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終裏


 隣でお茶を飲む真を眺める。


「……美味しい」

「よかった」 


 穏やかな時間だ。

 公園の中は私たち以外誰もいなくて、辺りでは真のお茶を飲む音と、枯葉の音だけがしていた。


「……」


 真と付き合いだして一ヶ月以上。

 私たちも変わった関係に少しずつ慣れてきた。


 生活自体はそんなに変わらない。


 真が朝学校に行って、私が家事をする。

 そして夜には二人で並んでのんびりする。

 そんな、それまでと同じ日々だ。

 

 まあ、当然なのかもしれない。元々一緒に住んでいたのだ。

 生活リズムなんて早々変わるものじゃないし、結果としてそうなるのだろう。


「……」


 ……まあ、とは言っても全く変わらないわけではないけれど。

 あくまで、そんなに変わっていない、だ。


 あれから、一つ、明確に変わったことがある。

 それは、距離感だ。


 少し前、私たちが隣り合って座る時は、その間に拳一つ分は距離が開いていたけど、それが今はない。


 今こうして座っているのもそうだ。

 私と真は隙間がないくらい近い距離で座っている。


 真も付き合いたての頃は慌てていたけれど、最近は当たり前のようにこうしてくれるようになった。それを、本当に嬉しく思う。


「……そろそろ行こうか」

「うん」


 そんなことを考えていると、真が立ち上がったので、私もそれに続く。


「……ユウ」

「何?」


 真の声に、そちらを見る。

 すると、真が私に手を差し出していた。

 

「その、ここから家まで手を繋いでいかない?」


 そんな真の言葉に驚く。

 真がこういうことを言うのは本当に珍しい。というか初めてじゃないだろうか。


 真は外で手を繋ぐのが恥ずかしいようで、自分から誘ってはくれないのだ。

 これまではいつも私から手を繋いでいた。


「……うん!」


 なので、嬉しくて、つい勢い良く頷いてしまった。

 少し恥ずかしい。


「……くふふ」


 真と手を繋いで、歩き出す。

 本当は腕を組んで歩きたいけれど、真は手を繋ごうと言ってくれたんだし、キャリーケースを引いていて危ないので我慢した。


「くっふふふふふ」


 本当に、幸せだ。


 こうして大好きな恋人と一緒にいることが出来る。

 これ以上の幸せを私は知らない。


 繋いだ手が、暖かくて、嬉しくて仕方なかった。


「……」


 ……そんな風に幸せをかみ締めていると、ふと思った。


 人生何があるかわからないなあ、と。


 少し前に、真が一寸先は闇だ、とか言っていた。

 たしか、先のことは誰にもわからないという意味だったけど、本当にそんな感じだ。


 七ヶ月前、この世界に帰ってきたばかりの私に、今の事を言って信じることができただろうか。

 真の恋人になって、幸せに暮らしている、今の事を。


 ……まあ、無理だろう。信じられるはずがない。

 当時の私には、信じるどころか、想像することすら出来ないと思う。


 ……だって、こんな幸せなこと、昔の私に想像できるはずがない。

 あの頃の私は、幸せなんて知らなかったのだから。


 ……本当に、こんなに暖かいのは反則だと思う。

 

「……そうだ」

「ユウ?」


 何となく思い立って、繋いだ手を組み替える。

 私と真の指が交互に組み合わされて、恋人つなぎの形になった。


「くっふふふ」

 

 少し、手の組み方を変えただけでこんなに嬉しくなれるなんて、すごいと思う。

 それに、これなら手を繋いでいる事には変わりないし、危なくもない。


「ユウ、これは、その」

「だめ?」


 上目遣いで真を見ると、真は少したじろいで、その後諦めたように力を抜いた。


「……これだと、紹介する前にわかりそうだなあ」


 一瞬、何の事だろうと思ったけど、多分、私を真のお父さんとお母さんに紹介することについてだろう。

 確かに、恋人つなぎなんてしてたら、恋人だと紹介するまでもない気がする。


「……」


 でも、私としては、真の口から恋人として紹介されてみたいなあ、なんて、ちょっとだけ思っているので、是非してもらいたい。

 なんなら、私もしてもいいくらいだ。


 …………そうだ。それもいいかもしれない。


 今、思いついたことだけど、悪くない気がする。

 今度は勘違いじゃなく、自分の意思で真のお母さんに言うのだ。


 真は、私の恋人(ボーイフレンド)です、って。

 

「……くふふ」


 ふと空を見ると、雲のない空がそこにあった。


 冬なので空気は冷たいけれど、少し火照った体には気持ちいい。

 それに、少しくらい冷たい方が繋いだ手の暖かさがよく感じられる気がする。

 

「真」

「なに?」


 気が付くと、すぐそこに記憶にある家が見えた。

 真の家だ。いつの間にかあと少しのところまで来ていたらしい。


「大好き」


 一歩一歩、真の家に近づいていく。

 ……ずっと、ずっと、真と一緒に歩いていこう。そう思った。

 


 

これで本編は終了です。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


まともなプロットもなく、見切り発車で始まったこの小説をこうして最後まで書き上げることが出来たのも、読者の皆様のおかげです。本当に。


暖かい感想やpvがなければ、間違いなくもっと早い段階で諦めていた事でしょう。

その辺りの事も含めて、近いうちに活動報告に雑記を書こうと思います。


また、これからの予定ですが、少し時間を置いて短編をあげるつもりです。

なので、たまにでも思い出して見に来ていただけたらなあ、と思います。


それでは最後になりますが、皆様、本当にありがとうございました!



※2019/4/12追記

 afterは別に作った

 『帰ってきたやさぐれTS少女の話 after』

 へ移しました。

 新しい小説には作者ページから飛んで下さい

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― 新着の感想 ―
[一言] とてもいいTSモノをありがとうございました!!
[良い点] 月並みな言葉になりますが、最高でした! いや本当に、もっと早くこの小説を知りたかったです…… お幸せに(〃艸〃)
[良い点] 可愛いオブ可愛い 可愛い女の子が可愛く終われば全てヨシ
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