0 0 3 食堂の肉肉しいメニューの大半は総隊長の仕業
巨大な壁に囲まれた機工都市ルフスの中央にそびえたつ巨大な塔、この都市のシンボルとも呼べるその塔は都市を覆う魔法障壁を制御、コントロールする為のものであるが他にも防衛部隊の本部や神剣研究所の研究施設としても利用されている。
レイル達が目指す食堂はこの“機工式魔法障壁制御塔”全三十七階の四階のワンフロアにある。
本部と研究施設があるということで基本的な利用者は防衛部隊員と研究員……、食堂内はいつもアウトドア派とインドア派が入り乱れる両極端でカオスな状況になっている。
その両極端な利用者のニーズに答える為、この食堂には多彩なメニューが用意されていた。
「今日も朝食選手権無差別級って感じの光景だ」
「これで仲良く食事できてるってんだから、凄いよね……」
早速二人は朝食の注文をするためにトレーを取り、比較的短い行列に並ぶ。しばらくして背後から声をかけられた。
「よぉ、レイル、ソアちん」
「おはようディアス」
「あっ!おっはよ~」
ディアス・フィルト。
防衛部隊第二防衛隊に所属するレイルの幼馴染。自称ルフス一のイケメンで脳内ルフスメンズイケメングランプリ第一位だと思い込んでいる、ただのナルシストである。
「この時間にいるって珍しいね」
「非番だかんな、ゆっくりできるわけよ」
得意げにそう言うとディアスもトレーを取り彼らと共に列に並んだ。
「ソアちんは今日演習だっけか?」
「そうなんだよね~だからたくさん食べないと!」
「ふっ……いい心がけだ。レイルはまた研究か?」
「うん、最近ちょっと気になることが増えて……、また当分休みはなさそうだよ」
「忙しそうだな……まぁ当然か、あの神剣サマに触れられるのはお前だけだしなー」
列は進んでいき、レイル達の番がきた。
ソアは一般的な朝食(量多め)を頼みレイルは卵とソーセージ、そしてルフスの近くで採れるピリッと辛いイエローカラカラマッシュルームをパンで挟んだルフス特製ホットドック。
ディアスは軽めの朝食を頼んだつもりが何故か防衛部隊専用の『ドキッ肉だらけ!男は黙って肉セット!』を頼んだことになっていた。。
「……いやいやいや?おば……おねーさん!今日非番なんすけど……いや非番じゃなくても朝からこんなもの頼まないんですけど?え?」
「非番だからなんだい!男はだまって肉を食いなさい!ねぇレイルちゃん」
「そうだぞディアス、こんなんじゃリンクさんみたいになれないぞ」
「て、てめぇ……!」
ディアスは深く溜息をつくとカウンターから肉肉しく、とても朝に食べるものとは思えない男は黙って肉セットを受け取り席へと移動した。
「ほえー、同じ朝食とは思えないねぇ~」と、能天気にハムをつつきながらソアは言う。
「俺には絶対食べられない量だ、流石は防衛部隊員。まずは胃袋から鍛えるわけですねっ!」
完全に他人事のレイル。何処となくディアスを見下すような冷ややかな目をしている。
「レイルてめぇ後で覚えとけよ!!」
わんわんとわめきながらフォークで肉をぶっ刺してパクパクと口の中に運んでいくディアス。
『泣きながら食う肉は上手いか、ディアス』
「う、うるせー!!このやろ…………んェ?」
俺の気も知らないで呑気なこと言いやがって!と不貞腐れてるディアスの手が突然止まり彼の中で一つの疑問が浮かんだ。
俺は今誰に向かってうるせー!って言ったんだ?という単純で素朴な疑問。
声の質は明らかにレイルのものではない、もっと低くて声帯にまでバキバキの筋肉がありそうな聞き覚えのある声だ。
「ほう?“総隊長様”に対してうるさいとは、貴様もずいぶんと偉くなったものだな。ディアス・フィルト?」
今度は違う声。
こちらも聞き覚えがある、というかこの声の主にいじめられすぎて夢にまででてきた程に聞き覚えがある。その声の主が言った“総隊長様”という単語がディアスの疑問を解く鍵となった。
「え、まっ……ちょ……」
肉を噛む口が止まる、そして全身の穴という穴から冷や汗が溢れ出し眩暈にも似た感覚に陥った。
死を覚悟しつつ涙でうっすらとぼやけた視界を、視線を、ゆっくりと声の方向へ。
「朝からいい食べっぷりじゃねぇか、感心、歓心。それ美味いよな」
「リ、りんふさんんん!!!!!と、ろひたいひょー!!」
「口にものを入れて喋るな雑兵、汚らわしい」
そこに居たのはとても大きな、大男と呼ぶに相応しいおよそ三、四十代の男と若い美少年。
どちらもとても貫禄があった。それもそのはず。
「おはようございます、リンクさん」
「おう!おはようさん」
丸太のように太い腕、鍛え抜かれた肉体……ワイルドさを際立たせる無精ヒゲと黒髪オールバック。巨大という言葉は彼の為に存在するかのような大男、彼がディアスやソアが所属する防衛部隊の総隊長“リンク・クレイオス”だ。
その隣にいる青髪の青年はロイ。ディアスが所属する第二部隊よりも優れた人員で構成される第一部隊の隊長を務める男である。
「どうしたんですか?お二人ともこんな時間に」
「あぁ、ちょっとお前に用があってな」
レイルは首を傾げながら答えた。
「俺に、ですか?」
「闇の魔力に関する情報をまとめた資料、確かあったよな?」
レイルは頭の中で一秒ほど考えて、確か最近使ったことを思い出しリンクの問いに答えた。
「はい、それならもう都市の外の保管庫にしまってありますけど……もしかして使います?」
「その通り!いや~ちっと気になることがあってなぁ……まぁいい。部下に探させとく」
と言いつつチラリとディアスを見るリンク、ディアスは「俺っすか!?」と言っているかのようなリアクションを取る。
レイルはくすりと笑いながら。
「それなら俺、この後保管庫に行く予定があるので午後までには見つけて後で渡しに行きますよ」
「む、そうか……悪いなレイル」
「ほっ」
安堵の溜息をつくディアスの頭を小突くリンク。
「お前は後で作戦室に来い」
「えっ!?何でですか!俺今日ひば……「大事な話だ」
ディアスの言葉を遮るロイ、彼の雰囲気はいつもより冷たく突き刺さるようでディアスは何か重大なことなのだと察して黙った後「了解」とだけ言った。
その後リンクとロイはレイル達と少し言葉を交わした後、総隊長室へと戻っていった。