0 0 9 レイルVSディアス ②
剣を振るう前に不意を突かれたディアスは至近距離のレイルが何をしようとしているのか、ということに頭が回らず咄嗟に回避行動を取ろうとした。
しかし、回避行動は悪手だった。
「水流空間固定、前方圧力、固定解放――『アクアバレット』!!!」
水属性の魔法、アクアバレットは広範囲に渡って水の弾丸を放つ。
防御ではなく回避を取ったディアスはノーガードの肉体にそれをモロに喰らう。
「ぐぉお……!!!」
凄まじい勢いの弾丸に抉られ後方に吹き飛ぶディアス。
追い打ちをかけるように跳躍するレイル。
両者の距離は一定の間隔を保ったまま、吹き飛びの衝撃が和らぎ両足に力を込めて後退を止める。
迫るレイルに対してディアスはすかさずルフスエアブレードの加速を開始。
「いいじゃねぇか上等だ、ぶっつけ本番やってやるよ!!」
柄に魔力を流し、同時に柄の内部ではなく外部、側に魔力を這わせそのまま刃にまで魔力を運ぶ。
防衛部隊……いや、リンク・クレイオスという一流の戦士に叩き込まれた剣術。
その一つの到達点、それを今から彼は放とうとしていた。
剣内部の変化、刀身の変化をレイルは冷静に見極め彼が行おうとしていることを察知する。
跳躍からの着地と同時に足から地面に魔力を流し込む。
並大抵の魔力コントロールを持つ者には到底真似できない芸当を咄嗟の判断でやってのけるレイル。
通常魔力コントロールは体内でのみ行う行為であり、魔法とは体内でコントロールし生成した流れを魔法陣という自分に代わって“外部に放出する装置”を使って行使するもの。
だがレイルがやろうとしているのは対外に己の魔力を放出し魔法陣無しで対外で魔法を発動する、ということ。
簡単に言えばこの行為は目を瞑って見えない状態でクズかごの中に丸めた紙を投げ入れるくらい自分の肉体の感覚と周囲の状況を把握できていなければできない芸当。
たとえ、投げる力加減を完全に把握してクズかごとの距離を正確に理解していてもそれは難しいことだが――。
地面内部を伝い魔力はディアスの足元まで到達、その位置で先程放った水魔法『アクアバレット』をもう一度発動させようとした、が。
「氷結陣」
ディアスを中心とした円範囲が一瞬で凍り付いた、当然地面から放たれようとしていたアクアバレットも問答無用で凍り付く。
「からのッ!!」
腕に力を込め、機関刀身共に魔力を込めたルフスエアブレードを一気に振りぬく!
放たれるは超高速の振りとその勢い、速度が上乗せされたルフス式剣術・飛翔する斬撃『飛撃』。
レイルとの距離を一気に縮め、その斬撃は彼の身体を斬り――裂こうとした寸での所で飛撃は激しい爆発と共に消滅。
『飛撃』はレイルによって相殺された。
「な――」
「そういえばディアスには教えてなかったっけ」
「ま、さかお前……」
この剣術は剣の技術を一定以上高めた者だけにしか扱えない高度な技術。
魔法方面に特化したレイルには到底扱える代物ではないとディアスは考え、だからこそここで飛撃を放った。
ぶっつけ本番ではあるもののルフスエアブレードの瞬時高速機関による超速度を利用した一撃必殺にも近い威力を秘めた飛撃を魔法反応無く相殺できる術はそう多くはない。
しかし目の前で、レイルは確かに飛撃を打ち消した。
「『天撃』……ディアスが使ったそれと同じ、これも剣術さ」
「なん……だと……」
昔から神剣の研究をしていたから魔力の扱いには長けている、そのことは知っていた。
だが、魔法だけでなく剣の扱いすらここまでのレベルだったとは。
「ったくよォ……悪い冗談だろ、こりゃ。
お前に剣だけなら勝てるって思ってたんだがな……!」
「なぁに、勝ったつもりでいるのさ。
かかってきなよディアス」
本当――。
「変わったなぁ、レイル」
死んだ魚の目、たまに彼の瞳のことをそう例えていた。
何をやるにも無気力で神剣以外の事にはあまり関心が無い珍しい少年。
幼馴染で大切な友達じゃなかったら正直愛想つかして距離を置いていたかもしれない。
そんな彼が今。
「俺を挑発するとはいい度胸じゃねぇか……!!!」
ディアスが内包する魔力の質が一段階上がる、魔力は使い手の技量でその質が変化する。
「これも一つの恩返しだよ、ディアス」
「あぁ?」
「ほんっと昔の自分はつまらない人間だったよ」
「自覚あったのかよ」
「あ、ひっどいなぁ……!ふふ、まぁね。
そんなつまらない人間だった俺をみんなが変えてくれた、自分で変わるべきなのに」
神剣の研究、その時の事故。
男手ひとつで育ててくれた唯一の親が神剣によってこの世界から姿を消した。
で な終わり方 ども。
あの人のこ して いる。
「それで、皆に恩返しに回ってるってワケか」
「――!……そうそう」
レイルの中で違和感が生まれる。
夢では鮮明にあの時の情景が再生されるというのに、今こうして思い返そうとするとノイズが走ってうまく思い出せない。
何故だろう?そう考えたその刹那――。