの?」
「3日後には出発するわ」
「ええ〜?短すぎない?カービング伯爵と夜会に呼ばれてないの?今日の演技は今から話題になるわよ。」
「騎士たちと一緒に帰るの。伯爵がわたしを夜会に連れて行くわけないじゃない。巫女姫様のお膝元なのよ。」
婚約者がいるのに、別の女、しかも神官をパートナーにするわけがない。
今回の行進演技の件ならヨシュア様だけで十分だ。
それに、どうせアリシア様が来るまでの地ならし。今回はそれがたまたま、王妃様の目に止まるくらい奇抜で話題になっただけのこと。
「ほんっと、許せないわね、あの男。アリーの才能の無駄遣いだわ。ずっと王都に返してほしいと思ってたのよ。」
セシリア、騎士たちが引きつってる。
やめてあげてー。
彼らにとっては、尊敬するご領主様なんだから。