行動
僕は自分が尋常じゃない程の汗をかいているのに気づいた。
こんな汗臭くて面接は大丈夫だろうか。
清潔感は面接において重要なポイントではないのだろうか。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
僕は首を横に振った。
その時だった。
おっさんが女性のスカートの中に手を入れた。
その瞬間思った。
助けなければ。
僕は唾をぐっと飲み込んだ。
そしておっさんの背中を睨み付けた。
一歩前に出てすーっと目一杯息を吸い込んで、おっさんの左手首を掴み勢いよく振り上げた。
「こ、こ、この人痴漢です!痴漢です!!」
少しどもってしまったがちゃんと大声で言えた。
その証拠にみんな僕の方を見ている。
こんなに大勢の人に注目されるなんてこの先一生ないかもしれない。
夢を見ているようだった。
その後イケメンサラリーマンがおっさんを取り押さえてくれたおかげで、電車を降りた後おっさんは無事駅員に連れて行かれた。
ホームでイケメンサラリーマンは僕の肩をポンポンと叩いてにっこりと笑いかけてくれた。
僕も思わず笑い返した。笑うことに慣れていなかったので多分ぎこちなかったと思う。
でも僕は気持ちがスッキリしていた。
これで心おきなく面接に行ける。
ふと、彼女の方を見た。
彼女もまた駅員に連れられて行こうとしているところだった。
その時彼女が僕に気づいた。
彼女は僕に礼をするわけではなく、笑顔を見せるわけでもなく、ただ僕を見ていた。
と言うか睨んでいた…?
そのまま彼女は駅員とともに行ってしまった。
僕は彼女があんな目をしていた理由を考えた。
彼女は目が悪かったのか。
怖かったが故の表情だったのか。
僕を恨んでいる…ことはないだろう。
色々考えているうちに思い出した。
連絡先を聞かれていない。
それもそうだ、彼女はすぐに駅員に連れて行かれたのだから。
もしかして僕に連絡先を聞いて欲しかったのか?
聞かれなかったから怒って…?
申し訳ないことをしたな。
いつかまた会えるだろうか。
痴漢をされた電車に彼女がまた乗れるようになると良いが…
僕は周りの人々が痴漢の話題で盛り上がっている中そっと彼女のことを考えていた。