0 1 6 第二部隊
機工都市ルフス・地下通路
襲撃用に地下に建設されたシェルターに続く長い通路、ディアスと別れてからレイルは市民の誘導をしつつ自分もシェルターに向かっていた。
度重なる轟音と魔法攻撃の衝撃による地震。
「……」
今までにない激しい戦闘、防衛部隊の皆は大丈夫だろうかと心配するレイルの耳に一人の女性の声が飛び込んでくる。
「キリアーっ!キリアーっ。あぁ……どうしよううちの子が……」
「どうかしたんですか?」
焦った表情で周囲を見渡している一人の女性。
曰く地下シェルターに避難している最中、一人息子のキリアとはぐれてしまったようで恐らく私たちの家にいるとのこと。
レイルは自分が探しに行くと言い女性からキリアの特徴を聞くとすぐに地上へと向かった。
―――――
機工都市ルフス・第四土門
第五部隊を壊滅させた異形の化け物の勢いは留まるところを知らず、第三と第四部隊をも退けついに中央塔への大通りを守る最後の門までたどり着いた。
第四土門を守護するは第二部隊、その中には彼も居た。
「……まじかよ、なんだよこいつ」
率直な感想を述べるディアス・フェルトは先ほどの演習でコツをつかんだルフスエアブレードの切っ先を地面に突き刺し冷や汗を垂らした。
「脚がガクついてるぞディアス」
バシン、と豪快にディアスのケツに蹴りを決める部隊長。その勢いの強さにディアスはバランスを崩し数歩前へと出る。
「ビビッて……ねぇっすひょ」
「嘘つけ、噛んでんじゃねーか」
「各部隊の被害は甚大……リンク様は襲撃者首謀者との戦闘を開始、第一部隊は上空の魔法物体の対処中。実質我々が最後の砦ということになる、全員気を引き締めていくぞ」
「「「了解」」」
「来たぞ」
土門の瓦礫から化け物が姿を現す。
化け物は第二部隊の面々を観察するかのようにじっと見つめ、この中で一番実力がない……そう判断したディアスに襲い掛かった。
が。
飛び散る瓦礫が地に落ちるよりも前、襲い掛かろうとしていた化け物は宙を舞い瓦礫と共に地に落ちた。
「ピギ……?」
感じたことのない痛みを腹部に感じるがそれどころではない。
何故自分が地に倒れているのかが解らない、理解するために化け物は両腕をつかわず脚の力のみで起き上がりディアス達に視線を向ける。
「……舐めんなっての」
化け物が“弱い”と判断したディアスに返り討ちにされたのだ。
「各部隊の尽力により残る魔物はヤツ一匹だけだ、ここで終わらせるぞ」
掲げられる部隊長の剣。
前方に陣取っている三名の隊員が一斉に斬りかかる。この三名はルフスエアブレードを装備しておらず通常の装備だ。
化け物は異常に長い腕を振り回し攻撃を行うもどれも当たる気配が無い。
「動きは荒い、だがパワーはあるな」
そう呟いた一人が攻撃を掻い潜りつつ化け物の足元に剣を突き刺し、刃に魔力を流し込む。
「天撃!」
レイルやディアスが使っていた剣技と同じモノを発動させる。
刃に魔力を込めて、その魔力を爆発させるという様々な攻撃方法に利用できる基本的な剣技。
天撃によって爆ぜた地面に足をとられバランスを崩す化け物、そこにすかさず他の隊員達が激しい斬撃を浴びせた。
「ギギッ!!」
「硬いっスねぇ」
化け物の皮膚に防がれ斬り傷は与えられていない。
「部隊長のあの剣を喰らって無傷ってことは、僕らじゃ無理なんじゃないっすか?」
「そう言ってサボるつもりかヴェイン」
「いやいや、そんなことは、ッと!」
体勢を立て直した化け物の鋭いジャブを紙一重でかわす、やる気のなさそうなヴェインと呼ばれる隊員。
まるで全く力が入っていないかのようなフラフラとした動きだが正確に攻撃を回避し細目の奥からは反撃の隙を伺う闘志が感じられる。
三名はダメージを与えられないことを確認すると後方へ跳び魔物との距離を取る。
「ダメですね、あの装甲のような皮膚が厄介です……」
「ふむ」
今までの相手とは違うと理解した化け物は後方に飛び退くと大きく口を開く。
土門を破壊した高威力の魔法攻撃。
だが相手は先ほどの隊員達とは練度が違う、そう簡単に撃たせてはもらえないだろう。
「あれを撃たせるのは厄介だな、ラーカ、レフリア」
「解ってます」
二名の隊員の名を呼び終える前に第二部隊のエース“ラーカ”と“レフリア”は既に行動に移っていた。
ルフスエアブレードを装備した二人はまだまともに扱ったことのない武器に魔力を流し込む。
突然、ラーカがルフスエアブレード投げる。
化け物は魔法の詠唱をおこないつつ、機関の機能によって凄まじい速度で飛翔する剣を回避する。
攻撃は外れた、だがラーカとレフリアは口元に笑みを浮かべていた。
「位置操作・実行」
レフリアの魔法『位置操作』の発動と共に淡い光に包まれるラーカとルフスエアブレード。
すると次の瞬間ラーカとルフスエアブレードの位置が入れ替わり化け物の背後に現れるラーカ。
「ウェポンサモン」
魔法を唱えたラーカの手元に先程投げつけたルフスエアブレードが召喚され、剣の機関で魔力を推進力に変えて化け物目掛けて一気に振りぬいた。
「ギィッ!!」
魔法弾の構築に魔力操作を集中させていた化け物は咄嗟の出来事に対応できず、無防備な状態でラーカの渾身の一振りを受ける。
その衝撃は想像以上だったらしく、たまらず魔法構築を中断しラーカを払いのけ距離を取る。
外傷は無いものの攻撃により生じた衝撃は体内に伝わっているらしく、魔物は眉をしかめて苦しそうな表情を彼らに見せていた。