15 ・・・お詫び?
春の日の翌日。
またヨシュア様に呼び出されました。
昨日のお礼とお詫びをしたいと。
お詫び。
なんだろう?今まで色々あったけど、正式にお詫びのためにお茶に呼ばれるなんて初めてだ。
昨日の無礼なんて、今までの経緯から考えると可愛いものだし。
また、無理難題を押し付けられそう。それならお詫び、いらない。
どうやって断ろう。
うーん、とすぐに返事をせず、困ってると、ベルセマムから泣きながら懇願された。
仕方ないから、お誘いを受けた。
ヨシュア様、そんなに怖いご主人なの?知らなかった。
「来てくれてありがとう。アリエッティ殿。」
「お招きありがとうございます。卿」
ヨシュア様がちょっとほっとした顔で、立って迎えてくれた。
昨日以来、随分と対応が違う。
ヨシュア様だけじゃなく、お城の人たちもなんか、見る目が違う。
ちょっと居心地悪い。
「昨晩は私の親戚が、大変失礼した。心からお詫び申し上げる。」
わわ!止めて!頭下げないで!
執事さんたちも、一斉に頭下げないで!
慌てて、頭を上げてもらった。
「あのう…。ちょっとよく、わからないのですが。」
昨日のオルセイン伯爵の態度は、ここまでのことじゃない。というか、今までのわたしの扱いから考えて、こんな謝罪はありえない。
何?何が始まるの?
やっと春の日、終わったからちょっとゆっくりしたかったんだけど。
「昨日のオルセイン卿をはじめとする、わたしの来賓のあなたへの態度。それを今まで許してしまっていた、私たちからの謝罪です。」
「えっとー・・・」
「そして、改めてわたしたち、ギル=ガンゼナ城から心からのお詫びを。あなたがエチュア神殿に来られることに決まってからの数々の、ご無礼。本当に申し訳ない。」
ヨシュア様が改めて頭を下げた。また、執事さんやメイド長さんたちが頭を下げる。
「ちょ、ちょっと、あの、良いですから。」
止めてー!怖いー!
そんなの今更じゃないの!これ以上、ハードル上げないで!
「では、許してくださると?」
焦っちゃってコクコクと頷くことしかできなかった。
淑女教育の成果なし。
ヨシュア様が心底ホッとして、息をついて、改めて、ありがとう。と言った。
おお、弱ってる美青年、ちょっとクラッてくる。
良いなあ、美形。これだけで許せる。
これがどこぞのわがまま坊ちゃんなら、形ばかり受け入れて、さっさとトンズラだ。
あとでしっかり復讐を企てる。
だって、あれやこれやの理不尽と混乱を押し付けられて。
音楽を民に教える苦労はまだ良いとしても、本来なら後ろ盾になってくれる城からもほぼ無視の状態。
人手も物資もない、新人神官にしては、もうほんと過酷な状況。
それに加えて、生活の保障もないって、振り返ってみると、なんでここまで追い詰められてるの?って感じだった。
最初は城との関係も最悪だったから、寄付もないもんだと思って、持参金で食いつないでた。
城の離れに移って、ベルセマムが侍女についてから、やっと寄付金についても聞くことができたけど、誰に聞けばいいかも分からなかった。
やっぱりね、出だしが悪いと不都合が出るものです。
それでも、ヨシュア様の美貌にほだされて、そんなことが無しにできてしまうんだから、美人ってずるい。
こうやって、改めてヨシュア様に謝罪をされて、ここでのわたしの立場もよくなるだろうけど、ここを去ったあとの人生はこれより過酷かも。
だから、人生を狂わされたって思いまで、許すつもりはない。
今はまだ。
じゃあ、カービングに行かされることもなく、中央神殿で後進たちの指導してたら幸せになれたかって言われたら、わからない。
それでも今みたいに、誰かの幸せのための地ならしみたいな。
なんだか、割りに合わない苦労を背負わされるより、ずっとマシな気がして。
やっぱり一番心に引っかかってるのは、せっかく誰かの唯一になれると期待したのに、突き落とされたことなんだろう。
お前は永遠に2番手。
選ばれない、2番手。
そう宣言された気がした、あの時の絶望感。
ヨシュア様たちの行動がわたしを巻き込んで、そんな状況にしたことを彼が自覚してるかわからない。
無意識に、人を貶める。
美形だから、地位があるから、才能があるから、それが許される。
彼に悪意があって、そうしてるわけじゃないって理解できるけど、わたしの心はそれを赦してない。
赦さなきゃって、思ってるけどね。
だって、こういうのは、逆恨みっていう。不毛な恨みだ。
だけどまだ、家族に見捨てられたみたいに、もういいやって思えない。
いいよね、心の中でそう思うくらいなら。
意地悪はしないから、せめて今はそう思わせてください。