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黎明のリベルニオン  作者: モチ太郎
Ⅰ 『開幕の襲来』
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0 0 0 起源:レイル・ラウバーン


 これはまだ、俺が小さかった頃の『記憶』――。



 ゼネラル大陸・西の大地プリマヴェーラ

 機工都市ルフス中央塔 地下 神剣保管研究室。

 

 薄暗い空間、明かりに照らされた箇所から微かに見える空気中の埃、装置のようなものが幾つも並んだ研究室のような空間。

 その場にぽつんと一人、まだ十ツもいっていないような少年が唖然とした表情で一点を見つめていた。


 本能的に神々しいと感じさせる神秘に満ちた一本の剣とその柄を握り、苦しみもがく白衣姿の無精ひげを生やした男。

 剣は絶えず青い光を発しており“封印”が解かれた事によって内包された力が稲妻のような形状で周囲に飛び散る、柄からは可視化できる靄のような何かが男を包み込んでいっているのが解る。


「魔力数値変動、まだ上昇しています……!なんて魔力だ、離れているのに肌が焼けそうに痛い……」

「あの“神剣”が物体を魔力に分解しているのか!」

「肉体構造、強度レベル、崩壊寸前まで低下しています……このままでは彼は!」


 周囲の大人が声を荒げて何かを言っているけど、少年の耳には届いていなかった。


 少年は思う。

 どうしてこうなったのだろう、言われた通りに“神剣の封印”を解いた。これで行き詰っていた研究は前に進む、皆から褒められる。けれども今眼前で起きていることは決して彼らが望んでいたような結果ではない。

 どうして……こうなったのだろう――。


「ディズ、神剣を離すんだ!」


 剣を握る男・ディズにその剣を手放すように言葉をかける研究員。

 しかしディズがそれを行っていなかった訳ではなく、“離したくても離せない”という状況に言葉をかけた人物は直ぐに気づく。彼は顔をしかめて人差し指を噛みながらひたすらに思考を巡らせた。


 どうしようもない絶望的な状況。

 そんな空気が漂う中で少年は口を開き、酸素を吸って吐き出して舌を動かして、音を発する。

 言い慣れた、言葉。


「おとう、さん?」


 神剣を手に持ち、光に包まれている男は少年の父だった。


 子の呼びかけに反応し、彼の父“ディズ・ラウバーン”はゆっくりと後ろを振り返る。

 いつもの父の顔――しかしその時、彼が自分の息子に対して芽生えていた感情は決して……決して自身の子に向けていいものではなかった。


「レイル、貴様が」男の表情が歪む。


「え……?」

「貴様が、騙したのだな……!答えろッッ!」


 それはとても醜く歪んだ、憎悪に満ち溢れた表情。

 今まで見たことも無い父の様子に戸惑いを隠せない少年は気が付けば涙が溢れてその大きな瞳から零れ落ちてゆく。


 神剣による物質の魔力への分解、それによる影響で身体が思う様に動かないのだろうか、ぎこちない動きで身体の向きを少年の方へと向けて今にも崩れそうな皹だらけの右腕をゆっくりと掲げていくディズ。

 憎しみと殺意、ディズが少年に向けるものは親の愛ではなく負の感情という牙。


「ひっ」


 父のただならぬ威圧に気圧された少年は地べたに倒れ込む、全身がガクガクと震えて動かない。


「落ち着けディズ!今君の身体は神剣の暴走で非常に危険な状態だ……動けば肉体が負荷に耐えられなくなって砕け散るぞ!」


 大人達が自分の息子に対して剣を振るおうとするディズを止めにかかる。

 しかしそれよりも早く、神剣が我が子に刃を向ける父を罰するかのように突如として輝き、強い魔力の波を放った。

 止めにかかろうとした大人達は魔力の波による強い衝撃にたまらず体勢を崩し後退する。

 

 そして、大人達が両手に装備していた魔力耐性の強い特別製の手袋が今の魔力の波によって一瞬のうちに魔力に変換され、ボロボロと崩れ去っていく。


「対魔法術式を繊維に組み込んだ特別製だぞ、それを一瞬で分解しやがった……」

「危険だ、今すぐここから離れるぞ!」

「ディズはどうするんだ!このままじゃ……」


 その影響は間近にいたディズにも及んでいた。

 ディズの右手は手と認識できなくなる程グズグズに崩れ、肉体も背後の景色が伺える程に“存在”が薄れ……自身の脚で地を踏みしめた衝撃で両脚が砕ける位、脆くなっていた。


「グ、がッ……!」


 脳の分解も始まったのか、まともな思考すらままならない。


 眼球を動かそうとする筋肉の動きだけで顔面に皹が入る、痛みは無いが恐怖はある、だがそれ以上に幼い自分の息子に対する憎悪がそれらを上回った。


「よくも、よくもよくもよくもよくも……!!()()()()()()()()()()()()()()()


 殺してやる。そんな感情で濁った瞳がこぼれそうなくらい見開いて、憎しみを少年に投げつける。


「お、おとうあ……おとうさ、ん……ごめんな、さい」


 自分は失敗してしまった、自分のせいで父は怒っている。

 ただただ少年は謝り続けた、許しを乞うた。

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――。



「シル―レ―ド……、きさ……――


 文字通り、散り際に放った途切れ途切れの言葉は完成することなくブツリと切れて。

 少年の五度目の謝罪の途中、父親の肉体は完全に魔力へと分解され跡形も無く散った。 


「お、とうさん……?おとうさ……あ、あああ……あああああっ!!」


 父だったモノが光の粒子となって静かに消える。

 それを告げるのは少年の慟哭。



 ここで、終わる。


 幼いころの記憶。

 レイル・ラウバーンという人物の今後……歩む道が決定づけられた、起源を追体験させる悪い夢が。


 終わる――。


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