0 0 8 レイルVSディアス
数分後、武器庫からレイルが小走りで帰ってきた。
「おまたせディアス!」
「得物はロングソードか……いいな!」
一定の距離で立ち止まるとレイルは鞘から剣を抜く。
演習場の武器庫に保管されていたもので刃はかけていて状態は悪いが演習に支障をきたすレベルではなかったのでレイルはこれを使うことにした。
「フィールド設定、演習モード」
ディアスの声に反応して演習場に設置されていた水色の水晶が輝く。
すると二人の身体を同じ色の光が包み込んだ、どうやら身体能力強化系の魔法のようでその光は消えることなく二人を包み続けた。
「さぁて、始めるか」
「うん」
二人が戦闘の構えを取る。
いつからチャンバラごっこがこうして実戦訓練に変わったのだろう。
(俺が防衛部隊に入隊した頃か、それともレイルが変わり始めてきた頃だろうか)
そんなことを考えているうちにレイルは戦闘開始の合図を唱えた。
開始、の声にピクリと反応して意識をこの実戦訓練に集中させ気持ちを切り替える。
「行くぞ!ディアスっ!」
地を蹴り、一直線に距離を詰めていくレイル。
ディアスはルフスエアブレードに魔力を込めて機関を起動、これは実戦……といってもこれは訓練で相手はレイル、剣の操作には細心の注意を払った。
剣の切っ先が届く範囲まで来た――、
レイルは腕に力を込めて一気に横に振りぬく、彼は常に研究室籠りでインテリ派……戦闘面はからっきしと思われるだろうが実はそうではなかった。
剣の腕は昔からディアスと行っていた訓練によって着実に磨かれており更に防衛部隊総隊長のリンクとの稽古で防衛部隊の隊員にも匹敵する。
「いい剣筋だ、が!!」
“速度”のコツは掴んだ。
ルフスエアブレードの加速はその機関が剣の運動エネルギーを感知して発動される。
消費される魔力、速度変換の数値はその運動エネルギーによって大きく変化する。
後だしでも、敵より後に剣を振るっても――。
「んなっ!」
こちらが先に相手よりも速く、早く、はやく攻撃を可能にする。
レイルの横振りを超速度で振り払い彼の体勢を崩す。超速度の一太刀で、しかも初見の相手に対してこの速度は不意打ちに近い、容易にこちらが優位に立つことが出来た。
「そらよっ!」
がら空きとなったレイルの脇に剣を叩き込む。
鉄で鍛えられた本物の刃、直撃すれば致命傷は避けられない。
だが直撃してもその刃はレイルの肉を断つことなく代わりに身体を包んだ光が激しく揺れた。
「ぐっ……!」
どうやら二人を包んでいるこの光は防御壁の役割を果たしているらしく、ディアスの鋭い一撃はこの防御壁が代わりに受け止めた。
が、先程よりも魔法の光が弱く、防げる攻撃にも限度があるようだ。
「話には聞いていたけど、想像以上の速度……全然反応できなかったや」
「使ってる本人も速すぎてよくわかんねぇからな」
「まぁ、けれども対応できない速さじゃない」
「ほぉ……言うじゃねぇか……!」
レイルはじんじんと痛む脇腹を抑えて不敵に笑みを浮かべる。
防御壁があってもある程度ダメージは受けるようだ。
「もう同じ手が通用するとは、思わないことだよディアス」
レイルが醸す雰囲気が変わる、直観で彼が本気の状態に入ったことをディアスは感じ取る。
本気のレイル、正直ディアスはこの状態の彼の相手をするのはこれが初めてだった。
いつも彼は本気を出さない。
幼い頃は案山子、少し性格面が明るくなった時でも“動く魔法の案山子”……ようは演習へのやる気、意気込み、取り組み方は大して変わってはいなかった。
今まで見たことが無かったレイルの本気が見れる。
自然とディアスの口角は上がっていた。
「何楽しそうにしてるさ」
「そりゃ勿論楽しくなるにきまってんだろ、ようやっとお前と本気でやりやえるんだからよ!」
先に飛び出したのはディアスだった、策は無くただ衝動的に飛び出したくなったから飛び出した。
だが策など不要……彼の本気がどうであれこの速度をそう簡単に見切れるわけがない。
レイルを甘く見ている訳ではなく、この剣の機能への過信。
三歩で距離を詰めて四歩目で強く踏み込み急停止する、踏み込んだ左足が地面を抉り周囲に砂埃が舞う。
攻撃体勢に入るディアスに対しレイルは不動、ディアスの動きを観察しているようだった。
(そんな棒立ちで、この剣にどうやって反応するつも――
ぐん、とレイルが急接近する。
(ッ!その体勢から急に動くって……やっべ!)
レイルは。
両脚に肉体強化魔法を仕込みいつでも動きだせる状況を作りタイミングを伺っていたのだ、この体勢ならそう直ぐには動けない、と予測していたディアスは完全に不意を突かれた。
どうやらレイルにとって“コレ”はさっきの仕返し。
その時の彼はとても、今までにない楽しそうな笑顔をしていたと後にディアスは語る。