18 声が大きいです、先輩方
ロメリア様の結婚式は、夢のようだった。
全て旦那様になられるペヤン様が、準備されたそう。
ロメリア様の純白のドレスも、衣装替えなされた後の真っ青なドレスも、それに合わせて作られた装飾品から、式場や、来賓のおもてなしまで、全部。
しかも、招待に慣れている私たち歌姫が、肝を抜くくらい、垢抜けていてセンスがいい。
食事はもちろん、滞在中の細々としたことまで、隙がなく、心地よいように配慮されている。
こんなことも、花嫁となるロメリア様の手は一切煩わされることなく、ペヤン様が采配されてるのだそう。
何にもすることがないのよーと直前の春の日の祭りにロメリア様が、ふらっとギル=ガンゼナまで来るだけある。
「えー!!アリエッティが派遣されたのって、あのカービングだったの?!」
おっと、声が大きいです、先輩方。
「なにそれ、最悪!断れば良かったのに。ひどい目に合ってない?」
あいましたよー。
タウンハウスから馬車は拒否されるし、着いたら誰もいない神殿に置いていかれるし、楽器も歌が歌える人もいない。世話役もいない。
着いて最初の仕事が、ピアノの調律で、未だに聖歌隊も作れていないことを話したら、先輩たちに泣かれた。
これ以上話すと、家に帰してもらえそうにないくらい、先輩たちが憤慨していたからやめておく。
ただでさえ、カービング伯爵がアリシア様の求婚者だってことで、怒りをかってるのに、それを盾にして城の入場を拒否されたって知ったら、本気で帰してもらえそうにない。
最初に話を聞いてもらったロメリア様も、ものっすごく怒って、すぐにガイネに連れて行かれそうな勢いだった。
「あの女の節操のなさには、あきれ返るわ。あんなの選ぶなんて、カービング伯爵がどれだけ美青年でも、人間の格が知れるってものよ!」
先輩方、本音がダダ漏れです。
我が国では言いたくても言えない雰囲気になってるから、かなり、溜まってたらしい。
それにしてもアリシア様の評判は悪い。
ここに集まっている先輩方はロメリア様の味方なので、話半分で聞いておく。
だけど、先例を無視したやり方には、たしかにいい気分はしない。
「去年は、出身地域への凱旋巡業以外しなかったし、今年は秋の巡業。収穫時期で忙しいのに。受け入れる方は大変でしょうね。」
「普通はそうですよね。私もそう思ったのですが、カービングには20年ぶりなので、ぜひ来ていただきたかったそうですよ。」
「あれでしょ。冬の議会開会中に巡業に出なかったのは、夜会に出たかったからでしょ?巫女姫様が。」
そう、先例では巫女姫巡業が多くなされるのは冬。
農業の閑散期が多い。
だが、冬は同時に王都の社交シーズンにもなる。
日程を指定してきたのは神殿側だが、調整なしで受け入れるカービング領に、疑問を持ち尋ねた。
ヨシュア様のご両親が亡くなられた追悼以来だそうだから、領民の期待は熱い。
いつでもいいから来て欲しいのだそうだ。
出かける前に出席した会議で、各地の顔役の人たちが、念願叶ったと興奮していた。
あれだけ神殿を蔑ろにしているから、女神信仰が薄い地域なのかと思ったら、どうやら、巫女姫への偏重が篤いらしい。
わたしの顔を初めて見た有力者たちが、アリシア様のことを聞きまくって、あんまり知らないっていうと、あからさまにがっかりされた。
悪かったわねー、しがない歌姫で。