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黎明のリベルニオン  作者: モチ太郎
Ⅰ 『開幕の襲来』
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0 0 6 誕生する闇、迫る悪


 同時刻。

 ゼネラル大陸・西の大地プリマヴェーラ。

 山岳の集落・バルデ


 機械都市ルフスから遠く離れたこの集落で、ソレは暗躍していた。


「数十名の命程度じゃこれが限界か」


 黒いローブに身を包んだ男は漆黒に染まった大地に目を向けて、虚空に言の葉を放った。

 寂れた集落ではあるが人が居ない訳ではない、だが現状この集落には人の気配が一つも無かった。


 それもそのはず、先程までここで生活していた数十名もの人々は皆この男に殺されてしまったのだ、そしてその遺体は漆黒に染まった大地に飲み込まれていき、一つの黒い卵を造り出した。


 村人は全てこの卵の中に“詰まっている”。



 卵の大きさは黒いフードの男の背丈と同じ、卵にしてはとても大きいサイズ。

 男はその卵に触れて、呟く。



「だがまぁ、あの幼稚な鉄のオモチャで守ったつもりでいる馬鹿共の巣を壊す程度ならコレで十分、か」



 ニヤリ、と不敵に笑みを浮かべ男は黒い卵に己の魔力を流し込み始めた。



「さぁ目覚めろ、醜悪なる闇の獣!!狙うは神剣……阻止する者は迷わず殺せ、逃げまどう者も迷わず殺せ!

 クク、ククク!!クハハハハハハハハ!!!」


 男の魔力によって目覚めた卵の中身は激しい心音と共に殻を叩き始めた。

 漆黒の卵の中から聞こえる獣の産声。


 卵の表面に皹が入っていくにつれてその声は大きくなっていく。

 山の向こうまで届いているのではないかと思えるくらいの咆哮の後、黒い異質な雰囲気を醸す細い腕が卵の殻を突き破りこの世界に現れた。


「ギャ……ギャルル……」


 人の死を糧として今、最悪の憎悪が生まれ落ちた。



「クックク……質は並程度、だがこの地に刻んだ四方の結界内であればコイツは俺に匹敵……それ以上の力を発揮することができる……面白くなってきたぞ……」


 殴り、蹴破り、漆黒の卵から姿を現したソレはゆっくりと男の前に立って視線をそちらに向けた。


「――ん?」

「グルルルァアア!!!」


 突然。

 異質な化け物は叫び、異様なまでに細長い腕を男に向かって鞭のように振るった。

 回避行動を取るよりも前に腕は男に直撃、勢いよく右へ吹き飛んでいく。


「ギャッギャッギャッギャ!!!」


 頭部から伸びる髪のような管のような物体の隙間から見える赤い瞳は吹っ飛んで行った男をしっかりととらえ、切れ長な口はニタニタと不気味な笑みを浮かべている。


「チッ……」


 山肌に激しく叩き付けられ地に伏せる男。

 砂埃が舞う中でゆっくりと起き上がり悪態をつく。


「全く、これだから急造品は嫌なんだ、知性の欠片も感じられん」

「ギィィィ!!!」


 男が起き上がると同時に化け物は彼に飛び掛かる、完全に仕留めるつもりだ。

 だが、化け物の攻撃が男に届く事はなかった。


「“三振一閃”……黙っていろド低脳が」


 腰にぶら下げていた長剣がいつの間にか鞘から抜かれ切っ先が天を斬る。

 振りぬかれてから少し遅れて凄まじい風の音が鳴り、化け物の皮膚が音と共に深く斬りつけられた。


「ギィィギャヤアアアアア!!!」


 痛みにもがく隙は僅か一秒、化け物は痛みよりも憎悪が上回った様子で鬼の形相で男を睨みつけ再度攻撃を仕掛けた、が。


「一度じゃ解らないようだな。

 だがお前のじゃれ合いに付き合っていられる程こちらも暇ではないのでな」


 ひらり、と容易に攻撃をかわすと懐から杭のような尖ったものを取り出し化け物の動きに合わせて前へと踏み出しソレを勢いよく突き立てた。


「ギッ―――……!」


 突き立てられたと同時に突然線が切れた操り人形のようにピタリと動きを止める化け物。

 男は化け物から離れると後ろを振り返り機工都市ルフスの方角へと歩き始めた。


「行くぞ」


 そう声をかけると化け物はピクリ、と反応し大人しく歩き始めた。


(魔鉄の杭を差し込まねば誰が主人かもわからぬとは、生贄の量もそうだが何よりもう少し質のいいものを用意しなければな……知能が低くてかなわん)


 化け物に突き刺された杭はゆっくりと体内に侵食、やがて杭は完全に肉体に食い込み外部から確認するのは不可能になった。


(今は俺に着いてくるだけの知能しか無いが、予め張っておいた結界内に入ってしまえば作戦を実行できる……それまでの辛抱だな)



 西の大地の四か所で起きた不可思議な爆発事件、それは彼がルフスに対して何らかの策を講じる為に行った下準備だった。

 果たして彼らが機工都市ルフスにもたらすものとは一体――。



 


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