遭遇
僕は小さい頃から人見知りで、友達がいなくてその上勉強も出来なかった。
高校で就活をしたけれどどこもダメ。
結局卒業後は色んなアルバイトを転々としてきた。
アルバイトは人間関係がうまくいかないことが原因で、長く続いたことはない。
今は親戚のおじさんが経営するコンビニで週4日働いている。
そうこうしていたら僕はもう25歳になってしまっていた。
実家に住んでいるから生活費はあまりかからないが、将来のことを考えるとやはり不安だ。
もし将来結婚することになったら、子供ができたら…
いや、まず彼女ができたら…
やはり金がいる。
金がないから僕には彼女ができないのだ。
金さえあれば彼女も出来て童貞からも卒業できるはずだ。
僕は顔だってそんなに悪くない。
髪型だって美容院へ行けばそれなりにお洒落にできる。服だって金さえあれば…
このままでは金がないことが理由で、僕の良さを世の女性にアピールすることさえできない。
一人暮らしをしてもまだ生活に余裕があるくらいの金が必要だ。
だって実家暮らしよりも一人暮らしの方が女性を家に招きやすい。
実家にいることもモテない原因のひとつなのだ。
そのためにはアルバイトを辞めて早く就職しなければ…
本当は自分はもっと出来る人間のはずだった。
でも親から甘やかされたせいで就活もまともにしなかった。
その結果がこれだ。
僕は小学校の頃、朗読を先生に褒められたこともあるし、標語のコンクールに入賞したことだってある。
僕は人の心を響かせる何かを持っている、ということだ。
それが僕の武器なのだ。
就職の面接でもきっとこれが役に立つ。
今まで面接に落ちてきたのも本気でやってこなかっただけなのだから。
うん、大丈夫。何だか今度はうまくいきそうな気がしてきた。
そんな思いで僕は一週間前ある会社の求人募集に応募し、今日面接を受けることになった。
僕は電車のドアにもたれながら、面接の質問の予想と模範解答をメモした紙を必死に暗記していた。
会社までは電車で30分ほどかかる。
またまだ時間はあるぞ。
僕はやればできる人間なんだから。
大丈夫だ。落ち着け自分、落ち着け…
あぁそうだ、外の景色でも見て落ち着こう。
それにしても今日も良い天気だ。
雨が降らなくて良かった。
電車はラッシュの時間を過ぎた頃で、ぎゅうぎゅうに押し潰されることはなく、そのためメモを見ながら面接のシミュレーションをすることもできた。
ふとなぜか僕は前にいる中年男性の左腕が動いているのが気になった。
僕は男性の手の先を目で追っていった。
すると男性の手が前にいる若い女性のお尻に伸びているのがはっきりと見えた。