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黎明のリベルニオン  作者: モチ太郎
Ⅰ 『開幕の襲来』
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0 1 4 邂逅・炎の少女、憎悪の男


 フレイムアローを盾にするような形で迫るエギルとの距離を詰める。

 燃え盛る炎が風に揺れて衣服に当たるが炎の精霊を憑依している今、その火が燃え移ることはない。


(矢は囮、本命は拳の魔力、か)

 冷静に数多の戦場を駆け磨いた観察眼でソアの動きを予測するエギルは。


「クックク。成長したじゃあないか、この俺に向かってくるなどと」

 ソアの中に確かに存在するであろう恐怖心を煽るように内に眠る邪悪な魔力を放出。


「……っ」


 肌をビリビリと刺激する魔力の波、過去にソアが感じたエギルの魔力とは何もかもが違う。

 過去の面影はもう、何処にもない。


 何故このような魔力を放つようになったのか、ソアには解らなかった。


(過去に一度だけあった遠征、その時にエギルさんは消息を絶った……。

 私はその頃居なかったから何が起きたのか解らないけど、“あの”エギルさんをここまで変えてしまったものはなんなの……?)


 脳裏に先程エギルが言い放った一言が過る。


(復讐――。

 この都市に対して?それとも一個人に対して……いいえ、違う。あちらこちらに感じる魔物っぽい魔力の数からして大規模な襲撃……復讐対象はこの都市?)


「何をくだらないことを考えている」


 エギルの殺意が籠った一言で我に返るソア。

 今はこのようなことに頭を使っていい場合じゃない。


 彼がどのような理由でこうなったにせよ、今自分に向けられているものは昔のような優しい感情ではない。

 怒りと殺意と憎悪。


 変わってしまった彼を見るだけで、悲しみで涙が溢れそうになる。

(どうして、っどうして……!)


 エギルとフレイムアローの距離は目と鼻の先、当然彼はこれを容易くかき消してしまうだろう。

 しかしソアの狙いはそこではなく、この拳――。


 エギルはそれを理解したうえでフレイムアローを長剣の風圧でかき消してソアを懐に迎え入れる。

 長剣の払いの隙をついた一息つかせぬ二段構えの攻撃、エギルは感心していた。


 その敏捷性は過去にみた彼女からは想像もつかないもので年月の経過を実感させる。

 同時に“  ”への憎悪も増す。


 地面を踏み込み拳に込めた火属性の魔力を爆発させ紅蓮の炎を纏わせる。


 予測される威力と炎熱はエギルの長剣など易々と破壊してしまうだろう、だが彼はあえて剣で受け止める。



 迫る拳、剣を構える。

(さぁそれを打ち込んで来い、その時がお前の最後……)

「って――思ってるでしょうねっ!」


 だがソアが繰り出した動きはエギルの予測から大きく外れたものであった。

 紅蓮の炎はエギルではなく地面に向けられ、ソアは体勢を低くする。


 掌を軽くスナップさせ紅蓮の炎の位置固定を解除させ空中に置く。

 ソアの目論見を理解したエギルは阻止せんと攻撃に転じる、が。


「私があなたと戦うなんて、無理に決まってます……!」


 炎が弾け辺り一面を光が照らす。

 空中に固定された紅蓮の炎が弾け小規模だが高威力の爆発が発生、ソアは憑依している精霊の加護を強化し火属性耐性を高め。

 爆発に身を任せ、そのまま断崖から飛び降りる!


「チ……逃がすか……!」

 爆発をものともせず長剣の強化に回していた魔力を逆流させ己に巡らせる、筋肉が膨れあがり周囲の魔力が振動し爆炎の中でソアを捉えると一気に突っ込んだ。




(はやく、はやくリンクさんに知らせなきゃっ!

 エギルさんの相手をできるのはリンクさんだけ、私じゃ絶対無理……!このままリンクさんが都市を守ってたら全部エギルさんの思惑通りになってしまうきがするっ!!)


 爆発の勢いと肉体の強化を利用した高速の逃げ、この作戦が成功したことで気が緩んでしまった。

 ソアは気づかなかった。

(でも何処から都市に入れば――「死ね」


 後方から急接近してくるエギルに、気付く事ができなかった。

 迫る刃は何物にも阻まれぬまま空を斬る。


 回避は不可能、防御しか術はない。

 ソアが考えるよりも前に身体が動いた、恐らく憑依した精霊の手助けだろう。


 右腕に重点的に魔力を流し精霊の力もそこに集中させる、現段階で行える最善手を尽くしてソアは右腕を刃を防ぐ形で前方に出した。


「チ」


 舌打ちをし、長剣を振りぬくエギル。

 肉体強化系の類の魔力で強化された肉体から放たれる一閃はソアの身体を後方に吹き飛ばすことなど造作も無く、容易い。


 断崖へと強制的に戻されたソア。

 防御に全魔力を集中させたために空中で勢いを殺す魔法を発動できずにいた彼女はそのまま断崖に激突。


 精霊の手助けがあってようやく落下への対策は講じられたものの今の一瞬の出来事で彼女は満身創痍、精霊を憑依させるだけの魔力も無く憑依魔法は強制的に解除され、もうこれ以上の戦闘は不可能だった。



「さて、トドメだ」


 空中より静かに着地したエギルがゆっくりと歩きながら迫ってくる。

 防御に使った右腕と断崖に叩き付けられた際の背中へのダメージ、そして魔力枯渇による生命力低下。


「ソア、貴様の才能を失くすのは惜しいが致し方あるまい?

 貴様は今日こうなる運命だったのだからな」


 おぞましい魔力を帯びた長剣の切っ先をソアに向けてにたり、と笑みを浮かべる。


「もう言葉を交わす体力も残っていないか。

 ならばこれ以上は時間の無駄、さらばだ」


 と、エギルは何の躊躇いも無くボロボロの彼女に剣を振り下ろした。



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