11 くっ!
舞台に着くと、ヨシュア様が、花もほころぶような麗しい笑顔で迎えてくれた。
怖い。何か裏ある?
「素晴らしい音楽をありがとう。神官殿。」
ああ、気に入ってくれたのね。良かった。
「お気に召していただけたなら、嬉しいです。卿。ほとんど、楽器に触れたことのない者たちが、頑張ってくれました。」
そう、みんな初心者だった。
だけど、音を楽しむ心は十分だった。
だから、こんなセオリー無視の演出についてきてくれた。
ヨシュア様は喜んでくれてるみたいだけど、土地の統治者である貴族の方々が、みんなそうではない。
ヨシュア様の後ろに並んでる人たちの表情で、はっきり選別できる。
「こちらへ。改めてご紹介します。エチュア神殿神官のアリエッティ=エト=スミス様です。皆さま、この方の素晴らしい指導に拍手を。」
ヨシュア様の紹介に、来賓の方々からパラパラと拍手が出た。
はいはい。
気に入りませんでしたね。すみませんね。あんなので。
わたしはヨシュア様の隣に座らされて、来賓の方と、ご挨拶。
そのあと、次々と現れる領地の有力者たちのご挨拶を受けた。
1時間もすれば挨拶の波も終わり。
あー、お腹すいた。喉乾いた。
座りっぱなしだと、寒くなってきたよ。
と本能のまま、思ってたら、温かい紅茶と、ケーキが出された。
「お疲れでしょう。少し休憩しましょう。ケーキをどうぞ。甘いものがお好きだとか。」
ヨシュア様もお疲れ様です。ちょっと顔に出てますよ。
甘いものは疲れを取ります。あ、美味しい。
お城のレシピね。だけど、あっちにあるホットショコラの屋台が飲んでみたかったなー。わたしも、あのおっきなマシュマロを食べたい。疲れてるから。
去年に比べて随分、祭りの店も増えた。
やっぱりご領主がいるのといないとでは違うのね。
そうじゃないか。
だって代理がいたんだから。主の格の違いね。
そんなことを思いながら無言でケーキを食べていたら、またヨシュア様が話を振ってきた。
「去年と祭りも随分違う。あなたが来てくれて、本当に良かった。」
まあね、去年はあまりに覇気がなくて寂しかったものね。
でもここまで活気付いたのはわたしのおかげじゃないですよ。
わたしは、励ます歌を教えるだけで、カービング領が活気付いたのは、ヨシュア様の手腕ですから。
そう答えると、また、キラキラ発光を振りまいて、わたしを見た。
う、まぶしい!
「こうやって、あなたとゆっくりお話をする時間もなかった。おかげで随分、失礼をした。本当に申し訳ない。」
あ、失礼だった自覚あったんだー。
反省したのね。じゃ、もういいですよ。
今は随分改善されましたし。
と本音は言えないので。
「こちらこそ、世間知らずで、いろいろとご迷惑をおかけしました。あの、先日の王宮での夜会でも。」
ヨシュア様は何だろう?と首を傾げた。そんなことすると、年相応の20歳の美青年に見える。
夜会に司祭服で、出てしまって。と言うと、ああ、と苦笑された。
うーん、やっぱり美形だ。どんな顔しても美形が崩れない。
天晴れ。
「世間知らずはわたしの方だった。あの時は、ちゃんとエスコートを申し込むべきだったんだ。 気が利かなくてすまない。」
いや、エスコートはいいです。刺されそうです。
「神官殿。」
呼ばれて顔を上げると、目があった。
おお、ドキドキする。
美形って目が合うだけで、キュンとするわね。
セシリアとか、ティアベルゼ様とか、ロメリア様とかもそうだったけど、ヨシュア様の破壊力もなかなか。
女の子で美形耐性つけといて良かった。
「私たちはもっと話すべきだと思う。これから、そんな時間を取ってくれないか?」
いや?いる?
どうせアリシア様のお嫁入りの下準備でしょ。
勝手にそっちですればいいじゃん。
とっさに頭の中でそう思ったから、返事をするのが遅れてしまった。
「アリエッティ殿。」
え?名前呼び?
そんな親しげに。
美形に気に入られたら、無条件に嬉しくなるものなのよ。
く、チョロい自分が辛い。
「秋には、巫女姫の巡業が決まっている。寂れてしまっているここの民が切望していた、巫女姫の来訪だ。どうか、力を貸して欲しい。」
かー!やっぱりか!
わかってますよ!
アリシア様には色々思うところはあるけど、仕事ですから!