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4表



 きっかけは中学校の授業だった。

 随分前のことなので記憶があいまいだが、確か社会科の授業だったと思う。


 当時の担当の先生は少し変わった人で、授業中の雑談で株取引について話していた。

 株の仕組みや儲けが生まれる仕組みなどについて随分と詳しく語っていたように思う。


 その内容については覚えていない。

 正直に言って、難しくて理解が出来なかった。

 だから覚えているのは一つだけだ。


 授業の最後に教えてくれた株取引のシミュレーション。

 これだけは今も覚えていて、そしてこれが僕の人生を変えた。


 家に帰り、気まぐれで始めてみたシミュレーションが驚くほど上手くいったのがはじまり。


 半年で5倍近い金額に膨れ上がったという結果は、実際に上手くいくんじゃないかと僕に思わせた。

 

 調子にのって親に相談すると、僕の親は何事も経験だという人なので、貯金だけを使うこと、信用取引は無し、という条件で株取引を許してくれた。

 

 今になって思うと無謀にもほどがあったと思う。知識も何もなく、なんとなく始めた投資。

 もちろん始めてからは勉強もしたが、それでも付け焼刃でしかなかった。

 常識で考えると上手くいくはずがなく、普通ならなけなしの貯金を無くして終わっていただろう。


 だが僕はとてつもない幸運に恵まれた。

 最初に買った、お気に入りのスマホゲームの会社の株。これがとんでもない値段に跳ね上がったのだ。


 その後もいくつかの幸運に恵まれ、今となっては一財産を築くことに成功している。 



 ◆



「何をしてるの?」


 それは夕食を食べた後の少しゆったりとした時間のことだった。

 パソコンで株価の確認を行っていると、ユウがそう僕に質問した。


「これは……」


 株のチャートを見ているんだ。と説明しようとして、言いよどむ。

 正直に言ってしまっていいのだろうか。


 事は金に関することだ。どうしてもトラブルになりやすいし、実際に僕が株で成功したと言うことを聞きつけた親戚が僕のところにやってきて金の無心をしたこともあった。


 親がすぐに追い出して出禁にしてくれたからその後は接触も無かったが、当時中学生だった僕にはショックな出来事だったのは間違いない。


 どうするべきなんだろうか。


 判断に迷い、ユウの顔をちらりと見る。

 

「これは?」


 ユウは可愛らしい顔に不思議そうな表情を浮かべ、首をかしげていた。

 首を傾けたことで、金色の髪がさらりとユウの肩を流れる。


 ……考えすぎかな。


 ユウが金に狂ったり、僕に金を無心する姿は想像できない。

 それに、ユウは『親友』だ。

 信じるのが普通だろうと思う。


 だから、正直に答えることにした。


「これは株価を見ているんだ」

「株?株ってあの電車に飛び込む奴?」


 突然のぶっ飛んだ答えに噴出しそうになる。


「い、いや、まあ、そういう一面もあるけどね……」


 確かに、株やらFXやら仮想通貨が乱高下した日は電車が止まり易いという話は聞いたことがある。

 でもさすがに株=電車停止は酷いだろう。


 どうやらユウは株に随分と歪んだ考えを持っているようだ。

 異世界に行っていたからだろうか。

 ユウはあまり異世界の話をしようとしないので、あちらのことはわからないが、異世界には株は無かったのかもしれない。

 株が生まれたのは確か1600年くらいだから、異世界はそれよりも発達していなかったのだろうか。

 

 ……いや、今はそれはいいか。

 

 とにかく、ちゃんと説明した方がいいかもしれない。

 日本にいる限り、株に触れるようなこともあるかもしれないし。


 僕は、首が先程よりもう一段階傾けられたユウに、一から株について教えることにした。



 

 



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